| 西暦2012年、初春。 城戸財閥の所有するビルの会議室に少々変わったメンツが集まっていた。その顔触れは、財閥関連会社の幾つかを経営する城戸沙織、城戸財閥アクセサリーブ ランドモデルのタナトス、その弟ヒュプノス、タナトスのマネージャーマニゴルド、冥妃の転生体で洋菓子店の店長パティシエ龍神秋乃、秋乃の身辺警護の任務 を与えられた蟹座の黄金聖闘士シラーの七人である。 何故このメンバーが一堂に会しているのか、説明が必要だろう。 事の発端は数か月前に遡る。城戸沙織が特撮スタジオと連携して戦隊モノの企画を立ち上げたのだが、そのテーマソングを歌ってみないかとタナトスに持ち かけたのだ。その時のタナトスは話を断る心づもりでいたのだが、返事を保留している時に起きた異世界の双子神誘拐事件が大きな転機になった。戦隊モノの話 を聞いた異世界のタナトス少年がタナトスにテーマソングを歌う事を強く勧め、その場のノリで皆が冗談半分で戦隊モノのアイデアを出したところ、あれよあれ よと言う間 にそのアイデアが正式採用されて、タナトス始め冥王軍のメンバーが戦隊モノに出演すると言う話がトントン拍子にまとまってしまったのだ。そして、メイン キャラ クターと世界観や基本的なストーリー展開のアイデアが概ね揃ったので、一度『関係者』を集めて打ち合わせをしようと言う話になったのである。 ちなみに、本来なら無関係のシラーが同席しているのは、『冥妃護衛の任についているシラーも会議に同席してはどうか。せっかく異世界の双子神が来るのだ し、いい機会だからお互いの紹介もしておきたい』と沙織から勧められたためだ。アテナとの付き合いがそれなりに長く深いマニゴルドは彼女が シラーを同席させたのには別の理由があるに違いないと睨んでいたが、クソ生意気な後輩をトラブルから守ってやる義理もないし、黙っていた方が面白そうなの で何も言わず様子を見ることにした。 …皆が会議室に集合して待つことしばし。 ドアが丁寧にノックされて、沙織の秘書であるパルティータが顔を見せた。 「失礼します。あちらの世界の双子神様とマニゴルドさんをお連れ致しました」 「どうぞ、入って頂いて」 「はい。…皆様、どうぞ」 パルティータがドアを大きく開けると、小さな双子神が会議室にちょこちょこと入ってきて、その後ろからT・マニゴルドがついて来た。 「こんにちわぁー!!」 「久しいな、チビ助」 「こんにちわ、タナトスさんヒュプノスさん…と、マニゴルドさん」 「こんにちわ…」 「元気そうで何よりだな」 「相変わらずミニっ子神様の保護者やってんのか、『俺』?」 「おうよ!」 「良くいらしてくれましたわね。さ、どうぞ座って下さいな」 「………………」 感激に目を潤ませて涎を垂らしそうな顔でふたりのタナトスを見つめているシラーの前で、神々とマニゴルド達は再会の挨拶をしながら用意された席に腰を降 ろした。T・タナ トスは当たり前のような顔をしてS・タナトスの膝の上にちょこんと座り(シラーはますます感激で目を潤ませた)、T・ヒュプノスはS・ヒュプノスとタナト スコ ンビの間に、T・マニゴルドはS・マニゴルドとシラーの間に座った。 パルティータに飲み物と茶菓子の用意を頼んで、沙織は異世界三人組を見ながらシラーを指した。 「まず、秋乃さんの隣にいる彼を紹介しておきますわ。蟹座の黄金聖闘士で、主に冥妃の周辺警護の任務をしているシラーです。皆さんは初対面でしたわよね」 「初対面と言えば初対面だが、知っていると言えば知っているぞ」 「ん?チビ助、シラーを知っているのか?」 