| その日は雨だった。 天井まで届く窓を水が流れ落ちている。 天気が悪いと気分も浮かないのか、いつもなら何かと絡んで来るガデスやエミリオも黙りがちだった。 会議の時間は少し過ぎていたが、ウォンはまだ姿を見せていなかった。 「コーヒー、いれたよ」 ブラドが香しい香りを漂わせるカップを4つトレイに乗せて運んで来た。 コーヒーのお供のお茶菓子はドラ焼きだった。 「へー、今日は和菓子で来たか」 「コーヒーに餡子ってどうなの?」 「これはこれで有りじゃないのか」 「しかしなんでまたドラ焼きなんだ?」 早速一口かじったガデスが尋ねると。 「栞ちゃんに差し入れしようと思って買って来たんだ。これは味見用」 コーヒーを混ぜていた刹那の手がピクリと止まった。 その反応に、ガデスが気まずそうな顔になった。気付かずに薮を突ついてしまったと言いたげな顔だ。 ブラドは刹那の隣の椅子に腰を下ろした。 「あのさ、刹那」 「…何だ」 「栞ちゃんに会いに行ってる?」 刹那は答えずにコーヒーカップに口をつけた。 少将にとりあえずの身の安全を保証されたものの、栞は研究棟に事実上軟禁されている。医療班の補助活動をさせている、とは聞いているが、少なからず研究素体に使われているのは間違いないだろう。 彼女の身を気にかけていない訳では決してないのだが…。 黙っている刹那にブラドは更に尋ねた。 「どうして会いに行ってあげないの?」 「…………」 「刹那。自分の勝手な都合で連れて来て、都合が悪くなったらほったらかして忘れちゃおうなんて無責任だよ」 「!」 ガン! 刹那が半ば叩き付けるようにカップを置いた。 エミリオとガデスはひたすらだんまりを決め込んでいる。沈黙は金なり、君子危うきに近寄らず。 ブラドは静かに続けた。 「栞ちゃんを研究材料に使うなんて許さないって叫んだのは、君だ」 「…会いに行ったら情が湧くだろうが。軍と俺達が敵対した時に栞を人質に取られて身動き取れないなんて、馬鹿以外の何でもない」 「僕達は国軍を裏切る予定はない。だから軍と僕達が敵対する時なんて来ない。でも、君が栞ちゃんをほったらかせば、彼女が研究素体にされて使い潰される時が来る。そう遠くない日に、必ずね」 「………!」 刹那が息を飲んだ。 その反応に、ブラドは表情を和らげた。 「君が栞ちゃんを気にかけてあげれば、研究所の連中も下手な手出しは出来ないよ。刹那のお気に入りに何かして、秘密兵器のご機嫌を損ねたりしたら色んな意味で自分達の首が飛ぶからね」 「…………」 「昨日、栞ちゃんがね、『刹那殿は顔を見せてくれませんがお元気なのでしょうか。私のことで何かお咎めを受けたのでしょうか』って心配しててね。『ちょっと忙しいけど、明日の会議が終わったら一緒に来るよ』って言っておいたんだけど…良かったかな?」 「…昨日の時点で行くって約束したのなら実質強制だろうが」 ようやく刹那が微笑んだので、ブラドも安心したように笑った。 ここで自分の立ち場と役目を十分理解していてかつ空気の読める男、ガデスが参戦した。 「じゃあ俺も一緒に行くぜ」 「何故」 「あの刹那のお姫さん、後5年もすれば絶対いい女になるぜ。今のうちに手なずけておこうと思ってな。いわゆる青田買いってやつだ」 「ガデスが行っても『やだーオジサン恐いームサいー』って逃げられるのがオチだよ」 「いやそこは努力でだな」 「暇だな、ガデス」 「うるせぇ!ったくよー、黙ってても女が寄って来る奴はこれだから嫌いなんだよ!」 「『黙ってても』じゃなくて『黙ってれば』の間違いじゃないの?」 冷ややかにエミリオが言い放った。 ぷぷっ、と噴き出したブラドをじろりと睨んで刹那は鼻の頭に皺を寄せた。 「『黙ってれば』とか『口さえ開かなければ』とか…俺は凉宮ハルヒか!」 「あー、言い得て妙」 「納得するな」 「そうなると突っ込み役のガデスがキョンで、エミリオはさしずめ長門」 「司令官は古泉か、いつもニコヤカ腹黒だし。