THE DARKNESS
FINAL EPISODE:西暦2032年??月??日  街の交差点


 旧ノアが崩壊して22年、新生ノアが崩壊して20年の時が流れた。
 無為に過ごすには長過ぎ、何かを変革するには短すぎる、しかし人が変わり成長するには十分な時間。

 

 

 目の前の信号が赤に変わり、マイトは思わず不満のため息を漏らしてゴーグルを額に押し上げた。
 焦れったくバイクのハンドルを握り直して腕時計を確認する。約束の時間に間に合うかどうかギリギリだ。
 見上げればピザ屋の制服を着たサイキッカーがピザを抱えて飛んで行くのが見えた。

(あーあ、僕も一直線に飛んで行きたいなぁ…)

 無理を承知でそんな事を思って、マイトはゴーグルを降ろした。
 サイキッカーが空を飛ぶ姿くらい、現在のこの国ではヘリが飛ぶくらい見慣れた光景になっていた。無論、サイキッカーも好き勝手に空を飛んで訳ではない。 然るべき手続きを踏んで許可を取り、決められたルートを決められたスピードで飛ばなければいけないのだ。許可もなく目的地に向かって一直線に飛んで行こう ものなら即座にサイキッカーポリスに掴まる羽目になる。
 だからサイキッカーのマイトもこうしてバイク通学をしているのだ。

 

 …新生ノアが崩壊して20年。
 マイトの父と父の親友が推し進めた『サイキッカーがサイキッカーである事を隠さずに人間と平和に共存出来る世界』は、この国ではほぼ実現していた。国家 レベルのサイキッカーに対する非人道的な人体実験が公になり、喧々囂々の議論や数々の紆余曲折を経て、少なくとも表向きはサイキッカー研究所は廃止され、 サイキッカーは市民権を得た。デリバリーの店に始まり、宅配便の会社、工事現場、消防、救急、病院、警察、芸能界などでサイキッカーの活躍の場は広がって いる。
 しかし…と言うべきか、サイキッカーの一番の『活躍の場』は国軍にあった。軍部のサイキッカー部隊は年々規模を拡大して、数年前には陸・海・空に続く第 4の軍隊として正式に独立した。そして、世界平和の維持という大義名分を掲げては他国に踏み込み、その絶大な軍事力…ひいてはこの国の力を誇示するのに一 役買っている。それは同時に、『この国の力の誇示に役立つ』サイキッカー部隊の幹部は国政に干渉出来るだけの発言力を持っているということでもあった。父 と父の親友はそうやってこの国を少しずつ変えて来たのだ。
 無論、そのやり方には国内外共に賛否両論ある。現在でもサイキッカーに対して差別意識を持つ者も少なくない。個人レベルでの対立や諍いも絶えない。サイ キッカーの力を軍事利用する事に対する議論は飽きもせずくり返されている。サイキッカーに対する迫害を止めない国や非人道的な研究を続ける国も勿論存在す る。
 それでも。
 確かに世界は少しずつ変わっていた。

 

「ドロボーっ!!」

 長い赤信号にげんなりしていたマイトは女性の金切り声にぎょっと顔を上げた。
 いかにも柄の悪そうな男が女性物のバッグを抱えて歩道を全力失踪し、その後ろを鬼の形相の女性が追い掛けているのが見えた。
 どうしよう、ちょっとマグネットアンカーで捕まえてやろうか。でもそんな事をしたらあのひったくりを警察に突き出して事情聴取も受けなきゃいけないかな。そうなったら絶対に約束の時間に間に合わない。でも事情が事情だから怒られずに済むかな?
 そんな事を考えている僅かな間に、そのひったくりは不自然に足を止めた。走っても動けず、何が起こったのか分からない顔でパニくっているひったくりを、額に傷のある大男が捕まえるのが見えた。
 どうやら通行人の中に重力使いのサイキッカーがいたらしい。大男はひったくりの手からバッグを引き剥がして女性に返した。
 無事に解決したらしいので、青になった信号を確認してマイトはバイクを発進させた。

「姉さんよ、お礼代わりに道を教えて欲しいんだが…」

 大男の声が遠ざかる。

 

 

 自宅を兼ねた研究所に戻った時には約束の時間の5分前だった。
 正門を入ると見覚えのある車が停まっていた。

(うわ、刹那さんもう来てるんだ!)

