| …で、だ。 軽くアルコールが入ったのと皆の緊張がほぐれて来たのとで、茶会はタメ口も混ざりながら和気あいあいムードで盛り上がっていたんだが、爆弾と導火線を用意したのは予想外の奴…俺が常識人だと認識していた天秤座の玄武だった。 「そう言えばシラー、前回タナトス様と茶会をした時は結婚式の新郎みたいな恰好で参加したらしいな。ハービンジャーが『シラーがタナトス神にプロポーズしたらどうしようと思った』とか言ってたが」 「そーそー、白いスーツに蝶タイに薔薇の花束持参だったんだよ」 「あの時は絶対に失礼があっちゃいけない!ってテンパってたからねぇ…『正装なら間違いないだろう』って思っちゃったんだよね」 「何だ、やらかしちまったっつー自覚はあったのか」 「今になって思えば、肩に力が入りすぎてたなぁと思うよ」 恥ずかしそうに苦笑するシラーを見て、俺は驚きと同時に安心していた。 俺の後輩があんなド変態で一体どうしてくれようと思ってたんだが、テンパリすぎてやっちまったっつー自覚があって、普段は行儀が良いなら特に問題はねーやな。シオンの任命責任まで疑っちまって悪かったなぁ。 …なーんて俺の一時の安寧はパラドクスによってあっけなく破られた。 ワインが入ってうっすらと頬を染めた双子座は、ニコニコ笑いながら導火線に油をぶっかけて火をつけるような真似をしてくれやがった。 「ねぇねぇシラー。あなたは『タナトス神のご希望に応じて右でも左でも変幻自在』って言ってたわよね。丁度いい機会だから、あなたを相手にした時のタナトス神のお望みは右側か左側か伺ってみたらどう?」 一瞬場が静まった。 女神達の眼がキラーンと光り、玄武と俺は目を剥いて、双子神様は絶句し、シオンと童虎はきょとんとし(右側左側の意味が分からなかったんだろう)、シラーとハービンジャーは現状維持だった。 俺は全力で祈った。 馬鹿牛、お前が空気読めねぇのは知ってるが頼むから今だけは空気読んでくれ。それから意外にマトモだったシラー、パラドクスが油ぶっかけた導火線をサクッと切ってくれ、今すぐ!! 祈りの小宇宙を燃やす俺の横で、マジで空気を読めない牛が不思議そうに首を傾げて言った。 「そんなこと聞いてどーすんだよ」 お、予想外のファインプレーじゃねーか、牛!よしよし、そのままこの話はお流れにしようぜ。 …と思った次の瞬間。 「シラーは『タナトス神とヤリたいとかそっち方面の欲求は無い』って言ってたぞ。あ、でも『お望みなら受け入れる事に吝かじゃない』とも言ってたっけ?」 おい牛ぃぃぃぃぃ!! ボーボー燃えてる導火線を爆弾に近付けてんじゃねぇ!!さり気にシラーも馬鹿牛になんつーこと言ってやがるんだ!!! …と、俺が怒鳴ろうと口を開けると同時に椅子を蹴立てて立ち上がった玄武がハービンジャーを渾身の右ストレートで殴り飛ばした。 「ライトニングボルトぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 ドゴォッ!! 「どぅわぁ!?!?」 「一体何を言ってるんだ、お前達!!」 …掛け声には異論が無いことも無いが、ナイスツッコミだ玄武。良くやったぞ常識人。流石は童虎の弟子だぜ。 殴り飛ばされた牛は床にへたり込んだまま、心の底から不思議そうな顔で、仁王立ちで唇を引き結んで拳を震わせている玄武を見遣った。 「いってーなオイ!いきなり何すんだ玄武!?」 「質問に答えろ!一体何を言ってるんだ、と聞いている!」 「はぁ?何がだよ??」 「シラーがタナトス神相手なら右でも左でも受け入れることに吝かではない、だと?そんな話、俺は聞いてないぞ!!」 