| …双子神(子)を連れて冥界に帰還した双子神(大)は第一獄に降り立った。 神々が近付くと荘厳な扉は音もなく開き、黒いレースで顔を覆った侍女が通路の両側にずらりと並んで出迎えた。侍女が傅く中を長髪の男が足早に歩いて来て神の前に恭しく頭を垂れた。 「お帰りなさいませ、タナトス様、ヒュプノス様。………?」 長髪の男…バルロンのルネは、ふたりが連れている双子神そっくりの子供を見て怪訝そうな顔になった。が、いち冥闘士の立場であれこれ詮索する気はないらしく、衣擦れの音もさせぬほど堅苦しい所作で立ち上がり第一獄の控室に彼らを案内した。 控室に入りがてら、タナトス(大)はルネに声をかけた。 「我々が連れ帰ったこの子供に関して冥闘士達に通達がある。嘆きの壁で待つよう三巨頭に伝えよ」 「ハ」 ルネは恭しく一礼して静かに部屋の扉を閉めた。 部屋に置かれた卓には漆黒のローブが二着、きちんと畳んで置いてある。 地上で着ていた服からローブに着替えを始めたタナトス(大)とヒュプノス(大)は、怪訝そうな双子神(子)の視線を感じたのか、ああ…と口を開いた。 「小宇宙を抑えたままで地上に行った時と同じ格好で冥界を歩かれると我々か死者か分からずに困る、と三巨頭から訴えがあったのでな。第一獄で着替えて小宇宙を開放してから冥府に向かう事にしたのだ」 「ああ、なるほど」 「お前達の小宇宙が妙に弱いなと思っていたが封印していたのか」 「神の力を抑えずに地上に出向くと、我々を快く思っていない一部の聖域関係者がやかましいのでな」 事情を説明しながら着替えを終えた双子神(大)は鏡像のように向かい合い、互いの額に軽く指を触れた。 …直後、封じていた神の小宇宙が解放されて部屋の空気をビリビリと震わせ、ふたりの額に五芒星と六芒星の徴が浮かび上がった。 「さあ行くぞチビ共。ハーデス様とヘカーテ様がお待ちだ」 神の小宇宙、自分達もかつて持っていたが今は失ってしまったそれ…を感じて複雑な顔をする双子神(子)に声をかけて双子神(大)は控室を出た。 傅くルネと侍女達に軽く目をやって労いの意を伝えながら第一獄を出て、タナトス(大)とヒュプノス(大)は小さな自分達をそれぞれ抱きかかえて嘆きの壁に向かって飛び立った。 異世界のタナトス(子)とヒュプノス(子)を見た三巨頭の反応は三者三様だった。ラダマンティスは『神の為すことに俺が首を突っ込むべきではない』と考 えて口を噤み、ミーノスは『私が何も尋ねずともお話があるはず。あるいはアイアコスが尋ねるはず』と思って口を噤み、アイアコスは『この神様達、つい数か 月前まで寝てたはずなのにいつ子供を作ったんだ?』と思っていた。 …三巨頭の姿を見たタナトス(子)は何だか嬉しそうに微笑んで、ヒュプノス(子)はミーノスの姿を見るなりビクッとしてヒュプノス(大)の後ろに隠れた。 その反応にますます怪訝そうな顔をする三巨頭にちょこちょこと駆け寄ったタナトス(子)は、目をキラキラさせながら彼らを順番に見つめた。 「おおっ、この世界のラダマンティスも一本眉なのだな!ミーノスも腹黒そうだしアイアコスは楽天的っぽいし、こいつらは俺のいた世界の三巨頭と同じだから何だか安心したぞ!」 「『この世界の』??」 「いきなりあんまりな言われようですね…あちらの坊やは私を見るなり隠れてしまいましたし…」 「あのぅ…このお子様はどなたです?他人とは思えないほどタナトス様とヒュプノス様にソックリですけど」 「他人でないのだから当たり前だ」 「は?」 「じゃあやっぱりタナトス様かヒュプノス様のお子様…」 「結論を先に言うと、こいつらは異世界…俗に言うパラレルワールドだな…の俺とヒュプノスだ」 「はぁっ??」×3 素っ頓狂な声を出して目を丸くする三巨頭に双子神(大)はざっくりと事情を説明した。 …説明を聞いた反応もまた三者三様だった。 ラダマンティスは必死に非現実な現実を咀嚼し理解しようとし、ミーノスは真面目に考える事をさっさと放棄して目の前の事実を受け入れ、アイアコスは何も悩まずあっさりと納得した。 「へーぇ!パラレルワールドって本当に存在したんですね!うわ、何かワクワクしますね。なんて言うんでしたっけ、この、夢が広がるなぁ〜みたいな感覚をズバッと一言で表現する言葉…」 「『うは、夢が広がりんぐ』か?」 「そう、それ、それです!夢が広がりんぐ!」 タナトス(大)が口にした、神にはとても似つかわしくない俗っぽい言葉をアイアコスが反芻して嬉しそうに手をぽんと叩いた。 …実はコイツ、俺達が思ってる以上に大物なんじゃ…。 ラダマンティスとミーノスが複雑極まりない視線をアイアコスに向けていると、タナトス(子)が好奇心いっぱいの顔でラダマンティスに声をかけた。 「ラダマンティス」 「ハ」 「カノンとは仲良くやっているのか?」 「カノン?」 ラダマンティスは尋ねられた名前をオウム返しに呟き、『誰だっけ?』と思った直後に最後の聖戦で自分を道連れに死んだ双子座の片割れだと思い出し、何故 この小さなタナトス様は双子座の片割れと仲が良いのかなどと尋ねたのかと考え、ああそうか、かつて直接対決した聖域の聖闘士と我々の間に禍根は残っていな いか気になったのだろうなと解釈した。 所用があって聖域を訪ねた時にカノンとも顔を合わせる事はあるが、特に諍いを起こす事は無く、状況によっては世間話程度なら無難にしている。それを『仲良くしている』と表現するのは適切かどうか悩むところではあるが…。 …そんな事を数秒で考えたラダマンティスは浅く顎を引いて最適と思われる言葉を返した。 「そうですね…可もなく不可もなくと言うところでしょうか」 「そうか!」 ラダマンティスの返答を『照れ屋のラダマンティスがこう言ったのなら、カノンとは仲良くやっていると言う事だ』と好意的に解釈(勘違いとも言うが)したタナトス(子)は満足げに頷いて、今度は目をキラキラさせてアイアコスに声をかけた。 「アイアコス」 「何ですか?」 「高い高いしてくれ!」 「へっ?」 抱き上げろと言わんばかりに両手を差し出す死神(子)の言葉にアイアコスがきょとんとすると、ヒュプノス(大)の後ろに半分ほど隠れていたヒュプノス(子)が兄の言葉を通訳した。 「タナトスはガルーダフラップを要求しているのだ」 「うむ!アイアコスのガルーダフラップはスリル満点で究極の高い高いだからな!久しぶりにやってもらいたくなったのだ!」 「冥界三巨頭の必殺技を『高い高い』と表現しますか…」 「子供のお姿とは言えさすがタナトス様は神だな。我々人間とは発想が違う」 「タナトス様のご要望ならお応えしないわけにはいきませんね。…ちょっと待って下さいよ、最近デスクワークが多くて身体がなまってるもんで」 アイアコスは腕をグルグル回したりアキレス腱を伸ばしたりして軽く準備運動をすると、良し!と気合を入れてタナトス(子)を抱き上げた。 満面の笑みでワクワクしている男の子に二カッと笑みを見せて、彼は渾身の力で彼を上空に投げ飛ばした。 「ガルーダフラップ!!」 聖戦が終わり二十年経ち身体が鈍ったとはいえ冥界三巨頭の名は伊達ではない。 投げ飛ばされたタナトス(子)が中途半端な高さから落ちてくることは無く、あっという間に姿が見えなくなった。 …タナトス様に本気で技をかけられるコイツってやっぱり大物なんじゃ…と考える同僚の前で、彼は足で地面にバツ印を描くとドヤ顔で腕を組んだ。 「フフ…奴は三秒後にここに落ちてくる…」 「受け止めろよ」×5 「はっ?」 双子神(大)とヒュプノス(子)とラダマンティスとミーノスの五人から同時に同じセリフを言われてアイアコスは目を丸くした。 