「ああ、知っている。マニゴルド同様、必要以上にタナトスに絡んでくる人間だ」 「…そうか。あちらの世界にもシラーがいて、我々と交流があるのだな」 T・ヒュプノスの言葉にS・ヒュプノスが得心がいったように頷くと、秋乃が好奇心で目を輝かせながら異世界の双子神に尋ねた。 「そちらの世界のシラーさんは、まだおふたりと同じくらいの年齢のはずですよね。ひょっとして同じ小学校のクラスメイトだったりするんですか?」 「ん?こちらの世界のシラーもこの世界のシラーと同じくらいの年齢だと思うぞ」 「そもそも奴はクラスメイトではない。私とタナトスが通う予定の『パライストラ学園』の保健の先生だ」 「え?」 「へ?」 「は?」 こちらの世界の皆と異世界三人組が同時に間抜けな声を出して『???』という顔を見合わせた。 S・タナトスは眉間に拳を当てて、混乱している頭を整理しながら口を開いた。 「…………。我々の世界とチビ共の世界は十数年の『時差』がある。故に、イレギュラーで地上に甦ったマニゴルド以外の人間達はこちらとあちらで時差の分だ け年齢が違う。少なくとも我々の把握している範囲ではそうだった。だが、その『法則』に当てはまらない者もいると言う事か?」 「冥妃様の件もそうだが、あちらとこちらでは歴史そのものが異なる部分も多々ある故な。十数年の年齢の齟齬くらい些細なことであろう」 「しっかし蟹座の黄金聖闘士と学校の先生とはねぇ…あっちとこっちでここまで肩書に違いがある奴なんてシラーが初めてだな」 「何を言っているのだマニゴルド。こちらの世界のシラーも蟹座の黄金聖闘士だぞ。学校の先生はいわゆる副業だ」 「黄金聖闘士と言っても、『アテナの』ではなく『マルスの』だがな」 「ハァ!?」 「ええっ!?」 「何ですって?」 T・ヒュプノスがさらりと言った言葉にS・マニゴルドとシラーと沙織が素っ頓狂な声を出して、その反応に今度は異世界三人組が驚いた。 丁度良いタイミングでパルティータが飲み物と茶菓子を用意して戻ってきたので、皆は『自分達の世界におけるシラー(と、マルス)』について情報交換する 事にした。 …小さな双子神とT・マニゴルドの話によると、マルスと名乗る神に襲撃を受けたのは彼らの世界も同じらしい。しかしその詳細は最初から大きく違ってい た。こ ちらの世界のマルスはアテナを倒し地上を掌握するために戦をしかけて来たが、彼らの世界のマルスは『大勢の人間から慕われているアテナが羨ましい』という 実にツンデレな理由で聖域を攻めて来たのだと言う。ご丁寧なことに、アテナの黄金聖闘士に良く似た能力を持つ者に星座を模した金色の鎧まで着せて、だ。と はいえ黄金聖闘士を十二人フルで揃えるのは無理だったらしく数人の欠員もあったらしい。だから、戦の結果など押して知るべし…である。 異世界三人組は、それで…と話を続けた。 「後から聞いた話なんだがな、アテナとマルスは『どちらの聖闘士がより優れているか』で喧嘩した挙句『じゃあ聖闘士同士を戦わせて決めようじゃない か!』っつーしょーもない理由で戦を起こしたらしいぜ。一応、どっちの神様も死者は出したくなかったからハーデス様に根回しはしてたらしいけどな」 「余りにも傍迷惑な理由だからハーデス様も最初は断るつもりだったのだが、『戦いに負けた方が双子神が安心して通える学校を設立する』という条件を 出されて渋々了解したのだ。それで、戦いに負けたマルスは約束通りパライストラ学園を作って、自分の黄金聖闘士達を教師にしたと言う訳だ。