双子神・神話時代 …冥妃…
EPISODE 8

 冥界の極楽浄土エリシオン。
 その中心に聳え立つ白亜のハーデス神殿の、最奥にある一番豪華な部屋で、ベルセフォネーは真っ白な便箋を睨みつけていた。
 卓の上には四通の手紙が載っている。
 差出人は、デメテル、アテナ、アルテミス、そしてヘカーテだ。
 オリンポスを訪ねた際にベルセフォネーの親友である処女神達と会った双子神は、彼女達に頼まれてアテナやアルテミスの手紙も預かって来るようになった。 最初は冥界に滞在するベルセフォネーを心配していた女神達だが、ベルセフォネーがそれなりに冥界暮らしを楽しんでいると知ると、他愛もないおしゃべりのよ うな内容の手紙を送って来るようになった。
 処女神達がヘカーテと知り合った事、ヘカーテが予想以上に魅力的な女性ですっかり仲良くなった事を手紙を通して知ったベルセフォネーは、『いいなぁ、私もヘカーテさんと仲良くなりたーい』と返事を書いた。
 …かくして、双子神が預かる手紙にヘカーテからの物が混じるようになったのである。
 女神達からの手紙は嬉しいし、返事を書くことに吝かではなかったが、ベルセフォネーが手紙に書ける話題などあっという間に無くなってしまっていた。
 ベルセフォネーは、締め切りを明日に控えながら全く文章を書けていない小説家のような面持ちでうーんと唸ってペンを握り締めた。

(これといった話題、ないなぁ…)

 自分を愛するあまり誘拐と言う暴挙に出たハーデスが(顔も見たくないのなら会わないようにする、と言っていたが)ほとんど会いに来る事も無くて拍子抜けと言うか肩透かしだった事。
 まれに顔を合わせると、名前も色もない花束をくれたり、綺麗な宝石(石だけ)をくれたりした事。そんな彼の行動を、『お好きなアクセサリーに加工して下さい』と双子神がフォローした事。
 ハーデスのプレゼントをありがとうと言って受け取ると、彼は恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに優しく微笑んで、直後に寂しそうな眼をする事。
 冥界の女神エリスやネメシスとの他愛もないおしゃべりが楽しくて、いつのまにか彼女達と仲良くなった事。
 気難しくてお固くて立派な大人だと思っていた双子神が意外に気さくで明るくて茶目っ気のある性格だと言う事…。
 そんなエピソードを手紙に書いた後は、地上の女神達に面白いと思ってもらえるような話のネタが無くなってしまったのだ。
 何せベルセフォネーはエリシオンの外に出る事をきつく禁じられている。色も変化も乏しい冥界の楽園で、形だけでは有れど囚われの身である乙女が経験でき る事など限られていた。冥界の神々が地上の様子を話してくれるから退屈はしないけれど、地上の事を手紙に書いたところでオリンポスの女神達にとっては今更 な話だろう。
 双子神がオリンポスを訪問するのは数日後と言っていた。数日中に『ネタ』を見つけて手紙を書かないと、友人達も返事の出しようがないだろう。

(話のネタ、話のネタ…。ん、もう!エリシオンの中だけじゃ話のネタなんてあっという間に尽きちゃうわよ!誰か何か面白い事でもやってくれればなぁ…)

 無理を承知でそんな事を思って溜息をついた、その時。
 彼女はふと思った。
 …ネタがないなら探しに行けばいいじゃない。
 冥界に攫われたその日に双子神は言っていた、『エリシオンの外は死者を罰する地獄です』と。エリシオンから地獄へどう行くのかは分からないが、ちらりとでも地獄を見れれば良い話のネタになる。少しばかり危険な目に遭ってもそれはそれで一興と言うもの。
 双子神は『地獄は乙女の身で通り抜けられるところではない』とも言っていたけれど、通り抜けるのではなくちょっと見るだけなら大丈夫だろう。
 あっさりと自分の中で納得したベルセフォネーは、善は急げとばかりに立ちあがった。




 …冥界に攫われてきた直後はエリスやネメシスやニンフ達が護衛と監視を兼ねて常に周囲にいたが、最近は良い意味でほったらかしてくれるようになってい た。地上を大飢饉が襲っているせいでハーデスや双子神も死者を迎え入れる仕事に忙しく、ベルセフォネーの行動を一々気にかける様子もない。
 