「ちょっと待てぇぇぇぇ!突っ込むのはそこじゃねーだろぉぉぉ!!!」 「全くもってマニゴルドの言う通りじゃな」 俺が思わず絶叫すると、腕を組んだ童虎が深々と頷いた。 おお、あの頃は猪突猛進青二才だった童虎がすっかり貫録身につけて立派になったもんだぜ。頼もしい事この上ないな、やっぱりこいつに来てもらって良かったぜ。 「師匠がいるんだから俺が出しゃばるべきじゃねーやな。バシッと言ってやれ、童虎!」 「うむ。…玄武よ」 「はい」 「突っ込みを入れる時の掛け声は『何でやねん』じゃぞ。それからここは冥妃様のお店、壊すような事をしてはならん」 「ちげーし!バシッと言うとこそこじゃねーし!!脳年齢は四十くらいだろうに真剣にボケ入り始めてんのかよ童虎ぉぉぉぉ!!!」 「そうなのか。じゃあ言い直そう。『なんでやねん!』シラーとハービンジャー!!」 玄武はズビシッと牛と蟹を指差して言った。 …待て待て待て待てマジで待て。 玄武、お前は、お前だけは常識人だと思ってたのに…いや、三馬鹿に進んでくっついてくる時点でコイツも変人属性持ちだってことに気付くべきだった。今になって悔やんでも遅いけどよ。後から悔いるから後悔とはよく言ったもんだけどよ!! もう一人の重鎮シオンは完全に呆気に取られて思考回路がフリーズしてるし、俺の最後の希望は蟹座の後輩シラー、お前だ。意外にマトモだったお前が適当に茶ぁ濁してくれれば…。 シラーは蒼い眼をきょとんと瞬いて口を開いた。 「玄武が今の話を聞いてないのは当たり前だよ、話してないからね」 「だから!俺にだけその話をしてないのは何故なんだと聞いているんだ!」 「だって聞かれてないし。聞かれてもいないのに僕からわざわざ話す内容でもないだろ?それに聞かれたら正直に答えたよ?ハービンジャーとパラドクスは聞かれたから答えただけだから君にだけ黙ってたってわけでもないし…何をそんなに怒ってるのさ?」 「それ、は…」 「なんでやねぇぇぇん!!!!」 「うわぁっ!?」 バキッ!! 今度はハービンジャーがシラーを殴り飛ばした。完全に不意をつかれたらしいシラーは壁際まで吹っ飛ばされて、殴られた頬を押さえて半ば涙目になりながらハービンジャーを睨みつけた。 「ちょ…いきなり何?痛いじゃないか!」 牡牛座渾身の右ストレートをまともに食らって『痛いじゃないか』で済むあたりコイツもっぱり黄金なんだな…とか妙な感心しつつ、何で牛がシラーを殴り飛ばしたのか分からずにいると、ハービンジャーはつかつかとシラーに歩み寄ってその胸倉を掴みあげた。 「『何をそんなに怒ってるのさ?』じゃねーだろ!玄武は他の連中よりお前に近いところにいる仲間だろ!お前のダチだろ!俺とお前とパラドクスと玄武が『仲 良し四人組』で皆に認識されてることくらい、ムカつくことに俺の『シラーの相方ポジ』がコイツに奪われかけてるって皆が思ってることくらい、お前だって 知ってるだろ!?そこまでお前の近くにいる仲間に『聞かれなかったから言わなかった』なんてあんまりだろーが!俺が玄武の立場だったら絶対へこむし怒る ぜ、『どうして俺にだけそんな大事なこと話してくれなかったんだ、俺が思ってるほどシラーは俺をダチだと思ってくれてねーのか?』ってよ!」 「ハービンジャー、お前…普段は『シラーの相方ポジは譲らねぇ』とか言ってるくせに、何なんだ…クッ」 「…………」 「あらあらハービンジャーさん、そんなにシラーを怒鳴っちゃかわいそうよ。恋愛に絡む悩みはデリケートだもの、仲が良いから何でも話せるというものでもないわ。無神経…ああいえ、おおらかなあなたにはピンとこないでしょうけど」 …ええと。 