| …オリンポスを訪れたふたりは、神殿に流れる一種異様な雰囲気に戸惑い足を止めた。 一見穏やかな静寂に包まれているようでいて、実際は皆が何かに気を使い遠慮して息を潜めているような、そんな感じだ。冥界の神がオリンポスを訪ねて来た というのに、すれ違うのは侍女らしきニンフばかり、大神に謁見したいと言ってもはっきりしない曖昧な返事が返ってくるばかり。 普段なら早々に腹を立てて許可なくゼウスに会いに行くであろうタナトスも、妙な雰囲気に遠慮したのか、あるいは迂闊な行動をとるべきではないと判断したのか、辛抱強く事情が分かる誰かが通りすがるのを待っていた。 …と。 「お?ひょっとしてあんたら、伯父貴の兄貴分じゃねーか?」 「!」 あまり上品とは言えない口調で話しかけて来たのは軍神アレス。大神ゼウスと正妃ヘラの間に産まれた男神である。血と殺戮を好む彼は双子神の妹である争いの神エリスの悪友で、双子神ともそれなりに面識があった。 普段ならこの男に大神ゼウスへの話を通す役目を頼むなど有り得ないが、まともな状況ではない今は逆に適任かもしれない。 そう判断したタナトスは浅く顎を引いて彼の言葉を肯定すると大股に近づいた。 「ご無沙汰している、アレス殿。いつもエリスが世話になっているな」 「何だよタナトス、他人行儀な挨拶だなァ?軍神の俺様と死神のオニイサマ、切っても切れない仲じゃねーかよ」 「…少しばかり深刻な用事で来たものでな」 「ふーん…深刻な用事ねぇ…。それってアレか」 アレスは焦茶の眼を危険な色に光らせてわざとらしく声を潜めた。 「デメテル叔母上が可愛い可愛い娘ちゃんの事でクソオヤジに食ってかかってる事と関係アリ?」 「………。大有りだ。その可愛い娘のことで父上と話がしたくてな。…何とかなるか?」 「クククククッ。何か色々面白そうじゃねーか。いいぜ、ついてこいよ」 アレスはすんなりと頷いて神殿の奥へと足を向けた。 双子神も無言で後に続く。 歩きながらアレスは妙に楽しそうにペラペラと話しかけて来た。 「叔母上はもう、なんつーかもんのすげぇ切れっぷりでよ、流石の親父も圧倒されてタジタジだぜ。ま、可愛い娘ちゃんがハーデス伯父貴にかどわかされちゃった原因作ったのが当のクソオヤジだから強くもでれねーんだけどよ」 「!……」 「何でお前がそんなこと知ってんだって言いたげな顔だな」 「……ハーデス様がベルセフォネー様を攫うところを誰かが目撃していたという事か」 「らしーなー。俺は叔母上が喚き散らすのを部屋の外で聞いてただけだけど、伯父貴がベルを攫うところを見たって叔母上に告げ口した女神がいるらしいぜ。で、それを聞 いた叔母上は『あのおとなしいハーデスが、仲裁の女神ニュクス様の御子息が脇を固めているハーデスが、独断でそんな大それたことをするはずがない。絶対にゼウスかポ セイドンがおかしなことを吹き込んで唆したんだわ!!』と確信して、オヤジのとこに乗り込んできたってわけよ。いい読みしてるよなー」 「………」 あっけらかんとアレスが言った言葉に、双子神は気まずい沈黙で視線を交わらせた。 おかしなことを吹き込んで唆したのは確かにゼウスだが、結果的にハーデスの背中を押したのは自分達だ。何と言って交渉したものかと考えているうちにゼウスの部屋の前まで来てしまった。 重厚な扉を挟んでもデメテルの喚き散らす声は聞こえてくる。 暗澹とする双子神に気付く様子もなくアレスは無遠慮に扉を開けた。 「おう親父ィ!…と、叔母上。お客様だぜ」 「アレス!今は取り込み中だ、お引き取り願え!」 「マージで?いいのか、帰しちゃって?この状況で、タナトスとヒュプノスを追い返すのかぁ?」 「何!?」 「!!」 額に汗を浮かべたゼウスは、アレスの後ろに控えた双子神の姿を認めると慌てて厳格な声で言った。 「入ってもらえ」 「だとよ」 アレスは部屋の中に顎をしゃくると、自分の役目は終わったとばかりに挨拶もなくさっさと部屋を辞した。 …双子神は会釈をして部屋に足を踏み入れた。 「御無沙汰しております。