…まぁ、私やタ ナトス は色々と訳アリだから事情を知っているマルスが理事長をしている学校なら安心と言えば安心なのだがな」 「パライストラ学園は給食に力を入れていてな、実に美味なのだ。今から入学が楽しみだぞ!」 「相変わらず食い意地だけは一人前だな、チビ助」 目をキラキラさせてクッキーを頬張るT・タナトスの頭を撫でてS・タナトスは柔らかく微笑んだ。 そんなタナトスコンビに携帯を向けて写真を撮りまくるシラーを見ながら秋乃が面白そうに口を開いた。 「蟹座の黄金聖闘士と保健の先生なんて、イメージが180度違うのに一周回ってドンピシャみたいな感じになるのはシラーさんならではですね」 「そーいやこっちの世界のお前は薬剤師の資格持ちだっけ。妙なところで似通ってるな」 「そうだねぇ。…あ、すいませんタナトス様。カメラ目線頂けますか?」 「じゃあさタナトス様。そっちのパライストラには他にどんな先生がいるんだ?こっちの世界のパライストラ学園ではイオニアが学園長だけど」 「む。こちらの世界でもイオニアが学園長だぞ。あと、俺達のクラス担任はミケーネになりそうだ」 「パライストラ学園は小学校なのに教科ごとに教師が変わるのだ。生活科がパラドクス、体育がハービンジャー、その助手が玄武、理科がアモール、社会が時 貞、フドウが道徳、貴鬼が図画工作。ソニアは事務員だ」 「貴鬼?そちらの世界の貴鬼はマルスの部下でしたの?」 「いや、貴鬼はアテナの聖闘士だぞ。『良い修業になるから』と、ムウがマルスの元に送り出したのだ。今はマルスのもとで『牡羊座の黄金聖闘士』をしてい る」 「へぇ〜」 「あの、タナトス様、ヒュプノス様。そちらの世界の『僕』はどんな感じなんですか?外見は大差無いようですけど」 異世界の自分自身に対する興味と言うよりもT・タナトスに絡むためにシラーが尋ねると、ふたりは同時に答えた。 「カナヅチなのに海に来て溺れかけて俺に助けられたドジッ子だ」「タナトスに絡みまくる変態だ」 「そっか。こっちの世界のシラーも黄泉比良坂の池に落っこちて死にかけてタナトス様に助けられたドジッ子で、タナトス様に謁見した時に涎を垂らすような変 態だから、概ね同じキャラっつーことだな!」 「…先輩。会議が終わったらちょっと顔貸してくれるかな」 「あ、あとハービンジャーと仲が良くていつも一緒にいるぞ」 「そうなんですか。僕もハービンジャーとは良くつるんでいますよ」 「それからアモールにセクハラされてよく涙目になっているな」 「そっちの世界でもアモールはセクハラしてるんですか…あ、ちなみに僕はセクハラされたら殴り返す主義です」 にっこり笑ってぐっと拳を握るシラーを面白そうに見て、S・タナトスは膝に抱いた小さな自分自身に視線を落とした。 「聖域を訪ねると、結構な確率で魚介類と牛と天秤がどつき漫才をやっている光景を見れるぞ。なんなら会議が終わったら行ってみるか、チビ助?」 「おおっ、どつき漫才か!それはぜひ見てみたいな」 「アテナよ。私は、シラーがアモールを教皇宮から崖下に蹴落とすところを見た事があるが、あれもどつき漫才の一環なのか?」 「えっ? え、ええ、そうですわ。黄金聖闘士の突っ込みですもの、十二宮の頂上から入り口まで蹴落とすくらい良くある事ですわ。そ、それよりそろそろ本題に入りま しょう。会議が長引いて帰りが遅くなると、そちらの世界の星華さんが心配されるのでしょう?…パルティータ、書類を下さいな」 わざとらしい真顔のS・ヒュプノスの問いに沙織は冷や汗をかきながら笑顔で頷いて、パルティータから渡された『社外秘』と朱書された書類を一部ずつ皆に 配った。 