一連の流れに童虎は感心してるし玄武は感激してるしシオンは頭抱えてるし双子神様は不気味な無表情だしヘカーテ様は目ぇキラキラさせてるしエリスはテー ブルに突っ伏して痙攣してるし秋乃さんはこっそりOKサイン出してるし、一体どこがOKなんですかどう見てもNGでしょーよ、つーか俺は一体どこからどう 突っ込めばいいんだよ。正直俺ひとりじゃ突っ込みが追い付かねーんですけど! 俺が真剣に悩んでいることなど気付く風も無く、パラドクスは愛情に溢れた目をシラーに向けた。 「でもシラー、あなたも一つ間違いを犯しているわ」 「…何?」 「蟹座の聖闘士は、吹っ飛ばされた時は『あじゃぱー』って叫ばないといけないのよ」 「はぁっ!?本当なの、マニゴルド先輩!?」 「違う!それは違う!!俺もそんな台詞言った事ねぇし!!」 「ちょっと待てマニゴルド。言われてみれば、シラーの師匠であるデスマスクは『あじゃぱー』と叫んでおったぞ。じゃからパラドクスの言う事もあながち間違いでは…」 「ええっ!?」 「余計な事言うんじゃねーよ童虎!変なとこで素直なシラーが信じたらどーすんだ!!俺にまでいらねぇとばっちりが来るんだから『蟹座』でひとくくりにすん じゃねーよ!つかシオン、お前は教皇だろ!部下共が冥界の神様の前でこんだけボケかまして恥さらしてんだぞ、ガツンと叱り飛ばせよ!しっかりしやがれ、い つまで頭抱えてるんだぁぁぁ!!!」 俺が思わずシオンに喚き散らすと、頭を抱えてテーブルに突っ伏していたシオンが目を渦巻きにしたまますっくと立ち上がって両手を頭上に掲げて叫んた。 「うろたえるな小僧どもーーーーー!!!」 「一番うろたえてるのがお前だぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「先輩も相当うろたえてると思うけど。水でも飲んで一度頭を冷やしなよ、これは神様を交えた茶会だよ?真っ当な理由も無く席を外して暴力沙汰を起こして大声張り上げるなんて失礼だと思わないかい?」 「おー、確かにシラーの言う通りだ!」 「そうだな。予想外の話題が出たとは言え、黄金聖闘士が取り乱し過ぎて見苦しい姿を見せてしまった」 「本当にね。あなたの行動はこの間のシラー以上に問題だわ、マニゴルド先輩」 「…………………」 え、ちょっと待ってくれよ。何この空気。俺が悪いみたいな雰囲気なんですけど。俺が悪いの?小僧どものボケに突っ込んだ俺が悪いの?? そう思って重鎮達を見回すと、童虎はウンウンと頷いてるし、シオンは真っ白で放心してるし、双子神様は能面状態だし、女神様達はプルプル震えてやがる。ヒュ プノス様が能面なのはいつものことだが、タナトス様まで能面と言うのは相当だ。普段は喜怒哀楽を遠慮なく表に出して感情が分かりやすい分、弟様と並んで無 表情になったタナトス様なんて超がつくレアな光景だ。 もう突っ込む気力も失せた俺はシラーに出された水を一気飲みして椅子に座り直した。ま、『女神達のウケを取る』っつー茶会の目的は達したから、これ以上 身内の恥を晒す前にお開きと行きたいところだぜ。さてどうやって締めに入ったもんかね…と俺が考えていると、自分の席に戻ったシラーがとどめを刺してくれ た。 「それで、タナトス様。随分と話が横に逸れてしまいましたが、せっかくの機会なのでお伺いしたいのですが」 「ん?何だ?」 「仮に、あくまでも仮に、なんですけど…僕を相手にするなら、彼氏と彼女、どちらの役目をお望みになりますか?」 「………………」 「なんでやねぇぇぇん!!!!!」 俺は突っ込んだ。そりゃもう全身全霊で突っ込んだ。 