双 子神・神話時代 …琴座…
EPISODE 2

「ハーデス様への謁見を願って生者がこの冥府に来ているらしいぞ」

 弟神ヒュプノスの言葉に、タナトスは琴の手入れをするのを止めて顔を上げた。
 本来なら生者は死者の国である冥府に入ることは出来ない。地上と冥界を隔てるアケローン河の渡し守、双子神の弟であるカロンが死者しか船に乗せないから だ。
 金色の神に短く尋ねる。

「一体どういうことだ?」
「結婚したばかりの妻が不幸な事故で死者となったが、諦めきれぬ夫が妻の魂を返してくれるよう頼みに来た…だそうだ」
「何を馬鹿な。大体カロンやケルベロスは何をしていた?生者を冥府に通すなど」
「妻を亡くしたというその男はアポロンに師事したほどの琴の名手で、彼の演奏にカロンもケルベロスも心打たれて通してやったらしい。お前の琴を聞き慣れて いる彼らが感心したということは相当な腕前なのだろうな」
「………」

 タナトスは複雑な顔で琴の弦を弾いた。澄んだ音が神殿に響く。
 死神の指が奏でる旋律は…その時の気分で波はあるものの…音楽の神アポロンに勝るとも劣らないと冥王夫妻と一族の神々は評価している。自惚れるつもりは ないが、人間如きと比べられるのは面白くない。それも、神が冥府に導いた死者を取り戻しに来たというふざけた人間などと。
 ヒュプノスはどことなく面白がっている風に話を続けた。

「結婚したばかりの愛する妻を忘れられず、わが身の危険を顧みずに冥府に入り、妻への想いだけを武器に困難を突破して冥王に謁見する…ベルセフォネー様の 同情を惹くには十分すぎるストーリーだと思わぬか、タナトス?」
「ベルセフォネー様に妻を返してやってくれと頼みこまれればハーデス様は断れぬだろうな。…それで、お前は何が言いたいのだ?」
「その男がハーデス様に謁見する際には我々も同席すべきだと思うのだが」
「面白そうだから見に行きたいと素直に言え、ヒュプノス」
「そんな野次馬根性ではないぞ。死者を地上に返すなど冥界の神に対する侮辱になりかねぬから、その旨きちんとハーデス様に進言せねばと思っただけだ」
「ああ、そうか。ではハーデス様が決を下す前に行かねばな」

 ヒュプノスの建前を適当にあしらってタナトスは立ち上がった。にこりと笑って弟神も後を追う。




 ジュデッカに足を踏み入れると、何やら困惑顔のハーデスとそれに寄り添う懇願顔の冥妃、そして床に膝をつき頭を垂れた男の姿が目に入った。
 何も聞かずともおおよその状況は把握できて、タナトスは眉根を寄せてヒュプノスは唇の端を持ち上げた。
 眉間に皺を寄せていた冥王は臣下の姿に気づいてパッと顔を輝かせた。

「おお、タナトスにヒュプノス。今、お前達を呼ぼうと思っていたのだ、ちょうど良かった。お前達の意見を聞きたいのだ」
「意見…ですか」
「オルフェウス。すまぬがさっきの話をもう一度してくれるか」

 オルフェウスと呼ばれた男が顔を上げた。なかなか整った顔をした若い男だ。小脇には大事そうに竪琴を抱えている。
 男は真摯な眼差しを死と眠りの神に向けて改めて深々と礼をした。

「偉大なる死と眠りの神にお目通り出来る幸運に感謝致します。私は冥界の住人となった妻エウリュディケを諦めきれず、神々のお慈悲に縋りたく、無礼を承知 でここまで参りました」
「………」
「そなたの妻は不幸な事故で冥界の住人となったと聞いたが」
「はい。友人と川のほとりを散歩中にアリスタイオスという男に乱暴狼藉を働かれそうになり、驚いて森の中に逃げ込んだ時に毒蛇に噛まれたそうです。よほど 怖かった のでしょう、エウリュディケの顔は恐怖でこわばり、目には涙が浮いていました。僕は、無念と怒りと悲しみでどうしようもなくて、いてもたってもいられなく なって、ただ無我夢中で」
「恐れ多くもハーデス様に妻を返せと要求しに来たと」

