双子神2012・ 融合
EPISODE 1


 戦女神アテナと 冥王ハーデスの聖戦が終結して七年後、日本。
 …のび太とドラえもんが住んでいそうな家の玄関が開いて小さな男の子がふたり出て来た。ひとりは利発そうな眼の銀髪の男の子、もうひとりはおっとりした 顔立ちの金髪の男の子。ふ たりが着ているのは黒と黄色を基調にした揃いの服で、ここが大阪ならタイガースファンのおいちゃんが無条件でお菓子をくれそうなデザインだ。
 肩から斜めがけにした白い鞄を背中に回して、銀髪の男の子はドアの中に元気な声をかけた。

「それじゃ星華姉ちゃん、行ってきまーす!!」
「いってらっしゃい、気をつけてね。夕飯までには帰るのよー?」
「はぁい」

 笑顔で答えた銀髪の男の子は、金髪の男の子の手を握って走り出した。




 楽しそうに話しながら…と言っても話しているのは銀髪の男の子で、金髪の男の子は専ら頷いて相槌を打つだけなのだが…歩いている男の子達の後ろを、不審 な男が尾けていた。目深にかぶった野球帽、濃い色のサングラス、顔の半分を覆ったマスク。警察官に見つかれば職務質問抜きで署に連行されような、絵に描い たような典型的な不審者だ。しかし、幸か不幸か平日の中途半端な時間の住宅街には警官どころか通行人の姿もなく、誰かに見咎められることもなく『不審者』 は男の子達の後をコソコソとついて行く。
 男の子達が道の角を曲がったのを見て、『不審者』は少し遅れてふたりが曲がった角を曲がりかけ、男の子が立ち止まっているのに気付いて慌てて足を止め、 塀からそっと顔を出して様子を伺った。
 白い日傘をさした風変りな雰囲気の女がふたりに何か話しかけている。が、離れているせいで何を話しているのかは聞き取れない。
 女がどこか異様な空気を纏っていることが気になって、出て行って声をかけるべきかもう少し様子を見るべきか『不審者』が悩んでいると、彼の目の前をト ラックが通り過ぎて数秒視界が遮られた。
 …………。
 サングラスの奥で翠の目が見開かれた。
 いない。
 ついさっきまで、ほんの数秒前まではそこにいたはずの男の子達がいない。白い日傘の女も消えている。

(馬鹿な!)

 彼は男の子達と奇妙な女が話をしていた場所まで走り寄り、周りを見回し、道や塀に穴でも開いていないか調べ、身を隠せる場所などないことを確認して呆然 とした…その時。

「てンめェ、この野郎!!」
「!?」

 不意に怒鳴られて『不審者』は声のした方を見た。
 蒼い髪をワイルドに逆立てた精悍な顔立ちの男が怒りのオーラも露わに大股に近づいてくるなり、やおら彼の胸倉を掴み上げた。

「妙な技使ってあいつら連れ去ってくれやがって…。だがな、蟹座のマニゴルド様がこの場に居合わせたことがてめェの運の尽きだ。さぁ大人しく白状しや がれ、ここにいたガキふたりどこに隠した!?素直に返せば半殺しで赦してやる、だが!バックレたりしやがったらタダじゃおかねェぞ!!」
「蟹座のマニゴルド…?」

 蒼髪の男の言葉を反芻した『不審者』が途端に眉を吊り上げ、胸倉を掴んだ手を引き剥がした。
 掴んだ手を難なく引き剥がされたことに驚くマニゴルドに、『不審者』は逆に詰め寄った。

「そうか…小宇宙を失くしたとは言え神であるタナトスとヒュプノスが余の目の前で忽然と消えるなど有り得ぬと思ったが、犯人が貴様なら合点がゆくぞ。タナ トスにやたらとしつこく付き纏っているのは知っていたが、いくら相手にされぬからと言ってこんな強硬手段に出るとは!今後一切タナトスに危害を加えるよう なまねはせぬと貴様が確約したから蘇らせてやったのに、余に対する恩義も忘れて…。此度の事は貴様の独断か?万一アテ ナ も承知だと言うならばこちらにも考えがあるぞ!」
「ちょ…付き纏ってるなんて人聞き悪ィな!俺はただ、タナトス様と仲直りしてできれば仲良くなりたいって思ってるだけ…って、あん?」