その反応にタナトスが冷ややかに言った。 「先ほど言ったであろう、『このチビ共は小宇宙を失って神の力を無くしている』と。あの高さから落下したら無事では済まんぞ」 「え」 「分かっていると思うが、タナトスに何かあったらお前もただでは済まぬからな」 「え」 「アイアコスよ、子供のタナトス様が落下してくるが…」 「何だか、落下地点はそのバツ印ではないようですよ」 「え」 「久々だからコントロールがうまくいかなかったか」 「え」 妙に冷静な神々と同僚の言葉に滝のように汗をかいたアイアコスは上空を見上げ、自分が描いたバツ印とはかけ離れた場所に歓声を上げて落下してくるタナトス(子)の姿を見て、正にガルーダのように目を渦巻にした。 「う…うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!待った待った待ったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 絶叫とともにアイアコスは『冥闘士随一』と評されたスピードを遺憾なく発揮して全力疾走した。 …一輝と相対した時にあのスピードを出していれば負けなかったかもな。 ラダマンティスとミーノスがそんな感慨を覚えるほどの猛ダッシュでタナトス(子)の落下地点に走ったアイアコスは、走った勢いでスライディングして小さな死神が地面に激突する寸前でその身体を受け止めた。 はー………。 間に合った事に心底安堵して息を吐くと、タナトス(子)は大はしゃぎでアイアコスの腕からぴょんと飛び出した。 「おおっ、バツ印のところに落ちるのかと思ったらあの印はフェイントだったのか!しかも地面にぶつかる寸前に滑り込みで受け止めるとは!ものすごくスリル満点のガルーダフラップだな、感激したぞ!!」 「は…はは…ガルーダフラップは受け止める事を想定してませんからね…」 「しかも俺のいた世界のアイアコスより技のキレが鋭いな。この世界のお前達は歳をとっていないらしいからそのせいであろうか。予想以上にに楽しかったぞアイアコス!」 「お…お褒めにあずかりまして光栄です…」 何だか急にどっと疲れたアイアコスが足を引きずるようにして皆の待っているバツ印のある場所まで戻ると、タナトス(子)が予想もしなかった言葉を口にした。 「良し、ではもう一回だアイアコス!」 「えええええええっ!!??」 「あんな面白い事を一回だけなんてとんでもない!さ、早く二回目のガルーダフラップを…」 「…タナトス」 タナトス(子)は片割れの低い声にギクリとしたように振り返り、怖い顔で弟が睨んでいるのを見て、アイアコスに差し出していた両手を渋々ながら引っ込めた。 後ろ髪を引かれながら残念そうにアイアコスから離れた男の子の頭にぽんと手をのせてタナトス(大)は優しく笑った。 「そうがっかりするな。明日もあるのだ、楽しみは取っておくが良い」 「…そうだな」 「さぁハーデス様…と、ヘカーテ様がお待ちだぞ」 三巨頭に『この子供達の事を冥闘士に通達しておくように』と命じて、タナトス(大)とヒュプノス(大)は異世界の自分達を連れて嘆きの壁の向こうに消えた。 …途端、傅いていたアイアコスはへなへなと地面に両手をついてがっくりとうなだれた。絵にかいたような『orz』なポーズである。 「大丈夫か、アイアコス?」 「俺、神々の褒美で不老不死貰っといてよかったぁ…」 「小さなタナトス様を受け止めるのが間に合わなかったら不老不死もチャラにされたでしょうがね」 「むしろ不老不死も無視して粛清されていた気がするが」 「不老不死貰ってなかったら、今のストレスで五十年は外見的に老けてたぜ、俺。少なくとも白髪にはなってたと思う!」 