THE DARKNESS
EPISODE 18:西暦2012年10月21日 サイキッカー部隊研究棟所長室


「あの、レジーナ殿。私、以前から疑問に思っていたのですが…何ゆえノアは、人類を全滅させようとしているのですか?」
「え?」
「研究所で非人道的な扱いを受けているサイキッカーを助けるのが目的なら、全人類に対して宣戦布告する必要はないと思うのですが」
「そんなの、決まってるじゃない。人間は私達サイキッカーを敵視して虐げるからよ」
「『私達サイキッカー』?」

 もどかしさの原因がそこにあるような気がして刹那はレジーナの言葉を反復した。
 …糸口が見えた気がした。

「…そこだ」
「何がよ」
「その『私達サイキッカー』とは誰を指しているんだ?ノアのサイキッカーか?明確にノアに敵対していないサイキッカーも含むのか?それとも司令官やガデスも入るのか?俺のような人工サイキッカーは?」
「それは…ノアに属するサイキッカーと、ノアに敵対していないサイキッカーよ」
「…フン」

 刹那は鼻を鳴らした。
 途端に眉を釣り上げたレジーナに指を突き付ける。

「根本的にズレているな。貴様らは、ノアの思想に共感していないサイキッカーまで勝手に仲間扱いしている訳か…はた迷惑な話だ」
「おっしゃる意味が分かりませんけど?」
「ならば分かりやすく言ってやる。ノアに属さないサイキッカーの一体何人が、貴様らに『人類を皆殺しにしてサイキッカーの理想郷を築いて下さい』と頼んだんだ?」
「……………」

 虚を突かれた顔になってレジーナが言葉に詰まった。

「さぞかし多数の要望があったのだろうな?これだけ貴様らに不利な状況になってもまだ人類皆殺しなどと叫んでいるのだからな」
「…………」
「ああ、人に物を聞くからには自分も話さなくてはいけないな。『ノアの連中が、ノアとは全く関係のない一般サイキッカーまで仲間扱いしてとても迷惑なんです、早く新生ノアを潰して下さい』という要望はほぼ毎日軍に寄せられているぞ」
「…嘘」
「信じられないか?なら、極秘資料ではあるが嘆願書を見せてやろうか?今すぐとは行かないが、『ノアの仲間だと思われるのが嫌だからサイキッカー部隊に志願した』という奴に会わせてやってもいいぞ?何十人といるからな、好きな奴と話してみるがいい」
「嘘…」

 レジーナが眼を見開いて、唇を震わせた。
 テーブルの上で拳を握りしめて消え入りそうな声で呟いた。

「そんなの、嘘よ…」
「まだ言うか」
「だって兄さんが言ったもの、我々は選ばれた民なんだって。人類は愚かな生き物だから滅ぼさなくちゃいけないって。人間がいなくなればサイキッカーは幸せになれるんだって…兄さんが言ったもの!」
「それなら愛しの兄貴と二人で人間のいない国でも作れ、そしてオトモダチだけを集めてそこから一生出て来るな!関係ない連中を勝手に仲間扱いして巻き込むな、この厄病神が!!」
「!」

 痛いほどの沈黙が落ちた。
 刹那の言葉に、レジーナだけでなくガデスやクリスも言葉を失った。
 刹那はレジーナを睨み付けて続けた。

「…俺が人工サイキッカーになって分かった事がある」
「な…に…?」
「サイキッカー達を追い詰めて苦しめて死に追いやっているのは新生ノアだ」
「……………」
「『サイキッカーは危険な存在だ、だから排除しなくてはいけない』と一般市民に思わせたのも、大勢の人間がサイキッカーを迫害する原因を作ったのも、研究 所がサイキッカーを拉致する大義名分を作ってやったのも、貴様らだ。全ての元凶が『サイキッカーを救う』だと?ハッ、笑わせるな!」
「どういう、こと」
「家族や友人を殺した仇を憎むのはサイキッカーも人間も同じだと言う事だ」
「…………」
「今は貴様らの道具になりさがったゲイツ・オルトマンもそうだ。キースに家族を殺された恨みからサイキッカーを敵視するようになった。ノアに属さないサイ キッカーも、軍と手を結んだブラドも、奴にとっては全部同じ『妻子の仇』だった。ブラドの左腕が義手になった理由を教えてやろうか?キースの首を取れずに 逆切れしたゲイツにやられたからだ」