 慌ててバイクを置いて中に入り、いわゆる裏道を通って両親の研究所に向かった。秘密や機密の塊のような場所なので職員であっても身分証明書の照会なしでは通れないのだが、マイトは所長の息子なので顔パスである。
 研究所の最奥にある両親のラボに到着したマイトはノックもせずに扉を開けた。

「ただいまーっ」
「おかえり、マイト」
「どうしたの、そんなに息切れして」

 ちなみに今日はマイトの16回目の誕生日だ。
 研究所の中心に置かれたテーブルには花が飾られ、カップや皿や諸々が準備されている。
 マイトは部屋の中を見回し、客人がまだ来ていない事を確認してホッと息をついた。

「だってさぁ、刹那さんは時間に厳しいんだもん。ちょっとでも遅刻すると『いくらブラドの息子でも時間を守れない奴を特殊部隊に入れる訳には行かない』ってすぐ脅かすし」
「あはは、刹那は昔から時間にはうるさかったからね」
「その時間にうるさい刹那だけど、約束の時間に遅れるなんて珍しいわね。道が混んでるのかしら」
「僕が帰って来た時にはもう車が置いてあったけど」
「じゃあここに来る途中で掴まってるのかな」

 ブラドが首を傾げた時。
 ばったーん!!
 ノックも無しに勢いよく部屋の扉が開いた。

「こんにちわぁー!そんでもってマイト、覚悟ーっ!!」
「え…か、かんなぁ!?」

 黄色いカチューシャを付けた黒髪の少女が部屋に乱入するなりマイトに殴り掛かった。
 完全に不意をつかれ面喰らいながらも、マイトは少女の拳を払い除け受け流しながら間合いを取った。
 不意打ちに失敗した蒼い目の少女はいかにも残念そうな顔になった。

「む…さすが父様が認める特殊部隊候補生。なかなかやるわね」
「あのさぁ神那、いくら何でも入って来るなり殴り掛からなくてもいいんじゃ…」
「甘い!甘過ぎるわマイト!そんな腑抜けた根性で父様の親衛隊が勤まるとでも思ってるの!?」

 ずびしぃっと指を突き付ける少女と情けない顔で方を落とす息子には全く動じず、ブラドが不思議そうに首を傾げた。

「神那ちゃん、お父さんとお母さんと永久君は?一緒じゃないの?」
「父様は研究所の人達に掴まって挨拶攻めにあってるわ。母様は父様に付き合ってるけど、私と永久は待ってられなくて先に来ちゃった」
「永久君の姿が見えないけど…」
「あっれー?途中ではぐれちゃったかなぁ」
「………。じゃあ僕、永久君を探して来るよ、ついでに刹那さん達も連れて来る」
「頼むね、マイト」
「じゃあ私はここで待ってるねー」

 弟を放って来た癖に一緒に来ないのかよ。
 半ば呆れつつ、神那が一緒だといつ後ろから殴られるか分からないのでむしろ一人の方がいいかと思い直し、マイトは研究室を出た。

 

 

 研究所の入り口に通じる廊下を歩いていると、研究所のスタッフが数人集まっているのが見えた。
 その中心にいるのは金色のくせ毛の小さな男の子だ。
 スタッフに『お父さんかお母さんは一緒なの?』とか『お名前言える?』と優しく聞かれているが、返事が出来ずにもじもじしている。
 マイトは少し微笑んで彼らに近付いた。

「永久君!」
「あ」
「こんにちわ、迎えに来たよ」
「まいとー」

 知らない大人に囲まれて困りきっていた男の子がパッと顔を輝かせてちょこちょこと走り寄って来た。
 迷子を見つけて困っていた大人達もほっとした顔になった。

「マイト君の知り合いか。びっくりしたよ、こんな小さな子が関係者以外立ち入り禁止のエリアにいたから」
「御両親の知り合いの息子さんかしら?どこかで見た事あるような気がするんだけど」
「ああ。新軍の『闇将軍』の息子さんですよ」
「えっ…」
「ちょうど御家族で遊びに来てくれてるんで、迎えに行くところです。…永久君、お父さんとお母さんは?」
「あっちー」

 マイトはあっけに取られる職員達に一礼して、永久と手を繋いで彼の指差す方に向かった。

 

 あそこー、と永久が指差した。
 見れば、刹那と栞が研究所の偉い人に掴まって何やら話をしている。栞はにこやかだが刹那は辛うじて仏頂面ではない、という程度だ。約束の時間なのに途中で掴まって、しかし邪険にもできず困っている…と言うところだろう。
 マイトは深呼吸して大股に刹那達に近付いた。