「タナトス殿の出演される戦隊モノの設定資料ですわ。あくまでも現時点での案ですけど、皆さんの意見を聞きたいので確認して頂けますかしら?」 …皆が興味津々の顔で書類をめくる中、異世界のT・タナトスだけは横を向いたり下を向いたりギュッと目を閉じたりして一向に資料を見ようとしない。 誰よりもS・タナトスの出演する戦隊モノを楽しみにしていたT・タナトスが全く書類の中身を見ようとしないので、彼が見やすいようにテーブルに資料を広げ ていたS・タナトスが怪訝そ うに首を傾げた。 「どうしたのだチビ助?お前が乗り気で勧めた戦隊モノの話ではないか。お前が設定資料の確認をしないでどうする」 「む…確かに物凄く気にはなるのだが」 幼い死神は至って真剣な顔でS・タナトスを見あげた。 「ここに書かれているのは、その…ネタバレ情報であろう?これを見てしまっては、本編を見る楽しみが半減してしまうのではないかと思ってな」 「む…」 「それは心配ないと思いますわよ。この書類に書かれているのは放送前に一般公開されるキャラや世界観の設定と、以前タナトス殿達から提案して頂いた大雑把 なストーリー展開だけですから」 「そーそー。この戦隊モノはさ、タナトス様が提案したストーリーのアイデアがそのまんま採用されてんだぜ。間違いがねーかチェックしてくれよ、監督!」 「そうなのか。そう言う事なら見ても構わないな!」 S・マニゴルドの言葉にT・タナトスはパッと顔を輝かせて書類を覗きこんだ。 …城戸財閥が某特撮スタジオと連携して作る戦隊モノのコンセプトは『敵組織が主役の異色戦隊モノ』らしい。主役となる『敵組織』は、ボスが死神タナトス と言う事で冥王軍の皆がほぼそのままの名前と役で登場する。現実との違いは、組織の幹部が『三巨頭』でなく『四天王』である事、四天王最後の一人が真のボ ス奈落タルタロスである事の二つだ。四天王の設定紹介の最後に『四天王に加え、作戦参謀的なキャラクターがいると面白いのではないか』と一文が添えられて いるが、作戦参謀を演じるのに相応しい冥闘士の名前は挙げられていなかった。 一方の『正義側』の組織はアテナの化身城戸沙織を頂点とするアテナ軍である。メインの戦闘要員は『まだまだアテナの戦士としては半人前』のゴレンジャー のみで、黄金聖闘士に当たる『十二人の星座の戦士達』は現代のアテナ軍には存在しないと言う設定になっている。両者の戦力差は歴然としているから、双方が 全面対決したら冥王軍の一方的な勝利で終わってしまうが、そこをど うするかは現在検討中らしい。それ以外の大まかなストーリー展開は以前タナトス少年と秋乃がアイデアを出したのと概ね同じだった。 資料を読み終わったT・タナトスは目をキラキラさせて沙織を見遣った。 「敵が主役の戦隊モノなど珍しいな!ストーリー展開も王道だし、今から楽しみで仕方が無いぞ!」 「そう言って頂けると嬉しいのですけど…重要な問題が二つほど解決していませんの。それについて皆様と相談したくて」 「重要な問題?」 「何だそれは?」 「ストーリーの真のボスである『奈落タルタロス』と、『作戦参謀キャラ』を演じられる人が未だ見つかっていないのです。最悪『作戦参謀』は無しでもいけま すが、真ボスは無しと言う訳には行きませんわ」 沙織の言葉に、秋乃とシラー、異世界の双子神とT・マニゴルドは不思議そうな顔になった。 「何故その役を演じる俳優が見つからないのだ?」 「沙織がコラボするのは有名なスタジオなのだろう?ベテランの俳優も大勢いるのではないのか?」 「私も最初はそう思ってオーディションをしてみましたの。