 タナトスが冷ややかに話を遮ったが、オルフェウスは不快感を見せることもなく真剣な目で死神を見つめた。

「返してくれなどと贅沢は申しません。妻の魂は既に冥王様のもの。それを、ほんの僅かの間だけ、私の寿命が尽きる時まで、私に貸し与えて頂くことは出来な いかとお願いに上がったのです」
「エウリュディケの死の時期は彼女が産まれる前から運命の神によって定められていたこと。命の終わりがたまたま不幸な事故と言う形だったのだとオルフェウ スには説明したのだが、どうしても諦め切れぬようでな。見ての通りベルセフォネーはすっかり彼に同情しているし、どうしたものかと…」
「『どうしたものかと』?それはどういう意味です、ハーデス様?」
「あ、いや、それはだな、何と言って彼と妃を説得したら良いのかと思って、うん、そういう意味で『どうしたものか』と言ったのだ」

 たちまち眼差しをきつくしたタナトスの問いにハーデスは明らかにギクリとして、妃の方をちらりと見ながら慌てて釈明した。
 双子神がエウリュディケの魂を返すことに強い難色を示さなければ、ベルセフォネーの頼みを聞いて返してやるつもりだったのだろう。
 冥王ともあろうお方が何と軽率なことを。
 死を司る神はオルフェウスを一瞥して冥王夫妻に視線を戻した。

「説得?何を説得する必要があるのです。冥界の住人となった者は地上に帰してはならぬ掟、神が定めた掟を神が破るわけにはいかぬ。それ以上の理由が必要で すか?ア ポロンの息子アスクレピオスもその掟を破ったがために処刑された。『冥界の住人を地上に引き戻すなど、余や臣下達に対する侮辱。絶対に許してはならぬ』と 主神ゼウスに抗議したのは他ならぬハーデス様ご自身だったはず」
「う…うむ、そうであったな…」

 日頃は寛容で大らかなタナトスが珍しく本気で、しかも論理的に反論したことでハーデスも迷いが消えたようだった。
 妃の目を見つめて肩を優しく抱き、オルフェウスに涼やかな悲しみの色を孕んだ眼を向けた。

「オルフェウスよ。余も愛する者と引き裂かれる苦しみは身をもって体験したことがある故、そなたの気持ちは察するに余りある。しかし愛する者を突然奪われ る悲しみを味わったのはそなただけではない。死は全てに平等なもの。いかな事情が有れど、そなただけを例外扱いする訳にはいかぬ」
「冥王様…!」
「確かに余は冥王だ。しかし余が冥王を名乗れるのは己の使命を忠実に果たす臣下がいるからこそ。余自らが掟を破るは余に忠誠を誓い仕えてくれた臣下達に対 する裏切りに等しい。故にエウリュディケの魂を返してやるわけにはいかぬ。…分かってくれるな?」

 最後の言葉は抱き寄せたベルセフォネーに向けたものだったのだろう。
 縋るような目で見つめるオルフェウスからそっと視線を逸らすように、冥妃は無言で目を伏せた。
 話は終わりだとハーデスが椅子から立ち上がった時。
 オルフェウスは僅かに残った最後の可能性に一縷の望みを託した。