「将軍閣下!」
「…ああ、マイトか」
「父が呼んでいるのでお迎えに上がりました、どうぞこちらに」
「そう言えばもう約束の時間を過ぎておりますね」
「そうだな。…申し訳ないが約束があるのでここで失礼する」 
「お約束があるとは存じず、お引きとめして失礼しました」

 あわてて謝罪する研究所の偉いさんに軽く頷いて、刹那は栞を促して踵を返した。
 …スタッフの姿が見えなくなると刹那は先ほどよりも砕けた調子でマイトに話し掛けて来た。

「せっかくの誕生日なのに遅れて悪かったな、マイト」
「全然構いませんよ、刹那さんが来てくれるだけで僕も嬉しいし、父も喜びますし」
「本当はもう少し頻繁に顔を出したいんだが、時間がなかなか取れなくてな…」
「忙しいんですね、将軍って」
「面倒なデスクワークはほとんど部下に丸投げしてるんだが、投げられない最低限の仕事はあるからな」

 心底ゲンナリしてると言いたげにため息をつく刹那を、マイトは憧れの眼で見上げた。
 何せ彼は父の親友と言うだけではない。20年前に新生ノアを滅ぼした3人のサイキッカーの一人であり、サイキッカーが大手を振って暮らせる世界を造った 功労者の片割れでもある。ウォンがサイキッカーハンターに殺されて志半ばで倒れた(と、世間的には発表されている)後、マイトの父であるブラドがウォンの 地位を引き継いだ。ブラドは表舞台に立ちサイキッカーに対する理解を求めて活動し、刹那は舞台裏で計画を邪魔する者を文字通り闇に葬り…何よりも強い絆で 結ばれた二人がそうやって、裏と表、光と闇を役割分担し世の中を少しずつ変えて行くのを、マイトは子供の頃からずっと見て来たのだ。

 ブラドと刹那の立場が大きく変わったのは5年前。
 陸、海、空に続く第4の軍隊、サイキッカーだけで構成される『新軍』が創設され、その最高司令官として抜擢されたのが、それまでほとんど表舞台に顔を出 す事のなかった刹那だった。新軍創設の話が出た時には最高司令官職の打診を受けていたのはブラドだった。しかし彼は、『世の中はいい方向に変わる流れが出 来たから、これからは自身の研究に専念したい』と言って辞退し、変わりに親友の刹那を推薦したのだ。
 レーダーも赤外線センサーも無効化する闇を操る刹那は、その時既に国軍屈指の秘密兵器としての立場を揺るぎないものにしていた。これ以上、影で暗躍され るよりもいっそ表舞台に引きずり出した方が扱いやすい…そんな上層部の思惑もあって、気が進まないながらも刹那は新軍最高司令官の座に就いたのである。
 そして表舞台に出る事になった刹那の変わりに『裏の仕事』を請け負う事になったのが、ブラドと刹那の力を借りて神妃・栞が再興した影高野だった。ブラド や刹那の周辺警備から邪魔者の排除、時には国軍が動けない問題解決の請負までこなしている。無論、影高野は刹那の要請がなくては動かないので、国軍におけ る刹那の影響力や発言力は無視できないものになっていった。

 

 幼い永久に歩調を合わせてゆっくりと歩きながら、マイトは尊敬の眼差しを刹那に向けた。

「刹那さんは、何かあった時は先頭に立って最前線の戦場に行くんでしょう?本当、憧れますよ」
「頭を使うより体を使う方が性に合ってるからな。それに、俺が出た方が手っ取り早い」
「闇に染めて、赤外線センサーもレーダーも無効化してあっという間に決着をつける『闇将軍』ですよね…かっこいいなぁ」
「いくらおだてても、特別部隊への入隊で贔屓はしないぞ?」
「分かってますよ!僕だってコネで入隊したなんて言われたくないですから、絶対に実力で試験に合格してみせます!」
「フ…頼もしい台詞だな。期待しているぞ、マイト」

 刹那が眼を細めると、左目の下の傷が見えた。
 20年前の創造主との戦いで負った傷らしいが、ほんの数日前に出来た物のようにしか見えなかった。
 …研究室の前には神那が腕を組んで仁王立ちしていた。

「おっそーい!待ちくたびれちゃったわよっ!」
「お前が一人で先に行くのが悪いんだろうが」
「だって、ブラドさんが待ってるのよ?家族揃って遅れる訳には行かないでしょー?」
「だからって永久を放って行くな」
「父様こそ、永久に合わせて歩いて来ないでだっこしてさっさと来ればいいじゃない。…ブラドさーん、お待たせーっ!」

