| 椅子から立ち上がってエデンと対峙したシラーは、礼儀正しく一礼する
エデンに笑みを見せて集まった生徒達を見回した。 「模擬戦の前に軽く口上を述べておくよ。みんな知っての通り、蟹座の聖闘士は適正ありきだから積尸気絡みの講義をしても有意義とは言えない。だから、実戦 で使える小技や自分の属性を有効活用する方法をいくつか紹介しよう。ちなみに僕は水属性だから水属性の戦い方を説明するけど、他の属性でも応用は利 くと思うから参考にしてみて。まずは簡単なところから…」 シラーが伸ばした手の平に小宇宙を集めると、空気中の水分が凝縮された野球ボール程の大きさの水球が現れた。 …どんな場所でも空気中に水分が存在するから、小宇宙でそれらを形にすることが出来れば手軽な飛び道具になる。特に巨大な水場…例えば滝、湖、海…が近 くにあると少ない小宇宙で大きな水を操ることが出来るので、戦闘を有利に運べる。故に自分に有利なフィールドに敵をおびき寄せることも実戦では有効な手段 である。 いまひとつ決め手に欠けるというのが水属性の定説だが、水は雷や電気を通すし、風と混ざれば嵐になるし、炎と混ざれば爆発して煙幕にもなる水蒸気が発生す るし、薬品を混ぜて敵にぶつければ様々な効果が期待できる。空気中の 水分を小宇宙で液体にすることが出来れば工夫次第で戦術の幅は無限に広がる…と説明しながら、片手に水球を掲げたシラーはエデンを手招きした。 「じゃあ具体的な実戦に入るよ。僕はここから動かずに君に向かってこの水弾を投げるから、君はそれを避けるなり叩き落すなりして僕に攻撃してごらん。一発 でも入れられたら大したものだよ」 「…行きます」 生真面目な顔で身構えたエデンは律儀に挨拶してシラー目掛けて突進した。一方のシラーはキャッチボールでもするような気楽さでエデンに水弾を投げ始め た。 最初の数発は紙一重で避けていたエデンは、水弾の威力は大したことは無いと見て叩き落しながら攻め込む戦法に変更したらしい。間合いを詰めたエデンが雷 を纏ってシラーに殴りかかろうとした瞬間、シラーは自身の目の前に水の盾を発生させた。 パァン!! 拳を止めようとしたが間に合わず、水の盾を叩いたエデンは顔を強張らせた。 「しまっ…!」 「唸れ、ハイドロトラップ!!」 水の盾はエデンの力を吸収し彼が繰り出した雷と混じって爆発した。 吹っ飛ばされたエデンは顔を歪めて微かに呻き声を漏らした。シラーが撃ち出した水を払い落として体が濡れていたせいで、攻撃を跳ね返された時に自身が 放った雷が体を濡らす水を伝い流れて予想外に大きなダメージを受けてしまったのだ。 顔をしかめて体を起こしたエデンにシラーはパチパチと拍手して見せた。 「ブラボー。あのタイミングで罠に掛かったとよく気付いたね。もしも力一杯殴っていたら、青銅の君はきっと気絶していただろう。…さて、本題の授業だけ ど。このように、明らかに実力が上の敵がヌルい攻撃を仕掛けてきた時は本命の罠に嵌める為の『誘い』の可能性がある。状況にもよるけど、攻撃する前にフェ イントをかけたりして様子を見た方が安全だね」 「…勉強になりました。ありがとうございます」 エデンは立ち上がって丁寧に一礼すると控えの席に戻った。 ペンを握り締め、審査する気満々でふたりを見つめていたT・タナトスは、あっという間に終わってしまった『試験』にガッカリ顔になった。 「何だ、一発入れただけでもう終わりなのか?」 「その一発も入れたというより跳ね返されてしまったがな」 「これ以上続けたところでオリオンがシラーに有効な一撃を入れられるとは思えぬし、サクサクと次に行った方が良かろう。