「冥王様!私の琴を聞いてください!」

 尋常ではない必死の叫びに、ハーデスもベルセフォネーも、その場を去りかけていた双子神も足を止めた。
 ハーデスは緩く首を傾げ鸚鵡返しに呟いた。

「琴…?」
「そう言えばその男、アポロンに師事したほどの琴の名手だとか。カロンもケルベロスも彼の演奏に心を動かされ冥府へ通したと聞いております」
「ふむ…」

 ヒュプノスの言葉にハーデスも興味を惹かれたらしい。
 まだ望みはある、まだ。
 オルフェウスは必死に言い募った。

「私は琴の奏者。妻への想いはこの琴を使ってこそ最大限に表現できます。演奏を持ってしても冥王様のお心を些かも動かすことが出来なかったのなら私の妻へ の想いはその程度だったのだと諦めがつきます。どうかお願いです、私の演奏を聴いてください!」
「………。それでそなたの気持ちがおさまるのなら」

 ハーデスは頷いて椅子に戻った。
 ありがとうございます。
 深々と礼をしてオルフェウスは琴に指をかけ演奏を始めた。
 …妻へのあたたかな想い。別れが来るなど思いもしなかった輝いた日々。手を取り合い、将来の夢を語り合ったあの頃。きっと幸せにする、僕が守ると言う誓 い。
 あなたが好き、あなたが好き、あなたが好き。
 想いが溢れて止まらない。
 琴の音に乗せてオルフェウスは歌う。
 唐突な別れ。言葉に出来ない痛み。世界は色と光を失い、闇に閉ざされる。
 あなたに会いたい。あなたに会いたい。
 もう一度、もう一度だけ。
 繋いだその手は二度と離さないから。
 もう一度だけあなたに会いたい…!
 …悲しげな余韻を残して演奏は終わった。
 涙で頬を濡らしてオルフェウスは深々と頭を下げた。
 ベルセフォネーは美しい瞳にいっぱいの涙をためてハーデスを見上げた。

「ハーデス、お願い。この人に愛する人を返してあげて」
「む………」

 オルフェウスの一途な想いに自身も心を動かされたハーデスは口籠り、そっと横目でタナトスを見て、彼の銀色の眼に僅かな揺らぎもないことを確認して心底 困った顔になった。
 …オルフェウスに妻を返してやる方に大きく気持ちは傾いているが、それでも夜の一族の長兄、死を司る神の反対を押し切ってまで掟を破ることに少なからず 抵抗があるのだ。
 ハーデスは『援護してくれ』と言いたげな視線をヒュプノスに向けたが、眠りの神はわざと気付かぬ振りをしている。 
 頭を抱えんばかりに困った顔になった主君の姿にタナトスは内心で溜息をついた。
 掟は厳守せねばならぬもの。
 だが、敬愛する主君やその妃の気持ちを蔑ろにしてまで意固地に守り通すこともないだろう。時には目を瞑ることもあっていい。しなやかで柔軟なものの方 が、結局はガチガチに強固で曲がらぬものより強いのだ。
 ――タナトスは無言で踵を返した。
 さてどうなるかと面白そうに見ていたヒュプノスが怪訝そうに声をかけた。

「どこへ行く、タナトス?」
「その男の琴の腕、カロンも認めたと言うからどれほどのものかと思えば、神の心を動かすには程遠い稚拙な演奏。俺はこれ以上時間を無駄にする気は無いので な、席を外させて頂く」
「まだ話は終わっていないが」
「最後まで聞く価値も必要もなかろう」
 
 タナトスは半分だけ振り返り、冥王夫妻に形ばかりの会釈をしてさっさと退室した。
 相変わらずだな。
 兄の姿を見送った金色の神はそう言ってくすくす笑った。
 言葉の意味をとりかねたオルフェウスが怪訝そうな顔になった。

「あの…ヒュプノス様?」
「オルフェウスよ。そなたの妻の魂を地上に帰すこと、タナトスは黙認するそうだぞ」
「え?」
「うむ。先ほどの言葉は『エウリュディケの魂を返すのなら好きにしろ、俺は知らん顔をしてやる』と言う意味であろうな」
「え…」
「死の神の立場とかプライドがあるのは分かるけど、ほんっと、タナトスってば根は優しいのに素直じゃないんだから。…でも良かったわね、タナトスも了解し てくれて」
「では…」
「先ほどの演奏、見事であった。妻の魂は返してやろう」
「あ…ありがとうございます!ありがとうございます!冥王様、冥妃様、ヒュプノス様、それにタナトス様!このお慈悲は一生忘れません。ありがとうございま す…!」

