| サイキッカー部隊施設の最上階の最奥にその部屋はあった。 豪奢な絨毯が敷かれた先に重厚な両開きの扉。ネームプレートやインターフォンなどという不粋な物はついていない。選ばれた者しか入ることを許されないと暗に主張しているように見える。 刹那の名を拝命した彼は扉をノックしかけて時計を確認した。 約束の時間の5分前。 深呼吸し、意を決してドアを叩いた。 「どうぞ」 「失礼します」 部屋の広さ自体はさほどでもないが、高い天井と天井まで届く窓のせいでずいぶんと広く感じた。 中央に置かれた丸テーブルと6脚の椅子、そこに腰掛けたサイキッカー部隊幹部の姿がいつかの面接試験を彷佛とさせた。 違うのは家具を含めた部屋の豪華さと椅子の数、そしてガデスの姿が見えないことか。 エミリオはちらりと彼を見てすぐ顔を背け、ウォンとブラドは穏やかな笑みを浮かべて椅子を勧めた。 「おはよう、刹那。これからサイキッカーになる気分はどうです?」 「まだピンときてませんって顔してるね」 「それはまぁ…昨日の今日ですから」 「あはは、僕達もう仲間なんだからそんなに畏まらなくていいよ」 ブラドの人なつこい笑顔にほっとする。 まだ開いている椅子の片方に眼をやって、ウォンはふっとため息をついた。 「ガデスはまた遅刻ですか」 「いつものことじゃん」 「…まぁいいでしょう。我々の紹介は彼が来てから改めてするとして、先にいくつか伝えておきたいことがあります。まずはこれを」 ウォンは刹那に書類を1枚渡した。 「これは?」 「昨日の作戦で戦死した、あるいは行方不明になった兵士の名簿です」 「…俺は行方不明扱いなんですね」 「ええ。一定期間を経たら戦死したと判断され、共同墓地へ埋葬されます。…と言っても遺体がないので墓碑に名前が記されるだけですがね」 「分かりました」 「次に、人工サイキッカーの改造手術ですが…ここでの話が終わったら研究棟に案内しますので、そこの所長から詳しい話があるはずです」 「はい」 「それから、……」 ウォンは言い淀み、彼には珍しく困ったような顔になった。ちらりとブラドを見て、返って来た笑顔にため息をついて視線を刹那に戻した。 「正直私は、あなたと信頼関係を築いてからお話しようと思っていたのですが、ブラドが『仲間同士で隠し事は無しだよ』と言うので…お話しましょう」 「?」 「軍の幹部達も知らない、私達の真の目的です」 「ノアを壊滅させることではないのですか?」 「それは通過点に過ぎません。私達の真の目的は、全てのサイキッカーが、サイキッカーであることを隠さずに、平和に暮らしていける世界を作ること。仲間と呼んだサイキッカー達を売り渡してまで軍に取り入ったのも、あなたを我々の仲間に迎え入れたのもそのため」 「サイキッカーが、サイキッカーであることを隠さずに…?」 「最初からお話しましょうか」 訳が分からないという顔をしている刹那にウォンは含み笑いを見せた。 「サイキッカーの存在が公になったのは2年前のノアの事件がきっかけでした。しかし国家の上層部はもうずっと昔から異能力者の存在に気付いていました。その未知なる力が核に変わる軍事力になることもね」 「サイキッカーは、製造費も維持費もタダで燃料のガソリンも面倒なメンテナンスもいらない究極のエコ兵器だった訳さ」 「身も蓋もない言い方ですがつまりはそう言うことです。先進各国は競い合うようにしてサイキッカーの研究を極秘裏に進めていました。サイキッカーを拉致・ 監禁し、人体実験を繰り返し…数えきれない程のサイキッカーが非人道的な扱いを受け道具として使われ死んで行きました。そこにいるエミリオと、数日間です がブラドも、超能力研究所に拘束されていたことがあります」 「……!」 刹那は息を飲んだ。 エミリオとブラドは押し黙ったまま、表情すら動かない。 ウォンはすいっと眼鏡を押し上げて続けた。 「事件が起きたのは2年前、西暦2010年の始めでした。この国の超能力研究所で暴動が起き、生き延びた一人のサイキッカー…キース・エヴァンスが仲間を 集め、サイキッカーを救うための組織『ノア』を結成したのです。