THE DARKNESS
EPISODE 12:西暦2012年8月10日 街のファミリーレストラン前


 数日続いた雨はようやく上がり、空は明るく太陽はジリジリと照りつけている。
 ガードレールにゆったりと腰掛けたエミリオが不機嫌そのものと言う顔でぼやいた。

「暑いよ」
「夏だからな」
「そういうこと言って欲しいんじゃないよ。大体、なんで刹那はケロッとしてられるのさ」
「このくらいの暑さで音を上げるような軟弱者が軍人なぞやってられるか」
「………」

 下っ端だった癖に…と言いたげなエミリオと、ついでに遠巻きに見ている一般人も無視して刹那は『仕事中だから話し掛けるなオーラ』の発散に集中した。
 …二人が待機しているのは大通りに面したファミリーレストランだ。エミリオのターゲットのパトリシア・マイヤースがここで働いているので、仕事が終わる時間に合わせて彼女を捕まえ、そこからハンターと接触しようと待っているのだ。
 街中での任務とあって、二人はきちんと軍の制服を着ていた。エミリオは紫の上着にベージュのスリムパンツ、黒のブーツといういつもの出で立ち。刹那はス リムパンツとブーツはエミリオとお揃いだが、上着は裾が膝下まである純白のコートを着ていた。襟元にはきちんとネクタイ、左腕には軍の紋章が刺繍された深 紅の腕章、腰のベルトには銃も携えている。本来なら彼よりも階級が上の軍人が礼装として着るような、『人から見られる』ことを大いに意識した服装だった。
 ブラドのブランドのイメージキャラとして変に巷に知られてしまったせいで、私服で街に出ると話しかけられたり写真を取られたり色々面倒なのでその対策でもある。一般人相手に問題を起こすな、という(刹那の喧嘩っ早い性格を熟知している)上からの無言の圧力でもあったが。
 刹那は街の時計を見上げて時間を確認した。
 パトリシアの仕事は終わっているはずだが、彼女はまだ姿を見せない。従業員も店の正面から出入りしているので知らない間に裏口から出て行ったというのは考えにくいが…。

「ねー、まだぁ?僕もう待ちくたびれたんだけど」

 気の短さでは刹那といい勝負のエミリオは不満たらたらだ。

「しかも今日に限ってクソ暑いしさ。昨日まで雨だったのに」
「…雲が出て来たから、ひと雨来るかも知れないがな」
「暑い、暑い、喉が乾いた!ねぇ刹那、ちょっとそこのコンビニ行ってジュース買って来てもいいだろ?」
「仕事中に買い食いするな。その間にターゲットが出て来たらどうするつもりだ」
「何とかしてよ」
「………」

 甘ったれるなとは思ったが、ここでエミリオが臍を曲げても面倒だと考え直した。
 刹那はため息をついた。

「すぐ戻れよ」
「いいの?じゃあダッシュで行って来る」
「金はあるのか?」
「カードを持ってる!」

 エミリオはガードレールから降りて近くにあったコンビニに走って行った。
 羽の生えた少年の姿にさっと人垣が割れる。
 エミリオがサイキッカー部隊に属していることはばれているだろうが、刹那がサイキッカーだと言うことは、世間には…正確には世間に流れてノアに伝わるのは避けたかった。伊達ではない銃を提げているのもその演出なのだが、どの程度効果があるのか。
 そんなことを考えているとエミリオがコンビニの袋を持って戻って来た。

「早かったな」
「すぐ戻れって言ったろ。はい、差し入れ」

 アイスコーヒーの缶を差し出されて刹那は戸惑いながら受け取った。
 エミリオがこんな気を利かすとは正直思っていなかった。
 穿った目を向けてみる。

「口止め料か?」
「まっさか」

 エミリオはペットボトルのジュースを半分ほど一気に飲んでニヤリと笑った。

「真夏の張り込み中のアイスコーヒーって、ラーメン定食程度の価値はあるよね?」
「あのラーメン屋に連れて行って欲しいなら素直にそう言え」
「連れてってくれるんだ?サンキュー」
「任務が無事に終わったらな」