大神ゼウス様、地母神デメテル様」 「う…うむ、長らくの無沙汰であるな。息災なようで何よりだ」 「久しぶりですね、夜のご兄弟」 「既にお察しかと存じますが。このたび我々が事前の約束も無く参上したのは、お嬢様の一件で御相談したい事があったため」 「あの子は?ベルセフォネーは無事なの?」 「落ち付けデメテル。…ふたりとも、遠慮はいらぬ。かけてくれ」 「…失礼します」 タナトスとヒュプノスは断りを入れて勧められた椅子に腰かけた。 デメテルは真剣この上ない貌でふたりを見つめ、ゼウスは姉と双子神を交互に見遣って一つ咳払いした。 「ゴホッ。ええと、念のため確認するが。あなた方が言う娘の件とは、やはり兄上がベルセフォネーを…その…」 「攫ったのでしょう?」 「はい。ハーデス様ご本人がそのように仰せでした」 タナトスは短く答えて頷いた。 デメテルはますます眼差しをきつくしてゼウスを睨み、ゼウスはますます額に汗を浮かべて焦りの色を浮かべた。 今回の一件の非はハーデスにも自分達にもあるが、タナトスは申し訳なさげな態度は微塵も見せず、堂々とした態度で大神と地母神に相対していた。 大神ゼウスは過剰なほど双子神に気を使っているし、開き直りとも言える強気な態度に出た方が交渉は有利に運ぶと踏んだのだろう…兄の判断を察したヒュプノスは出しゃばらず様子を見る事にした。 何も言葉を続けないタナトスにデメテルが椅子から腰を浮かすようにして尋ねた。 「それで。ベルセフォネーは無事なの?」 「妹達が姫君からお話を伺った限りでは、お怪我などはされておられぬと」 「今はどんな状況なの?」 「事情を説明したところ、納得されたようで落ち着いておられます。現在はハーデス神殿で我々の帰還をお待ちです」 「…そう」 とりあえずの娘の無事を知ったデメテルは僅かに表情を和らげた。 彼女が落ち着いたのを見てタナトスはそっと切り出した。 「今回のハーデス様の無謀な行動は我々の認識の甘さからくる確認不足で起きたもの。デメテル様にはお詫びを申し上げる言葉もありませぬ」 「何をおっしゃるの。ハーデスが娘を攫ったのは、ゼウスが馬鹿な事を弟に吹きこんだからでしょう」 「ゼウス様が『攫うくらいでちょうど良い』とハーデス様に仰せになった、という話は伺いました。その時に我々が『そのお言葉は冗談だから間違っても実行されぬよう』と進言していればこのような事には…」 端正に整った貌を曇らせて銀色の睫毛を伏せ、心底すまなそうに謝罪する銀の神の言葉をデメテルは片手を振って遮った。 「そんな世迷言を真に受けることを想定しろという方が無茶でしょう。まぁ…冗談を信じたハーデスにも非はあるけれど、そもそもの原因を作ったのはゼウスだから。むしろ私が弟達の愚行をお詫びしたいくらいだもの、気にしないでくださいな。あなた方に謝罪されては心苦しいわ」 「…痛み入ります」 自分は本当の事しか言っていない。自分達の落ち度を告げて謝罪もした。ただ、『ゼウスの冗談を肯定した』という一番まずい部分は伝えないまま話が終わっただけだ。余計な事を言って状況を不利にする事はあるまい。 タナトスは神妙な顔で目を伏せて口を閉ざした。 …とりあえず愛娘の無事を聞いて安心したらしいデメテルは、一周回ってゼウスへの怒りが戻ってきたらしい。美しい貌を怒りに歪めて弟神を睨んだ。 「それより聞いて下さいな、おふたりとも。この愚弟ときたら、自分のやらかした事を反省するどころか、『良い機会だから姉上も子離れして、ハーデス兄上にベルセフォネーをこのまま嫁がせろ』などとぬけぬけと言うのですよ」 「…え?」 「姫君を地上にお返しするようハーデス様に話をする、ではないのですか?」 「私もそう言ったのです。とにかくまずは娘を私に返しなさい、話はそれからでしょう、と」 双子神が驚いて呟いた言葉に、デメテルが我が意を得たりというように頷いた。 やはりあなた方はまともで常識的だわ、それに引き換え…とデメテルがゼウスを睨むと、ゼウスは弱り切った顔でうーんと唸った。 「デメテルよ、そなたはベルセフォネーをずっとそばに置いておきたいなどと言うがな。