んでお茶汲みブラドが朝比奈みくる…うお、ここはSOS団か」 「じゃあ神妃は鶴屋さんだね」 「一体何の頭文字を取ってSOS団なんだ。つか何でお前ら元ネタ知ってるんだ」 うーん、とブラドが悩んで指を折りながら呟いた。 「世界に、大いなる革命をもたらす、サイキッカーの軍団。略してSOS軍団」 「へぇー、妙に語呂がいいじゃねーか」 「サイキッカーの頭文字はSじゃなくてPじゃないの?」 「じゃあ刹那の軍団」 「やめろバカ」 そんなことを言っていると、古泉…もとい、ウォンが顔を出した。 「遅くなって失礼。少しばかり手間取っていました」 「あ、副団長来た」 「司令官が来たんだからハルヒネタはもうやめろ」 「ハルヒ?」 「あのね…」 ブラドが事の経緯を説明すると、ウォンはおかしそうに含み笑った。 「なるほど、それでSOS軍団ですか。そうなると、刹那団長の指揮の元に超能力者や未来人や宇宙人を探さねばなりませんね」 「お、旦那もいいノリしてるじゃねーか」 「司令官、ハルヒなんて知ってるんですか。そっちの方が意外だ」 「ビジネスになりそうなものは一通りチェックしています。日本のオタク文化は無視できないマーケットですからね」 「で?SOS軍団の次の仕事は何?」 ブラドが期待のこもった眼差しで尋ねると、ウォンは持って来た資料を皆に配った。 青い髪に黄色のリボンを結んだ少女と、真っ赤な髪に白いバンダナを巻いた少年の写真が入っていた。どちらも被写体の許可を得て取ったとは思えないアングルで写されている。 ウォンはいつもの笑みを浮かべたまま言った。 「次の仕事は、超能力者と未来人を捕まえることです」 「どっちが『超能力者』でどっちが『未来人』なの?」 「正確には『超能力者』と『未来人で超能力者』ですね」 「いや旦那、ハルヒごっこはもういいっスよ」 「これは失礼」 ははは、と笑ってウォンは眼鏡を押し上げた。 「きちんとお話しましょう。その写真の少女の名前はパトリシア・マイヤース。非常に強力なサイキックパワー、そして癒しの力の持ち主です。もう一人の少年 の名前は不明ですが、最近噂の『サイキッカーハンター』の可能性が非常に高い。パトリシアを捕獲し、ハンターと接触することが今回の任務です」 その言葉に全員の顔が緊張した 軍属のサイキッカーが何者かの襲撃を受け、時には命を落とす事件がしばしば起きていた。が、今までは新生ノアの仕業だと思って犯人が誰かなど考えなかっ た。しかし、ノアから寝返るサイキッカーから話を聞いてみると、ノアのサイキッカーも同じように何者かに襲撃を受け、同じように軍に襲われたのだろうと考 えていたのだという。 そこでようやく襲撃を受けた者から詳しく話を聞いたところ、条件にあてはまるサイキッカーは軍にもノアにもいないことが判明したのだ。 軍、新生ノア、それ以外…所属に関係なく、サイキッカーを無差別に襲い殺して回っている謎のサイキッカーは無視できない存在だった。軍は『サイキッカーハンター』と名付けてその正体を追っていたのだ。 「どうやらこの『ハンター』は春頃には既に活動していたようです。今頃になって存在に気付くなど情けない話ですがね」 「何故、サイキッカーの癖にサイキッカーを殺して回ってるんだ?」 「分からんからとっ捕まえて吐かせようってんだろうよ」 「ところでさ、この女の捕獲任務とハンターとの接触任務が一緒に来たことになんか理由あるの?」 「そうそう、説明が遅れました。そのパトリシア・マイヤースとハンターはどうやら行動を共にしているらしいのですよ」 「……?サイキッカーハンターが、サイキッカーと?」 「なんじゃそら」 刹那はウォンを見た。 彼は相変わらず、『何もかも分かっている』と言いたげな顔で微笑んでいるだけだ。 エミリオが面倒臭そうに言った。 「理由なんてどうでもいいよ。