 レジーナの顔は蒼白だった。
 これ以上は聞きたくない。今まで信じて来た何か、支えにして来た何かが根本から崩れてしまいそうだった。
 なのに、刹那の闇色の眼から眼を逸らせない。

「貴様らは研究所を襲撃する度に下級兵達をお手軽に殺してくれたよな。知らないなら教えてやろう、連中にも家族や友人や恋人がいるんだ。『ノアのサイキッ カーと勇敢に戦って殉職しました、これはお見舞金です』と多少の金を渡されて、『はいそうですか』と納得する奴なんて滅多にいない。『大切な人の命を奪っ たノアが憎い、サイキッカーが憎い、どうか危険なサイキッカー達を早く倒して平和な世界にして下さい』と、ほとんどの奴が涙ながらに訴えて来る。中には仇 を取ると言って軍に入って来る者もいる。そういう連中は強いぞ?本気でサイキッカーを憎んでいるからな」
「…………」
「お前達が馬鹿の一つ覚えのように『我々サイキッカーは』と喚き散らすから、国家の裏側など知らない一般市民は『軍に属さないサイキッカーは人類の敵だ』 と信じ込んでいる。だから自分達の身を守るためにサイキッカーを見つければ密告する。密告を受けた国家は『市民の安全の為』という大義名分を掲げてサイ キッカーを捕まえて研究所に放り込む。密告を恐れたサイキッカーは、『自分は人類の敵じゃない』ことを証明するために軍に入隊する。見事な悪循環だな。そ れとも貴様、その全てが計画だとでも言うつもりか?」

 言葉を切った。
 青ざめて震えているレジーナの姿に、多少言い過ぎたかと反省した。
 ふと気付けば、クリスや栞だけでなくガデスまで真剣な顔で黙り込んでいる。その理由は、刹那の発言が想像以上に鋭かった事に驚いていたためだったが、刹 那は自分がやり過ぎたせいで何か言う気にもなれないほど呆れているのだと勘違いした。勘違いついでに、この3人がレジーナ側についたら面倒だとも思った。

「あー…何だ、その」
「…………」
「言い過ぎた。すまない」
「え…」

 あっさりと謝罪の言葉を口にして刹那は椅子に腰を降ろした。変なところで素直に折れるのは彼の長所だが、意外すぎる展開にガデスもクリスも栞も眼を丸くした。
 彼の発言に驚いたのはレジーナも同じだったらしい。口をぽかーんと半開きにして刹那を見た。
 ここで調子に乗られても腹立たしいので先に出鼻を挫くことにした。

「言い過ぎた事は悪いと思っているが、発言を撤回する気はないからな」
「あ…うん。…………」

 レジーナは半分夢を見ているようなぼんやりした顔で刹那を見ている。
 猛反撃が来るだろうと身構えていた刹那は多少肩透かしを食らった形になった。

「……?」
「何つうか、刹那、お前…」

 ほとんど灰になっていた葉巻を思い出したように灰皿に落としてガデスがようやく口を開いた。

「すげぇな」
「何を突然?」
「敵地に一人の所を責め立てて追い詰めて怒鳴り付けて最後に一歩引いてしてキャッチザハート。…完璧だなオイ」
「何を馬鹿な事を。この女の事だ、どうせすぐに猛烈な勢いで反論をまくしたてるだろう」

 さぁこい、と身構えたが。
 レジーナは無言のまま視線を落とした。よほど痛いところを突いたのか、それとも洒落にならないほど度を越してやりすぎただろうか…と怪訝に思った。
 放心状態のレジーナと多少彼女を心配気味に見ている刹那を交互に見た栞が、レジーナに声をかけた。

「れ…レジーナ殿」
「ん?何?」
「レジーナ殿は、お兄様をお好きなのですよね」
「う…うん、勿論そうだよ。兄さんは私の全て、私の世界、私の神様だよ。でも…」

 レジーナは俯いたままポツリと呟いた。

「何でだろう…兄さんの言葉より、今の刹那の言葉の方が説得力があるんだ…」
「当然だ。貴様の兄貴の言葉は夢や理想などと言う甘ったるいものを語っているだけだが、俺は自分の眼と耳で確認した事実を言っているんだからな」
「事実…」