タナトス様は目を丸くして、ヒュプノス様も遂に吹きだした。女神達?とっくに笑い死んでるよ。 俺の突っ込みに素できょとんとするシラーに、俺は礼儀もクソも忘れて怒鳴った。 「何を言ってるんだ!何でその話題を蒸し返すんだシラー!!せっかくウヤムヤになりかけてたのに!つか根本的なところに疑問を感じろよ、お前もタナトス様も野郎だろうが、彼氏も彼女も無いだろうが!!お前達まで薄い本の住人になりたいのかゴルァァァァァ!!!!」 「薄い本って何のことか分からないけど、『何を言ってる』はこっちの台詞だよ先輩。アテナの聖闘士の癖にギリシア神話の神様の知識も碌に無いわけ?」 「ハァ?」 「ゼウス、アポロン、ポセイドン、トリトン…人間の男性を恋人にした男神なんて大勢いるじゃないか。どこに疑問を感じる余地があるのさ?『お前がタナトス様の合格ラインを越えられる訳が無いだろ』って言われるなら分かるけど」 「……………」 あれ?何か反論できねーぞ?? いやいや待て待て、確かタナトス様は野郎を相手に恋愛する趣味はねーと言って…ん?『節操なしのゼウスやポセイドンと同類だと思われてるなんて』と凹んではいたが、『ソッチの趣味は無い』と断言はしてなかった…か? 俺が恐る恐るタナトス様を見ると、タナトス様も肩を震わせて笑っていた。もうここまで来たら流石のタナトス様も笑うしかねーか。 タナトス様の隣で痙攣していたヒュプノス様が口元に笑みを浮かべたまま兄上様に尋ねた。 「タナトスよ、笑っていないで答えてやったらどうなのだ?お前を相手にこんな疑問をぶつけて来た人間は初めて故、お前が何と答えるのか私も興味があるぞ」 「ん?ああ、そうだな。人間に尋ねられたなら神として答えを与えてやらねばなるまいな」 笑い過ぎて涙を浮かべたタナトス様は、皆の視線を一身に浴びながらシラーに穏やかな目を向けた。 「…人間よ」 「は!」 「大神やポセイドンは確かに恋多き神であった。王たる彼らは史実に多く登場する故、神とは複数を同時に愛するものと言う印象を受けるのも無理はない。だ が、我が主冥王ハーデス様のようにひとりだけを愛する神もまた多く存在する。そして、冥王臣下である俺やヒュプノスもひとりだけを愛する主義だ。まぁ俺の場合は複数の相手を同時に愛するなどと器用なことは出来ない、と言った方が正確だが」 「…はい」 「ここまで言えばもう分かっていると思うが、今の俺にはヘカーテ様と言う恋人がいる。『ヘカーテ様以外の誰かを愛する』という仮定自体が有り得ないもの 故、『ヘカーテ様以外の誰かを愛した時は相手にどのような役目を求めるか?』と尋ねられても答えようがない。これが、俺の答えだ」 …うまいな、と俺は内心で唸った。 ヤヤコシイ問題とか色々な諸々を何も白黒つけず曖昧有耶無耶にしたまま、さりげなくシラーの質問をはぐらかしつつ妙にゴモットモで説得力がある、非の 打ちどころも突っ込みどころもない文句なしの上手い回答だ。やっぱタナトス様、神がかり的天然ボケだが馬鹿じゃねーんだな、と改めて思うぜ。 タナトス様の『模範解答』に、ヘカーテ様は嬉しそうに目ぇキラキラさせてっし、女性陣はウットリしてるし、人間どもは感心しきりだし、あのヒュプノス様も嫌な顔もしねーで黙っている。 クソ真面目な顔でタナトス様のお言葉を拝聴したシラーは、妙に悲しそうな顔をしながら目礼した。 「全くもって仰せの通りです。愚かなことをお尋ねしてしまいました、どうかご無礼をお許しください」 「気にするな、皆も面白がっていたし謝る必要はなかろう」 「…ハ」 「残念だったなぁシラーちゃん。