双子神2012・ 融合
EPISODE 32


 …日本某所。
 城戸財閥が所有する施設の会議室は、時計の秒針の音が聞こえるほどしんと静まり返っていた。テーブルについた皆は一様に口を噤み、しきりに部屋の時計や 携帯を見ては溜息をついたり表情を険しくしたりしている。
 犯人と直接接触したマニゴルドが言うには、誘拐犯の女は『明日の正午頃までには双子神を返す』と言っていたらしい。そして『その言葉は信憑性が高い』と 判断した沙織は犯人の要求通り神の結界を解除して、此度の誘拐事件に関わった皆は朝から会議室に集まって双子神の帰還を今か今かと待っているのだ。
 コチ…
 時計の針が動き、時刻は正午調度を指した。
 それを見た皆は顔を上げ、無言のまま隣に座った者と顔を見合わせ、ちらりとマニゴルドを見てまた口を噤んだ。
 犯人は『双子神を返すのは正午頃』と言っていたのだし、正午を数分過ぎたくらいではまだ騒ぐ段階ではないだろう…頭ではそう思いながらも不安や焦りは募 る一方だった。
 会議室に張り詰める緊張した空気が息苦しくてたまらなくなった星矢が、マニゴルドを見遣って至って軽く声を描けた。

「ところでさ、マニゴルド。その誘拐犯の技ってどんななんだ?サガのアナザーディメンジョンみたいな感じなのか?」
「いや、あんな仰々しく空間がバカーッ!と開いたりしねーよ。何も無いところに切れ目が出来て、閉じてた目が開くみたいに穴みてーな空間が開くんだ。その 『目』の両側に紅いリボンがついてるから余計不気味っつーかシュールなんだよな」
「…良く分かんないんだけど」
「ンなこと言われてもよ、アレを口で説明すんのは至難の業だぜ?実際に見せるのが手っ取り早いんだけどな…」

 マニゴルドが困惑顔で頭をガリガリ掻くと、何気なく視線を上げた星矢が部屋の中空を指差した。

「何もないところに切れ目が出来るって、あんな感じに?」
「ん?あーそうそう、あんな感じだな。リボンも付いてるし正にあんな風…。………。って、アレだぁぁぁぁぁ!!!」
「!!!」

 マニゴルドの大声に顔を上げた皆は、天井の高い会議室の何もない空間に切れ目が出来て異空間への『目』が開く様子を言葉を失ったまま食い入るように見つ めた。
 目を見開くように異空間への扉が開くと、白い帽子をかぶった金髪の女が空間の境界に肘をつくようにして姿を見せた。
 ガタン!!
 ハーデスとマニゴルドが椅子を蹴立てて立ち上がると、女…八雲紫は会議室を見回して薄く笑った。

「あらあら皆さんお揃いで。ふふ、御苦労様だこと」
「お前だけか?!神様達はどーしたんだよ、帰すって言ってたじゃねーか!」
「相変わらず騒々しい上にせっかちな男ね。少しくらい相手の話を聞いたらどうなのかしら」

 呆れた顔で溜息をついた八雲紫が視線を異世界の内側に向けると、黒い手がするりと動いて、そして。

「あっ、ハーデス様!…と、パンドラやラダマンティスに…マニゴルドまでいるのかっ?!」
「星矢と沙織は分かるが、星華姉ちゃんにサガとカノンまで??」

 黒い手に支えられて異空間から顔を覗かせた双子神が、空間の境界に手をついて会議室を見回した。
 八雲紫は扇で口元を隠しながら目を細めた。

「おふたりを心配して集まっていたようですわね」
「そうなのか」
「随分と心配をかけてしまったようだな…」
「タナトス、ヒュプノス!その女は信用できぬ!また連れ去られる前に早く、早くそこから出て来い!」

