| 幻想郷に棲む大妖怪、八雲紫に寄る異世界の双子神誘拐事件が解決して数週間後。 死の神タナトスは地上のエルミタージュ洋菓子店を訪ねていた。ハーデスの妃の転生体である龍神秋乃に『美味しいランチを出すお店に行きたいんですけど、ひとりじゃ入りにくいから一緒に来てくれませんか?』と頼まれて快く了解したからだったのだが…。 「タナトスさん、ごめんなさい!」 タナトスが店に入るなり、店長パティシエの龍神秋乃は顔の前で手を合わせて大袈裟に謝罪のポーズを取った。 驚くタナトスに、彼女は申し訳なさそうに言った。 「さっき沙織さんからケーキの注文が入って…その準備をしなくちゃいけないので、約束してたお店に食事に行く時間が取れなくなっちゃったんです。わざわざ来てもらったのにごめんなさい」 「いえ、そんな…お仕事なら仕方ないでしょう。そのような理由で謝罪などなさらないで下さい、俺の心臓に悪いです」 いくら記憶を無くしているとは言え、冥妃が臣下である自分に謝罪するなど一体何が起きたのか…と内心ひやひやしていたタナトスは、思わずほっと安堵の息を吐いて笑顔を見せた。 「では手軽に食べられるものでも買ってきましょうか。それとも俺が何か作りましょうか?」 「え!タナトスさん、料理できるんですか?」 「趣味の延長線程度ですから簡単なものですが」 「わぁ…じゃあお願いしちゃおうかな。厨房の冷蔵庫にスタッフの食事に使う材料も入ってるはずなんですけど…」 何が入ってたかしら…と呟きながら秋乃が厨房に入って行った時。 ゴン、ゴンゴン。 店のドアがノックされて秋乃とタナトスは怪訝そうな顔になった。『CLOSED』の札が下がっているドアをわざわざノックするということは秋乃に用事がある人物が訪ねて来たという事だろうが、店が無人になることも珍しくないのでアポ無し訪問と言うのは考えにくいが…。 そんな事を考えながらタナトスがドアを開けると、蒼い髪をワイルドに逆立てた若い男…蟹座のマニゴルド(しかも何故かピザ屋のチラシを持っている)が顔を覗かせた。 彼はドアを開けたのがタナトスだと気付いて不思議そうな顔になった。 「あれ?タナトス様?何でアンタがいるんだ?」 「それはこちらの台詞だ。俺が冥妃様を訪ねるのは普通だが、お前がこの店を訪ねるのは普通ではないぞ。閉店中の店に入ってくるなど一体何の真似だ?まさかとは思うが、秋乃様に良からぬ下心を持って近づこうなどと言う魂胆…」 物騒な勘繰りを始めたタナトスが穏やかではない小宇宙を纏い始めたので、マニゴルドはわざとらしく彼を無視して厨房にいた秋乃に声をかけた。 「おーい店長!ちょっとばかり遅れちまったけど、アテナが依頼したケーキ受け取りに来ましたぁー!!」 「え?」 「ん?アテナが依頼したケーキ?」 マニゴルドの言葉に秋乃はきょとんとし、彼の言葉を反芻したタナトスは眉間に皺を寄せて考え込んだ。 タナトスはともかく秋乃の奇妙な反応に今度はマニゴルドが怪訝そうな顔になると、タナトスが何とも言えない微妙な顔で秋乃を振り返った。 「秋乃様。アテナからの依頼の品はこれから準備するとおっしゃっていましたが…それとは別に注文があったのですか?」 「いいえ、私が沙織さんから注文を受けたのは一件だけです。『今日の夕方五時半に使いの者を引き取りに向かわせます』って言われたのでそのように準備するつもりだったんですけど…」 「へ?今日の夕方五時半?俺は十一時半って聞いたんだけど」 「…どこの標準時に基づく十一時半だ?お前、ギリシアあたりで指示を受けたのか」 「ンなワケねーだろ、俺は蘇ってからずっと日本で暮らしてるんだしよ」 「何か行き違いでもあったのかしら…」 秋乃が不安そうに呟き、マニゴルドはますます混乱した顔でこめかみをグリグリと押した。 「え、ちょ、マジで訳わかんねーんだけど、何がどーなってんだ?」 「アテナが秋乃様に依頼した時間が間違っていたとは考えにくいが、マニゴルドに間違った指示を出すとも思えん。どこかで勘違いか行き違いがあったのだろうな。