でも、こう言っては語弊があるかもしれないのですが…どんな大物ベテラン俳優さんでも、タナトス 殿と並ぶと迫力負けしてしまうのです」 「俺もオーディションを見てたんだけどな、話の都合でどうしてもタナトス様とアテナと『タルタロス』が同じ画面に入るシーンがあるわけよ。で、オーディ ションに来た俳優が実際に神様達と並んで立ってみたんだけどな。ハッキリ言って、見た瞬間『こりゃダメだ』って思ったぜ。言うなればライオンとトラの間に 猫がいるようなもんだ。猫社会じゃ血統書付きだチャンピオンだって言われるスゲー猫でも所詮は猫なんだよ。ライオンやトラと互角に喧嘩が出来る様には見え ねーわ」 S・マニゴルドの遠慮も情け容赦もない例え話に、秋乃とシラーと異世界三人組は納得の溜息を吐いた。 そんな彼らを見ながらS・タナトスとS・ヒュプノスが口を開いた。 「作戦参謀も同様でな。『冥界四天王』とほぼ同じ幹部クラスのキャラ故、三巨頭と互角程度には迫力や威圧感のある奴が欲しいのだが…」 「三巨頭に次ぐ実力を持つのはバレンタインとシルフィードだが実力は大きく劣るし、奴らは『作戦参謀』という頭脳派のイメージには余りにもそぐわない。ル ネは頭脳派のイメージはクリアできるが見た目もキャラもミーノスと被りすぎている」 「むむむ…」 「真ボスはいないと困るし、参謀もいた方がずっと話が面白くなりそうだけどな…それだけに半端な奴では演じられねーってか。ジレンマだな」 「あなた達の方が変な先入観に囚われずに『この人!』という誰かを思いついてくれるかと思ったのですが」 小さな双子神とT・マニゴルド、秋乃、そしてシラーは腕を組んで一つ唸ったきり黙りこんでしまった。 アテナとタナトスに挟まれても見劣りしない誰かと、冥界三巨頭と並んでも迫力負けしない頭脳派の誰かを挙げろと言われても全く候補が浮かばない。せっか くアテナと冥界が戦隊モノに全面協力するのだから肝心な役所で妥協はしたくないところだが…。 しばしの沈黙の後、シラーが片手をあげて口を開いた。 「冥界の神のどなたかにタルタロスを演じて頂く訳にはいかないのですか?例えば、オネイロイ様のおひとりか、あるいはヘカーテ様か」 「オネイロイは役者など出来ぬ。ましてや、ハーデス様と私達を野望の為に欺き利用する邪神の役など演じられるはずがない」 「つかタルタロスは男だろ」 「フィクションなんだから女性がタルタロス役でも問題ないといえば無いが」 「ヘカーテ様は駄目だ。威厳と迫力がありすぎるしキャラが濃すぎで俺が食われる。誰が主役か分からなくなってしまうではないか」 「タナトス様、アンタ意外に目立ちたがりなんだな…」 「えっと…では、パルティータさんのご主人はどうです?人間の姿はしてますけど、確か彼は時の神なんですよね?ええと…何て名前でしたっけ…クロノスじゃ ないし…」 「「メフィストか!」」「「カイロスか!」」 タナトスとヒュプノスが同時に叫んで、皆が『ああ!』という顔になった。 …天魁星メフィストフェレスの杳馬。 彼は、兄であり時の神であるクロノスに疎まれ人間界に封印されたもう一柱の時の神、カイロスの化身だ。二百数十年前の聖戦において神の道で命を落とし、 その魂が 数珠に封印されたことでカイロスとしての記憶も力も失っていたが、最後の聖戦終結後に神の記憶と多少の力を取り戻している。 S・タナトスは手を顎に当てて思案顔になった。 「なるほど…確かに奴は自分を封印した神を憎み、自身の復讐の為に冥王ハーデス様も利用した不届き者だ。