 ハーデスがテーブルに登らんばかりの勢いで双子神に手を伸ばすと、タナトスとヒュプノスはにこりと笑って手を振った。

「大丈夫です、ハーデス様。八雲紫は悪い妖怪ではありません!」
「タナトスの言う通りです。彼女は私達の友達なんです」
「友達?お前達を誘拐した犯人が、友達だと??」
「そうです!今日、八雲紫と仲直りして、友達になったのです!なっ!」
「ええ、その通りですわ」
「あ、そうだ!土産がたくさんあるので先に土産を渡します」
「土産?」

 予想外の展開に理解が追い付かない皆がきょとんとしていると、黒い手が箱や袋を異空間から掴みだして皆に渡し始めた。
 目の前に差し出されたら受け取らないわけにはいかず、一同は訳が分からないまま箱や袋を受け取り始めた。

「何だこれは…ミスドのドーナツか?」
「あらっ、可愛いぬいぐるみ!」
「ん?何だか見覚えのあるキャラクターだな…」
「この箱…中身はケーキかしら?」
「何だこの凄いボリュームの本!?」
「DVDディスク?しかも同じものばかりたくさん??」

 土産を渡し終えた黒い手は双子神の襟首を掴んで異空間から引きずり出し、差し出される箱や袋などには目もくれずにふたりだけを見ていたハーデスとマニゴ ルドめがけて放り投げた。

「タナトス、ヒュプノス!」
「タナトス様ぁ…無事で良かった、本当に…」

 ヒュプノスを受け止めたハーデスがようやく笑顔を見せ、タナトスを受け止めたマニゴルドがへなへなと脱力すると、黒い手はするすると異空間に戻って行っ た。
 …双子神は戻ってきたが、誘拐犯はどうするのか…彼女に誘拐された超本人は『彼女は友達だ』と言っていたが…。
 皆が複雑な顔で八雲紫を見上げると、彼女は皆の思考を読んだ様に薄く笑った。

「約束は果たしたし、あちらの世界の皆様を待たせているから私はこれで失礼しますわ」
「うむ!ありがとうな、八雲紫!また遊びに来てくれ!」
「あちらの世界の皆によろしく言っておいてくれ」
「ええ。では皆様、ごきげんよう」

 大妖怪がクスリと笑うと、幕が下りるように『目』は閉じて異空間への扉は中空にすっと消えた。
 皆が緊張を解いてホッとした次の瞬間。
 スパーン!!
 ハーデスに抱きかかえられたまま器用に鞄からハリセンを取り出してマニゴルドをひっぱたいたヒュプノスが怒鳴った。

「いつまで私のタナトスに触っているのだ!さっさとその汚い手を離せ塵芥!!」
「え、ちょ…『汚い』は余計じゃないですかね」
「タナトスを離せと言っているのが聞こえぬか!!」
「分かった分かった分かりました、離しますよ…ンなマジギレしなくても…」

 ベッコリとへこんだ顔でマニゴルドがタナトスを降ろすと、ハーデスも苦笑しながらヒュプノスを降ろした。
 床に降ろされた双子神は一度深呼吸してハーデスを見上げ、彼が優しく微笑んで両手を広げるのを見るなりその腕の中に飛び込んだ。

「ハーデス様!ハーデス様っ!!会いたかったです、すごくすごく会いたかったです!やっと会えた!!」
「ハーデス様…ハーデス様っ…私も会いたかったです…帰りたかったです…」
「うむ、余もだ。余も、そなたらに会いたかったぞ。ほんの三日間だったと言うのに、まるで半年以上も離れていたような気さえする」
「俺もです、ハーデス様」
「ハーデス様…」
「ふたりともよくぞ無事で帰ってくれた。そなたらが誘拐された時は生きた心地がしなかったが、無事に戻ってくれて本当に安心したぞ」

 ハーデスは、にこにこしているタナトスと半べそ顔のヒュプノスの頭を優しく撫でて会議室に集まった皆を見回した。

「皆、ふたりのことをとても心配してくれていた故、きちんと礼を言うが良い。その後は何があったのかを聞かせてくれ」
「「わかりました」」

 タナトスとヒュプノスが皆に礼を言って無事の帰還を喜びあった後は、ケーキとドーナツがあるのだからお茶でも飲みながら話をしようと言う事になった。
 ハーデスの隣に自分とタナトスの椅子を準備したヒュプノスは、タナトスの隣に座ろうとしたマニゴルドを睨みつけた。