エントリーしている生徒はまだまだ いるからな」 「それもそうか」 顔を見合わせたT・双子神が納得して頷くと、司会進行を兼ねているイオニアが指示を出す前にエデンの次にエントリーしていた赤毛の少年が前に出てきた。 少年の聖衣を見たヒュプノスが興味深げに目を瞬いて書類を見た。 「おや、次はこの時代の天馬星座の聖闘士か。名は…ええと…」 「俺の名前は…」 「「光牙だ」」 光牙が名乗るより早くT・双子神が得意気に紹介して、S・ヒュプノスは柔らかく微笑んで光牙(名乗る前に紹介されてしまって複雑な顔をしている)を見 遣った。 「そうか、コウガか。では天馬星座コウガよ、実力の程を見せてもらおう」 「はい!…うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 試合開始の合図も待たず、宣言も挨拶も無しにいきなり光牙は拳を振りかざしてシラーに殴りかかった。勿論と言うべきか、周囲の『ちょ、おま』な視線など 気付いていない。 シラーはわざとらしく肩を竦めると、エデンを相手にした時とは比べ物にならない量の小宇宙を凝縮して巨大な水球を目の前に作り出した。 「出でよ、バブルマイン!」 「え!?」 猛烈な勢いで突進していた光牙が突如目の前に出現した水球に対処できるはずも無く。 どっぱーん!! 派手な水飛沫をあげて水球にまともに突っ込んだ。 「!?!?」 水から出ようともがいたが、檻の無い水槽は光牙の動きに合わせてゆらゆらと動き彼を捉えて離さない。 そんな光牙を華麗にスルーして、シラーはケロリとした顔で生徒達を見回した。 「これもさっきやったのと同じ、小宇宙で空気中の水分を凝縮する技だよ。これだけの大きな水球を作るには膨大な小宇宙が必要だけど、巨大な水場が近くにあ れば比較的少ない小宇宙で作ることもできる。水を武器にするために必要な自分の小宇宙の量は水量と反比例し、水場からの距離と比例する。故に、任務に赴く 前は現地を入念に調べる事をお勧めするよ。海や川が無い街の中でもプールや水道局の場所を覚えておくと戦闘を有利に運べる。戦闘を有利に運ぶのは重要だ よ?わざわざ苦戦して被害を拡大させる必要は無いからね。さ、ここまでで何か質問はある?」 …生徒達から挙手は無い。 シラーの講義内容が意外にマトモで実用的だったので、神々や黄金聖闘士達が『真面目な質問は無いけど、おちゃらけた質問をして場を白けさせても悪いな』 と思って黙っていると、T・タナトスが手を上げた。 その姿を見たシラーはぱぁっと顔を輝かせた。 「え、タナトス様がご質問ですか?どうぞどうぞ、何なりとお聞きください!」 「光牙が白目をむいてビクとも動かなくなってるが、大丈夫か?」 「あ」 檻の無い水槽で溺死しかけている光牙に気付いたシラーは、慌てて水球に小宇宙を流し込むと光牙の首から上だけを水から出した(真ん丸い水から頭と手足の 先だけ出した光牙の図はとんでもなくヘンテコだった)。 散々飲み込んだ水を吐き出した光牙はゲホゴホと激しく咽せていたが、シラーは光牙が(自分のせいで)溺死しかけたことなど気にする風もなく講義を再開し た。 「…このように、捕虜にした敵に少々荒っぽい尋問をする時にも水は役に立つ。これだけの大きさの水球を作るには黄金レベルの小宇宙が必要だけど、鼻と口を 塞ぐ程度の水球なら君達でも作れるはずだ。いざという時に生死を分けるかもしれないからね、習得しておいて損は無いよ。…それから」 シラーは人差し指を立てて皆の注目を集めると、水達磨状態で突っ立っている光牙の額を軽くつついた。 「格上の敵を相手にする場面では奇襲は確かに有効な手段だ。けどね、相手が自分に気付いている状態で真正面から何の策も無く殴りかかるのは自殺行為。