この戦隊モノのタルタロスに似通ったものがある な」 「神でありながら人間の体に封印されている奴ならば、タナトスとアテナに挟まれて見劣りする事もないが三巨頭より目立ちすぎる事もない。獅子身中の虫であ る故の胡散臭さも申し分ない。正に適任ではないか?」 「そうだな。…手柄だぞ、シラー。褒めてつかわそう」 「あ…ありがとうございます!!」 感激でぱぁっと顔を輝かせ目を潤ませて頬を染めるシラーに鷹揚に頷いて見せて、S・タナトスは杳馬を呼び出すために携帯を取り出した。 「メフィストか。俺だ。お前は確か、以前から『妻のいる地上に長く滞在できる部署に異動したい』と希望を出していたな。…ああ、急ではあるがその希望を叶 えてやろうと思ってな。戦隊モノの話は聞いているな?喜べ、お前の役どころは冥闘士そのイチから黒幕タルタロスに変更だ。…やかましい、文句は言わさん。 今すぐ城戸財閥ブランドの本社まで来い、話はそれからだ」 「…………」 S・タナトスが電話を始めたせいで手持無沙汰になったT・タナトスは、幸せそうな顔で紅茶を飲んでいるシラーをじっと見て、小さな手で目をごしごしこ すってもう一度シラーを見て、隣にいるヒュプノス達にそっと囁いた。 「ヒュプノス。俺は何だか、シラーが犬の耳をピクピクしながら尻尾をパタパタ振っているのが見える気がするのだが」 「お前もか、タナトス。私も奴が尻尾を振っているのが見える気がした」 「タナトスは奴を『ムク犬』と呼んでいるが、本人も特に異議はないようだな」 「あいつはな、自他共に認めるタナトス様のワンコなんだよ。ためしにタナトス様、『お手』って言ってみろ。ぜってー手を出すから」 「変なこと教えないでくれるかな、先日も片思いの女性に告白して振られたマニゴルド先輩?」 「んなぁっ!シラーお前、どうしてそれをぉぉぉ!!」 「相変わらず女運ゼロなのな、『俺』…」 「…さて、これで残る問題は作戦参謀の役者だが。皆、相応しい人材に心当たりはないか?」 蟹座トリオの漫才など綺麗にスルーして、電話を終えたS・タナトスが皆に尋ねると一同はまたうーんと唸った。 基本的に双子神以外のメンバーは冥闘士と交流する機会が少ないのでどんな奴がいるのかすら碌に把握していない。だから、頭脳派の冥闘士は誰がいる?と言 われても全く思い浮かばないのだ。 秋乃が紅茶を混ぜながら沙織に尋ねた。 「ところで、参謀って具体的にどんな役目があるんですか?作戦立案とか?」 「そうですね…作戦の立案の他に、作戦遂行に必要な薬や機械を作ったりもするかもしれません。いわゆる後方支援のポジションですわ」 「ふうん…つまり、『コナン』で言うところの阿笠博士みたいな立ち位置なのかしら」 「博士か。そう言えば、俺達の世界のシラーは学校にいる時は白衣を着ているから『博士』と呼ばれたりしているぞ!」 「…そう言えばシラーさんのその服も白衣っぽいですね。それに、薬剤師の資格があるから薬の調合もお手のものですよね。この間も薬のレシピみたいな資料を 見て薬を作ってましたし、作戦遂行に必要な薬を作ってくれって言われたら作れますよね、きっと」 T・タナトスの何気ない言葉を聞いた秋乃がしげしげとシラーを見つめると、不吉な何かを感じたのかシラーが椅子ごと後ずさった。 「な…何を言ってるのさ秋乃?僕の資格と戦隊モノの配役は何も関係ないだろう?」 「あのさぁシラー。お前、さりげなく『作戦参謀キャラ』の条件クリアしてねーか?三巨頭とそれなりに張り合える実力があって、頭脳派のイメージで、ミーノ スとはキャラはともかく外見は全く被ってないしよ」 「ちょ、先輩まで!」 「あらっ。