「タナトスに近づくなと言ったであろう!」
「良いじゃないですか隣に座るくらい。大目に見て下さいよ」
「ダメだっ!」
「え、ええー…」

 またしてもベッコリへこんだ顔になったマニゴルドを見て、星矢が笑顔で仲裁に入った。

「ヒュプノス様、そんな意地悪するなよ。マニゴルドはふたりの無事を確認するために異世界まで行ったり、色々頑張ってくれたんだぜ?隣に座るくらいならい いだろ」
「え?異世界って…俺とヒュプノスが八雲紫に放り込まれていた、あの世界か?」
「あっちの世界に?お前が??」
「ああ、星矢の言う通りっすよ。おふたりの無事を確認するだけだから一時間ぐらいでしたけど。…そうだ、証拠をお聞かせしましょうか」
「「聞かせる??」」

 怪訝そうな顔をする双子神ににっこりと笑みを見せて、マニゴルドは拳を振ってリズムを取りながら歌い始めた。

「つったかたーつったかたーつったかたったったっ♪ぱっぱらら、ぱっぱららら、ぱっぱららっ☆」
「!」

 一度覚えたら忘れられない、耳に残る特徴的なメロディ。
 タナトスが目を輝かせて手を叩いてリズムをとり始めたので、ヒュプノスもつられた様に手拍子を始め、マニゴルドは景気良く歌い始めた。

「やーわらか戦車のこーころはひとつ、生き延びたい、生き延び たい♪むーねに刻むはたーいきゃくダマシイ、生ーまれてこのかたあとずさりっ♪…」

 …タナトスが楽しげに合いの手まで入れたのでマニゴルドはますますノリノリで柔らか戦車のテーマソングを熱唱し、双子神以外は訳が分からないまま何とな く手拍子をして、五番目当たりまで歌い終わったタイミングで星矢がおずおずと声をかけた。

「んでさ、マニゴルド。気持ちよく歌ってるところ悪いんだけど」
「やーわらかじーるーしー♪…ん?何だ?」
「何でその歌が『異世界に行った証拠』になるんだ?」
「あー、悪い悪い!肝心なことを言い忘れてたな。今歌ったのが…」

 マニゴルドはテーブルの下からハンズの袋を引っ張り出して、ラッピングされた超特大やわ戦ぬいぐるみを出して見せた。

「コレのテーマソングなんだよ。あっちの世界のハンズでエンドレスで流れてたんで、すっかり脳味噌にインプットされちまってさ」
「あっ、それは!」
「タナトス、ハンズでお前が目を付けていたのに戻って来た時には売れてしまっていた柔らか戦車のぬいぐるみって…ひょっとしてこれか?」
「そうだ、これだ!」
「何かタナトス様、これを欲しそうにしてたのに買ってもらえなかったみたいだったからさ」
「うむ。これにするかフモフモさんにするか悩んでフモフモさんを買ってもらったのだが、どうしても諦めきれなくてな。ヒュプノスと小遣いを出し合って買お うと思って売り場に戻ったらもう売れてしまっていたのだが…これを買って行ったのはお前だったのか!」

 マニゴルドが抱えているやわ戦ぬいぐるみを見つめながら目をぱちぱちしていたタナトスは、ふと何かを思い出した顔で呟いた。

「ひょっとして、あっちの世界のタナトスはお前が来ていた事を分かっていたのだろうか…ぬいぐるみが売れてしまって俺がガッカリしてる時に『縁があれば手 に入る』とか、妙に自信満々に言ってたし…」
「ひょっとしても何も…俺、あっちの世界のタナトス様に見つかった挙句に情報交換もしましたよ。聞いてないんですか?」
「ええっ?タナトスと情報交換もした??俺はそんな話全然聞いてないぞ!一体いつだ?俺はずっとタナトスと一緒にいたぞ!」
「…待ち合わせ場所の喫茶店に入る前ではないか?『アテナから電話が入っていたから話を聞いてくる』とか言って、タナトスひとりでどこかに行っていたでは ないか」
「ああ!そう言えば確かに、妙に長い時間戻って来なかったな。…そうか、あの時か…。………」