私は彼の呼び掛けに共感し、ブラドは個人的な事情から彼の同志としてノアに身を置きまし た。ガデスは気紛れか野次馬根性だったようですね。ノアの活動の一環で超能力研究所から救い出されたのがそこのエミリオと、現在のノアを仕切っているベル フロンド兄妹です」 「では、ノアの目的とこのサイキッカー部隊の目的は同じだと言うのですか」 「同じとも言えますし全く違うとも言えるでしょう。異能力を持たない人間から迫害され、人体実験に使われたサイキッカーが多く集まるノアでは、『人間を滅 ぼしてこそサイキッカーは自由と平和を手に入れることができる』という考えが大勢を占めていきました。私やブラドのように、迫害された経験を持たない者の 『人間を滅ぼそうとすれば大きな反発と犠牲を招く。お互いを理解して共存の道を探るべきだ』という意見は片隅に追いやられていったのです」 想像以上の話のスケールに、テーブルの上で握りしめた刹那の拳がかすかに震えていた。 ウォンはあくまでも淡々と続ける。 「私とブラドはノアの行く先に強い懸念を抱いていきました。『全てのサイキッカーに自由と平和を』その理想は共感できる。しかし人類を滅亡させた後に理想 郷を築こうなど荒唐無稽、夢物語も甚だしい。そんな無謀な理想に向かって暴走すれば遅かれ早かれ本気を出した国に徹底的に潰されるのは目に見えていまし た。だから私達は決めたのです。外部の力で全壊する前に、内部から半壊させようと。そしてサイキッカーの敵である軍の懐に潜り込もうと」 「では…ノアを崩壊させたそのあとは、軍をも裏切るつもりなのですか?」 「まさか。内部から利用させて頂くだけですよ」 さらりとウォンは言った。 「2年前のあの日、私達は適当な理由をつけてベルフロンド兄妹をノアの支部に送りだしました。ノア本部は爆破した後に軍が制圧する手はずになっていました から、万一にも死なれたり軍に捕まったりされたらノアを再興する者がいなくなってしまいますからね。生き延びた彼等が新生ノアと言う『分かりやすい人類の 敵』を造ってくれたおかげで、私達もサイキッカー部隊と言う『分かりやすい人類の味方』を造ることができ、さらに『新生ノアに対抗する』という大義名分で 強力なサイキッカーを得ることができる…理想的な展開です」 「………。先程、ノアを壊滅させるのも通過点に過ぎないとおっしゃいましたが、その後は?」 「そうですね…捕まったノアのサイキッカーの過去を『うっかり』全世界に向けてバラしてしまってはどうでしょう。国家や軍は異能力が発動してしまった国民 を実験動物として扱ってきた悪者て、我々は軍に頭を垂れた振りをしてサイキッカーと人類の平和共存の為に力を尽くしていた正義の味方…という解説付きで ね」 「……………」 やっぱりこいつは見た目通りの胡散臭い奴だった。 刹那は呆れると同時に、計画の壮大さに気持ちが高揚するのを感じた。 彼は唇の端を持ち上げて笑った。 「どこが正義の味方ですか。むしろ俺らは黒幕じゃないですか」 「おや、お気に召しませんか」 「逆ですよ、司令官。政治家の並べ立てる綺麗事よりよっぽど面白いし信用できる」 「それは何より。ああ、分かっていると思いますがこのことはくれぐれも内密に。私達だけの秘密ですからね」 「承知しています」 越後屋と悪代官のごとくウォンと刹那が笑った時。 「うぉーっす」 何とも緊張感のない挨拶と共にガデスが会議室に姿を現した。 いつものように葉巻をくわえ、今日はついでにビールの缶まで持って来ている。 その場にいた全員の微妙な視線などどこ吹く風と言う顔でガデスは開いていた椅子の片方にどっかりと腰を降ろした。 「ガデス…」 「あーん?」 「今、何時だと思ってるんです」 「別にいいじゃねぇか、司令官の旦那にかかっちゃ時間なんてあってないようなもんだろうよ」 エミリオとブラドのジト目や刹那のきつい目線やウォンの呆れた顔などお構い無しにガデスはビールの缶を開けた。 「……時間を無駄にはしたくないのでね、次に行きましょうか」 「おお、次は何だ」 「全員揃ったことですし我がサイキッカー部隊の幹部を紹介しましょう」 「今更だな。