ラダマンティスとミーノスの言葉など聞いていないらしいアイアコスは、ぺたんと地面に座りこむと自分の髪を掴んで眺め、黒い事に安心したようにホッとしたように手を離した。 「二十代なのに外見だけジジイなんて最悪だもんな!あーほんと、不老不死貰っといてよかったぁー」 「この状況で出てくるセリフがそれですか」 「俺は、お前の鈍感さが時に羨ましくなるぞ」 「ん?」 「…さ、では部下達に神々のお話を通達してきましょうか」 「そうだな、何かあってからでは遅い」 「あ、じゃー俺の部下にもついでに伝えといてくれよ。俺はもうちょっとここで休んでから行くから」 アイアコスの都合の良い頼みは聞こえなかったことにして、ラダマンティスとミーノスはさっさと自分の持ち場に帰って行った。 …エリシオンに帰還した双子神(大)は、ハーデス神殿に向かって歩きながら異世界の双子神に声をかけた。 「ところで、お前達の世界にもヘカーテ様はいるのか?」 「ああ、いるぞ」 「…ちなみにどんな方なのだ?」 「お綺麗な方で、不必要に肌を露出する服がお好きで…」 「背後から気配を殺して近づいてくるなり締め技をかける行為を『スキンシップ』と主張する方だ」 微妙な顔で答えた双子神(子)の言葉に、この世界の双子神(大)も凄まじく微妙な顔になった。 タナトス(子)は更にブツブツと続ける。 「それに対して抗議をしたら、『小宇宙を無くしたのも、その様な姿になったのも、全ては人間を侮ったお前達の自業自得だろ。今のお前達は本当に弱いな』などと傷口に塩を塗るお方だ」 「…そうか」 「挙句の果てに『弱いのなら仕方ない。強い私が昔みたいに守ってやるさ』などと!力が戻った暁にはギャフンと言わせてやるわ!」 小さな拳をワナワナと震わせるタナトス(子)を見て、タナトス(大)は首を傾げた。 「ん?お前が元に戻ればヘカーテ様をギャフンと言わせることが出来るのか?」 「………」 どこか期待を孕んだタナトス(大)の問いに、ヒュプノス(子)が悟ったような顔で首を横に振った。 …どうやら彼らの世界でも神格はヘカーテが上らしい。 矢張りな、と想いつつ微かな落胆を感じてタナトス(大)が浅く息を吐くと、タナトス(子)が見上げて来た。 「ところで、この世界のヘカーテ様はどのような方なのだ?」 「喜べ、キャラの方向性としてはお前達の世界のヘカーテ様と概ね同じだ」 「………。それは喜ぶべきことか?」 「少なくともキャラが違い過ぎて戸惑うと言う事はなかろう」 「ああ、それから大事なことを伝えておこう」 「?」 「俺とヘカーテ様は恋人同士、ということになっている」 「『なっている』?」 タナトス(大)の妙な言い回しに双子神(子)は不思議そうな顔をして、その反応に銀の死神(大)は何とも困った顔で言葉を続けた。 「まぁなんだ、その、なんやかんや大人の事情と言うものがあってな。天馬星座達も冥闘士達も俺とヘカーテ様は恋人同士だと思っている故、何かあったら適当に話を合わせて欲しいのだ」 「大人の事情…?」 「何だそれは」 「天馬星座に『タナトスサマってば恋人もいねーの?』と聞かれたタナトスが、見栄を張ってヘカーテ様が恋人だと言ってしまったのだ」 「見栄とは何だ、見栄とは!」 「ならば聞くがなタナトスよ、見栄でなければ何なのだ?」 「それ、は………」 弟神の冷ややかな視線にタナトス(大)が口籠ると、ヒュプノス(大)はどこか不機嫌そうな顔で視線をハーデス神殿に戻した。 その視線の先には漆黒のローブを纏った女神がいる。神殿の入口でそわそわと落ち着きなく歩きまわっていた彼女は、双子神達の姿に気付いたように足を止めた。 「噂をすれば、だ。ヘカーテ様がお待ちかねだったようだぞ」 「!」 「ん?」 「あの方がこの世界のヘカーテ様か…」 …相も変わらず美しい肌を惜しげもなく晒して踵の高いサンダルを履いたヘカーテが満面の笑みを浮かべて急ぎ足に近づいて来た。 