マニゴルド、一度アテナに確認したらどうだ?」 「そうだな、そーすっか」 タナトスの言葉に頷いたマニゴルドは携帯を取り出して電話をかけたが、どうやら相手は出なかったらしく困り切った顔で電話を切った。 「駄目だ、繋がんねー。参ったなオイ」 「しばらくしたら折り返してくるだろうし、連絡が取れるまでここで待たせてもらえば良かろう」 「仕方ねぇ、お言葉に甘えっか。あーあ、一体どこで話が食い違ったんだろうなぁ」 「本当、何か間違えたにしてもどうして夕方五時半とお昼なんでしょう?このお店は深夜まで開いていますから午前と午後を取り違えたならまだ分かりますけど」 「そうですね」 秋乃の尤もな疑問に頷いたタナトスは何気なく店の時計に目をやった。 時計の針は午前11時50分を指している。 秋乃が指定されたのは夕方の五時半で、マニゴルドが指示されたのは十一時半。確かにエルミタージュ洋菓子店は深夜まで営業しているが、夜の十一時半に ケーキを引き取りに来るとは考えにくい。もし何らかの事情があって夜の十一時半を指定するのなら、間違いのないように『夜の十一時半』もしくは『二十三時 半』と言うだろう。…………。 そこまで考えてタナトスはハッとした。 「…マニゴルド。お前がアテナから指示を受けたのは電話か?それともメールか?」 「ん?電話だったぜ。今日の十一時頃に携帯に電話がかかってきてよ、何でそんな急なんだ、もっと早く連絡してくれよとは思ったけど、夜の十一時半って発想はなかったから急いで来たんだけど。それがどうかしたか?」 「ではアテナは、受け取りの時間について『昼の』もしくは『午前の』とは指定せず、『十一時半』とだけ言ったのだな?」 「そう、だけど…」 「ひょっとして、お前」 タナトスは眉根を寄せて微妙極まりない顔で言った。 「『ジュウシチジハン』と『ジュウイチジハン』を聞き間違えたのではないか?」 「へ?」 「あっ!」 タナトスの言葉にマニゴルドは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり、秋乃は顔を輝かせて手をポンと打った。 「そうか、それなら納得です!確かにイチとシチは発音が似てますもんね」 「っあー!すれ違いの理由はそれか畜生!つかアテナよ、何でまた『午後五時半』じゃなく『十七時半』なんて言うんだよ!紛らわしいじゃねーか!!」 「二十四時間体制で動く聖闘士のお前には、二十四時間単位で指示した方が確実だと思ったのではないか?…見事に裏目に出たようだが」 「だったら日本語じゃなくギリシア語で指示してくれよ、俺はまだ日本語に慣れてねーんだからよーー!!」 マニゴルドが手にしていたチラシを握り潰してこの場にいない沙織に文句を言っていると、彼の携帯が鳴りだした。噂をすれば何とやら、という奴だろうか。 着信画面を見たマニゴルドは何とも言えない顔で通話ボタンを押した。 「はい、マニゴルドです。…ええ、先程の任務について確認したかったんですけど、ケーキの引き取りって午後の五時半なんですね?…『そう言ったでしょ う』って…お言葉を返すようですがねアテナ、俺に指示を出した時は『午後五時半』じゃなく『十七時半』って言いましたよね?……ええ、そのまさかですよ。 何か知らねーけどタナトス様まで店にいて、危うくあらぬ疑いかけられるとこでしたよ!」 どうやらタナトスの推理通り、マニゴルドがシチジとイチジを聞き間違えたというオチだったらしい。 見事な骨折り損のマニゴルドに秋乃とタナトスが同情の眼を向けていると、電話を切ったマニゴルドがグッタリした顔で携帯をポケットに戻した。 「そーゆー訳で店長。会話は聞こえてたと思いますけど、タナトス様の推理通り俺の聞き間違いでしたわ。お騒がせしてしてすいませんでしたね、夕方にまた来ます」 ひらり、片手を振って店を出ようとしたマニゴルドに秋乃が声をかけた。 「あ、マニゴルドさん。お昼ご飯まだですよね?」 「そっすよ。十一時に電話が来て真っ直ぐここに来ましたから」 「じゃあ私達と一緒に如何ですか?