 得心がいったように頷いたタナトスは、ラッピングされたやわ戦ぬいぐるみ…特別な理由も無く貰うには少々高い代物だ…を見て、マニゴルドを見上げた。
 その視線の意味を察したマニゴルドは、にこりと笑ってぬいぐるみを差し出した。
 
「実は俺、おふたりが誘拐された現場に居合わせたんですよ。だけど、誘拐を阻止できなかったから…これ、お詫びの印って事で受け取ってくれませんかね?」
「…誘拐された事はビックリしたが、色々と楽しかったから詫びの品など要らぬぞ」
「じゃあ普通に異世界のお土産って事で」
「こんな高いもの、タダで貰う訳にはいかぬ。受け取れと言うなら貢物として受け取るが、見返りに希望する物が何かないか?」

 ぬいぐるみを受け取ったタナトスが真面目な顔で言うと、マニゴルドはしばらく考えて、じゃあ…と口を開いた。

「『ただいま』って言ってくれますか?名前付きで」
「…………」

 タナトスは一瞬とても不服そうな顔になったが、やわ戦ぬいぐるみの誘惑には勝てなかったらしく、いかにも仕方ないと言う表情でボソリと言った。

「ただいま、マニゴルド」
「…おかえりなさい、タナトス様」

 感激で目を潤ませながらマニゴルドはそっとタナトスの頭を撫でた。





 …パンドラとサガが飲み物を淹れたり、ケーキを切り分けドーナツを配ってお茶の準備をするのを眺めつつ、土産のストラップを配っている双子神の話を聞き つつ、ハーデスはにこにこしながら山のような土産を見遣った。

「ところでそなたら、自分の小遣いであんなにたくさん土産を買えたのか?あの大きなぬいぐるみなど、それなりに値が張るのではないかと思うが」
「あれは、『面白い事を言う』という一発芸をやって、あちらの世界のタナトスに買ってもらったのです!」
「このやわらか戦車一家のぬいぐるみは?」
「それも買ってもらいました」
「この本は?」
「ヒュプノスに借りました」
「あの豪華なケーキは?」
「あちらの世界のハーデス様のお妃がパティシエなので、土産用に作ってもらったのです」
「ドーナツをはめたようなヘンテコなぬいぐるみもあるが」
「ミスドでお茶をしている時に、タナトスのファンがくれたのです!」
「タナトス、ヒュプノス。そなたら…」

 ハーデスはにこにこしながらふたりを近くに呼び、笑顔のまま尋ねた。

「あちらの世界のタナトスとヒュプノスに我儘を言って困らせたりなど…しなかったであろうな?」
「え?…えへへへ…」
「えへ…。………」

 双子神が曖昧に笑ったままスーッと視線を逸らすと、ハーデスはにっこりと笑って、そして。
 ごち!!
 厳格な父の顔になってふたりの頭に拳骨を落とした。

「「あいたっ!!」」
「何が『えへへ』だ!つまりはそなたら、向こうの世界のタナトスとヒュプノスに我儘を言って散々甘やかして貰ったのだな!この山のようなおもちゃもケーキ もドーナツも子供の特権で買ってもらったのだろう!」
「「あうっ」」
「む?しかも何だこのネックレスは!これも安物ではあるまい!こんな物まで貰ったのか!」
「あ…タナトスは城戸ブランドのモデルをやってて、それで」
「同じ物が幾つもあるからひとつやふたつあげても問題ない、と…」
「その言葉に甘えて貰ったのだな?こんな純銀製のアクセサリーを!さてはそなたら、その調子でドーナツも際限なく食べたのであろう!」
「際限なくなんて食べてません!精々おやつに五個、食後のデザートに五個程度で…」
「それは『程度』とは言わぬわ馬鹿者!!」
「「あううっ!!」」
「まま、ハーデス様。イレギュラーの最中にちょっとばかし羽目外した程度の事、目ェ瞑っても良いじゃないですか、ねぇ?」
「そーそー。こうしてふたりは無事に帰って来たんだし、玩具や菓子を貰ったくらいの事は大目に見てやろうぜ!なっ!」