「タナトス、ヒュプノス、帰ったか!待ちくたびれたぞ!何だか楽しそうなことになってるから私も地上に行こうかと思ってな、準備を始めた時にお前達から『これから帰還します』と連絡が入って…仕方ないからここで待っていたんだ」 「わざわざのお迎え、痛み入ります」 「そんな水臭い挨拶などするなって。…で、この子達が異世界のお前達か?」 美貌の女神は実に楽しそうに目を輝かせて、お辞儀をするようにタナトス(子)とヒュプノス(子)を覗きこんだ。 たゆん。 ふくよかな胸が悩ましげに揺れて、小さな双子神は頬を赤くしてもじもじしながらぺこんと頭を下げた。 「は…初めまして。死の神タナトスです」 「弟の、ヒュプノスです」 「お、なかなか礼儀正しい子供だな。私は月と氷の女神ヘカーテ。冥王ハーデスの補佐であり、タナトスの婚約者だ!」 「「ええええええええっ?!」」 ヘカーテが満面の笑みで左手薬指に填まった指輪を見せると、双子神(子)は目を丸くしてその指輪を見て、微妙な顔をしている双子神を見上げた。 「どどどどどういうことだっ?!ヘカーテ様がお前の婚約者?!『恋人同士という事になっている』のではなかったのか?!」 「そんな重要な事、どうして今まで黙っていたのだ?!ヒュプノス、お前も兄が他の誰かに取られるのを黙って見ていたのかっ?!」 「どうしてと言われても…。ヘカーテ様がタナトスと婚約したなどという話、私は今初めて聞いたぞ」 「うむ、俺も今初めて聞いた」 「「………え?」」 「あははっ、子供は素直で可愛いなぁ」 双子神(子)がきょとんとするのを見て、ヘカーテが楽しそうに笑いだした。 そんな彼女の姿に、わざとらしく溜息をついてタナトス(大)が口を開いた。 「ヘカーテ様。このチビ共は見知らぬ女に誘拐されて訳も分からず異世界に放り込まれて混乱しているのです。これ以上混乱させるような冗談は言わないで頂きたい」 「ああ、悪い悪い。まさかすんなりと信じるとは思わなくてな。…こほん、では訂正しよう。『今はタナトスの彼女役をやっているが、正式な彼女か婚約者目指 して絶賛努力中』の、ヘカーテだ。ちなみにこの指輪はタナトスにクリスマスプレゼントとして貰ったものだが、左手の薬指にサイズが合ったのは偶然だ」 「「はぁ…」」 「…とまぁ、こう言う爆弾冗談をいきなり言うのがこの世界のヘカーテ様だ。慣れるまでは戸惑うかもしれぬが、一々真に受けぬようにすればどうということはない。慣れてくれば適切な突っ込みを返せるようにもなるぞ」 「そ、そうなのか」 「どこからどこまでが冗談なのか分からぬが、この世界のヘカーテ様のキャラは何となく理解したぞ」 タナトス(大)の言葉に素直に頷く双子神(子)の姿に、ヘカーテは神殿の床に膝をついて彼らと目線の高さを合わせ、とても嬉しそうにふたりの顔を覗きこんだ。 「それにしてもこいつらは可愛いな。お前達も子供の頃はこんな姿だったのか?」 「ええ、まぁ…概ねこんな感じだったかと」 「そうなのか。私が生まれた時にはお前達はもう今の姿だったからな、子供の姿のお前達と言うのは新鮮だな!…なぁタナトス、ちょっと手を見せてくれないか?」 「手?」 「そう、手」 怪訝そうな顔をしながらタナトス(子)が小さな手を差し出すと、ヘカーテはその手を両手で握ったり開いたりしてぱぁっと顔を輝かせた。 「うわ、ちっこい手だなー。しかも何かプニプニして触り心地も良いし!」 「プニプニ…」 「おおっ、爪も小さい!ああ、可愛いなぁ、どうしよう可愛いなぁ、可愛いったら可愛いなぁぁぁぁぁ」 頬を染めてタナトス(子)の手を触っていたヘカーテは、どうしようどうしようと言いながら小さな死神をじーっと見つめて、彼が大きな目をきょとんと瞬くのを見て、目をウルウルさせると、握っていた手を引っ張ってやおらタナトス(子)をぎゅうっと抱きしめた。 …ヘカーテがじゅるりと涎を垂らしたのは見なかったことにしておこうと双子神(大)は思った。 「?!?!?!?」 「うわー、髪もほっぺたも柔らかいなぁ。身体もちっちゃいなぁ。ああもうどうしよう、本当に可愛いなぁ、可愛いなぁ、可愛いなぁ、可愛すぎて困る、本当に困るなぁ〜、どうしよう!なぁタナトス、ヒュプノス、私はどうすればいい?」 「…………」 美貌の女神に熱く抱擁され頬ずりされ口付けされて、タナトス(子)は目を白黒させて彼女の腕から逃れようともがきかけ、胸に手が当たりそうになって困っ た顔になり、オロオロしている弟と双子神(大)に『助けてくれ』と言いたげな視線を送ったが、ヘカーテの対処法を心得ているはずの双子神(大)は微妙な無 表情で突っ立ったまま助けてくれる気配は一向に見せない。 仕方なくヒュプノス(子)がおずおずと進み出て、タナトス(子)を抱きしめているヘカーテに遠慮がちに声をかけた。 「あ、あの、ヘカーテ様」 「ん?」 「タナトスが戸惑っているのでそろそろ…その、解放して頂けませんか」 「………はぁ〜〜ん」 小さなヒュプノスの言葉にヘカーテはしばらくきょとんとして、彼をまじまじと見つめて、ますます頬を赤くして目を潤ませた。美貌の女神は切なげに眉を寄せて唇の端から零れ落ちそうになった涎を拭うとヒュプノスににじり寄った。 「お前も可愛いなぁ。立派な子供の外見で口調は大人というギャップがまた、トキメクというか…何と言ったっけ、この湧きあがる『愛でたい』という衝動の名は…」 「『萌え〜』ですか?」 「それだったかな?まぁ何でもいいや。なっなっ、お前のことも少しギュッとしていいか?」 「えっ??」 「少しなら良いですよ」 「「ええっ?!」」 「わぁい!」 ヒュプノス(子)の意思意向など綺麗に無視して無責任に了承した双子神(大)の言葉に双子神(子)が何か言う前に、ヘカーテは小さなヒュプノスも抱きしめてスリスリし始めた。 ちなみにタナトス(子)も離していないので、ふたりはヘカーテに抱きしめられてもみくちゃ状態だ。 「うわぁあぁ、こっちのヒュプノスも可愛いなぁ。柔らかくてフカフカしてて食べちゃいたいほど可愛いなぁぁ、くんくん…ドーナツみたいな甘い匂いもする し…。タナトス以上にヒュプノスはこんなことさせてくれないから…ああ、フワフワでプニプニでサラサラでスベスベだなぁ〜〜!ああもう、可愛いなぁ可愛い なぁ可愛いったら可愛いなぁぁ」 「「むぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅっ!!」」 双子神(子)は文字通り『>△<』や『@△@』な顔になりながら、一応相手が女性なので本気で抵抗するのも憚られるらしく(彼らが本気で抵抗したところでヘカーテから逃れるのは無理なのだが)、必死に双子神(大)に手を伸ばした。 「おおおおお前達、いつまで眺めているのだっ!!」 「見てないで早く助けてくれっ!!」 「ん…助けてやりたいのは山々なのだがな…」 「ヘカーテ様がお楽しみの最中に妨害すると我々にもとばっちりが来るのでな…。まぁアレだ」 「ドレだっ!!」 「我々の平和の為に尊い犠牲になってくれ」 なーむー。 無表情で淡々とそう言って、双子神(大)はわざとらしく顔の前で両手を合わせて拝む真似をした。 「ちょ…何が『なーむー』だっ!!」 「お前達はギリシアの神であろうが、何故仏教式の拝み方をするのだ、つか助けろ!!」 「馬鹿を言え。ヘカーテ様の腕の中から玩具を取り上げてみろ、我々がタダでは済まんわ」 「しばしの辛抱だ、堪えてくれ」 「「誰が玩具だっ!!」」 「そうだな、失礼な話だ。こんな可愛くて触り心地が良くて良い香りのする玩具などどこにもないぞ!」 