ま、基本は大事だけどよ」 全員、と言う言葉に刹那は疑問を感じた。 テーブルの周りに置かれた椅子は6脚だが、この場には5人しかいない。てっきりもう一人来るものと思っていたのだが。あれは予備なのだろうか。 彼の疑問をよそに、では…とウォンは言った。 「まず私、司令官のリチャード・ウォン。階級は少佐ですが、サイキッカー部隊の特殊性で実質的な最高司令官兼最高責任者です。…が、本職は会社経営でして ね、司令官は副業です。重火器から文房具まで幅広く扱っていますので見かけたらどうぞよろしく。それと、私の能力は『時』。時と空間に介入することができ ます」 「ちなみにな、この基地で使ってる武器とか軍服とかは全部ウォンズ・コーポレーション製だ。この世界的不況時にガッチリ稼いでやがるぜその司令官殿はよ。ちったぁボーナスの額を増やしてくれても罰は当たらないと思うんだがなぁ」 「…………」 ガデスの言葉は完全に無視してウォンはブラドを指した。 「そしてこちらが、ノア時代からの私の相棒であり親友でも有り片腕でもあるブラド・キルステンです」 「ブラドです。階級は一応大尉だけど、僕はどちらかと言うと研究部門の方が専門かな。ウォンと同じで大尉は副業で、本業はウォンの会社の宝石デザイナーです。他のもののデザインとかも依頼があれば引き受けるけどね。能力は、君も知ってると思うけど重力です」 「控えめに言ってるけどな、『ブラド・キルステン』はブランドなんだぜ。ちなみにこの部屋のテーブルと椅子、サイキッカー部隊の軍服もブラドのデザイン だ。あ、それとそいつの祖父さんは世界屈指の武器製造会社の社長か会長で、叔父さんはドイツ警察の最高幹部、亡くなった親父さんは政府高官とそうそうたる 肩書きの持ち主だ」 「…………」 ガデスの解説に刹那はただ目を丸くしていた。 次にウォンはエミリオを指した。 「あちらがエミリオ・ミハイロフ少尉。ノア時代の同志…という紹介でよろしいですかね?」 「何でもいいよ。今はウォンやブラドさんの仲間、それでいいじゃん」 「エミリオの能力は、あなたも御存知かと思いますが光です。そしてそちらが」 「ガデスだ。いろんなもんに縛られるのは嫌いでな、ちょっと前まで新生ノアの幹部だったが今はここで傭兵やってる。能力はブラドと同じ、重力だ」 残りの二人までとんでもない肩書きを持っているのではと思っていた刹那は、エミリオとガデスに追加説明がなかったことに少しほっとした。 …が、仲間紹介はまだ続きがあった。 ウォンがまたブラドを指した。 「そしてもう一人」 「?」 ブラドが目を閉じ、俯いて、すぅ…と顔を上げた。 その深紅の眼と目が合った時、背筋がゾクリと寒くなり刹那は思わず椅子を蹴立てて立ち上がった。 『ブラド』は、ニィィ…と笑い、下からすくいあげるように刹那を見た。 「初めて会うからってそんなに驚かなくてもいいじゃねェか。それとも兄ちゃん、照れ屋なのかァ?」 「……司令官、この人は………」 「紹介しましょう。彼はもう一人のブラドです。どうやら先ほどのブラドよりも後に生まれたらしいので、私達は便宜上『セカンド』と呼んでいます」 「セカンド…セカンドパーソナル?」 「御名答ォ。いい勘してんじゃねーか。ファーストが見込んだだけのことはありそうだなぁ」 「ファーストのブラドが事務系担当、こちらのセカンドのブラドが荒事担当と役割分担しています。ああ、人格が入れ代わってもそれぞれの記憶などは共有していますから連絡や意思疎通で面倒はないですよ」 「は……」 そう言う問題なんだろうか…と疑問が頭をよぎったが、そんな小さいことを気にしていたらサイキッカー部隊の幹部としてやっていけない、と自分を納得させた。 ウォンはしれっとしたまま話を続けた。 「こちらのブラドと一緒に仕事をする機会もあるでしょう。その時はよろしく頼みますよ」 「了解しました」 「……セカンドが仕事をした後は、敵も味方も息してねーんだよなぁ………」 ガデスがボソッと物騒なことを言ったが、聞こえなかったことにする。 