見事に振られちまってよー」 「そうだねぇ、絵に描いたような玉砕失恋だね」 ハービンジャーの軽口にシラーは笑顔で冗談を返したが、無理してるのがはっきり分かる。タナトス様に『振られた』のがそんなにショックだったのかねぇ? そんなシラーの肩をバシバシ叩いてハービンジャーは二カッと笑った。 「ま、泣きたくなった時はいつでも俺のところに来いよ!この胸を貸してやるからさ!」 「君の暑苦しい胸なんて必要ないよ。だから、胸を貸しに僕のところに押し掛けたりとか絶対にしないでね?ウザイだけだから」 「…………………」 …きっぱり、そしてバッサリ。シラーお前、泣きたいのを我慢してるような笑顔で言ってるあたり、冗談で無く素で言ってるだろ。 あれだけ騒がしかった牛がどよーんとしたオーラ漂わせてさめざめ泣いてるのを見て、俺はちょっと本気でハービンジャーに同情したくなった。仲間への思いやりから出た言葉をナチュラルに拒絶されたらそら泣きたくもなるよな。 皆がハービンジャーに同情の眼を向ける中、パラドクスと玄武は『こんな光景は見慣れてる』って顔で口を開いた。 「あらあらシラーったら。相変わらずハービンジャーさんには遠慮なく本音トークなのね」 「確かにハービンジャーは押し付けがましくて無神経で図々しいからな。だがシラー、辛くなったら遠慮するなよ?必ず力になるからいつでも俺のところに来てくれ」 「この件に関して君が力になれる事なんて何もないから、気を使ってくれなくていいよ?玄武」 「……………………」 …きっぱり、そしてバッサリ第二弾。何か、俺にも玄武の心の骨が折れる音が聞こえたような気がしたぜ。 メソメソしてるハービンジャーと車田泣きしてる玄武に挟まれたパラドクスがにっこり笑ってシラーに目を向けた。 「うふふ、やっぱり玄武には優しいのね、シラー。この件に関しては私も何も力になれないけど、気が向いた時にはお喋りをしに来てね。美味しいお茶とお菓子を用意して待ってるから」 「ありがとう、パラドクス」 「「「パラドクスの申し出は受けるのかよ!!」」」 俺とハービンジャーと玄武が同時に同じセリフで突っ込んで、神様達が笑いを堪え切れずに吹きだした。 悲劇も度を越せば喜劇になるってか。 …などと俺が考察していると、秋乃さんが慌てて咳払いをして、柔らかな笑みをシラーに向けた。 「ねぇシラーさん。タナトスさんに振られてもそんなにがっかりしなくてもいいんじゃないかしら。タナトスさんは『ヘカーテさん以外に恋人を作る気はない』 とは言いましたけど、『シラーさんと友達として交流を深める気はない』とは言ってませんよね?友達として仲良くしたらどうですか?」 「…え?いえ、そんな、神様と友達づきあいなどと畏れ多い事…」 「あらっ。『ギリシア神話に造詣が深いアテナの聖闘士』シラーさんらしくないコメントですね。大神ゼウスとか軍神アレスとか、 人間と友達付き合いしていた神様もいるでしょう?事実タナトスさん達だって星矢さんやマニゴルドさんと友達づきあいしてますし。ね、マニゴルドさん?」 「友達ねぇ…タナトス様の俺への認識は下僕とか舎弟とか手駒とか碌でもねーもんですけどね」 「認識はどうあれ、やってる事は友達づきあいじゃん」 「そう言えばタナトスよ。最近のお前は失念しているようだが、人間と友達として交流すれば信仰が集まって神の力が強くなるのだろう?現役の黄金聖闘士を手駒…ああいや、友達にすれば何かと都合が良いし、信仰もガッポガッポ集まるのではないか?」 「…ふむ」 身も蓋もないヘカーテ様の言葉にタナトス様は銀色の眼をくるりと回した。 