 レジーナが顔を上げて刹那を見て、また視線を落とした。

「自分の眼と耳で確認した、事実…」
「そうだ」
「……………」
「……………」

 何故黙る。
 刹那はテーブルを指で小突いた。
 噛み付いて来るとばかり思ったレジーナはぺしゃんこになっているし、普段なら茶化したり皮肉ったりするガデスやクリスも黙っているし、栞は何故か不満げな顔で口を噤んでいる。
 …長くはないが短くもない沈黙に刹那の我慢も限界に近付いた時。

「ただいま!皆大丈夫だった!?」

 息せき切って部屋に飛び込んで来たブラドが沈黙を破って、刹那は心底彼に感謝した。ブラドの後ろにはエミリオもくっついていた。ブラドいわく、『ちょうどそこで一緒になった』らしい。
 珍しく真剣な顔のガデス、ほっとしている刹那、複雑な顔をしているクリス、なんだか不機嫌に見える栞、そしてぺしゃんこにへこんでいるレジーナを順番に見て、ブラドは首を傾げた。

「えっと…刹那からはレジーナを捕まえたとしか聞いてなくて、その後携帯にかけ直しても繋がらなかったんだけど…。何か、あったの?」
「女子供キラー最終兵器刹那、新たなる伝説。ブラコンレジーナの陥落」
「変な誤解を招くような解説をするな!」

 表情は仏頂面だったが、いつものガデス節が復活したので刹那は早速突っ込みを入れた。
 クリスが頷いた。

「言い方は問題があるけど概ね正しいわね」
「おい」
「刹那、レジーナに一体ナニしたのさ」
「エミリオ…その歳でガデスの親父ギャグに影響受けるとは問題だぞ」
「う…うるさいよ!」
「それで刹那、レジーナに一体何したの?」
「ブラド、お前もか!」
「ぷっ」

 三段落ちにレジーナが吹き出した。
 普段なら何か言ってやるところだが、何か言ってまたへこまれたら困るので刹那は黙っていた。

「前も思ったけど、あんた達楽しそうだよねー。そこは素直に羨ましいと思うよ」
「ま、カルロは冗談の分からねぇ奴だからな」
「何かフザケたこと言おうものなら真顔で注意しそうだな。『君達、今はふざけている場合ではありません!』」
「まさにそんな感じね」
「それはいいとして、結局何があったの?」
「刹那とレジーナが熱く議論してたんだよ」
「議論?」
「最終的にブラコンレジーナに『兄さんより刹那の言う事の方が説得力がある』と言わせて、刹那の勝利で終了したところだ」
「マジでー?」

 エミリオがあからさまに疑わしげな眼になったが、レジーナがあっさり頷いた。

「うん、マジ。情け容赦なく完膚なきまで叩きのめされちゃったよ。耳が痛いレベルじゃなかったわ」
「へぇ〜」
「ただね、今やっとキース様が言ってた事が実感として分かるんだ。『事実は事実として受け止めろ』『敵の言う事と最初から拒絶せず冷静に吟味しても悪くはない』。…ねぇ、ブラドさん」

 レジーナがとても真剣な目でブラドに尋ねた。

「あなたがウォンと手を組んでまでノアを裏切り軍に寝返ったのは何故?」
「僕達の目的の為にはそれが一番有効だと思ったから…かな」
「あなた達の目的って何なの?」
「ノアと同じだよ。『全てのサイキッカーに自由と平和を』」
「できるの?あなたに、そんなことが」
「分からない。でも、人類皆殺し計画の君達よりはずっと、現実的だと思うよ」
「…どうやって?」

 尋ねるレジーナの声は小さく、掠れていた。
 昨日まで…いや、ほんの数時間前、刹那に怒鳴られる前の自分だったら絶対にこんな事は尋ねなかった。知りたいとすら思わなかっただろう。
 数秒の沈黙が落ちた。
 その場にいた皆が、ブラドが何と答えるか注目していた。
 サイキッカー部隊副司令官は新生ノアの幹部をとても真摯な眼で見た。

「ねぇ、レジーナ」
「何?」
「分かり合えないって悲しい事だよね。2年前、君達と分かり合えずに袂を分けた時、僕は悲しかった。分かり合えずに殺しあうしか無かったキース様とバーン君も、きっと悲しかったはずだ」
「話を逸らさないで」
「逸らしてないよ。分かり合えてない君に、大事な秘密は言えない。これが今の僕の答え」
「………」