 有り難くアイスコーヒーを飲んでいると、エミリオは袋から2本くっついたアイスバーを取り出してバキッと割って片方を刹那に差し出した。

「…いらん」
「何で。おいしいよ」
「任務中にいい大人がアイスバー食ってたら世間がうるさいだろうが」
「いい大人って誰?」
「貴様…。そうか、ラーメン屋は一人で行くんだな」
「え、何それ…、!?」
「!」

 突如、強力なサイキックパワーの衝突する波動を感じて二人は顔を緊張させた。
 力が発生している地点は二人のいる場所からさほど遠くはない、町外れの工場跡のようだ。
 パトリシアはまだ店から出てきていない、そうなると…。

「ハンターとノアのサイキッカーがバッタリ、とかかな」
「有り得るな」

 ぶつかり合う力の波動は刹那やエミリオにも匹敵する。ハンターかどうかは分からないが無視は出来ない。サイキッカーが街中で暴れていたら鎮圧するのが軍属のサイキッカーの仕事でもある。
 刹那はアイスコーヒーを飲み干して缶をゴミ箱に放り込んだ。

「ハンターかも知れん、俺は様子を見てくる。パトリシアは任せたぞ。念のために言っておくが、『捕獲』だからな」
「分かってるよ。生きたまま連れて帰ればいいんだろ」

 不満げなエミリオの言葉は最後まで聞かず、刹那は力を感じる方に向かった。
 人込みを抜ける間では急ぎ足に、路地裏に入ってからは走り出した。一気に飛んで行けば早いのだが、空を飛べば目的のサイキッカーに気取られる可能性があった。それに、一般人の前で空など飛べば『自分はサイキッカーです』と宣言するようなものだ。
 野次馬が何人か後をついて来ていたが、塀を飛び越え屋根を伝いビルからビルに飛び移って振り切った。サイキッカー同士の戦いは町外れの廃工場で行われているようだ。空気が激しく震えて帯電しているのを感じる。

(片方の能力は風、もう片方は電気…いや、雷か?)

 片方の力の波動はどこかで感じたことがあるような気がするのだが…。
 気配が近くなって来た時、唐突に力の波動が消えた。戦いが決着したと言うことか。
 力の残滓を追って廃工場跡地に降り立つ。…死体は見つからない。
 跡形も残らず消えたのか、それとも決着せずに終わったのか。

(無駄足だったか…)

 その時。
 エミリオが待機していた場所の方から強大な力の波動を感じ、刹那は息を飲んだ。
 片方の力は分からないが、もう片方はエミリオの力だ。
 緊急事態だと直感した。
 機密保持とか悠長なことを言っている余裕はない、刹那は地面を蹴って飛び立った。

 

 

 待機場所に戻るまでのほんの数分で一悶着あったらしい。
 上空で足を止め、刹那は眼下の状況を確認した。
 レストランの入り口前でへたり込んでいる青い髪の少女はターゲットのパトリシアか。そこから少し離れたところにエミリオが転がり、赤毛の少年が片手に雷を纏わせながら歩み寄っている。
 あれがハンターか。
 パトリシアを捕まえようとしたエミリオをハンターが襲い、エミリオがやられて結界が消え、ハンターがとどめを差しに行こうとしている…状況を一瞬で把握し、どう動くか考えた時。
 想定外の事が起きた。

「やめて!エミリオを殺さないで!」

 ハンターを挟んでパトリシアの反対側にいたピンクのお下げ髪の少女が叫んでハンターに走り寄った。
 彼女もまた、強力な風の匂いを纏っている。
 しかしハンターは物も言わずに風の少女を殴り飛ばしてエミリオに足を向けた。
 ハンターとパトリシアは仲間。お下げの少女はハンターの仲間ではなく、エミリオを殺すなと言っている。
 それだけ分かれば十分だ。
 刹那は銃を抜いて舞い降りた。
 パトリシア、ハンター、風の少女が突如現れた第三者に気付くと同時に叫んだ。