シラーと『友達づきあい』することは元々嫌ではなかったが、ヘカーテ様に具体的なメリットを示されて前向きに検討しても良かろうか、という気になったら しい…と分かったから、俺は(本来なら厳重に抗議するべきの)美貌の女神の発言に突っ込みを入れずにおいた。どうやら女神様達はシラーを気に入って、奴を 『タナトス様の友達ポジ』につけてやりたいと思ってるみてーだしな。四角四面な対応でせっかくの神の好意をおじゃんにするこたねーだろ。タナトス様の『友 達』が増えることを歓迎しないヒュプノス様はダンマリだが、タナトス様の息のかかった現役黄金を作っておくことに異を唱える気はない…ってところかね。 再度、皆の注目を浴びたタナトス様は鷹揚に笑みを浮かべてシラーに目を向けた。 「シラーと言ったな」 「ハ」 「冥界と聖域の和解が成立した今、神や人間、聖闘士や冥闘士と言う肩書にガチガチに囚われず、双方が交流し互いの理解を深める事は非常に有益で好ましいと俺は考えている。お前がその交流の輪に入る意思があるなら我々は歓迎するが、さて…どうする?」 「入ります入ります、勿論入ります!!」 「良かろう。では…」 何だかエラソーな口上を仰せになったタナトス様は、ポケットから携帯を取り出してシラーに差し出した。電話番号とメアドの交換って事らしい。 感激と歓喜で目が渦巻きになってガクガク震える手で携帯を取り出すシラーを見ながら、ハービンジャーが『何だかんだ言ってこれって合コンだったんじゃね?』とパラドクスに尋ねていた。 耳ざとくそのセリフを聞いたらしいエリスが身を乗り出してシラーに声をかけた。 「ねぇねぇオニーサン。せっかくだから兄貴の親衛隊にも入らない?」 「え?親衛隊?」 「そうそう、『タナトス様親衛隊』っていうのがあるんですよ」 「お、それはナイスアイデアだなエリス」 「…とても心を引かれるんですけど、アテナの聖闘士の僕が参加しても問題ないのでしょうか?」 お?二つ返事で了解するかと思ったが意外にマトモな突っ込み入れるじゃねーかシラー。まぁ確かに、軽い気持ちでホイホイと参加したは良いが、イレギュラーが発生した時に現役黄金聖闘士がマジで冥界の手駒にされちゃ洒落にならねーもんな。 そんなシラーの懸念を察したのか、エリスはケラケラ笑って片手を振った。 「問題なんて無い無い、全てノープロブレムだよっ。だってマニマニやサガも親衛隊に入ってるもん」 「ええっ?」 「入ってるっつーか、いつの間にか組み込まれてたんだよ。こっちの都合ガン無視でイベントとか冥界のお祭り騒ぎに駆り出される以外の弊害はねーから特に抗議はしてねーけど」 「『親衛隊』って言っても、タナトスさんと縁の深いメンバーのサークルみたいなものですよ。会費も義務もないけどこれといった特典も無い、タナトスさん絡 みのイベントがある時に優先的にお誘いがあるくらいのゆるーい集まりです。勿論、沙織さん公認ですから安心して下さいな」 「親衛隊入隊の条件はあるにはあるが、お前は全てクリアしているからな。あとはヒュプノスの承認さえあれば正式加入だ」 「意義は無いよね、ヒュプ兄?」 「あると言ったところで無駄だろう。…まぁ、私とてタナトスを信奉する人間が自由意思で集まることに異を唱える気はないが」 ヒュプノス様は盛大に溜息をついてじろりと女神達を見た。 「例え形式的なものであっても、親衛隊加入の前提条件を満たしているか否かの確認くらいするべきではないかと」 「…前提条件とおっしゃいますと?」 「『親衛隊に入隊を希望する者は、タナトス以外に愛する者がいる事。但し愛する者は四親等以上離れた異性でなければならない』って条件があるんだけどね。サガもマニマニもアテナの名前を挙げて合格したから…」 「つーかシラー、お前には婚約者がいるじゃねーか。