(私が地獄を見に行くのを冥界の神に見つかったらまずいから、見つからないように気を付けなくちゃね)

 ベルセフォネーは部屋の扉を開けてそっと周囲の様子を伺うと、ドキドキとハラハラで高鳴る胸を押さえつつ、コソコソと音が出そうな足取りで廊下に出た。
 足音を殺すようにそっと廊下を歩き、角を曲がる前に壁から慎重に顔を出して様子を伺い、またコソコソと移動する。
 そんな些細な『逃亡劇』のスリルにわくわくしながら、神殿の正門に続く廊下をそぉっと見回し、念のため後ろも確認して、静かに角を曲がった、その途端。
 バッタリ。
 そんな擬音が聞こえそうなタイミングで、長身の銀髪の男…死の神タナトスと出くわした。

「…あっ…」

 さっき壁から廊下を見た時は誰もいなかったのに…まずい、見つかっちゃった!
 眼を丸くして冷や汗をかき、はっきりとうろたえたベルセフォネーをジト目で見つめて、タナトスははぁーっと溜息をついた。

「…ベルセフォネー様」
「な…何でしょう?」
「エリシオンの外にお出にならなければ、お好きに散策して下さって構いません…と、以前申し上げたかと存じますが」
「え、ええ、覚えてます」
「そうですか、覚えておいでですか」

 片眉をそびやかす銀の神に、自分の返答はまずかったらしいとベルセフォネーは気付いたが、どこがまずかったのか分からず冷や冷やしながら彼の次の言葉を待った。

「もしも…あくまでも、もしも、ですが。姫君がおひとりで外出する目的がエリシオン脱出だったとしても、多少でない不審な挙動をされていても、俺に会った 時に動じることなく平然としておられれば、俺は何も言いません。見なかった振り、何も気付かなかった振りをして一旦別れて、あなたに気付かれないよう後を つけます。…ですが」
「………」
「悪い事を企んでいますと言わんばかりの不審な行動をされた上、俺に会った途端に『しまった見つかった!』と言いたげなお顔で『あっ』などと言われては、 いかに鈍い俺でも異変に気付かない振りは出来ません。『エリシオンの外にお出にならなければ、お好きに散策して下さって構いません』とお話しした事をお忘 れだとおっしゃるのならギリギリ見逃す事も出来ますが、覚えておいでではそれも出来ません」
「そっか…そうですよね…」
「…と言う訳でお尋ねします。ベルセフォネー様、一体どこへ何をなさりに行くおつもりですか」
「どんな大根役者もビックリの棒読みですね」

 見つかりはしたが、連れ戻されたり怒られたりと言う事は無いらしい。
 にこりと笑いつつ話をはぐらかすと、タナトスはますますジト目になってもう一度同じ事を言った。

「ベルセフォネー様、一体どこへ何をなさりに行くおつもりでしょうか」
「お外へ散歩に行くつもりでーす。…で、見逃してくれます?」
「ダメです」
「あ、やっぱり?」

 冥界の神の中でもタナトスは冗談も通じるし話も分かってくれるタイプだからとダメもとで頼んでみたが、流石の彼もこの状況でベルセフォネーを見逃してはくれないらしい。
 はっきりと落胆の表情を浮かべたベルセフォネーを見遣って、銀の神はジト目をやめて口を開いた。

「エリシオンの外は危険な地獄だと申し上げたでしょう。何故そんな危険な場所に行こうとなさったのです?」
「行こうとしたわけではないの。ちょっと覗いてみたかっただけです」
「行くも覗くも大差ありません」
「…だって、アテナやアルテミスやヘカーテさんに手紙を書かなくちゃいけないのに、話題がないんだもの」
「手紙の話題?」
「そう、もうネタ切れなの。書く事がないの!私が手紙に何も書かなかったら、彼女達だってガッカリだし、返事も書きようがないでしょ?あなた達がオリンポスに行く日までもう時間がないもの、何か話題になること探そうと思って」
「はぁ…」
「エリシオンの外に出るなって言うなら、手紙のネタを提供してよ!」