ただ のバカのする事だよ。 まぁ、これは試験だから君のキャラクターをアピールする手段としては有効だけど」 「…じゃあ、相手が自分に気付いているけど真正面から殴りかかる以外の策が無い時は、一体どうしろって言うんだ…ですか」 「僕が指揮官だったら『逃げろ』と命令を出すね。勝ち目のない敵に無謀な戦いを挑んだところで、捕まって味方の情報を吐かされた挙句に殺されるのがオチだ よ。『逃げる』という言葉が嫌なら『戦略的撤退』と言い換えよう」 「ちょ!敵を目の前にして『逃げろ』って!アンタそれでも黄金かよ!」 「…………」 光牙の言葉にシラーは思わず顔をしかめた。これが聖域内での会話なら『これ以上は話しても時間の無駄』と話を終わらせるのだが、生憎とここは『戦隊モノ のオーディション会場』で、神々も生徒達も講師のシラーが何と答えるのか興味津々の顔で見つめている。 シラーはわざとらしく大きく息を吐くと大袈裟な仕草で長い赤毛を背に払って審査員席を見遣った。 「確かに、僕は自他共に認める異端の聖闘士だからね…君が納得できないのも無理は無い。じゃあ僕以外の黄金の見解も聞いてみようじゃないか。『勝ち目の無 い敵 に遭遇し、かつ相手が自分に気付いているが真正面から殴りかかる以外の策が無い青銅聖闘士にどういう指示を出すか?』をさ。まずイオニア。君は聖闘士養成 学校の長 としてどんな命令を出すの?」 「私も戦わずに逃げろと指示を出す。無駄死には蛮勇ではない、愚行だ」 「ハービンジャー」 「青銅で勝ち目が無い相手つったら敵の頭目レベルだろ?そういう相手は俺に譲れよ!心の骨を折った時にさぞかし良い音が聞けそうだしな!」 「つまり戦うなってことだね。次、玄武」 「俺も逃げろと命令するだろうな。黄金が指揮を取る任務における青銅の主な役目は斥候だ」 「アモールは?」 「私も撤退を指示しますね。勝てない戦いを挑んで死なれるより、敵の情報をひとつでも持ち帰ってくれた方が遥かに助かります。きっとソニアも同意見でしょ うね」 「最後、マニゴルド先輩」 「お前が勝てない相手なら俺に任せろ。以上」 「ん?一人くらいは『自分を信じて戦え』と言う奴がいるかと思ったが、意外な結果だな」 「星矢達は勝ち目の無い敵に挑んで勝って来たから、聖闘士とはどんな時も敵に背中を見せたりせぬものだと思っていたが」 「そうだ、星矢さん達はどんな強敵と戦う時も背中なんて見せなかったじゃないか!それなのにどうしてアンタ…あなたは、『逃げろ』なんて言うんだ!」 T・双子神が疑問を代弁したので、わが意を得たりとばかりに強気になった光牙はシラーに指を突きつけた。 そんな天馬星座の態度に、シラーはわざとらしいジト目になってカリカリと頬を掻いた。 「戦力になる味方が青銅しかいなくて、敵が強いからと撤退したらその間にアテナ が死ぬという非常事態と、黄金や白銀の指揮下で遂行する通常の任務を同列で語られてもねぇ…。そもそも君、星矢さんよりずっとずーっと弱いだろ?星矢さん と同じ事がしたいなんて台詞は星矢さんと同じくらい強くなってから言いなよ。オーディションとは言え、僕に一撃も入れられない君が言って良い台詞じゃない ね」 「うぐ」 ぐうの音も出ない光牙に冷ややかな目を向けてシラーは淡々と言葉を続けた。 「さてここで質問だ。星矢さん達に憧れて、『上官命令に背いて勝ち目のない敵に挑み、その後も現役で聖闘士を続けている者』は、今の聖域に何人いると思 う?」 「えっと…10人くらい、ですか?」 「甘いねぇ。答えはね、ゼロ。