「全員、動くな!」

 突然の事に3人とも動きを止めた。
 冷たく無表情だったハンターが、刹那を見た途端、ひどく驚いた様子で眼を見開いた。

「刹那…?」

 信じられない、という風に呟く。
 ハンターにまで顔と名前を知られているのか…と刹那が内心舌打ちした時、風の少女が我に返ったようにエミリオに向かって踏み出した。

「エミ…」

 ガァン!
 銃声が響き、少女の帽子とピンクの髪が数本ふわりと舞った。

「動くなと言ったはずだ」
「…………」
「対サイキッカー用の特別製だ。バリアごときで防げると思うなよ。少しでも妙な真似をすれば…超能力が発動する前に頭に風穴が開くと思え」

 特別製は本当だが、バリアで防げないと言うのは嘘だった。
 が、銃火器など縁の無さそうな少年少女は刹那のハッタリを信じたらしい。三者三様の反応をしながらもおとなしくなった。
 ポツリ。
 足下に雫が落ち、パラパラと雨が降り始めた。
 刹那は素早く頭を巡らせた。こういう時に物を言うのはオツムの善し悪しではなく経験と勘とセンスだ。
 突然の乱入者の姿に不自然なほど驚いていたハンターも既に油断なく身構えている。
 エミリオは気絶しているらしい。
 気絶したエミリオをフォローしながらハンターをあしらってパトリシアを連れ帰るのは不可能だ。仮にエミリオを捨てたとしても、刹那と同等のサイキッカー二人が相手では分が悪い。一戦やらかしたこの状況では話し合いで解決するのは無理だろう。

(仕方がない、パトリシアは諦めるか。そっちはエミリオの任務だし、俺には関係ない)

 結論付けて刹那はハンターと視線を合わせた。…また、彼が戸惑う気配があった。

「ハンター、取り引きだ」
「取り引き?」
「貴様の女と俺の部下の交換だ」
「…お前達がパティを諦める代わりにこいつを殺すなと言うことか」
「飲み込みが早いな。そういうことだ」
「一方的に襲って来て、そんな都合のいい話が…」

 刹那は銃をパトリシアに向けた。

「交渉決裂か。ならエミリオを殺せ。俺は貴様の女を殺るだけだ」
「ま…待て!」
「やめて!エミリオを殺さないで!」

 風の少女の必死の懇願とパトリシアを人質に取られたことでハンターは動揺している。
 刹那はそこを見逃さず畳み掛けた。

「貴様も男なら、女の頼みの一つくらい聞いてやったらどうだ?」
「………。パティを諦めると言う言葉に嘘はないな?」
「軍人がこれだけの衆目の前で嘘を言うとでも?」

 刹那は銃をホルダーに戻して両手を下げた。
 サイキッカーなら武器などなくても戦う力はある、銃を引っ込めたのは攻撃意志のないことを示すポーズだった。渋々ながらハンターも納得したらしい、戦いの構えを解いた。
 刹那はパトリシアを顎でしゃくった。
 油断無く刹那を見ながらハンターがエミリオの横を離れパトリシアに近付くのを見ながら刹那もエミリオに近付いた。