言われてみればマニゴルドの言う通りですわね。『冥王軍』の幹部だから冥闘士の中から選ばなくてはと思いこんでいましたけど、確かにそれもアリ ですわ」 「ええっ!?」 この流れになる事は予想していたような笑みを浮かべながら沙織が言うと、シラーはますます目を丸くして、皆が自分に注目している事に気付いて必死に言い 募った。 「待って、皆待って下さい!確かにタナトス様に恭順を誓ってますけど、僕はアテナの聖闘士ですよ!?アテナの聖闘士が冥王軍の参謀なんて…」 「普段は頭が良いのに時々アホになるのはこっちの世界のシラーも同じか。あのなぁ、これはフィクションだろーが。『実在する人物・団体・事件とは一切関係 ない』んだぜ」 「え?いや、その、でも」 「あ!じゃあ、こういうのはどうです?『冥王軍の作戦参謀は元はアテナ配下の星座の戦士だったが訳あってハーデスの配下になっている』っていうのは?『十 二人の星座の戦士達は現代のアテナ軍にはいない』って設定とは矛盾しませんよね?」 「おおっ!それはナイスアイデアだぞ秋乃!」 「なーる。『アテナ軍には』と言うのがミソだな」 「それは面白いですわね。せっかく『星座の戦士達』という設定があるのに誰も出てきません、ではつまらないですし」 「なななな何を言ってるんですアテナ!?」 椅子から半ば腰を浮かせて目を渦巻きにしている気の毒な後輩に、S・マニゴルドはニヤニヤしながら同情交じりの眼を向けた。 「おいシラー、もう諦めて腹括れや。俺は最初っから何かあるなと思ってたんだよ。いくら冥妃の護衛をやってて口が堅いとはいえ、本来なら無関係のはずのお 前が企業秘密飛びかう企画会議に同席するなんてよ。きっと、お前に参謀役をやらせる事は会議の前からアテナの中では決まってたんだよ。異世界の双子神様に 会えるぞ!なんて甘い言葉に釣られてノ コノコ会議に出席しちまったのがお前の運のツキだ。先輩としてハッキリ言うぜ、抵抗するだけ無駄だから潔く戦隊モノに出演しろや」 「…………………」 S・マニゴルドの言葉に呆然としているシラーを面白そうに見ていたS・タナトスは、膝に抱いたT・タナトスに何やら耳打ちすると彼と手を繋いで椅子から 立ち上がった。 とても楽しい事を企んでいる笑みを浮かべ、堂々とした足取りでゆっくりとシラーに近づいた銀の死神は厳かに声をかけた。 「シラーよ」 「はっ!?はい!」 敬愛する死の神が二柱も目の前にやって来たので、シラーは慌てて椅子から立ち上がり背筋を伸ばした。 そんな赤い蟹座に極上の笑みを見せて、S・タナトスは右手を差し出した。 「戦隊モノの撮影スタジオで俺と握手!」 「は…はい!……………。………え?戦隊モノの撮影スタジオ?あれ?あの、これって…」 思わず差し出された手を握り返したシラーが自分の行動の意味を考えかけた時、T・タナトスがにっこりと笑って手を差し出した。 「シラー、お手!」 「えっ?あ、は…はい」 またしても反射的にT・タナトスに左手を差し出したシラーは、手をギュッと掴まれて『あれ?』と呟いた。 タナトス達は仕掛けた悪戯が見事成功した子供のような顔を見合わせて、開いた方の手をパンと打ち合わせてピースをした。 まさか、これで『参謀役を引き受けた』という既成事実が成立してしまったんだろうか…と冷や汗を流すシラーにタナトスコンビは満面の笑みを見せた。 「お前が参謀役を演じるとは予想外ではあったが、予想外故に面白くなりそうだな。楽しみにしているぞ」 「俺も楽しみだ!毎回リアルタイムで放送を見てDVDも買ってやる故、人気者目指して頑張るのだぞ!」 