 半ば逆切れ状態でベルセフォネーが訴えると、タナトスは困った顔でしばらく何かを考えていたが。
 承知しましたと頷いた。

「そんなに地獄が見たいならお見せしましょう」
「え?」
「ダメだと言ったところで、遅かれ早かれ貴女は俺達の目を盗んで地獄を見に行くでしょうからね。俺達の不在中に地獄を見に行って何かあったらオオゴトになりますし、そんなことになるくらいなら俺がお供して地獄をお見せした方がマシです」
「わぁ、いいの?本当に?」
「その代わり、二度と我々に黙ってエリシオンの外に行こうとしないとお約束して下さいね?」
「勿論!」
 
 たちまち機嫌を直したベルセフォネーがぱっと顔を輝かせると、タナトスもクスリと笑って、では行きましょうかと歩きだした。




 …死の神にエスコートされてタナトス神殿まで来た時、見覚えのある神が神殿から出て来た。
 緩く波打つ銀色の髪、双子神と同じ底の見えない紫の眼、そしてどこか生真面目さを感じさせる整った顔。夢神オネイロスだ。
 タナトスとベルセフォネーと言う異色の組み合わせに彼は目をぱちぱちさせ、その点を訪ねて良いのか悩むような様子でタナトスに視線を向けた。

「えっ…と、タナトス様。ハーデス様からタナトス様にお渡しするよう頼まれた書類をお届けにあがっておりました。お留守のようでしたので執務室に置いてきましたが…」
「そうか。ハーデス様に取りに来いと言われていたからハーデス神殿に行ったのだが見つからなくてな、不思議に思っていたのだが…」
「どうやら入れ違いになったようですね」
「そのようだな」

 ふたりの会話を聞いていたベルセフォネーは背中を冷や汗が伝うのを感じた。
 運が悪かったら廊下で出くわしたのはオネイロスだったかもしれない。彼に見つかったらほぼ間違いなく部屋に連れ戻されて、監視も付けられていたかもしれない。『脱走中』に出くわした相手がタナトスで良かった…と内心で胸をなでおろした。
 タナトスは、好奇心を隠しきれない目でふたりを見ているオネイロスにしれっとした顔で言葉をかけた。

「オネイロス。俺は今からベルセフォネー様と一緒にケルベロスに乗ってその辺を一周して来る。俺が戻る前にヒュプノスが戻ったらそのように伝えてくれるか」
「…ケルベロスでその辺を一周…ですか?」
「『友達に宛てた手紙に書くネタがないから何か提供しろ』と姫君が仰せなのでな」
「分かりました、お伝えしておきます」

 タナトスとベルセフォネーが一緒にタナトス神殿を訪れた理由に得心がいったらしいオネイロスは、にこりと笑って一礼すると何も疑っていない様子でふたりの前を辞した。
 なるほど、後ろめたい事があっても堂々としていれば疑われないんだ。
 妙に納得しつつベルセフォネーはちらりとタナトスを見上げた。

「あのー、タナトスさん」
「何でしょう?」
「地獄は『その辺』の範疇に入るんですか…って聞いても良いですか」
「ダメです」
「あ、やっぱり」
「…ケルベロスを連れてきますので少々お待ちを」
「はぁい」

 …しばらくして死の神が三つ頭の巨大な魔犬を連れて来た。
 初めて会う女神を警戒するどころかハタハタと尻尾を振る姿を見たベルセフォネーが思わず手を差し出すと、魔犬は女神の手をぺろりと舐めて鼻面を擦りつけた。
 わぁ可愛い、と呟いてケルベロスを撫でているベルセフォネーに感心と意外が混じった目を向けながら、タナトスは手際よくケルベロスの背に鞍を乗せ、ベルセフォネーに手を差し伸べてケルベロスの背中に引っ張り上げると、彼女を鞍の上にそっと座らせた。
 早くもはしゃぎ始めた女神の後ろにタナトスはふわりと腰を降ろした。
 
「では姫君、飛び立ちますのでしっかりと手綱を持っていて下さい。興味を惹かれるものがございましたら近くまで行きますので、余り身を乗り出さないようお願いします。よろしいですね?」
「よろしいですわ、よろしいから早く行きましょう!」
「………。では行くぞ、ケルベロス」

 死の神の言葉に、魔犬はふわりと飛び立った。




 …神の道を通り、嘆きの壁を抜け、冥王の謁見の間ジュデッカを過ぎればそこは死者を罰する地獄だ。
 ベルセフォネーは興味と好奇心で蒼い目を輝かせ、眼下に広がる地獄をきょろきょろと見回してはタナトスを質問攻めにしていた。