 顔を赤くして釈明しかけたマニゴルドはふと眉を潜めて『不審者』の顔を覗きこんだ。

「何でお前がンなこと知ってるんだ?何か俺やアテナ様のことも知ってるみたいだしよ。…ん?つか『蘇らせてやった』とか言ってたけど、ひょっとして、アン タ、まさ か…」
「ハーデス様!」

 マニゴルドの疑問は若い女の声で遮られた。
 …長い黒髪の生真面目そうな女が大股に近づいてくる。漫画ならばフキダシで『有能な秘書:ナントカ』と注釈がつきそうな雰囲気の女だ。
 ふたりに近づいて来た女は、マニゴルドなど見えていないような様子で『不審者』に詰め寄った。

「不意にお姿が見えなくなったと思えば、またそのような怪しげなお姿で地上にお出かけでしたか!タナトス様ヒュプノス様の御身が心配なのは分かりますが、 このパンドラにお声もかけずにお出かけになられては冥界の業務に支障をきたします!さぁ、冥界にお戻りを!」
「へ?ハーデス様?パンドラ?」
「ちょ、ちょっと待てパンドラ!今はそれどころではないのだ!」

 女に腕を掴まれた『不審者』は帽子とマスクとサングラスを外して怒鳴った。
 深い湖のような翠の眼、上品に整った端正な顔、そして超絶寝癖ヘアー(命名・星矢)。一度見れば忘れられないその姿は冥王ハーデスその人…いや、その 神…だった。
 唖然とするマニゴルドの前で、冥王はパンドラの手を振り払い言い募った。

「確かに何も言わず冥界を留守にしたのは悪かったと思う。しかしそなたを探して声をかける時間も惜しいほど嫌な胸騒ぎがしたのだ。そして事実、タナトスと ヒュプノスはこの男に誘拐されたのだ!余の目の前で!ええい、一体どこのどいつだ、可愛い子には旅をさせよなどと無責任な事を言ったのは!旅をさせたらこ のざまではないか!」

 マニゴルドは眼前に突き付けられていた冥王の指をへし折る勢いで叩き落とした。

「ちょい待て。あのおふたりさんを攫ったのは俺じゃねーって言ってるだろうが!お前だって見てただろうがよ、あの妙な女が神様達を連れ去る現場を!それが 何で俺が犯人って事になるんだよ!」
「貴様…アテナの聖闘士の癖にこの期に及んでまだ白を切るか!」
「うっせークソ神!俺が犯人だって言うなら証拠を出せよ証拠をよ!」
「ちょ…ちょっと二人とも落ち着いて!こんな住宅街でそんな物騒な会話を大声でしていたら警察を呼ばれて面倒な事になります!」
「………」
「………」

 パンドラの言葉にハーデスとマニゴルドが渋々ながら黙ったのを見て、パンドラははーっと息を吐いてふたりをゆっくりと見た。

「おふたりの話を総合しますと、タナトス様とヒュプノス様は何者かに誘拐された。そしておふたりは、相手が犯人であり自分は無実だと主張している。ここま では間違いないですか?」
「おうよ」
「うむ」
「ではおふたりとも、ご自身が見た『事実だけ』を『事務的』に教えて下さい。まずはハーデス様からお話し頂けますか」
「良かろう。…胸騒ぎに襲われた余は地上を訪れた。タナトスとヒュプノスは居候先の天馬星座の家を出たところであった。ふたりは何か話をしながらあち らの道から歩いて来て、そこの角をこちらに曲がった。余は気付かれないようそこの塀から様子を伺うと、ふたりは白い日傘をさした金髪の女に何やら話しかけ られていた」
「会話の内容は聞こえましたか?」
「いや、離れていて聞こえなかった。どうにも気になって、近づいて声をかけるか迷っていたら余の目の前をトラックが通って、トラックが通り過ぎた時にはも う誰もいなかった。タナトスも、ヒュプノスも、白い日傘の女も。驚いて余がこのあたりを調べていたらその男が『あのふたりをどこにやった』と食ってかかっ て来たのだ」