タナトスさんが作ってくれるんですって」 「タナトス様が?アンタ、料理なんて出来んのか?メイドに全部やらせてるイメージしかねーけど」 「冥妃様に付き合わされて覚えた故、趣味の延長線上だがな。口に合う保証はせぬが、食べられぬ事はないと思うぞ」 「へー。じゃあせっかくだから御馳走になるとしますかね」 魅力的な美人から食事に誘われたなら、例えその女性がハーデスの妃だろうが死神様が同席してようが受けるのが男ってもんだろ。それにタナトス様の作る料理にも興味はあるしな。冥妃様にも食わせるものだ、食って命にかかわる事はねーだろ。 そんな事を考えながら頷いたマニゴルドは、自分がまだチラシを握っていることに気付いた。 「あ、ところで店長。ゴミ箱どこですか?ここ来た時にドアにチラシが挟まってたんでついでに持って来たんですけど、うっかりクシャクシャにしちまってさ」 「何のチラシだ?」 「ん?デリバリーピザだよ」 「ほう…それが噂のデリバリーピザとやらのチラシか」 タナトスは興味津々と言う顔でピザ屋のチラシを受け取ってしげしげと眺めた。子供のように熱心にチラシを見る死神の姿は妙に微笑ましくて、秋乃はにこにこしながら尋ねた。 「ひょっとしてタナトスさん、デリバリーピザを食べたことないんですか?」 「ええ、ないです。どんなものか非常に興味があるのですが、エリシオンまで配達させるのは無理ですからね。一度食べてみたいと思っているのですが」 「おいおいタナトス様、デリバリーピザに期待しすぎじゃね?俺、星矢の家で飲み会やった時に食ったけど、配達されるってだけで至って普通のピザだぜ?結構いいお値段する割に味は普通だしよ。俺が作ったピザの方がまだ美味いんじゃねーかな」 「そうなのか…」 マニゴルドのコメントに曖昧な返事をしたタナトスはまたチラシに視線を戻した。『高い割に味は普通』と正論を言われても、気になるものは気になるのだろう。 秋乃はにこりと笑って二人に声をかけた。 「じゃあ、食べ比べしてみましょうか」 「「食べ比べ?」」 「そう。デリバリーピザとマニゴルドさんお手製ピザ、どちらが美味しいか食べ比べ。厨房には小麦粉もイースト菌もチーズもあるし、基本的な材料は揃ってますから…どうかしら?」 「ふむ…面白そうですね」 「タダ飯食わせてもらうのも悪いですからね、そのくらいはお安いご用ですよ」 「じゃあ決まりですね。私はそろそろ自分の仕事に掛からないといけないから、宅配ピザはタナトスさんにお任せします。あ、代金はレジのお金で払って置いて下さいな」 「え?あの、」 「そうそう、私はチキンとか生ハムの載ったピザが好きだなー」 困惑顔のタナトスが声をかけたのをわざとらしくスルーして秋乃は厨房に入ってしまった。 投げっぱなしでほったらかしにされたタナトスは、ますます困惑した顔になってマニゴルドに目を向けた。 「任せると言われたが、俺は具体的にどうすればいいのだ?」 「どうって…ピザ屋に電話して食べたいピザ注文すればいいだろ。店長の好みに合わせるならチキンか生ハムの載った奴を選んでさ」 「チキンか生ハム…」 「ンな真剣に悩むこっちゃねーだろ。…ちょっとチラシ見せろや。あーほら、あるじゃねーか『照り焼きチキンピザ』とか『生ハムとフレッシュチーズのピザ』 とか。俺もピザ焼くしタナトス様も何か作るんならそんなたくさんはいらねーから、Sサイズ二枚かMサイズのハーフ&ハーフ一枚で十分だな。あとサイドメ ニューで何か食いたい物があればそれも注文すればいいだろ。あ、俺フライドチキンな。この、フライドポテトとセットになった奴頼むわ」 「ふむ。『照り焼きチキンピザ』と『生ハムとフレッシュチーズのピザ』をMサイズのハーフ&ハーフで一枚。それからフライドチキンのセットだな」 マニゴルドにレクチャーされたタナトスが真面目に注文品を指差し確認していると、秋乃が厨房から顔を覗かせた。 「私チュロスで!チョコソースのついた方お願いしまーす」 「…だとよ」 「チョコソースのついたチュロス?