「え?あの、え?えっ??僕が戦隊モノに出演するのって、決まったんですか?決定ですか??」 「『戦隊モノの撮影スタジオで俺と握手!』って手ェ差し出されて、『はい』って言って握り返したじゃねーか」 「では決定ですわね。…奈落タルタロス役はメフィストフェレスの杳馬さん、作戦参謀役は蟹座のシラー、と…」 沙織は戦隊モノの配役一覧の書類を取り出すと、空欄になっていた『タルタロス』と『作戦参謀』の欄に二人の名前を書いて『決定案』と朱書きした。その直 後、勢いよく会議室のドアが開いてソフト帽をかぶった無精髭の男が飛び込んできた。 「失礼します!ちょいとタナトス様、俺が黒幕役ってどーゆー事なんすかっ!?小一時間ほど問い詰めたいですよっ!?」 …絶妙のタイミングで会議室にやって来た杳馬は、敬愛するタナトスふたりに両手を握られて…というより捕獲されて呆然としているシラーの姿を見て、『積 尸気冥界波を食らったのかと思うほど見事に魂が抜けていた』と後に語ったらしい。 |
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ついに!やって参りました蝶様とのコラボ第二弾です!コラボ第一弾『融合』8話でちょろっと『タナトスが出演する戦隊モノ』の話題が出まして、当初は作中
の雑談だけで終わる予定だったのに、そこから妄想は膨らみまくり、蝶様の了解も頂けたのでこうしてSSにすることができました!普段の三割増しで趣味に
走った上にいつにも増して『一見さんお断り』な内容で突っ走っていくかと思いますが、どんとこいや!というツワモノ百見様(笑)はどうぞ最後までお付き合
いくださいませ。 タナトス出演戦隊モノの話題が出た時はまだΩも始まっていなくて、ラスボスの奈落タルタロスもゴレンジャーも、特撮スタジオの俳優さんが演じるんじゃな い かな…と漠然と考えていました。でもSS『林檎』3話で戦隊モノの話を出したところ、敬愛するとあるお方から『神々に迫力負けしないでタルタロスを演じら れる俳優さんは見つかるでしょうか?』とコメントを頂きまして。それは私も考えていて、当初はサイキのウォンみたいな人がタルタロスかな…と思っていたの ですが、色々な妄想の飛躍を経て『タルタロス役は杳馬』で落ち着きました。そしてΩで見事にシラーさんにドはまりしてしまったので、彼も戦隊モノに出演し てもらう運びになりました。 そんなこんなで解説など。 普段は当マニさんは蝶様マニさんを『お前』と呼んでいるのに、今回は『俺』と呼んでいますが。これは蝶様マニさんが当マニさんを『俺』と呼ぶので、その 真似をしてからかいつつ親愛の気持ちの表現をしてるみたいな感じです。 そして蝶様にOKを頂いたので、蝶様世界のΩ黄金の皆さんの設定もちょっと紹介しました。おいおい、もっと詳しいことを紹介して行こうと思います。ちな みに蝶様世界の黄金聖闘士は全員無印のメンバーで、サガが双子座と教皇を兼任しているそうです。蝶様からマルスの設定を伺った時、割烹着を着て大鍋のシ チューを混ぜながら『健康な体はおいしい食事から…うむうむ』と言っているマルス様を想像してちょっと和んだのは秘密です(笑)。 蝶様とコラボ戦隊モノについて相談している時、『敵ポジの冥王軍を贔屓して話を作っちゃいそうです(笑)』と言った所、『じゃあ敵組織が主役の戦隊モノ でいいのでは?』と目から鱗のナイスアイデアを頂いてこうなりました。 それから、秋乃が『作戦参謀はコナンで言うところの阿笠博士』と言っているのは後の伏線のつもりです。 |