 パンドラはひとつ頷いてマニゴルドを見た。
 彼が異を唱えないのを見て、彼女はマニゴルドに話をするよう促した。

「俺はアテナ様の命令であの神様達の護衛をしてた。あのふたり、パッと見イイトコのおぼっちゃまだし文句なしに可愛いだろ?良からぬことを企んでる奴に 目ェつけられたら大変だからな、聖域の聖闘士が交代で護衛についてんだよ。で、今日はたまたま俺の番だった訳。断じてスト―キングしてたわけじゃねーから な?」
「分かりました。それで、あなたも白い日傘をさした女を見たのですか?」
「ああ、見たぜ。俺からは後ろ姿しか見えなかったが、何つーの?こう…ちょっと妙な雰囲気の女だったな。で、その女は何か話してるみたいだったが、神様達 は『何を言ってるんだこいつ?』みたいな顔できょとんとしてた。そしたらよ…あの女、何かを開けるような仕草で、こう…スーッと手を動かしたんだ」

 マニゴルドは右手を右から左に大きく動かして見せた。

「したらよ、女が手を動かした場所に空間の切れ目が出 来て…その切れ目の中から無数の眼が覗いてんだぜ、気色悪いことによ。流石の神様達もビビったんだろ うな、女に背中向けて逃げ出そうとしたんだ。そしたら、その空間から黒い手が何本も出て来て…神様達の襟首引っ掴んで空間の中に引きずり込んだんだ。その 直後に日傘の女も空間の切れ目にするっと入って、同時に空間も閉じちまった。俺もパ二くってたんだろうな、あの変な空間の切れ目は別の場所に繋がってん じゃないかなんてアホなこと考えて無駄に周りを探しまわっちまったぜ。で、周りを探してこの場所に帰ってきたらこの『不審者』がいたって訳だ」
「………」

 火花が散りそうな勢いで互いを睨みつけ合う冥王と蟹座の間に割って入って、パンドラはふたりの話を聞いても釈然としなかった事を尋ねた。

「ちょっと待って下さい。おふたりの話を総合すると、タナトス様ヒュプノス様を連れ去ったのはその白い日傘をさした金髪の女でしょう。何故、『犯人はお前 だろう!』などと喧嘩になったのです?」
「余の目の前で、神であるタナトスとヒュプノスを、小宇宙の残滓すら残さず連れ去ったのだぞ。そんな芸当が出来るのはアテナの聖闘士しかいないだろう」
「つまりハーデス様は、白い日傘の女とこの蟹座は共犯者だとお考えに?」
「バカ言ってんじゃねーよ、寝ぼけ神!俺が冥界波を使ったんならここに三人分の肉体が転がってるはずだろーが。何でそれがねーんだよ!」
「ふたりを肉体ごと連れ去ったのがあの女の技なのだろう」
「アホか。日傘さして長手袋はめて紫外線からオハダを守るような聖闘士がどこにいるんだっつーの!だいたいな、聖域と冥界の和解に悪影響を及ぼすと分かっ てて双子神様を誘拐するほど俺は馬鹿じゃねーよ!」

 マニゴルドの吐き捨てた言葉にハーデスが言葉に詰まった。
 パンドラは冷静にマニゴルドに目を向けた。

「ではあなたは何故、ハーデス様が犯人だと思ったのです?」
「いや、そりゃ…だって、あからさまに見た目が怪しかったしよ…。ま、冥王様自身が誘拐したってことはねェだろうけどよ、聖域と冥界の和解を面白く思って ない冥闘士とか冥界の神の誰かが独断で動いたって事はねーのか?」
「あのような姿形の冥闘士や神はおらぬし、貴様が言うような奇妙な技を使える者もおらぬ。…ただ…」
「ただ?」
「確かにあの女は只者ではない雰囲気を纏っていた。人ではないが、決して神でもない…強いて言うなら奈落タルタロスに棲む魔物に近しい異様な空気…」
「………」
「えっ…と…。状況をまとめると……」

 ふたりの話を聞いて真剣に考え込んでいたパンドラは、緊張に顔を強張らせて口を開いた。

「聖域とも冥界とも関係の無い何者かが、神と黄金聖闘士の見ている前で、タナトス様とヒュプノス様を、小宇宙の欠片すら残さずに、いずこかへ連れ去った と…そういうことですか?」
「………。そういう、ことに、なる…な…」
「おいおい、さらっと纏められちまったけどこれってとんでもねェ非常事態じゃねーの?」
「そうだな。早急にアテナと話し合いをせねばなるまい」