冥王である兄上が…三界の王の一角が、娘を妃にと望んでいるのだぞ。こんなに良い縁談はあるまい?ハーデス以上にベルセフォネーに相応しい婿などどこを探してもおらぬぞ」 「今はそういう話をしているのではありません!黙って攫って行った娘を返せと言っているのです!!」 「何 度同じ事を言えば分かるのだ?大神であり父であるこの儂が、ベルセフォネーを兄上の嫁にやる事を赦したのだ。あの二人の結婚は既に成立したも同然。いい加 減にベルセフォネーが嫁入りしたという事実を受け入れたらどうなのだ。儂や兄上や、ましてやニュクス様の御子息をつまらぬ我儘で困らせるものではないぞ」 「………」 バン!! デメテルは卓を力任せに叩いて立ち上がり、ものも言わずに憤然と部屋を出て行った。 部屋に残された双子神がデメテルの背中を見送って大神に視線を戻すと、ゼウスはげんなりした顔で溜息をついた。 「全く…母上とヘスティア姉上は穏やかな性質なのに、何故ヘラとデメテルはああもヒステリックなのか…」 「………」 そういう問題ではないだろう。 もの言いたげな双子神の視線に気付いたゼウスは、その視線の意味するところをどう解釈したのか、そつの無い苦笑を返してきた。 「ああすまぬ、見苦しいところをお見せした」 「いえ…」 「まぁなんだ、ベルセフォネーを兄上の嫁にやると言った言葉、儂は撤回などせぬから安心してくれ。兄上にもそのように伝えてくれるか」 「………」 ゼウスの言葉に双子神が不穏に眉根を寄せたのを見て、ゼウスは笑みを消して慌てたように尋ねた。 「ん?まさか兄上が、いざ本人を目の前にしたら結婚したい気持ちが無くなったとでも言ったのか?」 「いえ、そのような事は有りません。むしろ逆なのです」 「逆?」 「話の行きい違いがあったようだから、一度ベルセフォネー様をデメテル様の元にお返しして仕切り直した方が…と我々が進言したところ、それはならぬと。彼女を愛しているから絶対に手放したくないと」 「何だ、ならば何も問題は無いではないか」 何も問題は無い、だと?どこをどうしたらそんな言葉が出てくるのだ。最初から最後まで問題だらけではないか。 ホッとしたように微笑むゼウスにはっきりと不快感を覚えながら、タナトスは努めて冷静に尋ねた。 「…そうでしょうか?ベルセフォネー様は母上の元に帰りたいと仰せでしたし、デメテル様は大層お怒りのご様子でしたが」 「嫁いだばかりの娘は母を恋しく思うもの。デメテルも一時的に感情的になっておるだけじゃ。冷静になれば儂の判断が正しかったと分かるはず。どちらも時間が解決する、心配は無用じゃ」 「…畏まりました。ハーデス様とベルセフォネー様にそのようにお伝えします。では、我々はこれで」 これ以上この男と話を続けては苛々が募るばかりだと判断したタナトスは、早々に彼を見限って立ち上がった。ヒュプノスも躊躇うことなく兄神に続き、冥王臣下の双子神は慇懃に一礼して部屋を辞した。 「あいつはダメだ、話にならぬ。あの男はいないものとして話を進めるぞ。良いな、ヒュプノス?」 「ああ、異議は無い」 大神に対して無礼極まりない兄神の言葉を、弟神は咎めもせず肯定した。 デメテルが腹を立てている理由を考えもせずに切り捨て、冥界に攫われたベルセフォネーの心情を慮ろうともしない無神経な男など、弾よけ以外の何の役にも立たぬ…言葉は交わさなくとも双子神の考えている事は同じだった。 部屋を出たタナトスは、こっそり様子を伺っていたらしいニンフ達を捕まえてデメテルがどこに行ったか尋ね始めた。 …神殿のテラスに置かれた椅子に腰を降ろして苛々と指で卓を叩いていたデメテルは、大股に近づいてきた双子神に気付くと卓を挟んだ向かい側の椅子を勧めた。 ふたりが腰を降ろすなりデメテルは口を開いた。 「ゼウスは何か言っていましたか?」 「姫君をハーデス様に嫁がせる約束を撤回する気はない、デメテル様とベルセフォネー様の事は時間が解決するから心配は無用だ。以上の二つをハーデス様にお伝えするようにと」 「発言を撤回する気は無い?