挨拶が済んで満足したのか、『セカンド』のブラドは裏に引っ込んだらしい。気がつけばブラドはさっきまでと同じ優しい顔に戻っていた。 最後に…とウォンは刹那を指した。 「あなたの階級は中尉になります。が、私達6人の間では肩書きはあってないようなものです。私達は皆、対等な仲間ですからね。誰が誰より上とか誰が誰より下と言うことはありません」 「…分かりました」 「ただし、対外的には話は別です。この部隊の大佐や将軍はお飾り同然ですので、実質的にはあなたがサイキッカー部隊の上から3番目と言うことになります。 権限も大きいですが責任も重大です。我がサイキッカー部隊を苦々しく思っている軍幹部も少なくはありませんからね、言動、行動には十分配慮するように」 「肝に命じておきます」 「よろしい。では本日の会議はここで終了です。刹那はブラドと一緒に研究棟に向かって下さい」 「じゃあ研究棟の方に連絡入れておくね」 ブラドの言葉を合図に皆が立ち上がった。 ブラドが研究所に連絡を取っている間、刹那は会議室の外で待っていた。 ビールの缶を片手に鼻歌を歌いながらガデスが出て行った後、エミリオが顔を出した。何に関しても興味が無さそうな少年が、お世辞にも好意的とは言えない眼でジッと彼を見ていた。 「…何だ?」 「ちょっとくらいブラドさんに気に入られてるからっていい気になるなよ。僕達の足を引っ張るようならすぐに潰してやるからな」 吐き捨ててエミリオは背中を向けた。 その態度に腹の底から怒りが湧いて来たが、直後に浮かんだ疑問がその怒りをかき消した。 まさか。まさかとは思うが、絶対とは言い切れない…か? 悩んでいるとブラドが会議室から出て来た。 「お待たせ、刹那。じゃあ行こうか」 「あ、…その前に大尉、聞きたいことが」 「そんな他人行儀な呼び方しないで。ブラドって呼んでくれていいよ」 「じゃあ、ブラド。その…我ながら馬鹿なことを言っている自覚はあるんだが」 「?」 刹那は真剣に尋ねた。 「お前、『実は女でした』って落ちはない…よな?」 「はあっ!?」 …事情を説明すると、ブラドは涙が出る程腹を抱えて笑い転げた。 そうだよな、どう考えてもこいつは男だよな、うん。 大真面目に馬鹿なことを聞いた挙げ句に爆笑されている自分が情けないやら恥ずかしいやらで、彼は唇をへの字に曲げた。 「…笑い過ぎだ」 「ああ、ごめんね。ツボに入っちゃって。そっか、僕が女だったらエミリオが刹那に嫉妬するのも説明つくよね」 ブラドは笑い過ぎて出て来た涙を拭いて手を顔の前で大袈裟に振った。 「ないない。僕は男だし、そっちの趣味もないし、安心して。エミリオは僕と似たところがあったからノアにいた時から兄弟みたいに仲良くしてたんだ。今までずっとエミリオを気にかけて可愛がって来たから、構ってもらえなくなると思って拗ねてるだけだと思うよ」 「フン…まだまだガキだな」 「そう思うなら君が大人になって仲良くしてあげてね。売り言葉に買い言葉で喧嘩しちゃダメだよ」 「………無論だ」 さっき喧嘩を買いかけたのを見抜かれたようで一瞬返事が遅れたが、ブラドは突っ込まずにいてくれた。 研究棟の入り口までは来たことがあったが、エリア内に足を踏み入れるのは初めてだった。すれ違うスタッフは白衣を着ていて、内部の匂いのせいもあるのだろう、病院に来たような感覚だった。 白衣の連中ばかりの場所に私服で来ていること自体が階級章代わりと言うことか、足留めを食らうことは一度もなく二人は研究棟の所長室に到着した。 そこで二人を迎えたのは、金髪を編んで体の前に流した若い女だった。 「いらっしゃい、お待ちしていたわ」 「紹介するね。今回の人工サイキッカー計画の責任者で、ここの所長の…」 「クリス・ライアンです。よろしくね、刹那」 「…よろしく」 見た感じクリスと言う所長の年令はブラドや刹那と大差ないように見えた。 こんな若い、しかも女で大丈夫なのかと不安がちらりと頭をよぎったが、ブラドの紹介だから大丈夫だろうと思い直して差し出された手を握り返した。 …クリスが飲み物を(と、言っても自動販売機のカップのコーヒーだが)用意する間、刹那は部屋の中をぐるりと見て回った。 