「「んあ〜〜〜〜〜!!!」」 「あーもー可愛い可愛い、かーわーいーいーーーーーっ!!!」 とうとうヘカーテはふたりを抱きしめたまま神殿の床にひっくり返って足をばたつかせてはしゃぎ始めた。 双子神(大)の立っている位置からは彼女の下着がしっかりと見えているのだが、ふたりは頬を赤らめたり窘めたりなどする事もなく、神殿の床を転がる彼女 を生ぬるい目線で眺めていた。彼らはヘカーテとの付き合いが長いので、下着が見えている程度の事で今更マトモな反応などしないのだ。 …ヘカーテは散々双子神(子)を抱きしめて頬ずりしてキスしてコネコネして床を転げまわってはしゃいでひとまず気が済んだのか、彼らが必死で連呼した『離して下さい』の訴えが漸く脳味噌に到達したのか、かなり名残惜しそうにしながらもふたりを解放した。 美貌の女神の熱烈な抱擁からやっと解放された双子神(子)は大きく一度深呼吸して、ヘカーテから逃げるように双子神(大)に駆け寄ると、やおら可愛らしい眉を吊り上げてふたり同時に双子神(大)の足を蹴飛ばした。 「っ!?」 「………」 「「良くも我々を生贄にしたなっ!!」」 恨み事を見事なまでに同じタイミングで言われて、ヒュプノス(大)は浅く溜息をつき、タナトス(大)は尊大な態度でタナトス(子)を見降ろした。 「チビ助。俺はやられたらやり返す主義だぞ。たとえ相手がガキであろうとも、だ!」 「ん?」 タナトス(子)が大きな目をきょとんと見開くと、タナトス(大)は両手の拳を彼のこめかみにあててグリグリした。 痛くもない微妙すぎる力加減でグリグリされてタナトス(子)は足をバタバタさせてくすぐったさに笑い始めた。 「ちょ、やめろ、くすぐったい!なんだその中途半端な力の入れ具合は!むしろ痛くされた方がマシではないか、くすぐったい、くすぐったい!あははははは!!」 「お前のようなチビに蹴られても俺は痛くも痒くもないからな。だから、痛くも痒くもない中途半端さで仕返しをしてやる!」 「やめろ、やめろぉ、くすぐったいぃぃぃ!うひゃぁああぁぁ!!」 ふたりのヒュプノスの『コイツ本当大人気ないな…』と言いたげな視線を受けながらタナトス(子)が涙ぐむほど笑わせて、タナトス(大)はやっと手を離してフンと鼻を鳴らした。 「全く…ガキのお遊びに付き合っていたせいで無駄な時間を過ごしてしまったではないか」 「「え?」」 「遠慮はいらぬ、突っ込んでいいぞ」 タナトス(大)の発言に思いっきり眉根を寄せた双子神(子)は、ヒュプノス(大)の言葉に顔を見合わせふたり同時にタナトス(大)を見上げて突っ込んだ。 「「お前が言うか!」」 「…さぁ行くぞ、ハーデス様もお待ちかねであろう」 双子神(子)の突っ込みを軽く無視したタナトス(大)が神殿の奥に目を向けると、満面の笑みを浮かべたヘカーテが双子神(子)に一歩近づいた。途端に一歩後ずさるふたりに、ウルウルした目でなぁなぁ…と声をかけた。 「ハーデスの部屋に行くまでの間だけでも私と手を繋いでくれないか?」 「手…ですか?」 「そう、手!」 「繋ぐだけ、ですか?」 「うんうん、繋ぐだけ繋ぐだけ!なっ、それならいいだろ?」 頬を紅潮させて両手を差し出すヘカーテを見て、女性の頼みを無下に拒否するのも悪いと思ったのか、双子神(子)はそおっと手を差し出した。 ヘカーテはぱぁっと顔を輝かせてふたりの手をぎゅうっと握ると、にっこりと微笑んだ。 「さ、ハーデスの部屋はこっちだぞ!」 双子神(子)の手を引いてハーデスの部屋に向かう美貌の女神の足取りはスキップしそうな程に弾んでいる(ちなみにヘカーテはスキップが出来ない)。双子神(大)はそんな彼女の姿に柔らかな苦笑を浮かべつつ後をついて行った。 |