「ねぇねぇ、あの赤い滝は何ですか?」
「血の大瀑布です。罪人達が流した血や涙がひとつになって流れ落ちているのですよ」
「じゃああの赤い池は?」
「血の池です。そこから繋がっているのは熱砂の砂漠です」
「タナトスさん、あそこの男の人は何をしているの?さっきからずっと同じような事をしているけど」

 ベルセフォネーの指差す先を見ると、沼の上に広がった樹に繋がれた男が見えた。
 男は沼に身を乗り出したり、そうかと思えば頭上の果物に手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねたりしている。男が何者か知っているタナトスには不思議でもなんでもない光景だったが、事情を知らぬベルセフォネーには奇妙な行動に見えたのだろう。
 …あの男なら近づいても問題あるまい。
 そう判断したタナトスはケルベロスに命じて男に気付かれない程度の距離まで近づいた。
 死の神タナトスと魔犬ケルベロスがすぐ近くにいるなど全く気付かないらしい男は、沼のふちに這いつくばって水を飲もうとした。が、途端に池の水はさっと 引いて行き、男の口が届かない位置でピタリと止まった。男は水を掬おうと手を伸ばしたが、先ほどと同じように手が届かないぎりぎりの位置まで水が引いてし まった。
 水を飲むのを諦めたらしい男は頭上の果物に手を伸ばしたが、男が手を伸ばすと同時に樹は急に高く伸び、果物は彼の手が届かない高さまで行ってしまった。
 好奇心と興味一杯の眼で無言のまま説明を求めるベルセフォネーに、タナトスは静かに男の正体を教えた。

「あの男の名はタンタロス。人間の身でありながら大神ゼウスと親しく友人づきあいをし、ネクタルやアンブロシアを口にして不死の肉体を得ておきながら、愚かにも神を試そうとしたのです」
「神を試すって…何をしたの?」
「自分自身の息子を殺して、その肉を神々に供する料理に入れたのです。無論、神々は料理に入っている肉の正体に気付いて口を付けませんでしたが」
「え…」
「しかもあの男、神を試しただけでは飽き足らず、ネクタルやアンブロシアを盗み出して人間の友人に与えるという愚行を犯したのです。当然のごとくその行いは神々の怒りを買い、その結果が…あれですよ」
「きっと喉も渇いてお腹がすいてるのね、かわいそうに…って思ったけど、取り消すわ。次に行きましょ」
「畏まりました、姫君」

 無駄な努力を続ける愚かな人間に冷ややかな銀の一瞥を投げ、タナトスはケルベロスを飛び立たせた。
 ベルセフォネーが次に目をひかれたのは、山の頂上に磔にされている男だった。

「あ、あそこで鳥が誰かを攻撃してるわ!」
「予言と英知の神プロメテウスです。人間達に火を与えた罪で大神ゼウスに罰せられているのです」
「ふぅーん?」

 禿鷹に腹を裂かれ内臓を喰われると言う光景にも、ベルセフォネーは動じた様子もなく興味深げにプロメテウスを見つめている。
 大人しく控え目な乙女かと思っていたが、外見とは裏腹に気丈で活発な女性なのかもしれない。彼女が冥妃になったら、ハーデスは妻に振り回される日々になるのだろうか…。
 タナトスはちらりとそんな事を思い、ベルセフォネーに振り回される結婚生活を送るハーデスを想像し、それはそれで楽しいかもしれぬと思った。




 ベルセフォネーの気が済むまで地獄を巡ってエリシオンに帰った死の神を出迎えたのは、眉間に皺を寄せて腕を組み仁王立ちした眠りの神だった。
 タナトスがベルセフォネーを抱えてケルベロスから降りるなり、ヒュプノスは苛立ちを隠しもせず詰め寄った。

「『その辺を一周してくる』のに随分と時間が掛かったようだな、タナトスよ」
「ああ、俺も予想外であった」
「………」
 
 ヒュプノスは明らかに怒っているが、それに気付かないはずがないタナトスは全く悪びれずにケロリと答えた。
 金の神の眉間の皺がますます深くなる。
 無言のまま怒りオーラを増幅させる弟神の姿に、兄神は面倒くさそうに口を開いた。

「オネイロスにきちんと言づけたし、俺も姫君に同伴していたし、一体何が問題なのだ?」
「エリシオンの外に姫君を連れ出した事だ!地獄が『そこらへん』の範疇に入ると思っているのか、お前は!!」
「ああ、思っているぞ。俺の基準では、地獄は『そこらへん』だ」
「………」
「価値観の相違についてお前と議論する気は無いわ」