 もっとも過ぎるほどもっともな答え。レジーナはそれ以上何も言えず、サイキッカー部隊の面子も口を開かなかった。
 レジーナが黙りこくると、ブラドが静かに続けた。

「ねぇ、レジーナ。僕達と君達は決して分かり合えないのかな。ヒトとサイキッカーが分かり合うのは無理なのかな」
「…できるの、そんなこと」
「やる前から絶対無理って決めつけるのと、可能性に賭けて頑張ってみるのと、どっちがいいと思う?」
「そんな聞き方、ずるい」

 上目遣いにいじけた視線を向けると、ブラドは悲しみの混じった優しい笑みを浮かべた。

「僕はね、今からでも君と分かり合いたいと思ってる。分かり合えたその時は、正直に全てを話すよ」
「…そんな事言われたら、あんた達を理解する努力をしてもいいかなーって思っちゃうじゃない」
「分かってくれとは言わないよ。僕達の目的を理解して僕達の全てを知ってそれでも尚、考えが変わらずにノアに従って生きると言うならそれでいい。その時は僕達の完全な敵として全力で倒すだけだから…影高野と同じように」

 穏やかな口調に包まれた確固たる意志と信念に栞がビクリと体を震わせた。
 その二人の反応を見たレジーナの頭に、分かったような分からないような説明で何となく納得した疑問が戻って来た。
 軍部には影高野を滅ぼすだけの『正当な』理由があった。しかし影高野にしてみれば理不尽極まりない仕打ちだったに違いない。なのに何故、栞は誰を恨む事もなく自主的に軍に協力しているのだろう?刹那に恋心を持っているとしても、それだけで全てを許せたのだろうか。
 一度気になったら我慢できないタチのレジーナは栞に尋ねた。

「そう言えば栞」
「はい?」
「影高野を滅ぼされたこと、本音ではどう思ってるの?仲間を皆殺しにされたんだしさ、多少の恨みはあるんじゃないの?なんで軍に協力してるのさ?」
「仲間を失った事はとても悲しいです。神妃として影高野を守れなかった事も悔やまれてなりませぬ。しかし刹那殿や軍を恨む気持ちはありません」

 栞が迷い無い表情で言い切ったその言葉に皆が驚いた。
 サイキッカー部隊の面子も、栞が刹那に淡い恋心を抱いている事は気付いていた。だから刹那個人はともかく、彼に命令を下した軍には良い感情がある訳がないと思い込んでいたのだが…。
 そんな全員の考えをレジーナが分かりやすく一言で栞にぶつけた。

「なんでよ?刹那の事が好きってだけで全部許せちゃう訳!?」
「そ…それとこれは全く別です!」

 栞は顔を赤くして抗議してから、こほんと咳払いして真剣な顔でレジーナを見た。

「お恥ずかしい事にここに来てから初めて知ったのですが、影高野の僧兵達は、闇に葬られたサイキッカーの歴史やウォン殿やブラド殿の真の目的をある程度知 らされていたのです。にもかかわらず、全く理解を示そうとせずに『サイキッカーは全て悪しき存在、話し合いの余地などない』と和解の道を突っぱねたので す。話し合いがあった事を私の耳に入れる事もなく」
「まぁ2年前からそんな主張をしてたしね」
「影高野はサイキッカーの皆さんと歩み寄る努力を拒否し、未知の世界を知り視野を広げる機会を放棄したのです。世界最高峰の退魔師としての誇りと信念故と 言えば聞こえはいいでしょう、しかし実際は、自分達を過信するが故の思い上がりと傲慢さが原因だったと私は考えています」

 ピシリと背筋を伸ばし、手を膝の上で揃え、真直ぐに顔を上げて語る栞の纏う空気は凛と張り詰めている。
 所詮は世間知らずの小娘、刹那への恋心で盲目になっているのだろうと内心見くびっていたサイキッカー達は、彼女の迫力に半ば圧倒され一言も口をきけなかった。

「我々に僅かでも柔軟性が、あるいは謙虚さがあれば、あのような結末は避けられたでしょう。影高野の壊滅は、自分達を盲信しサイキッカーの現実を知ろうと もしないまま彼らを悪と断じて屠って来た罪に対する罰なのだと…私は考えています。それは元をただせば指導者である私の力不足に寄るもの。ですから、罰を 下した者を恨む理由などございません。ましてや刹那殿を恨むなど筋違いも甚だしい、むしろこうして真実を知る機会と贖罪の場を与えて下さった事に感謝して おります」