どれだ?」 「裏面に載ってるコレだろ。ほれ、電話番号もここに載ってるからあとは店に電話して注文するだけだ。店員が『ピザのご注文をどうぞ』とか『サイドメニュー は注文しますか?』とか一々聞いてくるからそれに答えるだけの簡単なお仕事だぜ。あ、この店の住所と電話番号を聞かれるけどそれは覚えてるか?」 「ああ」 「なら問題ねーや。んじゃ俺もピザ作りに入りますかね。…おーい店長、何がどこにあるか教えてくれや」 厨房に入りながらマニゴルドが振り返ると、至って真剣な顔で店の電話を取るタナトスの姿が見えた。 材料の場所とオーブンの使い方をマニゴルドに教えながら店の売り場を覗いた秋乃は、大真面目な顔でピザを注文しているタナトスの姿にクスリと笑った。 「うふふ、なんだか『初めてのお使い』みたいで微笑ましいですね」 「泣く子も黙るタナトス様にピザの注文なんて雑用させるなんざ、貴女じゃねーと出来ない芸当だな」 「あらっ、そんなことないですよ。星矢さん達も『飲み会やるから何かツマミ持って来てくれよ』って気軽にタナトスさんに頼んでますし」 「…さっすが神殺しの天馬星座、豪胆だな」 「タナトスさんも口ではブーブー言ってますけど、それはそれで新鮮で楽しいみたいだから良いんじゃないかしら」 「ほんと、時代は変わったんだなぁ…」 しみじみと実感しながらマニゴルドが手際よくピザ生地の材料を用意し始めると、電話を終えたらしいタナトスが厨房に入ってきた。 「ピザ屋が言うには、『少しばかり注文が立て込んでいるので配達時間は一時半頃』だそうです」 「そっか、週末だから忙しいんですね」 「逆に丁度いいぜ。今からピザ作ったら出来上がるのはそのくらいの時間だしな」 「ピザとは作るのにそんなに時間がかかる物なのか?宅配ピザは注文してから30分で届くとか言っていたが」 マニゴルドの隣に来たタナトスが、小麦粉やオリーブオイルの入ったボウルを覗きこんで怪訝そうに尋ねた。 「作業する時間は短いけど捏ねた生地を発酵させる時間があるからな。ピザ屋は発酵まで済ませた生地をスタンバイさせてるから30分で配達できんじゃねーの?」 「ほう…」 タナトスは銀色の眼を瞬き、好奇心いっぱいの顔でマニゴルドの作業を眺め始めた。かつて敵として相対した神に間近からガン見されるのは落ち着かないが (抑えてはいるが彼が放つ小宇宙は凄まじい威圧感があるし)、子供のように無邪気な表情で見つめられては追い払うのも悪い気がする。 しばらく我慢したが気恥かしさとくすぐったさが限界を超えて、マニゴルドは、生地を捏ねる手を止めてタナトスを見た。 「アンタもやってみるか?ピザ作成」 「ん?」 「そんな難しいもんじゃねーし、食べきれなかったら土産で持って帰ればいいし、ピザを待ってる間アンタも暇だろ。ほれ、これ使え」 マニゴルドはある程度まとまったピザ生地を作業台に移して、空いたボウルをタナトスに渡した。 「そこに材料が置いてあるから。まず小麦粉な。『強力粉』っつーのをそこのカップで一杯、『薄力粉』をカップに半分。それからオリーブオイルをスプーン二杯、塩と砂糖を…あ、服の袖はずり落ちないようにまくっておけよ」 「む」 「かるくグルグルっと混ぜたら水投入な。大体カップに一杯が目安だが、少なめに入れて様子を見ながらにした方が良いぞ。で、水を入れたら捏ねる」 「捏ねる?どうやってだ?」 「粉と水分を馴染ませるように、こう、ギュッギュッと…」 マニゴルドが擬音と身ぶり手ぶりでレクチャーすると、飲みこみの早いタナトスは見よう見まねではあるがそれなりの手つきで生地を捏ね始めた。 …二人が生地を捏ね終わると、マニゴルドは丸めた生地に布を被せた。 「この後は30分くらいほったらかして発酵させる。と言う訳で、今のうちにピザに乗っけるもん用意しとくかね」 「30分か。そうなると本当に簡単なものしか作れんな」 ピザ以外に何か作るというタナトスの予定に変更はないらしく、彼はスタッフの賄いを作るスペースに向かった。