アテナの名前出さなくてもOKなんじゃねーの?」 「なんだってぇぇぇーーーーーー!?!?」 思わず俺は椅子を蹴立てて絶叫した。 この馬鹿牛、今なんて言った?『シラーには婚約者がいる』だぁ!? 俺は思わずシラーに詰め寄って胸倉を掴んで問い質した。 「ちょ、おま、マジか?婚約者がいるってマジか?」 「婚約者って言うか、学生時代から交際している彼女なんだけどね。色々事情があって双方の親が結婚させる気でいるからいつの間にか婚約者って事になっちゃって…」 「んなぁっ!?待てやコラ、俺はそんな話ひとことも聞いてねーぞ!?」 「ハァ?なんでそんな個人的なことを大して親しくもない先輩にわざわざ話さなくちゃいけないの?そもそも、彼女がいるってだけでどうしてそんなに大騒ぎされなきゃいけないのさ?特別おかしなことじゃないと思うけど?」 「そっ…それは…」 「実はな、シラー。マニゴルドはこの世に甦った時に運命の女神から新たな人生を与えられたのだが、『タナトス兄上に無礼を働いた人間には相応の罰が必要』と言う理由で、女性に縁の無い人生を与えられたらしいのだ。故にマニゴルドはきちんと恋人ができた事が無いのだよ」 「うぉいシオン!余計な情報バラしてんじゃねーよ!!」 「うっわー…悲惨な人生だなぁマニゴルド先輩」 「何を楽しみに生きていけばいいんだろうな」 「愛の無い人生なんて苺のないケーキのようなものよね」 「そんな事情があったなんて…今後は先輩の前で彼女の話題は出さないよう気をつけるよ」 「うっせぇーーーー!!そんな憐れむような薄笑い浮かべながら言われても余計ムカつくだけだぁーーーーーーー!!!!」 「やかましいぞ塵芥。モイライの言葉は真実とは限らんと言ったであろう?お前に恋人ができぬのはひとえにお前の力不足、リア充の後輩に八つ当たりなど見苦しいぞ恥を知れ。それから盛大に話を逸らすな」 「………………」 シラーとシオンと俺の三人掛かりの積尸気技で魂ひっぺがしてもう一回聖櫃に封印してやろうかこのクソ神。 …などと本気で思いつつ俺が大人しく席に戻ると、タナトス様は楽しそうに弟に目を向けた。俺を馬鹿にする時だけ妙にイキイキと楽しそうにしやがって。 「非リア充のせいで話が逸れたがヒュプノスよ、婚約者がいると言うのならこの人間が俺の親衛隊に入る事に異議はあるまい?」 「ああ。きちんと前提条件を満たしているなら私が反対する理由もない」 シラーにちゃんと恋人がいるなら兄貴を取られる心配はないと思ったのか、ヒュプノス様は寛大な態度で頷いてあっさりシラーの入隊を認めた。 …と言う事は、だ。 タナトス様や冥界の神々がヘンテコなイベントを思いついて俺が駆り出された時はシラーと愉快な仲間達が参加する可能性が高い、即ち俺の頭痛の種が増えるってことだな…。 暗澹とした気持ちでコーヒーを啜る俺の横で、『タナトス様親衛隊』への入隊を果たしたシラーと女神様達と何故かパラドクスがメアドと電話番号の交換をしていた。 |
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このSSのメイン部分、Ω黄金とマニさんの漫才です。読んでくれた方に「ちょ、おまwww」と笑って頂けたらいいなぁと思いながら、楽しく話を書きました。 当初の予定では、シラーさんがタナトスに「僕が相手なら求める役目は彼氏ですか彼女ですか」といきなり尋ね、ハビさんが「ライトニングボルトぉぉ お!!!」とシラーさんを殴り飛ばす予定でした。で、殴り飛ばした後に「お前、タナトス様とヤリたいとかそっち方面の欲求は無いって言ってたじゃねー か!」