 ハーデスは翠の目に真剣な色を湛えてマニゴルドとパンドラを見た。

「タナトスとヒュプノスが消えた時、現場に余とアテナの聖闘士が居合わせたことは不幸中の幸いと言えよう。この場で『誘拐犯』は聖域とも冥界とも無関係と 判明した故な、要らぬ腹の探り合いや水かけ論に時間をかけることなくふたりの捜索に関する相談が出来る」
「何か癪に障るけどその点は同感だぜ、クソッ」
「では天馬星座とその姉にも同席してもらいましょう。ひょっとしたら、その『誘拐犯』に繋がる手掛かりを知っているかもしれません」
「よし!そうと決まったら今すぐアテナに謁見願わねーとな!ちょいと連絡入れるから待ってろよ!」

 マニゴルドの言葉に浅く顎を引き、ハーデスはタナトスとヒュプノスが姿を消したその場所を見遣って眼差しをきつくした。

(タナトス、ヒュプノス…どうか、無事でいてくれ…)

蝶様に描き下ろして頂いた素敵挿絵 はピクシブで閲覧できます!


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星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



 アナログテレビ 19型の蝶様とツイッターで会話しているうちに、話が盛り上がって出来たコラボSSです。萌え話が盛り上がった勢いで「SSにしても良い ですか?」とお伺いしたところ、快く了承を頂けて妄想を形に出来ることになりました。ひゃっほう!そしてなんとなんと、描き下ろしの挿絵まで描いて頂けた のです!!嬉しくてニヤニヤと妄想が止まりません、蝶様ありがとうございます!!(ジャンピング土下座)
 そして始まりましたコラボSS、第 一話目は蝶様の星矢世界からスタートです。双子神が小宇宙をなくして子供になってる理由、そして星矢の家に居候してる 理由は二話目以降で明かすので、それ以外の設定などをざっくり紹介。というか蝶様のサイトに行って、宇宙的に可愛い双子神にKOされつつ作品を拝見するの が一番いいと思いますので、重要部分だけ簡潔に。
・無印聖戦終結後七年経っている。ち なみに星矢は二十歳になっている。
・聖域と冥界の間で和解が成立してい る。
・マニさんが二十世紀の世界で生きて いる理由→LC聖戦が本格化する以前にタナトス様に(BL的な意味で)手を出しかけたが、なんやかんやで未遂に終わっ たことがある。これに激怒したタナトスは自らマニさんに手を下すと心に決め、一応成功するにはしたが、聖櫃に封印されてしまった。その後、無印聖戦やなん やかんやでタナトスの心境が変化したことで、ハーデスは条件付きでマニさんを復活させた。以来、マニさんはタナトスと仲直りしてあわよくば仲良くなるべく 絶賛努力中。

そして私が文章を書いた部分の解説。
蝶様双子神を攫った「白い日傘の女」 は誰?→「幻想」SSで登場した「ありとあらゆる境界に干渉する力を持つ幻想郷の大妖怪」八雲紫(by東方 Project)。時間軸の移動だけならともかく、異世界(並行世界、あるいはパラレルワールド)同士を繋ぐ芸当が出来そうなのは彼女しか思いつかなかっ たので。彼女がこんな行動に出た理由は二話目以降に明かします。
マニさんが双子神の護衛をしていたの は偶然?→偶然は偶然。ただ、マニさんは「双子神護衛」の仕事に率先して立候補しており、「出勤日」の全ての勤務を双 子神の護衛に充てていると思われる。更に週二日の休日も自主的に護衛の仕事をしているので、今回の「誘拐現場」に居合わせたのは必然に近い偶然。
あと細かいことですが…
『不審者』の胸倉を掴んだ手を振り払 われて驚くマニさん→黄金聖闘士が本気の全力で掴んでいるのに、その手を難なく振り払われて『何者だコイツ?只者じゃ ねぇな』と思った。
「あのような姿形の冥闘士や神はおら ぬし…」ってハーデスは言うけど、神は外見を変えられるはずでは?→その前提を踏まえたうえで、「外見を変えられる事 を考えても、あんな妙な技を使える者はいない」という意味。