本棚にぎっしりと詰め込まれた専門書はとても開く気になれず、薬の棚は手を触れるのも遠慮したい。そんな彼の目を引いたのは巨大なカプセルに入った本物の人間そっくりの『標本』だった。 ガラス玉のような青い眼、頭の後ろで束ねた青い髪、耳のあるべき場所にはヘッドフォンのような機械がついている。身に付けているのも真っ白なボディスーツだ。足下に置かれたプレートには『SONIA』と名前らしきものが書かれている。 何だこれは?何故ここにこんなものが? 不思議に思っているとブラドが隣に来た。 「この『ソニア』はね、2年間に造られた人工生命体で、人工サイキッカーの試作一号機なんだ」 「人工生命体?」 「そう。開発したのは、ウォンズ・コーポレーションで、その製作責任者がそこにいるクリスだよ」 「へぇ…」 「色々と大変だったのよ、『ソニア』は」 3人分のカップを手近なテーブルに置いてクリスは苦笑した。 「外側のボディは出来たけど中身をどうするかで行き詰まっちゃって…人工生命体に『心』は宿るのか、ロボットのようにプログラムを組み込むしかないのか随分悩んだわ。結局答えは出なかったけど」 「…?じゃあこれ…『ソニア』は、実戦投入はされなかった?」 「実験途中で事故が起きて、私の精神がソニアに取り込まれてしまったの。私はその時のことは覚えてないけど、大変な騒ぎになったらしいわ」 「それはそうだろうな…」 「ソニアはノアの戦闘員として実戦投入したけど、クリスは病院で植物状態だし、ノアを裏切る計画の日は近付いてくるし、本当どうしようかと思ったよ」 「結局どうしたんだ?」 刹那の問いにブラドはケロリと答えた。 「クリスの体は病院にあるから大丈夫だろうと思って、ソニアがいたけどノア本部を爆破しちゃった。ソニアのボディが壊れたからかな、クリスの意識が戻って、本当に良かったよ」 「お前な…。意識が戻らなかったらどうするつもりだったんだ」 「あの時は必死で…そこまで考えてなかったんだよ」 「最初にその話を聞いた時、殴ってやろうかと思ったんだけど。大怪我していたブラドがボロボロ泣きながら『クリス、意識が戻って良かったよぉ』って謝ってくれたから…と、いうかその勢いで告白したから許してあげることにしたの」 「う…その話は秘密にしておいて欲しかったなぁ」 恥ずかしそうに頭をかいたブラドの、手袋を嵌めた左手…その袖口から見えるのは人の肌ではなかった。…あれは金属? その光景に刹那の頭に初めて彼と逢った日の記憶が蘇った。 缶コーヒーを飛ばせてみせた彼の袖口から見えた金属。あの時はギブスでもしているのかと思ったが、怪我の治療なら何ヶ月もつけている必要はないはずだ。少し躊躇ったが、『仲間内で隠し事は無し』とブラド自身が言っていたのだし…と、さり気ない風を装って尋ねた。 「大怪我?」 「あ…うん。ノア本部を爆破した時に予想外のハプニングが起きて…」 ブラドは左手に嵌めていた手袋を取った。 …刹那は眼を丸くした。 それは人の手ではなかった。人の手を模した鋼の義手。 ブラドは服の袖をまくり上げて機械の腕を見せると何でもない事のように言った。 「左腕を無くしちゃったんだ」 「これは…機械鎧?」 「そうだね、その考え方で大体合ってるよ」 「一体誰を練成したんだ?」 「…え?」 真剣に尋ねた刹那にブラドは一瞬きょとんとして、そして笑い出した。…彼に爆笑されるのは本日2度目だ。ついでにクリスも笑いを堪え切れずに肩を震わせている。 今回は流石にムッとした。 「ちょ…何がおかしい!?」 「いや、だって…。あの、僕、サイキッカーであって錬金術師じゃないから」 「あ…そう言えばそうか」 「エミリオがノアの本部にいてね、助けに行った時に敵に掴まって、不覚をとったってとこかな」 「つまり名誉の負傷か」 軽く頷いて刹那は大真面目に続けた。 「かっこいいな、お前」 「かっこいい?」 「かっこいいだろうが、仲間を助けに言った結果の名誉の負傷で、更に機械の義手だぞ?で、どんなギミックが仕込んであるんだ?」 「え…特に、ないけど」 「何故?」 