 反抗期真っ盛り、恐い者無しの神那は父に言い返して扉を開けた。
 刹那の到着を今か今かと待っていたブラドは親友の姿にパッと顔を輝かせた。

「刹那、栞ちゃん!久しぶり!忙しいとこわざわざありがとう、よく来てくれたね。マイトもクリスも待ってたよ」
「悪いなブラド、予想以上に忙しくてな。今日も時間がないから、仕事場から直行で来たら途中で掴まりまくって…着替えてから来た方がよかったな」
「まぁ確かに、闇将軍様が軍服でおいでになったら『抜き打ちの視察か!?』と思うわよね」
「妻子連れで視察に来る馬鹿がいるか」
「あ…遅くなりましたがブラド殿、クリス殿。日本で今流行のお菓子をお持ちしました。よければどうぞ」
「忙しいところを無理に来てもらったのにお土産まで…ありがとう、栞ちゃん」
「ねぇブラド、いい加減その『栞ちゃん』はやめましょうよ」
「あー…ごめん。刹那が変わってないからかなぁ、どうしても昔の癖が抜けなくて」
「どうぞお気に為さらず。私も嬉しいですから」
「しかしお前もクリスも本当に変わらないな」
「そういう刹那も」

 刹那とブラドは棚に飾られた写真に目をやった。写真に記された日付けは西暦2012年11月13日、新生ノアとの最終決戦前日だ。
 あの新生ノア崩壊から20年。年令は40代の半ばになっているはずの彼らの姿は、どう見ても20代だった。より正確に言うなら、ウォンが死んだあの日か ら1日も年をとっていないのだ。まるで時の流れから切り離されたかのように、3人の姿は写真に記されたそれと全く変わっていない。
 ブラドは微かに笑って研究所の最奥にある扉を見遣った。
 そこにはウォンが眠っている。2012年で彼らが来るのを待っていると言ってこの世を去ったウォンが。

「やっぱり、ウォンの力なのかな」
「そうだな…。俺は人工サイキッカーの手術の影響とも考えられるが、お前とクリスはそうでもしないと説明がつかないからな。…で?タイムマシンの研究は進んでるのか?」
「大詰め、と言うところかしら。そろそろ試運転に入る予定よ」
「そうか…いよいよ、だな」

 刹那は闇色の眼を眇めた。
 20年前、別の世界から来た『サイキッカーハンターのマイト』が見せてくれた歪んだ未来は回避できた。しかし彼らが失ったものはあまりに大きく、犠牲も多過ぎた。
 2012年に交わしたウォンとの約束。タイムマシンを造って過去に戻り、より良い未来に希望を託す為にもう一度歴史をやり直す。
 その約束を果たす時が近付いて来ている。
 ふと刹那が顔を上げた。

「ところで…新しい未来が生まれたら、俺達はどうなるんだろうな…司令官の呪縛が消えて20年分一気に年を取るのか?」
「え…それはちょっと勘弁して欲しいわ」
「せめて10年分くらいにして欲しいなぁ」
「では今からウォン殿にお願いしておかねばなりませんね」
「2012年の司令官にもな」
「ねぇねぇ父様、タイムマシンが完成したら私も過去にいってみたい!」
「ダメだ。同じ事を何度も言わせるな」

 有無を言わさない口調できっぱりと拒絶されて神那は頬を膨らませた。
 …16年前。ブラドとクリスの間に赤い髪と青い目の男の子が生まれた時、彼らは強い運命を感じてマイトと名付けた。マイトが成長し雷の能力が発動した時、彼らは新しい未来をマイトに託そうと決めたのだ。
 20年前、彼らが出会ったマイトと同じように、彼もまた一人で旅立つのだと…それはブラドと刹那とマイトの約束だった。
 どうのこうの言って娘に甘い刹那も、絶対にそこは許さなかった。
 むくれて乱暴に椅子に腰を降ろした神那の前にブラドは紅茶のカップを置いた。

「ごめんね神那ちゃん。マイトが一人で過去に行く事は、絶対に変えちゃいけない歴史だと思うんだ」
「あーあ。小さい頃の母様とか、噂のガデスさんエミリオさんに会ってみたかったなぁ」
「神那。あなたはもう子供ではないのです、我が侭を言ってお父様やブラド殿を困らせてはいけませんよ」
「むー…」
「ねぇ神那ちゃん、最初の1回だけ我慢してくれないかな?そのかわり、マイトが無事に過去から帰って来たら好きなだけタイムマシン使っていいから」
「ほんと!?じゃあマイト、ちゃっちゃと過去に行って歴史を変えて来て!」
「いや、まだタイムマシン完成してないし。そもそも今日のメインイベントはタイムマシンじゃないし」