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| あれよあれよと
言う間にコラボSSも10話目です。10話目で漸く冥界帰還となりました。で、『地上から帰った双子神はいつ着替えてるんだろう?』と前
々から考えていまして、コラボSSをきっかけに『第一獄で着替えて小宇宙も解放している』という設定にしました。話の繋がりの都合で双子神の着替えシーン
が冒頭に来たおかげで、タナトスとヒュプノスの着替えシーンがカラーで…!!!(卒倒)何ですかおふたりとも、素肌にローブですか!肌着も無しですか!し
かもタナトス様、パンツまでチラ見せして何ですか誘ってるんですか!!! そして久々の冥界三巨頭登場です。蝶様世界のアイコさんは良いお兄ちゃんらしく、タナトス様はアイコさんを慕っているそうです。ちなみに蝶様ヒュプはミ ノさんがお嫌いだそうで。その理由は『ミノさんはヒュプにいじわるするから』だそうです。なんて豪胆なんだミノさん!!ちなみに蝶様のサイトでは、アイコ さんに抱えられて(?)にっこりのタナトス様とミノさんの視線に怯える(笑)ヒュプのイラストを拝見できます。 そして蝶様から三巨頭の 服装について尋ねられて、『冥衣は着てないだろうし、サラリーマンな格好か私服では?』と相談した結果、サラリーマンスタイルだと双子神とかぶるので私服 という事になりました。で、『課長は私服でもサラリーマン。ミノさんはきちんと感のあるオシャレカジュアル。アイコさんはプリントTシャツにジーンズ』と イメージをお伝えしたところ、『アイコさんのTシャツはプリントか、英語のロゴ入りか、ネタ系漢字のどれですか?』と質問を頂いて… そりゃもう ネ タ で す よ 。 蝶様からも『ですよねーw』というお返事を頂き、提案を頂いた『人生五十年・侍・成敗・瞬殺・夜露死苦』の中から散々悩んで『瞬殺』でお願いしました。 他のも捨てがたいので、今後、アイコさんのTシャツ文字がネタになりそうな気がします(笑)。 そして、ついにヘカーテ様登場です!蝶様に私の脳内イメージを絵にして頂いてから、SSを書きながらピクシブを開きっぱなしにしてニヤニヤしながら眺め ておりました。 ちなみに蝶様世界のヘカーテ様は蝶様のサイトで拝見できます。LCのユズリハ似のカッコいいお姉さんです(萌)。 蝶様双子神を見たヘカーテ様の反応は…私がもし蝶様双子神に会ったらこうなるな、という妄想をかなりセーブして(笑)あんな感じになりました。あんな可 愛い子を見たら抱きしめるよね!はしゃぐよね!! そして、蝶様とはヘカーテの下着にもついて相談(?)しまして。『イメージ通り黒いレースか、意外性の白か、ぐるっと回って可愛いプリント付きか?』の 三択で協議の結果、『トナカイ柄のプリント付き』で決着しました(笑)。脳内タナトスが微妙に萎え顔をしていますが、そこはギャップに萌えて頂きましょ う。いや、ちょい真面目な話、ヘカーテは聖域との和解成立の頃まではイメージ通りの黒いレースな下着だったと思うんです。でも、地上に遊びに行って女の子 同士できゃいきゃい言いながらランジェリーショップとかに行くようになって、自分のイメージを壊すような可愛い系下着も選ぶようになったんだと思います。 下着の話で真面目も何もないですが(^^;)。何かヘカーテは、無意識に『周囲が考える私』のキャラに当てはまる行動をとってる気がするので、『着たいも の、好きな物を着ればいいの!』と言われて目から鱗だったんじゃないかな。 そして微妙な裏設定ですが、当サイトのヘカーテ様はスキップが出来ません。ついでに口笛も吹けません。変なところで不器用。でもそこが萌え。そんな感 じ。そして次の11話ではヘカーテ様inトナカイコスを書いて頂くつもりです…ウヘヘヘヘヘh← |