ひとりもいないんだよ」 「え…」 「無謀な戦いを挑んだ者は敵の返り討ちに遭って命を落とすか、日常生活に支障が出るレベルの大怪我をして聖闘士を引退するかのどちらかだ。そして無謀な特 攻は仲間に迷惑をかけて無駄な被害を出す。勝ち目の無い敵に無理に挑んでも良いことなんて何も無い、歴史がそれを証明している。もう一度言うよ、天馬星 座。星矢さん達と同じことをしたいなら、まず星矢さん達と同じレベルまで強くなること。話はそれからだ。分かった?」 「…はい」 「よろしい」 渋々ながら光牙が頷いたので、シラーは彼を拘束していた水球を胡散霧消させた。同時に『光牙の審査はこれにて終了』という空気が流れて、光牙は複雑な顔 で一礼すると後ろ髪を束で引かれているような足取りでエントリー席に戻って行った。 …その後は、ユナが開始の合図どころか紹介も待たずにシラーに蹴りかかってハイドロトラップで跳ね返され、思いっきり脱力した顔のシラーが『君、さっき の僕の講義を聞いてた?』と彼女に尋ねたり、やる気をなくしたシラーが『次からエントリーの生徒が仕掛けた攻撃は全部ハイドロトラップで対処する』と宣言 したり、蒼摩のライオネットエクスプロージョンや龍峰の廬山百龍覇や栄斗の狼牙拳羅刹旋風刃を宣言通りハイドロトラップで掻き消して『小宇宙の絶対量が段 違いなら相性とか技の使い道なんて些細な問題なんだよ』と解説したり、何だかんだで黄金の実力を存分に見せ付けつつ生徒達も審査員達も楽しく盛り上がって オーディションは終了した。 オーディションを終えた神々と黄金聖闘士は、エントリーした生徒達の合否を相談する為にパライストラから程近いミスドのショップに向かった。弟の手を引 いて真っ先にショップに入ったT・タナトスは、T・ヒュプノスにもトレイとトングを渡すと銀色の目をキラキラさせてドーナツが並ぶ棚を見回した。 そんな小さな死神の姿にS・タナトスが口を開いた。 「チビ助、念のために言っておくが…」 「みなまで言うなっ!『ドーナツなら10個や20個朝飯前だからと言って10も20も食べて良いわけではない。5個にしておけ』とでも言うのであろう?」 「分かっていたのか?弟にまでトレイとトングを渡したから10個も20個も食べるつもりなのかと思ったが」 「皆がトレイとトングを持ってドーナツを選び始めたら他の人の迷惑になるではないか。だから俺とヒュプノスが代わりに取ってやるのだ。皆は先に飲み物でも 買って席についてていいぞ!あ、俺は苺ミルクを頼む」 「私はホットのカフェオレがいい。…さ、欲しいドーナツが決まった者は言ってくれ」 ハニーディップで。オールドファッションを頼む。フレンチクルーラーよろしく。アップルパイを。お任せします…皆が好き勝手リクエストしたドーナツを T・双 子神があっちに行ったりこっちに行ったりして選んでいる間に、大人の双子神と沙織、そしてマニゴルドは黄金聖闘士達に飲み物の注文を任せて二階席に上がっ た。S・タナトスに命じられたマニゴルドが苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔で四人掛けと二人掛けのテーブルをくっつけて椅子を並べ終わると、見計らった よう なタイミングでT・双子神と黄金聖闘士四人が飲み物と山のようなドーナツを持って二階席にやってきた。 T・タナトスがS・タナトスの膝に、T・ヒュプノスはS・ヒュプノスの隣に座り、アモールとシラーが飲み物を配り始めた。 「アテナは紅茶、ヒュプノス様はホットのカフェオレでしたね」 「タナトス様、コーヒーと苺ミルクをどうぞ。先輩はメロンソーダだったよね」 「コーラだよコーラ!わざとらしく間違えやがって!」 「ほらよ、ドーナツだ!」 