 拳骨を落とされた頭を押さえて涙目になっている双子神と、まだ厳しい顔をしているハーデスの間にマニゴルドと星矢が入って取りなした。
 冥王はじろりと二人を見て、懐かしい『父の叱責』にしゅんとしつつもどこか嬉しそうにしている双子神を見て、星矢とマニゴルドの言葉に笑顔で頷いている 女性達を見て、苦笑している男性達を見て、大きく息を吐いた。

「タナトス、ヒュプノス」
「「…はい」」
「今回は確かに特殊な事情があったし、あちらの世界のタナトスやヒュプノスの好意を無下にするのも失礼であろう。異世界から持ち帰った土産については目を 瞑るが、今後良からぬ事をした時はあれらは余が預かるぞ。良いな?」
「「はい」」
「よろしい。では飲み物の準備もできたようだし、茶会にしようか。あちらの世界でどんな楽しいことがあったのか聞かせてくれ」
「「はい!」」

 …DVDを鑑賞しながら身振り手振りを交えて異世界での出来事を楽しげに話していた双子神は、再会の約束をした時の話を始めてふと何かを思い出した顔に なった。
 話を終えたタナトスは鞄を開けて中をごそごそすると、揃いの腕時計が入った箱を取り出してハーデスに差し出した。

「これは?」
「あちらの世界のハーデス様に、再会の約束の証として貰ったのです」
「『余とタナトスとヒュプノスで揃いでつけようと思っていたのだが、余は療養中で付ける機会が無くて仕舞ったままになっていたのだ。戸棚の中に閉じ込めら れたままでいるより、そちらの世界の余とそなたらで付けて我々を思い出してくれた方がきっとこの時計も嬉しかろう』と仰せでした」
「…そうか。では有難く頂くとしよう」

 ハーデスは翠の目を細めて箱を受け取り、時計を取り出して自分の腕につけた。
 タナトスとヒュプノスもそれぞれ時計を取って手首に巻いたがそのままだと大きすぎて落ちてしまうので、服の袖の上から巻き直した。
 揃いの腕時計を満足げに眺め、双子神はハーデスを見上げた。

「…それで、あの、ハーデス様」
「あちらの世界のハーデス様に、『言葉にせねば伝わらないこともある故、 元の世界に帰った時はきちんと話をするといい』と言われていたことがあるのです」
「何だ、改まって?」
「…俺は」

 タナトスは俯いてギュッと手を握り、片割れと眼を合わせ、ヒュプノスと手を握って真剣な眼差しで冥王を見上げた。

「俺は、7年前の聖戦の時も、その前の聖戦の時も人間を侮り負けました。本来ならハーデス様が勝っていた筈の戦いを俺が台無しにしたのです。でもハーデス 様はそん な俺を見捨てないでいてくれる…だからこそ俺はハーデス様の力になりたい。その為に小宇宙を取り戻したいのです」
「私もです。私もタナトスと同じ想いでいます、ハーデス様」
「……………」

 ハーデスは目を見開き、泣きたいのを必死に堪えているような顔で目を伏せ、微かな声で言った。

「…馬鹿者」
「ハーデス、様…」
「タナトスもヒュプノスも…そなたらは余の『息子』なのに一丁前に親を心配して…余は、余はそなたらが傍にいるだけで充分嬉しいのに…」
「ハーデス様」
「…そなたらときたら、とんでもない馬鹿息子だ。全く、泣けてくるほどの、馬鹿息子だ…」

 震える声を押しだしたハーデスは、勝手に綻ぶ唇と勝手に雫を溢れさせる涙腺に難儀しながら『馬鹿息子』を優しくその腕の中に抱き寄せた。
 この馬鹿者が、馬鹿息子が。
 深い愛情に満ちた声で何度も呟きながら、ハーデスは、強く、強く双子神を抱きしめた…。

蝶様に描き下ろして頂いた素敵挿絵 はピクシブで閲覧できます!