 今日の主役のはずなのに何だかちょっと蚊屋の外になっていたマイトが少し拗ねたように答えると、大人達がギクリとした。

「ああ、すまん。ブラドに会うのは久しぶりでつい…。メインのお前を忘れてた訳じゃないぞ?ちゃんとプレゼントも持って来たし」
「そう言えば、そのプレゼントの中身が何なのか私も知らないわね」
「神那に教えたらマイト殿が開ける前にばらすでしょう?」
「永久。そのプレゼント、マイトに渡してくれるか。『誕生日おめでとう』って言うんだぞ」
「はぁい」

 栞の膝に乗っていた永久が、傍らに置いてあった大きな箱を大儀そうに持ち上げた。
 よろよろしながらマイトの前まで行って箱を差し出した。

「たんじょうび、おめでとう。まいと」
「…ありがとう」
「ねぇねぇ、中身は何?早く開けてよ!」
「そんなに急かさないでよ」

 今すぐ開けないと神那が横から奪い取って開けてしまいそうだったので、マイトは急いで包みを開けた。箱を開けて中に入っている物を見て眼を丸くした。
 それは国軍の制服だ。肩と胸に施された刺繍は、総司令官刹那の眼鏡に叶った者しか入隊できないエリート集団である特殊部隊…通称『闇将軍親衛隊』のそれだ。
 感激のあまり言葉を失うマイトに刹那はニヤリと笑ってみせた。

「ブラドの息子だろうと贔屓はしない。しかし有能ならば特例枠を設ける事にやぶさかではない」
「え…」
「特殊部隊への正式入隊は原則18歳からだが、見事過去に行って歴史を帰る事が出来たなら、見習いとして特殊部隊に入れてやろう」
「本当ですか!?」
「えーっ!いいな、いいな、マイトってばいいなぁ〜!父様、私も特別枠で入れてよー!」
「考えておいてやるから、今はマイトの誕生日を祝うことに集中しろ」
「はぁーい。じゃあ本日のメインイベント、マイトの誕生日をお祝いしましょ!マイト、誕生日おめでとうっ!!」

 ずびしっ!!
 偉そうに胸を張ってマイトを指差す神那の姿に刹那は顔をしかめ、栞はクスリと笑い、永久は姉の真似をしてマイトを指差し、ブラドとクリスは柔らかく微笑んで、マイトは嬉しそうに頬を染めた。
 苺とチョコ製のプレートがのったホールケーキにマイトの年令と同じ数のロウソクが立てられた。
 炎の能力を持つ神那がロウソクに火を灯す。
 ブラドが音頭をとって皆が『ハッピーバースデー』を歌い始めた。

「ハッピーバースデーマイト〜♪ハッピーバースデートゥユ〜♪」

 16歳の少年、16本のロウソク。
 激動の2012年に運命に抗い戦った者の数と同じ、16という数字。
 歌の終わりに合わせてマイトがロウソクの火を吹き消すと、皆がパチパチと拍手した。

「あ…ありがとう」

 頬を染めてマイトが呟く。
 皆は心を込めて運命の少年の誕生日を祝った。

 

 新たな希望を繋ぐ未来が訪れる、その日が遠からず来ることを信じながら…。


     NEXT    


サイキ部屋
総合目次


 この後に蛇足なるものが控えていますが、刹那小説「THE DARKNESS」はここで終了です。少なくとも10年前に出した本ではここで終わりでした。10年前に出した本ではマイトが歴史を変える為に過去に旅立 つシーンでしめたのですが、今回は蛇足の都合もあって『いずれ近いうちに』という形で終わりにしました。ちなみにマイトの外見はゲームオリジナルのマイト と全く同じです。刹那と栞ちゃんの結末は、今まで散々におわせて来たので『ああやっぱりね』という感じだったのでは…と思ってます。ちなみに10年前に出 した小説では二人の子供は女の子一人で『パティ』という名前、外見も性格も能力も栞ちゃんそっくりと言う設定でした。今回、流石にそれはちょっとなーと 思ってがらっと変えました。神那=かんな、外見は黒髪とダークブルーの目、パティと同じリボンをつけた涼宮ハルヒだと思って下さい。年令は12〜13。S ランクのサイキッカーで能力は炎です。永久=とわは新しく登場させた刹那と栞の息子です。髪型と髪色は刹那と同じ、目の色は金色。サイキッカーかどうかは まだ不明、3〜4歳。