「誰がどれをリクエストしたかもう覚えてないからな、適当に取ってくれ」 ハービンジャーと玄武がテーブルに並べていくドーナツの皿を見てS・タナトスとS・ヒュプノスは目を瞬いた。 「随分と多いな」 「10人分あるからな」 「誰がどれをリクエストしたか途中で覚えていられなくなってな。定番のものを一通り買ってきたのだ!」 「…尤もらしい事を言っているがチビ助、ドサクサにまぎれて5個以上ドーナツを食べよう!という魂胆ではあるまいな?」 「あうっ!」 S・タナトスが膝に座ったT・タナトスの頬をつまんでむにーっと引っ張ると、T・タナトスは銀色の目を思いっきり泳がせた。 「そ、そんなことはせぬぞ!5個以上ドーナツを食べては夕食が食べられなくなって聖華姉ちゃんに怒られてしまうからな」 「…………。まぁ良かろう。そういうことにしておいてやろう」 「では、オーディションの審査を始めましょうか。オーディションの採点結果をまとめた資料がこちらですわ」 「さすがアテナ、仕事が速いな」 渡された数枚の書類に目を通した皆は一様に微妙な顔になった。 エデンや光牙や彼らの友人数名の印象が強すぎるせいで、他の生徒達がどんなキャラだったか全く覚えていないのだ。真面目に生徒を審 査していたタナトスコンビですら『スピア?どんな奴だった?』などと言っているのだから、オーディションそっちのけで他の事をしていたヒュプノスコンビや 黄金達など言わずもがなである。 沙織はそんな皆の反応など予想済み、という笑顔を浮かべて優雅に紅茶を口に運んだ。 「では皆様にお伺いしますわ。その書類に書かれた名前を見て、顔とキャラがパッと浮かぶ生徒は誰かしら?」 「俺は天馬星座だな。シラーの水に捕まった間抜けな姿のまま偉そうに食って掛かる姿は面白かったぞ」 「そうだな、俺も天馬星座が印象に残っている」 「私は仔獅子座だ。必殺技の炎をカウンター技で消された時の顔が印象に残っている。…あまりにも間抜けだったのな」 「強いて言えば龍峰だろうか。廬山昇龍覇を一発撃っただけで息切れしていたであろう。あれで聖闘士をやっていけるのかと心配になったぞ」 「僕は鷲座の女の子だね。名乗りも上げずにいきなり蹴りかかって来るなんて、お行儀が悪すぎるよ」 「俺はあいつだな!ほれ、眼鏡かけた自称忍者。聖衣を装着した途端に眼鏡が消えただろ?さすが忍者、謎が多いぜ!」 「身内贔屓と言われそうだが俺も龍峰だ。ガキの頃から知ってる奴だからな」 「俺は仔獅子座かね。熱血で抜けてるとことか、なーんかテンマの野郎に似てたんだよなぁ」 「何です皆さん、エデンの事は印象に残ってないんですか?シラー、ハービンジャー、玄武、あなた達はエデンを覚えてますよね?私やソニアに時々会いに来ま すし、その時に顔も合わせてますし」 アモールが不満そうに尋ねると、シラーとハービンジャーと玄武がドーナツを食べる手を止めて顔を見合わせ、三人同時に口を開いた。 「エデンって誰?」「あいつより、はしゃぎまくってたお前の方が印象に残ってるよ」「優等生過ぎて逆に印象が薄いな」 「ちょ!何ですか何なんですかあなた達!酷いじゃないですか、エデンを覚えてないなんて!ああ、もういいです、あなた達に期待した私が馬鹿でしたっ!タナ トス様、ヒュプノス様、それからマニゴルド先輩!皆様方ならエデンのことも印象に残ってますよね?」 「…エデン?どんな奴か覚えているか、ヒュプノス?」 「いや、生憎と私も覚えていない」 「光牙の直前に審査を受けた生徒だぞ。俺達の世界ではパライストラのクラスメイトの」 「青白い髪の、お坊ちゃま風で」 「あ!ひょっとしてあいつか?聖衣にトイレットペーパーみたいな布つけた奴」 「「そう、そいつだ」」 「何なんですかマニゴルド先輩、その覚え方!