時間が解決するから心配無用??ちゃんちゃら可笑しいわ!」 デメテルは美しい貌を怒りに歪めて吐き捨てると、堰を切ったように話し始めた。 「私はね、ゼウスが言うほど石頭ではないつもりです。今回の縁談だって、礼儀に則って話があったのならば…いえ、ハーデスが無茶をやらかした後でも、ゼウ スとふたりで娘を連れてきちんと謝罪しにくれば、真剣に話を聞きましたよ。そりゃあね、娘は可愛いわ。出来るものなら嫁になどやらずにずっとそばに置いて おきたいわよ。でも、結婚の相手がハーデスで、あの子が幸せになるのなら、本人が望むのなら、私だって『何が何でも娘は嫁にやらない!』なんて言いません よ。私はね、ゼウスがハーデスとベルセフォネーの結婚を認めた事に腹を立てているんじゃないんです。ハーデスがやらかした無茶にも…まぁ怒ってはいるけ ど、赦せる範囲です。私が我慢ならないのは、弟達の態度なんです!!」 「………」 「ゼウスは私や娘の気持ちなど全く考えず、私達を蚊帳の外にして話が進んだ事を詫びもせず、『こんな良い縁談なのに何故嫌なのだ』と馬鹿げた事を言って、 私を石頭だのヒステリックだのと悪しざまに罵った挙句に時間が解決するから心配無用?馬鹿おっしゃい、解決なんてしませんよ。絶対にさせるものですか!」 「………」 「それに、ハーデスもハーデスよ!ゼウスの妄言を鵜呑みにして娘を攫ったまではいいけど、騒ぎになった事に驚いてオロオロして、あなた方に泣きついたんで しょう。『ベルセフォネーは帰したくない、でも姉上に直談判しても説得する自信が無い、それどころか押し切られそうで怖い、だから代わりに話をしてきてく れ』とか何とか」 「………」 デメテルの読みは当たらずとも遠からずで、双子神は気まずく口を噤むしかなかった。 夜の兄弟がひたすら無言で俯いている姿に、デメテルは僅かに表情を和らげた。 「あなた方を責めている訳ではありません。ハーデスが兄と慕っているとはいえ、あなた方の立場はハーデスの臣下。弟の我儘に真っ向から異を唱えるのは憚られましょう」 「………。我々も一度は姫君をお帰しするよう進言したのです。ですが、ハーデス様が『余はベルセフォネーを愛している。今地上に返したら彼女は二度と戻って来ない気がする、だから絶対に手放したくない』とおっしゃって」 「我々が初めて見るほど真剣な…切羽詰まったご様子なので、それ以上は強く言えず…」 「そこまで娘を愛しているのなら、堂々と私に会いに来て、自分がどれだけあの子を愛しているかアピールすれば良いのです。上手く話をする自信が無いのな ら、あなた方に手紙を託すと言う方法もあったはず。それすらしないで臣下に頼りきりだなんて…何て情けない。それでも冥界の王ですか。そんな情けない男に 可愛い娘を嫁になどやれません。いくらご立派な『お兄様』がそばにいても、です。あなた方には悪いけど、私は愚弟達の思い通りにはなりません。必ず娘を取 り戻します。ゼウスとハーデスが折れるま で、娘の結婚は認めません。絶対に、絶対に、赦すものですか!」 デメテルの言葉はいちいち御尤もで反論の余地はない。 タナトスはどう切り返すつもりかとヒュプノスが様子を伺うと、兄神は微塵も困った様子は見せず、冷静に彼女の話を聞き終えるとひとつ頷いた。 「承知いたしました。ハーデス様とベルセフォネー様にはそのようにお伝えします」 「………」 タナトスの返答にデメテルは目を丸くしてぱちぱちと瞬きした。 「何だか拍子抜けね。それは困りますそこを何とか…と頼まれるかと思ったのに」 「………。我々は、ハーデス様を弟のように想っております」 「ハーデスもあなた方を兄上と呼んで慕っているそうね。…それが、何か?」 「兄として望むのは可愛い弟ハーデス様の幸せです。そして、『ハーデス様の幸せ』と『ベルセフォネー様がハーデス様の妃になること』は必ずしもイコールではない、と我々は考えます」 「え…?つまりあなた方は、この縁談が成立しなくても良いと思っているの?」 「お嬢様のお気持ちを踏みにじり蔑ろにして結婚を成立させてもハーデス様は幸せにはなれない。