 何か言いかけたヒュプノスの出鼻を挫くようにタナトスは言い捨ててふいっと視線を逸らした。
 話は終わりだと言いたげな死の神に、眠りの神は努めて感情を抑えた声をかけた。

「…タナトスよ。今回の外出はハーデス様に気付かれなかったから良かったが、もしもハーデス様に気付かれて『ベルセフォネーがエリシオンから消えた!!』 と騒がれたらどう責任を取るつもりだったのだ?いくらオネイロスに言付けたとはいえ、『その辺を一回り』で地獄に行っているなどとはハーデス様も私も思い つかぬぞ」
「………」

 タナトスは明らかにギクリとして言葉に詰まり、不貞腐れたように唇を曲げた。
 そんな子供っぽい反応にヒュプノスは盛大に溜息をついて。

「エリシオンの中に閉じ込められていては息が詰まるのは私も理解できる。姫君を連れ出すなと言うつもりは無い。しかしどこに行くかくらいはちゃんと私に伝わるようにしておけ。ハーデス様が騒いだ時に私があの方を丸めこめるようにな」
「………」
「私は兄のお前を信じている。だからお前も弟の私を信じろ」
「…あ…ああ、分かった」

 文句やお説教が来ると思っていたらしいタナトスは意外そうな顔をしつつ素直に頷き、素直に頷いた自分になんだか釈然としないような顔をしていた。
 複雑な顔をする銀の神と、そんな彼を何もかも分っていると言いたげな顔で見ている金の神を交互に見て、ベルセフォネーは訳もなく嬉しい気持ちがこみ上げてくるのを感じて口を開いた。

「タナトスさん、ヒュプノスさん」
「?」
「はい」
「今日は本当にありがとう」

 花が綻ぶような明るく可憐なベルセフォネーの笑顔に、死と眠りの神も柔らかく微笑んだ。
 夜闇と死の眷属とは思えぬほど、優しくてあたたかな笑顔だった。


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星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


  このエピソードは、話を書く途中で多少の方向転換があって出来た一本です。最初はエリシオン脱走を考えたベルセフォネーをタナトスが見つけ て(漫才っぽい会話の予定はありました)、エリシオンの中を散歩しながら話をする、その途中で『儚く消えたハーデスの一度だけの恋』の話も明かす予定でし た。が、予定外のエピソードが挟まったため、タナトスとベルセフォネーのおしゃべりは次々回のエピソードに回します。
 ケルベロスに全く動じないお転婆なベルセフォネーと言うのは、やっぱり『アリーズ』の影響なのかなーと思ったり。
 そして、この話にギリシア神話で有名な罪人を何人か出したいなと思ったのですが記憶があやふや過ぎて見つからず断念しかけたのですが、私の曖昧な記憶だ けで答えを教えてくれた親切な方がおふたりもいらして!お陰さまでタナトス&ベルセフォネーの地獄めぐりの旅がちょっと豪華になりました。感謝感謝です! タンタロスが息子を殺した一件は、丁度ハーデスがベルセフォネーを誘拐した事件でゴタゴタしている真っ最中の事だったらしいですが、このSSでは多少時間 軸を入れ替えています。
 あ、あとプロメテウスが罰を受けているのは冥界ではなく地上なんだそうです。ギリシア神話の知識が聞きかじりでイイカゲンなのがばれてしまったorz。 ええと、星矢の世界のプロメテウスは冥界で罰せられてるってことで納得して下さい。べ、別に、書きなおすのが面倒な訳じゃないんだからね!(笑)
 ハーデスとベルセフォネーの結婚話なのにこのふたりの交流はほとんどなくて、ベルが交流してるのは双子神ばかりですが、ここからどう彼女がハーデスと結 婚する気になったのかは後ほどこじつけ…説明するつもりです。ベルセフォネーが双子神に心を開いて彼らに好意や信頼を持って行ってる、と伝われば幸いで す。
 それと、ベルセフォネーにプレゼントを上げたハーデスが寂しそうな顔をするのは、遠からぬ未来に彼女は自分の元を去ってしまう(そして二度と戻ってこないかもしれない)と思っているためです。そしてベルセフォネーもハーデスが寂しそうな顔をする理由は気付いています。