 感謝。
 どうしてそんな事が言える?仲間を殺し、異国に連れ去り、籠に閉じ込め、命を削らせている男に対して、どうしてそんな事を、心から。
 彼らはただ言葉を失い、真剣な顔で栞の話を聞く事しか出来なかった。
 栞はじっとレジーナを見つめた。

「レジーナ殿。『無知は罪』と申します」
「あ、ああ、そんな言葉があるね」
「お話を聞く限り、旧ノアは影高野と同じように道を誤り罰を受けた御様子。しかし己の何が間違っていたか振り返る事もせず、目の前にいる罰を下した者をた だ恨み、同じ過ちを繰り返しているとお見受けします。自分達を疑わないまま罪を犯し続けるならば、以前よりも更に重い罰が下りましょう」
「ちょ…ちょっと、そんな恐い事真顔で言わないでよ」
「どうか、同じ轍を踏まれませぬよう」
「………」

 レジーナは何も言えず栞を見つめた。
 重く長い沈黙を破ったのはブラドだった。

「レジーナ」
「…何?」
「まずは色々な事を知ってみて。色んな人と話をして、本や新聞を読んで、TVも見て。ノア以外の世界を知らないまま、世界から見たノアを知らないままじゃ君達は同じレールの上を堂々回りするだけだ」
「色々な事を、知る…」

 ずしりと心にのしかかる言葉を反芻したレジーナは、ブラドの左手に嵌まっている手袋とその奥に見える鋼の腕に気付いてハッとした。

「あの、ブラドさん…」
「何?」
「さっき刹那から聞いたんだけど、その腕、ゲイツにやられて…?」
「……そうだよ」
「ノアがゲイツの家族を殺したから、それで、ブラドさんを逆恨みして?」
「逆恨みって言う言葉は不適切かな。僕が属していたノアが彼の妻子を殺したんだから、彼が僕を仇と考えるのは当然」
「…………」
「僕がノアにいた時、ノアを去る時…奪った命の数を考えたら、腕一本なんて贖罪には軽すぎるよね」
「………っ」

 静かに微笑むブラドに、レジーナは唇を震わせた。
 穏やかな色をした深紅の眼をまともに見る事が出来ず、レジーナは俯いた。

「私、自分達の目的の為に誰かの命を奪うのが罪だなんて考えた事なかった。殺される方の気持ちなんて考えた事もなかった。それが全部自分達に跳ね返って来るなんて考えた事もなかった…!」
「よくそこに気付けたね。偉いよ、レジーナ」

 ブラドは小刻みに震えるレジーナの肩に手を乗せて優しく言った。

「その調子で、今まで気付かなかった事にもっともっと気付いて欲しいな。僕達もできるだけ協力するから、君が話してみたい人がいたら何とか会って話ができるように頑張るから」
「ブラドさ…」
「そうだ。言い忘れていたけどカルロ君への連絡はしてあるよ。だから何も心配いらない。君がノアに帰る時まで、僕達が君を守るから」
「う…」

 込み上げて来る涙を堪え切れずに泣き出したレジーナを、ブラドは思いやり溢れる優しい手付きで抱き締めた。
 …皆は複雑な想いを抱いて見つめていた。
 銀色の髪と鮮血色の眼を持った、誰よりも優しく、誰よりも残酷な偽善者の姿を。

 

 

 

 西暦2012年11月14日まであと24日。


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サイキ部屋
総合目次


 刹那vsレジーナ第二ラウンド後半戦。本当はもっと刹那には色々言ってもらいたかったのですが話の流れでうまく行かなかったので別の形で何とかしたいとこ ろ。そして自分ではかなり意外だったのですが、ここで栞の真意も明かす事が出来ました。10年前は玄信が登場した時にこの話をしていたんですけど…自然に 明かす事が出来てかなり満足です。
 さて、この辺りの話で『レジーナが自分の信念に疑問を感じる』ことに説得力を持たせる事が出来たでしょうか。更にレジーナに興味と言うか好意を持って頂 けたら、思惑通りで更に嬉しいです。そしてファーストのブラド君を『偽善者』と表現するのは適当(相応しい)なのかなぁと思ったのですが、他に彼を表現す る言葉が見つからなかったのでこれで行きました。