店にある食材は好きに使っていいらしいので、マニゴルドもタナトスについて行って食材を物色し始めた。 「頼んだピザが肉系だかんな…ジャガイモと茄子とトマト乗っけて野菜メインにすっか。チーズは良いもん揃ってるから、卵でも足せば充分だろ」 「ふむ…肉と野菜と卵が既にあるなら、被らない食材はシーフードくらいか」 「ツナ缶あるけど使うか?」 「いや、ツナはチキンと似たような味だからな。こちらにしよう」 「明太子?」 「生クリームがあるからクリームパスタでもしようかと思ってな。しかし明太子だけでは物足りんな、イカでもあればいいのだが…」 神様の道楽かと思いきや案外まともな料理を作る気らしいタナトスに感心しつつ、マニゴルドは野菜と卵を持って作業台に戻った。 …ジャガイモとトマトの皮をむき、卵を茹で、オーブンの様子見を兼ねて茄子とジャガイモを軽く焼きあげる頃には生地の発酵も終わっていた。マニゴルドはケチャップと塩胡椒を用意しつつパスタを作る準備をしているタナトスに声をかけた。 「おーいタナトス様、成形とトッピング始めるけど手ェ離せそーかぁ?」 「ああ、問題ない」 「んじゃ、発酵の終わったピザ生地をだな…」 マニゴルドはピザ生地を軽く捏ねてガス抜きをして、麺棒で丸く伸ばし始めた。 彼の真似をして生地を伸ばしながらタナトスは不思議そうに首を傾げた。 「ピザ生地とは、こう、宙に投げて伸ばすものではないのか?」 「アンタ、テレビの影響受け過ぎ。毎日朝から晩までピザ作ってる職人ならともかく、素人がンなことやっても失敗するだけだぜ。やりたいなら止めねーけどよ」 「そうなのか…」 「さ、生地を伸ばしたらオーブン用のトレイに移して、フォークでちょいと穴開けて、ケチャップ塗って具とチーズを載せたら後は焼くだけだ。この分だとピザ屋のピザが届くのと一緒くらいに焼き上がりそうだな」 「ふむ…案外ピザは簡単に作れるのだな。少々手のかかるクレープと言ったところか」 「所詮は庶民の食いもんだからな。材料とかオーブンとかに凝りだしたら際限なく凝れるだろうけどよ。よし、野菜と卵のピザ一丁上がりっと」 マニゴルドはタナトスのピザも一緒にオーブンに入れてパンパンと手を払った。 …オーブンに入れたピザが良い香りを漂わせ始めた頃、店のドアがノックされた。 「お待たせしました、ピザーヤです〜」 「おいタナトス様、ピザが届いたぜ」 「!」 「じゃあ私、飲み物の準備しますね」 「………。おい、マニゴルド」 タナトスはパスタがもうすぐ茹で上がる鍋を見て、ソースがいい感じに煮詰まっているソースパンを見て、のんびりオーブンを覗いているマニゴルドに声をかけた。 「何すかぁ」 「俺はピザを受け取って来るから後は任せる。ソースに味はついているから、パスタが茹で上がったら混ぜるだけだ」 「は?え、ちょ」 後は任せるってアンタ…と突っ込む間もなく、タナトスはピザを受け取りに厨房を出て行ってしまった。 仕方なくマニゴルドは死神がほったらかして行ったソースパンの前に立ち、焦げないように混ぜながら鍋のパスタを一本口に入れた。 (パスタはもうちょっとだな。それはそうとソースに入ってるこれは何だ、イカか?あちこち茶色いけどわざわざ焦がしたのか??いやまぁ確かに、焦げてても食えねぇことはないだろうけど…) そんな事を考えているうちにパスタが茹で上がり、マニゴルドはパスタとソースを混ぜて皿に盛りつけ、ついでに近くに置いてあった刻み海苔もトッピングした。同時に、完璧なタイミングでピザが焼き上がって、マニゴルドはオーブンを開けてお手製ピザを取り出した。 飲み物を持って来た秋乃が眼を閉じてうっとりと微笑んだ。 「わぁ、美味しそうな匂いですね!」 「材料が良いですからね、美味いと思いますよ。さ、熱いうちに食べましょーや」 二人が飲み物とピザとパスタを持って店のイートインスペースに入ると、タナトスが届いたピザの箱を早速開けてチラシと見比べていた。 「何だか…写真と違うな」 「チラシはトッピングを見せるためにチーズがかかってない状態で撮影してるからじゃないかしら」 「写真と実物が違うなんて珍しくも何ともねーだろ。