と続けてマニさんが突っ込む…という流れを考えていたのですが、玄武君が参加したことでちょっとキャラの役目を入れ替えました。 書きたかった漫才はこの話にほぼ入れましたが、話が長くなって『茶会その後』のエピを入れられなかったので、おまけ的4話目として公開しようと思います。 そして、『タナトス親衛隊』ネタは冗談半分でブログで書いた後に何かのSSでネタにした気がするのですが、どこに入れたか思い出せないのでもう一度入れておきます。 ツイッターの方で思考がダダモレてるネタに「タナトス親衛隊入隊試験」というのがありまして。 一体ナニかと申しますと「タナトスと絡む要素があり、タナトスの事が好きそうなのに、当サイトのSSにはチラとも顔を出さないキャラ達」が、当サイトのSSに出て来てタナトスサマと絡む権利をゲットする試験、というネタです(長いよ)。 具体的なメンバーは、既に顔出しして立ち位置が確立されていますがオルフェウス、マニさん、トクサ、ルコ、ベロニカ、サガの六人です。 で、入隊試験の試験官はタナトスを守る鉄の双璧ヒュプノスとヘカーテです。人間の皆さん、既に勝てる気がしない。なのにいきなりヘカーテ様が爆弾投下。 ヘカーテ 「タナトスに絡みたければ私達を倒して行け!」 無理です。 …という訳で(何が)、ヒュプかヘカーテ様のどちらかに認められれば親衛隊入隊を許可され隊員番号を渡され、一番から五番までがSSに参加してタナトス と絡めると言うルールに変更。オルフェウスはもう登場してるので、残り四枠を五人で争うと言う訳か。勝率は高いぞ!と皆が思ったところにヘカーテ様二個目 の爆弾投下。 ヘカーテ 「ちなみに隊員番号だが。一にヒュプノス二に私、三・四がなくて五にオルフェウスだ!」 一同突っ込みます。全力で突っ込みます。それ試験の意味ない。 すったもんだで、隊員番号六番以降は補欠扱いという落とし所が決まって試験開始。ヒュプが出した条件は「入隊希望の男は、タナトス以外に愛する者がいる 事」。ベロニカ以外は胸を張って言います。エウリュディケです。ペフコです。ユズ姉さんです。カノンです。お師匠です。ベロニカさんだけ困った顔。 ベロニカ 「私、身体は男でも心は女よン」 ヒュプの判断は… ヒュプ 「ベロニカとオルフェウスは一次試験合格。他は失格」 なんでやねん。 ヒュプは条件を後出しします。「愛する者は四親等以上離れた異性でなければならない。故に仕切り直し」。 …ルコとトクサ、脱落。マニさんとサガはアテナの名を挙げて判断保留。 ここからフリーPRタイム。 ルコさんはしたり顔で言います。 ルコ 「私のタナトス様への気持ちは、弟子を救って頂いたことに対する純粋な信仰心。他の皆の様な不純物は混じっておりません」 嘘付け、嫌自分だって純粋だと他のメンバーが突っ込んでヒュプとヘカーテが判断に迷う中、ルコさんは言います。 ルコ 「親衛隊に加われた暁には、第二獄で薬草を育ててヘカーテ様の惚れ薬製作に貢献いたします」 ヘカーテ 「ルコ、合格」 ルコさんガッツポーズ。 そこから各自色々PRしたり、トクサがオルフェウスと立ち位置かぶったり、マニさんとサガがちょっと口論したり、ゴレンジャーネタになってマニさんだけ ノリに付いていけなかったり、そんなユルい展開を考えているのですが、こんな話書いたらそれぞれのキャラのファンの方に怒られないだろうか(笑)。 …とか言ってたら、マニさんファン(多分)から「こんなのマニゴルドじゃない!」と超長文で(私が言ってない、書いてない事を挙げて)罵倒されるというオチがついたんでした(´・ω・`) 世の中ってままならないウサ… |