 喜びの涙を流しながら何度も礼を言うオルフェウスに、ただし…とハーデスは言った。

「無条件に返してやるわけにはいかぬぞ。ひとつ、約束を守ってもらう」
「エウリュディケが帰ってくるのならどのようなことでも!」
「地上に出るまで決して後ろを振り向いてはならぬ。もし約束を破って振り向けば、そなたの妻は冥界に引き戻す。それでも良いか?」
「そんな簡単な事でよろしいのですか!?勿論です、お約束します!ありがとうございます、ハーデス様!」

 ジュデッカに詩人の喜びの声が響き、無数の柱の間に吸い込まれて消えて行った。



 ジュデッカの奥の間で壁に背を預けていたタナトスは、聞き慣れた足音に眼を向けた。
 金色の目に穏やかな光を孕んだ神が淡い笑みを唇に乗せて近付いてきた。

「ハーデス様は『地上に出るまで後ろを振り向いてはならない』と言う条件付きでオルフェウスに妻を返す決断をなされたぞ」
「随分と簡単で難しい条件を出されたな」
「ところでタナトス、一つ賭けをせぬか?」
「賭け?」
「奴は振り向くか、振り向かぬか。私は振り向く方に賭けようと思うのだが」
「それでは奴は妻を取り戻せぬことになるぞ」
「冥王が人間に慈悲を施した事実は残り、死者は冥界に、生者は地上に戻り、結果的に神々の掟は守られる。八方丸く収まるではないか。何か問題があるか?」
「…狸め」
 
 軽く睨むとヒュプノスは妙に嬉しそうに先ほどの言葉を否定した。

「冗談だ。私も彼が振り返らずに妻と共に地上に帰ることを望んでいるよ。お前と同じように」
「俺は別に…」
「タナトス、ヒュプノス!」

 タナトスの反論はベルセフォネーの明るい声で遮られた。
 長いドレスの裾を翻して半ば小走りに冥妃は臣下のそばにやってきた。

「どうかなされましたか?」
「ハーデスがあなた達を呼んでるわ。オルフェウスの監視と護衛を頼みたいんだって」
「監視は分かりますが、護衛…ですか?」
「オルフェウスとエウリュディケだけだと、事情を知らない誰かが帰り道で二人を襲うかもしれないからだって。あなた達が一緒だったら絶対誰も襲ってこない でしょ?それと、オルフェウスが振り向いた時に『襲ってきた奴からエウリュディケを守ろうとして結果的に後ろを見ただけ』とかイイワケされるの防止も兼ね てるみたい」
「チッ…面倒だがハーデス様のご命令では仕方ないな」

 苦い顔で呟いたタナトスは、満面の笑みを浮かべるベルセフォネーの視線に気づいた。
 何か?
 目顔で尋ねると、彼女は春の日差しのように眩しい笑顔で言った。

「ありがと、タナトス」
「?」
「オルフェウスにエウリュディケを返すこと了解してくれて。ハーデスってば冥王様なのに未だにふたりに頼りっきりなんだもん。お兄ちゃんのOKがあるのと無いのとでは、悪いことする時の後ろめたさが段違いなのよ、きっと」
「………。俺は死者を返すことを了解した覚えはありませんが」
「あーもー、どうしてそういう可愛くないこと言っちゃうかなー」

 ベルセフォネーは両手を腰に当ててわざと眉を吊り上げタナトスを睨んだ。
 唇を尖らせて、びし、とタナトスに指を突き付けた。

「可愛くないこと言うくせにからかうと可愛い反応するから余計にヘカーテにおちょくられるのよ?いい加減学習して素直に可愛くしてなさいよね」
「………」
「ところでベルセフォネー様、オルフェウスの監視の件ですが」