いいから食おうぜ、腹も減ったしさ」 「それもそうだな」 …早速デリバリーピザを齧ったタナトスは、一切れ食べ終わって小首を傾げた。 「…ふむ。確かにマニゴルドの言うとおり『普通』だな。若干味が濃いような気もするが」 「だろ?宅配ピザは、届くまでのワクワク感に金払ってるようなもんだからな」 「マニゴルドさんとタナトスさんの作ったピザ、美味しいですね。何枚でも食べちゃいそう」 「意外に簡単でしたから、美味いピザの作り方を研究してみましょうか」 「おー、いいねぇ。良い研究結果が出たら俺にも食わせてくれよ」 軽口を叩きながら、マニゴルドはタナトスお手製の明太子クリームパスタ(焦げたイカっぽいものが入っている)を口に入れて少なからず驚嘆した。 何だコレ。美味い、マジ美味い。材料が良いのかもしれないが、それにしても専門店のパスタより美味い。神様の手料理パねぇ。それからこの焦げたイカだと思ったもんは何だ? マニゴルドが『焦げたイカ』の正体を尋ねようとした時、秋乃が先に尋ねた。 「タナトスさん、このイカみたいなクニュクニュしたのは何ですか?」 「ああ、それは竹輪ですよ。イカがあれば良かったのですが無かったので…魚から作るから概ね似たようなものでしょう」 「チクワかよ。道理で焦げ目がついてるはずだぜ」 「へぇ〜。眼から鱗のナイスアイデアですね、すごく美味しい!ピザよりお手軽だし、スタッフのまかないで作ろうかなぁ」 「俺も童虎やシオンと飯食う時に作ってやろうかね。良い話のネタになるしな」 かくして、イチとシチの聞き間違いに端を発した奇妙な『ピザ会』は、タナトスが作った竹輪入り明太子のクリームパスタが話題を攫って終わった。 と、マニゴルドは思っていたのだが…。 |
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この話は、サイトのカウンタ5555のキリリク用に作った話です。「カウンタ5555を踏んだ方のリクを受け付けます!」と宣言したところ、コラボでご
一緒させて頂いてる蝶様が「5554でアクセスした時に間違えて更新ボタンを押して5555になる」というナイスオチが付いたという経緯があります(ちな
みに、5556もリクを受け付けましたがこちらは名乗り出る方がいらっしゃいませんでしたorz)。 で、蝶様から頂いたリクの片方が「タナトスとマニさんのコメディ」でしたので、幾つかあるネタの中から比較的短く纏まりそうなピザの話を持ってきまし た。この話は、近所の本屋で何気なく『銀の匙』のお試し版を読んだら、主人公八軒君がピザを作る話が収録されてまして、「タナトスもピザとか張り切って作 りそうだなぁ」「ピザと言ったらイタリア、マニさんもピザくらい作れそうだよね」と言うイメージが膨らんでできました。ちなみに竹輪入り明太子のクリーム パスタが美味しいかどうかは、私は作ったことが無いので分かりません(笑)。蝶様の地元では有名な竹輪があるそうで、いつの間にか当サイトのヒュプは竹輪 が好物と言う裏設定が出来て、タナトスがパスタに竹輪を入れたのも多分その辺の理由があるんだと思います。 そしてこの話の時間軸はコラボと林檎・生誕の間、地上に蘇ったマニさんがタナトス相手に漸く打ち解けてトゲトゲしなくなった頃を考えています。なので秋乃の事も『秋乃さん』ではなく『店長』と呼んでいます。 後、タナトスが『黄金聖闘士のマニゴルドがアテナの使い走り?』と不思議がり、マニさんが『元・黄金だし、(キャラ紹介設定に書いてある理由で)聖衣は 与えられてないし、現在の地上に不慣れな自分が出来るのはアテナのお使いくらいなんだよ』と若干フテ気味に返すエピを入れる予定でした。おさまりが悪く没 になりましたが、この話の時点ではまだマニさんはタナトスのマネージャーやってません。ピザの一件を通してタナトスとマニさんが打ち解ける過程を書けたら な、と思っています。 |