それに皆さん、今の説明で『あー、あいつか』みたいに納得しないで下さい!エデンが泣きますよ!あの子はああ 見えて繊細なんだから!」 「では、皆さんの印象に残った生徒は、光牙・蒼摩・龍峰・栄斗・ユナの5人ということですわね」 涙目で甥をフォローするアモールをスルーしたまま沙織はにこりと笑った。 意見をまとめて結論を出すらしいと感じた皆が彼女に注目したので、アモールは半べそ顔で口を噤むとこれ見よがしのいじけた仕草でテーブルに『の』の字を 書いた(が、誰も気遣ってくれなかった)。 沙織はカップをソーサーに戻すときちんと背筋を伸ばして、皆を見回して口を開いた。 「激やイオニアが言うには、この5人は仲が良くていつも一緒にいるそうですわ。それぞれ個性があって分かりやすくキャラも立っていますし、ゴレンジャー役 にはこの5人を採用しようと思うのですが…如何かしら?」 「俺は別に誰でも構わん。主役の俺を食わなければ誰でも良い」 「『アテナ戦隊ゴレンジャー』ってタイトルなのにタナトス様が主役なのか…いやまぁ、最初からそういうコンセプトだったけどよ」 「良くも悪くもあれくらい強烈な個性があった方が、タナトス様と競演した時に霞まなくていいのかもね」 「私はほとんど不参加だからな、判断は貴女とタナトスに任せよう」 「俺と玄武とアモールは見る専だからな。出演する面子がOKならいいんじゃねーの?」 「そうだな」 「ああ…エデンをダシにシラーに絡む計画が…」 「アテナよ。彼らより高得点を取った生徒もいるが、その点は構わぬのか?」 「ええ、構いませんわ。審査員の皆さんの記憶にも残らない生徒が戦隊モノに出演したところで、『ゴレンジャーのキャラが薄い、キャラが立ってない』と言わ れてしまうでしょう?大切なのは試験の点数ではなく、冥王軍の皆さんと対しても霞まないキャラの濃さですから」 今回の企画の最高責任者である沙織がそう言うのならそれで良いのだろう…と皆が納得の表情になると、『満場一致で決定』と判断した沙織は名前の挙がった 5人の欄に合格のサインを入れた。城戸財閥が企画した戦隊モノの主要キャラを決定するにしては呆気なかったが、そもそもタナトスが出演することや杳馬やシ ラーが重要な役を演じることもその場のノリと勢いで決まったのだ。有名なスタジオと組むとは言え、ちょっと豪華な同人映画みたいなものなのだろう…と、タ ナトスコンビ以外の皆は呑気に考えていた。『アテナ戦隊ゴレンジャー』は日曜朝の戦隊モノ枠で放送されるという衝撃の事実を彼らが知るのはこれからしばら く後のことになる。 |
| 星矢部屋 |
総合目次 |
SS・2012
時代 |
SS・神話時代 |
SS・蟹座達 |
| 頂いた挿絵のタナタナコンビとシラーさんとΩ黄金にニヤニヤが止まら
ない3話目です。溺れかけてる光牙のヘッドパーツも渦巻きになっているのにうっかり萌えてしまいました(笑)。 今回は、当サイトシラーさんのスタンスと立ち位置を紹介するような話になったかな?と思っています。当シラーさんは「合理性と損得勘定至上主義」という 師匠譲りのスタンスを貫いているんですが、感情的で熱血派が多い聖闘士達の中ではそのスタンスは理解されないだろうなぁ、的なことを考えながら話を書いて いました。Ω本編で光牙がシラーさんに食って掛かってたので、今回のSSでも「シラーさんに食って掛かる光牙」のエピを入れてみました。それから、シラー さんのスタンスや物言いは反感を買いやすいんだけど、「組織の指揮官としてはシラーさんは間違っていない」も書きたかった事です。 