「う…」

 地面に転がっていたエミリオが呻いて眼を開けた。

「刹那…?」
「今頃お目覚めか」

 エミリオがよろよろと起き上がるのに合わせたように、この場所に戻る途中で連絡しておいた迎えの軍用車が到着した。

「パトリシア捕獲任務は失敗だ、ここは撤退する。異存は無いな?」
「………」

 ギリ、と歯軋りする音が聞こえた。
 車のドアが開き、エミリオがハンターをにらみながら乗り込もうとした時、風の少女が叫んだ。

「待って、エミリオ!私よ、ウエンディーよ!私が分からないの!?」

 ウエンディー?
 どこかで聞いたような名前だ。それにあの娘の力の波動はどこかで感じたことが…。
 思い出せそうで思い出せないもどかしさに小雨が拍車をかける。
 エミリオはと言えば、少女を無視して座席でムクれている。
 まぁいい、帰還してから調べれば済む話だ。

「刹那!」

 少女を無視してエミリオに続いて車に乗ろうとした時、今度はハンターに呼ばれた。
 一体なんだと眼を向けてその表情に戸惑った。
 頬を伝う雨が涙に見えた。ハンターは悲壮とも言える眼で刹那を見ていた。

「刹那、…………」
「何だ」

 何か言いたげなハンターは言葉に詰まった。言いたいことが分からない、思い出せないと言うように。
 数秒の沈黙の後、少年は声を絞り出した。

「また、会えるよな?」
「………。機会があれば再び会いまみえることもあるだろう」

 少年の言葉の真意を計りかねたまま車に乗り込むと、風の少女が走りよって来た。

「お願い待って、エミリオと話をさせて!私はその子の友達よ、2年間ずっと探していたの!」
「…………」
「僕はお前なんか知らないって言ってるだろ!」
「エミリオ!一体どうしちゃったの!?」

 そっぽを向いたエミリオと必死の表情の風の少女に挟まれて刹那はいい加減ゲンナリしていた。
 やはり俺は女子供と相性が悪いらしい。
 鬱陶しいが一般人の眼があるから邪険にもできない。

「どうしてもと言うのなら、正規の手続きを踏んで面会を求めるのだな」

 実に寛大な言葉を少女にかけて車のドアを閉めた。

 

 

 基地に帰還する車の中で、エミリオは不機嫌オーラを惜しみ無く振りまいていた。が、少年少女に手を焼いた挙げ句に雨でずぶずぶに濡れた刹那の機嫌もエミリオに負けず劣らず悪い。
 タオルで髪を拭きながら尋ねた。

「あのウエンディーとかいう娘は何だ?お前を知っているようだが」
「刹那には関係ない」
「助けてやったのにその言い種は何だ」
「恩着せがましいんだよ。誰が助けてくれって言ったのさ」
「貴様…」

 エミリオが不貞腐れて刹那から視線を逸らした。
 こうなってはもう何を言っても無駄だ。

「お前を見捨ててパトリシアを連れ帰るべきだったな」

 吐き捨てた言葉にエミリオの肩がピクリと動いたが、言葉は返ってこなかった。

 

 

 顔にはっきりと『不機嫌』と書いて二人で帰還した刹那とエミリオを見て、居残り組は大体の結果を察したらしい。
 ウォンは苦笑した。

「パトリシア捕獲は失敗しましたか」
「捕まえたけど、ハンターとウエンディーに邪魔されたんだよ」
「え?ウエンディー?」
「詳しいことは刹那に聞きなよ」

 エミリオはそれだけ言ってそっぽを向いた。
 ブラドが視線を刹那に向けた。

「何があったの?」
「エミリオに何があったのかは俺も知らんが」

 刹那は自分が見たことだけを正確に報告した。
 パトリシアが予定の時間になっても現れなかったこと。大きなサイキックパワーの衝突を感じて自分はその場を離れたこと。現場に戻った時にはエミリオがハンターにやられて転がっていたこと。エミリオを探していたと言う風の少女の存在。刹那を見たハンターの不自然な反応。
 ハンターの反応と『また会えるよな?』という言葉にウォンは興味を持ったようだった。

「ハンターはあなたを見て驚いたのですね」
「そう見えました」
「一応有名人だからな、お前は。ブランドのモデルだと思ってた奴がサイキッカー部隊の制服来て出てくればそりゃ驚くだろうよ」
「いや、そういう感じじゃなく…」