大事なのは、誰が行くか…だろ?」 「まぁそうだ。じゃあ、パトリシア捕獲に行きたい奴は挙手…」 「そちらはガデスかエミリオに行ってもらいたいと思うのですが」 ガデスが決を取る前にウォンが口を挟んだ。 エミリオが不思議そうに首を傾げた。 「ブラドさんはともかく、刹那まで最初から除外?」 「刹那にはハンターとの接触任務の方をお願いしたいので」 「刹那+女子供=トラブル、ってのが最近のお約束だからなぁ。美少女関係の仕事から外すのは適切な判断じゃねーの」 「その理由も全くない訳ではないですが」 ガデスの言葉に眉間に皺を寄せた刹那を軽く目で制してウォンは言った。 「少しばかり気になることがありましてね。刹那に確認してもらいたいのですよ」 「ふーん?」 「生粋のサイキッカーは襲うが人工サイキッカーはどうなんだ、とかか?」 「そのようなものです」 ウォンは答えを曖昧にしたまま頷いた。 彼が自分の考えを明かさないのはいつもの事なので特に誰も追求しなかった。 ウォンはそれを了解の意思表示と解釈したらしい。 「では、ハンターとの接触任務は刹那でよろしいですね」 「了解しました」 「じゃあパトリシアの方にどっちが行くか決めようか」 「はいはーい、俺行きまーす」 「ガデスが行っても『やだーオジサン恐いームサいー』って逃げられるのがオチじゃないのか」 「んなっ!刹那この野郎、言うじゃねーか」 「じゃあ僕が行くよ」 エミリオはパトリシアの写真を摘まみ上げて冷たく笑った。 「抵抗したら殺していいんだよね?」 「エミリオ。私は『排除』ではなく『捕獲』と言いましたよ」 「…つまんないの」 「じゃあやっぱり俺が」 「やだーオジサン恐いームサいーって全力で逃げられたらガデスの足じゃ追いつけないんじゃ…」 「ブラドまでそのネタかよ!」 「ハンターの方はどうなんです?接触するのはいいとして、パトリシアの捕獲に絡んで暴れるようなことがあったら」 「その時は臨機応変にお願いします」 「分かりました。…で、俺の相棒はどっちになるんですか」 刹那はガデスとエミリオを見た。 むさ苦しい上にいちいち神経を逆撫でるが任務遂行に関しては信頼できるオヤジと一緒に行動するか、気紛れで精神的に不安定で何をしでかすか分からないが 刹那の精神衛生に悪影響を及ぼすことはガデスほど多くはないガキのお守をするか。正直どっちも願い下げだが上官命令だから仕方がない。見境なく殺しまくる どこぞのセカンドと組むことを考えればかなりマシだ。 ガデスは両手を胸の前で合わせて立ち上がった。 「おーし、じゃあ公平にじゃんけんで決めようぜ」 「いいよ」 「せーのっ、最初はグー!」 「「じゃんけん、ぽん!」」 …ガデスがグー、エミリオがパーを出していた。 最悪、パトリシアの捕獲も俺の仕事になるな。 エミリオと組むのは初めてだと気付き、刹那は任務遂行をどうするか思案を巡らせた。 だから。 ウォンの言葉に潜んだ意味に気付かなかった。 |
| サイキ部屋 |
総合目次 |
| おしゃー!ようやく次で主人公+ヒロイン登場です!(笑)エピソード10越えてきてやっと主人公マイト…。長かった…。個人的にこの小説の一番のキモ
は刹那とマイトのかかわりだと思ってるので。公式のマイトのストーリーモードで、何故対戦相手に刹那がいなかったのか?軍属サイキッカーで出て来ないの、
刹那だけなんですよね。ウエンディーより刹那の方が話的に自然なのに、何故出て来なかったのか?その辺の理由をこじつけてできたのが『マイトと刹那の繋が
り』だったんです。この部分を凄く気に入ってくれた方がいて、何と漫画にまで描き起こしてもらったことがあって…だからこだわりが強いのかも知れません。 なのでマイトと刹那の絡みは10年前より増やしていきます。…こんなこと言って引っ張って、『なーんだ、この程度なのか』って思われたらどうしよう(笑)。 |