 兄が頬を染めて顔を引き攣らせたのを見て慌ててヒュプノスは話題を変えた。
 タナトスが変な方向に機嫌を損ねてしまったら、最終的な皺寄せ…つまり死神様の機嫌を直す作業は弟の自分のところに来てすこぶる面倒くさいことになるの だ。ちなみにベルセフォネーやヘカーテには『タナトスの機嫌を斜めにしてしまったら責任持ってまっすぐに戻してほしい』と何度も頼んだが、いまだに聞き届 けられずにいる。
 そんな弟神の気苦労など知らない冥妃は無邪気な瞳を向けた。

「なーに?」
「『振り向いてはならぬ』という約束ですが、どこまで後ろを見たら『振り向いた』と判断すればよろしいでしょう?」
「その辺はほら…臨機応変で、融通利かせて、ね?」

 つまり振り向いても見て見ぬ振りをしてやれということか。
 ヒュプノスはベルセフォネーの返答に苦笑した。

「オルフェウスに妻を返してやりたいお気持ちは理解できますが、冥王との約束を明らかに反故にした行動を見逃してはハーデス様の権威に関わりましょう」
「確かにそうね…。じゃあ、エウリュディケの顔を見たらダメ。見たかどうか微妙な時の判断はあなた達に任せるわ」
「承知しました。お前も了解したな、タナトス?」
「あからさまに振り返ったのでなければ見逃せばよいのであろう?」
「またそういう可愛くないこと言って!そんなだから…」
「そう言えばハーデス様がお呼びであったな。お待たせしては失礼だぞ!」

 冥妃の発言を無礼にも遮って、ヒュプノスは兄神を引っ張るようにジュデッカに戻って行った。





 …オルフェウスは目の前のエウリュディケを食い入るように見つめ、何度も瞬きをして目をこすり、間違いなく愛妻がいることを確認して喜びのあまり言葉を失った。
 エウリュディケがいる。ここにいる。目の前にいる!

「エウリュディケ…!」
「ありがとう、オルフェウス。私のために冥府まで来てくれるなんて思ってなかった」
「当たり前じゃないか。約束しただろう、ずっと一緒だよって。もう二度と離さないよ、エウリュディケ」
「ああ、オルフェウス…。またあなたと暮らせるなんて、夢みたい」
「夢じゃない。夢じゃないんだよ、エウリュディケ」

 感激に目を潤ませる妻の手を、オルフェウスは強く握りしめた。
 その手はまだ冷たかったが、地上に戻れば命のぬくもりを取り戻すと思えば何も気にならなかった。
 オルフェウスは冥界の神々に深い敬意のこもった目を向けた。

「ハーデス様、ベルセフォネー様。僕の願いを聞き届けてくださってありがとうございます。タナトス様、ヒュプノス様。お二方の寛大なお心、僕達は 決して忘れません。妻が死んだ時、あなたを一時でも恨んだ僕はどうしようもない愚か者でした。本当に、何とお礼やお詫びを言えばいいのか…」

 オルフェウス夫妻の喜びに溢れた笑顔と感謝の言葉に、冥王夫妻と眠りの神は鷹揚に微笑んで、死の神はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
 冷酷非情と言われるタナトス様だけど、司るものに忠実なだけで邪悪な神ではないのかもしれないな。
 どこかくすぐったそうな顔をしている死神を見て、オルフェウスはそんなことを思った。

「じゃあ…僕達、そろそろ行きます」
「うむ。余との約束、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「いきなり出戻ってきちゃだめよ、エウリュディケ」
「はい、冥妃様」

 オルフェウスは最後にもう一度、深々と冥王夫婦に一礼をして、しっかりと妻の手を握って歩き始めた。
 光に満ち溢れた地上へと向かって。

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