 少年のあの反応。
 どう表現すべきか悩んでいると、ウォンが口を開いた。

「例えば、行方不明になったと聞いていた知人に思わぬところで出会ったような…?」
「そう…ですね、その喩えがしっくりくる」
「昔の友達とか?」
「それはないだろう」

 ブラドの言葉を即座に否定した。

「あんな奴に覚えはないし、百歩譲って昔の友人だったとしても、俺を『刹那』とは呼ばないはずだ」
「それもそうか…昔の友達なら昔の名前で呼ぶよね」
「しっかし刹公、ハンターにまで『また会いたい』と言わせるとはなぁ。本当に女子供キラーだな」
「黙れ」

 イライラの鉾先をガデスに向けた刹那をブラドが制して質問した。

「女の子と言えば、もう一人いたんだよね。ウエンディーって言う子が」
「ああ、そう名乗っていた。何となく覚えがある名前なんだが後一歩で思い出せなくて…」
「その子、クリスの妹のウエンディー・ライアンじゃなかった?」
「…あ!」

 そういえば入院中に渡された資料に載っていた。気になっていたことが判明して刹那はようやくスッキリした。
 どこかで感じた力の波動だと思っていたが、クリスと姉妹だったのなら似ていて当たり前だ。
 そしてエミリオを探している理由も…。
 …そう言えば何故、エミリオは彼女を知らないと言ったのだろう?

「それで?ウエンディーはどうしたの?」
「ん?あ、ああ」

 頭を過った疑問はブラドの言葉で押し出された。

「エミリオと話がしたいと食い下がって来たが、状況が状況だったからな。『正規の手続きをして面会に来い』と言っておいた」
「そうか…」
「クリスの妹だと思い出していれば連れて来たんだがな」
「ううん、逆に良かったよ」
「?」
「正直、今はウエンディーの対応まで手が回りませんのでね。追い返してくれて逆に好都合でした」
「…?」
「確かにあいつがここに来たら文字どおり『台風娘』になりそうだしなぁ」

 軍の内部を引っ掻き回すと言うことか。
 言われてみればそんな印象もある。

「収穫もあったことですしパトリシアの捕獲失敗任務に関しては眼を瞑りましょう。ハンターが何者かについては引き続き調査すると言うことで」

 ウォンの言葉で会議はお開きとなった。

 

 

 刹那に続いてエミリオが会議室を出て来た。
 …戻る先、つまり私室が同じ方向にあるのでエミリオは刹那の後ろをついて来る形になる。何か反応するのも癪で黙っていると、ボソッと声がした。 

「あのさ」
「…………」
「……色々、今日はありがと」

 耳を疑うような台詞に思わず足を止めた。
 振り返ると仏頂面のエミリオと眼が合った。

「何?」
「ちゃんと聞こえただろ!同じこと二度も言わせるなよ!」
「…………」

 空耳ではなかったのか。
 なんとなく二人が並んで歩き始めると、独り言のようにエミリオが言った。

「ぶっちゃけ僕も『二人いる』んだよね、ブラドさんと同じで」
「は?」
「ウエンディーの知ってる『エミリオ』と、今ここにいる僕は別人なのさ」
「…さらっととんでもないことをカミングアウトするな」
「ウォンが言うには、厳密には僕とブラドさんは違うらしいけど」

 彼が言うには、『今の自分』こそが『本来のエミリオ』で、『ウエンディーが知っているエミリオ』…つまり大人しく気弱でいい子のエミリオは偽りの存在らしい。
 本来の性格では世の中に順応できないと無意識に気付いていたエミリオは、凶悪な自分を押し殺し『皆に好かれるいい子』を演じていた。そしていつしか『猫 かぶり』が『猫そのもの』になってしまった。あまりにも長い間仮面を被っていたせいで、仮面を外せなくなってしまったのだ。バーンやウエンディーと出会 い、ノアの崩壊に巻き込まれ、自分の立ち位置さえ分からなくなった彼に手を差し伸べたのがウォンとブラドだった。
 ブラドの前例があったからだろう、二人は難無くエミリオの心の闇を解明し、彼が被ったまま外せなくなっていた仮面を剥がしてくれたのだと言う。
 突然の告白に大混乱する頭で、刹那は何とか話を理解しようとした。