そして蝶様双子神とミスドは切っても切れない関係!(笑)蝶様タナ様が当タナの膝に座るのはいつものことですが、蝶様ヒュプが当ヒュプの膝に座るかどう かは少し悩みまして。「お茶の時まで膝に座ったら蝶様ヒュプは恥ずかしくてお茶どころではないのでは」という見解で蝶様と意見が一致して、いつも通り隣に 座るという展開になりました。で、ゴレンジャー役の5人が光牙達になる理由は色々と悩んだ結果、「審査員達の印象に残った生徒を選ぶ」にしました。ちなみ にシラーさんがユナを「お行儀が悪い」と評していますが、これはΩのWEBラジオでユナ役の雪野さんが「攻撃が足技なんてお行儀の悪い子だな、と思った (笑)」とコメントされてたのが元ネタです。 あ、あと一期エデンの聖衣の肩についてた布を「トイレットペーパー」と言うギャグはお約束ですよね(・ω・)?それから、シラーさんはエデンについて 「誰?」と言ってますが本当に忘れてるわけじゃありません。アモさんいじめのネタです(笑)。 そして、散々悩んで「言いたいことがうまく言葉に出来なかった」と言う理由で没にした部分も紹介しておきます。「『勝ち目のない敵と遭遇したら逃げろ』 という黄金達の発言に疑問を感じた蝶様双子神達のその後」部分です。 「それについては講師のシラーがお答えしますわ」 「ほう…面白そうだな」 「私もどんな答えが聞けるのか興味深い」 「えー、こほん。では、僕の個人的見解ではありますがひとつの解を述べさせて頂きます」 双子神達に見つめられたシラーは、審査員席に向き直ると芝居がかった仕草で人差し指を立てて見せた。 「まず、星矢さん達の戦いは通常では有り得ないイレギュラーでした。戦力になる味方が青銅しかいない非常事態で、かつ敵が強いからと撤退したらその間にア テナ が死ぬという切羽詰った状況だから、彼らは勝ち目の無い戦いでも僅かな可能性に賭けて戦うしかなかったわけです。無謀な戦いをするか、アテナもろとも味方 が全滅す るかの究極の二択を迫られたから戦う道を選んだ。それから、星矢さん達の武勇伝は『勝ち目のない敵に勇敢に挑んで勝利してき た』って部分だけが一人歩きしている印象があるんだよねぇ」 「え?」 「教皇の反乱、ポセイドンの覚醒、冥王ハーデスとの聖戦…どの戦いにおいても神や黄金聖闘士が星矢さん達に手を貸していたんだよね。そ れに敵の大将も実力で倒されたというより、星矢さん達が必死に戦う姿勢を認めて勝利を譲ってくれたという印象が強い。非常事態で、神と黄金の手助けがあっ て、敵の大将が物分りが良かったという特殊な条件下だったから、星矢さん達は勝ち目のない敵にも勝利することができた。それは正に奇跡、過去に誰も成し 遂げたことが無い偉業。だからこそ彼らは伝説の聖闘士と呼ばれている」 「…………」 「長々と話してしまったね。要するに、『強敵を確実に倒せる強い仲間が一緒にいるならそいつに任せろ。仲間を守る為の特攻には意義があるが、仲間に迷惑を かけるだけの特攻はただの迷惑』ってことさ。青銅の任務は、司令官に与えられた任務を忠実にこなすこと。無謀な戦いを挑んで金星をあげることじゃないんだ よ。分かった?」 つまり、星矢達が「偉大な戦果」を成し遂げられたのは、彼らの覚悟や実力は勿論ですが、強敵に挑まざるを得なかった事情や、実力者や幸運に助けられた側 面もある。「物事の一面・結果だけを見て、別の側面・そこに至る過程を見ずに『見栄えが良く素晴らしい一部分だけ』を真似すると痛い目見るよ」とシラーさ んは言ってるわけです。それと、審査員席に(星矢達に敗れた)双子神がいるので、タナトス様大好きシラーさんは、彼らに配慮した解説をしたと言うのもあり ます。 |