幸せが約束されない結婚をするくらいなら破談になったほうがマシです」 「破談になったら、ゼウスの面目は丸潰れだけど」 「それが何か?」 開き直りにも見える真顔で尋ねるタナトスに、デメテルは目を見開き、クスリと笑った。 「なるほどね。こんな頼もしいお兄様がいたらハーデスが甘えてしまうのも分かるわね」 「…デメテル様。ひとつ確認したいのですが」 「何かしら?」 「お嬢様ご自身がハーデス様との結婚を望まれたその時は、おふたりの結婚を赦して頂けますか」 「………」 タナトスの真剣な問いにデメテルは笑みを消して、しばらく思案し、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「私が望むのは娘の幸せ。ただそれだけです」 「…ありがとうございます」 タナトスは微かに微笑んで立ち上がり、素知らぬ顔で視線を中庭に向けて独り言にしては大きな声で言った。 「しかし奴の態度と発言は不愉快極まりない。ハーデス様とベルセフォネー様の結婚が成立するしないとは別に、あの男の面目を潰してやらんと腹の虫がおさまらぬな」 「何か言ったかタナトスよ?」 「いや別に?少し考え事をしていただけだが、俺は何か言っていたか?」 「私は愚弟をギャフンと言わせる方法を考えていたから何も聞いていませんわ」 最終目的に多少の違いは有れど敵は共通、ならば手を組んだ方が有効だと暗黙のうちに同意した彼らは、澄ました顔で言葉を交わして互いの意思を確認した。 双子神が慇懃に一礼して場を辞そうとした時、デメテルが二人の背に声をかけた。 「タナトス殿、ヒュプノス殿」 「は」 「娘の事、よろしくお願いします」 「…お任せを」 「責任持ってお引き受けいたします」 迷いなく自信に満ちた双子神の言葉に、デメテルは泣き笑いのような表情を浮かべて。 もう一度、お願いね…と呟いた。 |
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| 本当は別のSSで初登場の予定だったのですが、ここでアレスが事実上の初登場となりました。彼のキャラはかなり以前から固まっていたので(ギリシア神話でもキャラ立ちまくりですし)悩まずに話を進める事が出来ました。 そしてヒュプノスがますます空気に…。ヒュプノスは頭は良くても度胸とハッタリが要求される交渉事には向 かないイメージがあります。 最初は、双子神とゼウスが暗黙に手を組んでデメテルを説得(?)する的な展開を考えていたのですが、真っ直ぐなタナトスの性格を考えると、ゼウスに悪役 になってもらった方が話が進めやすいなと思って方向転換しました。原典のギリシア神話でもゼウスはこんな感じの態度だったようですし(それでデメテルはま すます怒ってストを起こしてしまったと言う…)。 この時代は『父親が了解すれば結婚は成立』というのが一般的な考えだったらしいです。なのでゼウスも、大神でありベルセフォネーの父である自分が是と 言ったのだから(言わば法的に何の問題も無く)結婚は成立している、と欠片も疑わず思っている訳です。双子神もその理屈は理解してますが、理解した上で 『それでも花嫁本人とその母の意思や感情を完全に無視して話を進めるのはどーなんだ?いずれ死と言う形で望まない結婚から解放される人間やニンフならまだ しも、神は不死なのに』と疑問と不快感を持ってる訳です。 ゼウスは双子神(特にタナトス)を必要以上に警戒しています。理由の一つに、夜の一族の事実上のリーダーであるタナトスの判断で夜の一族が反乱を起こし たら、自分の地位が本気でやばいと考えている…というのがあります。タナトスを懐柔するつもりでハーデスを冥界に送り込んだら逆に懐柔されちゃった形で、 圧倒的戦力を持つヘカトンケイルとキュクロプスも夜の一族の味方で、彼らを敵に回したら大変だとゼウスは考えているのです。あと、ティタノマキアの最中に タルタロスを訪ねた時の『タナトス怖ぇ』という第一印象を未だに引きずってると言うのも有ります。 |