「だって僕、サイキッカーだし」 「サイキッカーでも付けるべきだろう、機械の義手義足にギミックはお約束だろうが!…ひょっとしてあれか?両手をこうパン!と合わせると武器に変型するとか…」 「しないしない」 爆笑のなごりの涙を拭ってブラドは両手を振った。 そして嬉しそうに微笑んだ。 「あのね、こんな事言うと変な誤解されそうな気もするんだけど、僕の正直な気持ちだから…言っていい?」 「………?どうぞ」 「僕、君のこと、凄く好きになっちゃった」 「…………」 どう受け取ればいいのだろう、この言葉。 刹那は微妙な気持ちで黙り込んだ。 恋愛感情と言う意味では決してないのは理解できる。何せ恋人がこの場にいるのだから。 つまり友人として好意を持ったと言う意味だろうが、散々爆笑された後に言われても、どこを気に入ったのか考えると素直に喜べない。 刹那が複雑な顔で黙り込んだ意味が分かったのだろう、ブラドは鋼の義手に眼を落として口を開いた。 「この腕を見て、そんな反応してくれたの、君が初めてなんだ」 「?」 「大抵の人はね、哀れみの眼で僕を見る。『さぞかし不便でしょう、不幸でしょう、お可哀想に』って。全然そんな事無いのに、僕は不便で不幸で可哀想な人にならなくちゃいけないような気にさせられる」 「ウザいな、それは」 「だから人前に出る時は長袖の服と手袋で隠してるんだ。機械鎧だってバレると色々面倒だから」 ブラドは袖を戻して元通り手袋を嵌めると、真摯な眼で刹那を見た。 「人工サイキッカーの手術は体調を見てからになるし、術後も姑くは安静にしてないといけないから、それまでの時間で君にはいろんなことを知って欲しいと思ってる。僕達のこと、ノアのこと、サイキッカーのこと、世界のこと」 「ん」 「君には話したいことがたくさんあるんだ」 時には狂気すら孕むブラドの深紅の瞳。 こいつは信用して大丈夫だ。 直感がそう告げて、刹那は仲間の眼を見て頷いた。 |
| サイキ部屋 |
総合目次 |
| 2本にするか1本にまとめるか微妙な長さだったので1本にしたら偉く長くなってしまった…。(@@;) ブラドが初めて左手の義手をお披露目する部分も入れたら長い長い。 やっと、ブラド(裏)を出せました。…というか10年前は出さなかったんですよね、彼。色々設定とか考えてましたけど、どう扱えばいいのか分からなくて、「消えてしまった」的な設定で書いてた気がします。 あと、10年前はかなり無意味に引っ張ったウォンとブラドの目的(野望)もここでさっくりと明かしちゃいました。根っからのいい人のブラドが何故キース を裏切ってノアについたのか?を説明する理由としてはこの辺が説得力あるかな?と。だって、「人類を滅ぼさないとサイキッカーの平和は訪れない」って無理 というか無茶と言うか突っ込み所満載と言うか。その辺の話は後にレジーナ相手にやりたいと思ってます。 それと、10年前は最後にちょろっと顔出しだったクリスをここらで出してみました。ゲーム本編では、ウォンはソニアを使って研究を続けていたようなこと を言っていましたがその辺は華麗にスルーで(笑)。でもってクリスはブラドの彼女ということになってます。この辺の設定にあまり深い意味はないです。エピ ローグ以外は。 2010の公式…というか、スタッフの方が出版した同人誌によると、クリスの年令は2010年時点で22〜25程度だったようです。ウエンディーとは けっこう歳が離れているので、お姉さんと言うよりお母さんに近かったのかも知れませんね。外見は、DQ5のフローラとビアンカを足したような感じ。フロー ラみたいにおでこを出して、ビアンカみたいな三つ編みにして体の前に垂らしてました。ちなみにソニアとは全然似てなかったです。 それと、今までほとんどなかったエミリオ単体と刹那の絡みも入れてみました。エミリオはノアにいた時からブラドに可愛がられていたので、刹那にブラドを 取られそうで気に入らないのです。でも本音は刹那の事も好きなんです…というか、これから好きになるんです。素直になれない思春期なんです。私の中のエミ リオはそんな感じ(笑)。 |