「要するに、いい子の振りをやめるにやめられなくなっていた訳か」
「そ」
「で、司令官とブラドが『いい子の振りなんかやめちまえ』と言ったから、お言葉に甘えてやめちまったと」
「そそ」

 エミリオは頷いた。

「でもウエンディーは『イイ子のエミリオ』しか知らない訳じゃん。本当のこと話しても納得しないよ。絶対言うよ、『あなたは本当はそんな子じゃない、ウォ ンに何かされたのよ、軍なんかにいちゃだめ、軍にいるからそんな嘘を信じちゃうのよ、一緒にバーンを探しましょう、バーンに会えば昔のあなたに戻れる わ』…」

 クリスマスカラーの少女がまくしたてる様子を想像しただけでうんざりした。

「それは確かにうるさいな。お前なんか知らんと突っぱねて正解だ」
「だろ?」

 エミリオは唇を尖らせて呟いた。

「どうのこうの言ったって、ウエンディーが一番大事に思ってるのはバーンなんだ。僕は二番目なんだよ。二番目だから勝手なイメージを押し付けるんだ。本当の僕を受け入れてくれないんだ」
「エミリオ、お前…」

 つまりはウエンディーが好きなのにウエンディーはバーンを好きだから拗ねてるのか。
 理由が分かった途端に寛大な気分になった。
 だから、エミリオより10年長く生きている先輩として人生のアドバイスをしてやることにした。

「あのな、勝手なイメージを押し付けるのは女の特技だぞ」
「…そうなの?」
「勝手にイメージを膨らませて自分の理想像と違うと『だまされた』とか『あなたは本当はそんな人じゃない』って騒ぐのが女だ。嘘だと思うならブラドやガデスや司令官にも聞いてみろ。多分同じようなことを言うだろうな」
「へぇ…」
「女の理想に合わせてやるか、勝手なイメージをぶち壊して本当の自分を受け入れさせるか。どっちにするかは自分で決めろ」
「う…うん、分かった」

 少し頬を染めてエミリオは決意に満ちた顔を上げた。

「勝手なイメージをぶち壊して本当の自分を受け入れさせた方がカッコイイよね」
「それはそうだろうが、ぶち壊した勢いで玉砕もあり得るからそれなりの覚悟がいるぞ。お前の場合ライバルもいるんだし」
「…うぐ」
「まぁ…仮にウエンディーが今すぐお前に面会する手続きをしても実際に会えるまで相当時間はかかるはずだ。その間にじっくり考えればいいだろう」
「そ、そうだね」

 エミリオはぎゅっと両手を握りしめた。
 空回り寸前、肩に力が入り過ぎている姿が微笑ましくて、刹那の不機嫌はいつの間にか消えてなくなっていた。


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サイキ部屋
総合目次


 長っ!(笑)2本に分けると長さが中途半端になるので1本にまとめたら、めたくそ長い…そして重要な場面と言うかポイントも多い、濃い一本になりました。 ストーリー的にはマイトと刹那の関係、エミリオとウエンディーの関係かな。個人的好みでは軍服刹那(服はまんまパッパラ隊のイズル君?をイメージしまし た)。深紅の腕章がポイントです!(笑)
 アイスバー(ガリガリくん?)を刹那と分けて食べようとするエミリオ、銃とハッタリでその場を収める軍人刹那。更 に雨でずぶずぶ。金髪から雫ポタポタでその奥に濃い青い眼って言うのがたまらんです。