NEXT


星矢部屋
総合目次
SS・2012 時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



 ついにというか 漸くというか、蝶様双子神が自分の世界に帰還しました。
 この話の色々な場面は、コラボが始まる前も始まってからも何度も妄想したり推敲したり想像したり相談したりしてつくりました。
 八雲紫の力(?)の黒い手が土産を渡して、最後に小さな双子神を放り投げる先はハーデスとマニさん。このふたりは目の前にお土産出されても絶対受け取ら ないと思ったので(双子神しか見えてない)。ちなみにお土産を受け取ったメンバーは↓の通りです。
「何だこれは…ミスドのドーナツか?」→カノン
「あらっ、可愛いぬいぐるみ!」→星華(受け取ったのはフモフモさん)
「ん?何だか見覚えのあるキャラクターだな…」→ラダ(受け取ったのはやわ戦のぬいぐるみ)
「このトボケた顔のぬいぐるみは何だ?ライオンか?」→サガ(受け取ったのはポンデライオン)
「この箱…中身はケーキかしら?」→沙織
「何だこの凄いボリュームの本!?」→星矢
「DVDディスク?しかも同じものばかりたくさん??」→パンドラ
 
 小さな双子神とハーデスの再会は最初はあっさりしていたのですが、蝶様に「二人はハーデス様に会いたいと言っていた割にあっさりでは?」とアドバイスを 頂いてこんな感じになりました。その後の「にっこり笑った後に真顔で拳骨ゴチするハーデス様」はかなり早くからネタがありました(笑)。
 そして25話でマニさんがやわ戦テーマソングを覚えていたのはこの話の為です。きっと後日、当サイト双子神の前でも蝶様マニさんはやわ戦テーマソングを 歌って受けを取るんだと思います(笑)。そして、「蝶様タナ様はタダでやわ戦ぬいぐるみを貰うのは嫌がると思うのですが(借りを作りたくないと言う意味 で)、マニさんはお返しに何を希望しますか?」と蝶様に伺ったところ、「名前を呼んで『ただいま』と言う」という意外に(?)控え目なお返事を頂いて最初 はびっくりしたのですが、「蝶様タナ様が名前を呼ぶのも『ただいま』と言うのも特別な人にだけ」と説明されて納得でした。
 で、当初の予定では「ただいま、マニゴルド」とタナ様に言われたマニさんが「おかえりなさーい!!☆」とタナ様を抱きしめてヒュプにハリセンで叩かれ る…という流れを考えていたのですが、「せっかく築き上げたタナトスの好感度を下げる様な事はしないです」と教えて頂いたのでああなりました。マニさんの 控え目な要求やアクションはこういう事情が会ったのです。で、ヒュプのハリセンツッコミはどこかに入れたかったので「蝶様タナ様を抱っこしっぱなしのマニ さんに突っ込む」という形で入れました。
 そして、「この馬鹿息子が」と言いながらハーデスが双子神を抱きしめて幕が下りる…というラストはコラボの企画が立ちあがる前からありました。今回、ラ ストシーンの挿絵は二種類蝶様から見せて頂いて、散々悩んで双子神の顔が見える方をお願いしたのですが、もう一枚もとても素敵なので公開の日を待ちましょ う!
 そして、本当はここでコラボSSは完結の予定でした。が、コラボのおかげで私の脳味噌がマニさんネタを吐き出してくれるようになったので、ある意味蛇足 ではありますが当サイト世界の「その後」のエピがこの後に来て、それで本当に完結となります。
 次は当サイト世界のエピローグ、当サイトのマニさん復活エピソードです。まさか私が蟹師弟の話を描く日が来るなんて思わなかったぜ。