双 子神2012・戦隊
EPISODE 4

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 オーディションの選考をさっさと終えた一行は、冥界に帰還する双子神達を見送る為に聖域に戻って来た。聖域に預けていたお泊まり用の諸々を詰め込んだ鞄を受け取った異世界の双子神はにっこり笑って皆を見上げた。

「皆、今日はありがとう!」
「では、また明日」
「ん?チビ神様達は自分の世界に帰るんじゃねーの?」
「こいつらが帰るのは明日だ。今日はこちらの冥界に一泊する」
「ハーデス様やヘカーテ様もふたりに会いたがっておられるのでな」
「なるほど、そういうわけですか」
「少し早いですけれどおやすみなさい。明日、またお会いしましょう」
「そうだミニ神様!明日は俺達と一緒に『カフェ・巨蟹宮』で朝飯食わねぇか?」
「カフェ?」
「巨蟹宮?」

 ハービンジャーの提案に子供の双子神がきょとんと目を丸くした、その時。
 ドゴッ!!

「何でやねーん!」
「あだっ!!」

 満面の笑みを浮かべたシラーがハービンジャーの後頭部をグーパンした。
 笑顔でのグーパンと『何でやねん』という掛け声(?)でツッコミを入れられたと言う事は理解したものの、何故突っ込まれなくてはいけないのか理解できないハービンジャーがシラーに食ってかかった。

「うぉいシラー!ツッコミ入れんなとは言わねぇけどよ、俺の一体どこに突っ込みどころがあったんだよ!!」
「僕の宮をモーニングを出すカフェ扱いした挙句に双子神様にタメ口をきいた事だよ」
「はぁ?良いじゃねーかそのくらい!マニゴルド先輩だってタメ口じゃねーか!」
「タナトス様のマネージャーやってるマニゴルド先輩と、数えるほどしかタナトス様にお会いしたことが無い自分を同列で語るのに何も疑問を感じないのか…。だからお前は冥界の神々に『聖域漫才グループのボケ専』と言われるんだぞ」
「何を言ってやがるんだ玄武。俺はそんなこと聞いた覚えは無いぞ」
「最早これは常識!ニブいお前が知らないだけだ」
「そういう玄武も『総天然ボケ』と言われていますがねぇ」
「何だと?いつ、俺が」
「偉そうに言ってるけどアモール、君も『天然物のボケ』と言われてるよ」
「え?いつ、私がそんな天然のボケを…」
「「いつもだ」」

 ものすごい真顔のハービンジャーと玄武に突っ込みを入れられているアモールを笑顔で見ながら、沙織が異世界の双子神を見遣った。

「そう言えば、そちらの世界のシラー達はこちらの世界とはポジションが違うのかしら?伺ったお話の印象ではキャラの方向性は概ね同じのようですけれど」
「『そちらの世界』?」
「…あ、そうか。このちっこい双子神様の世界にも俺達がいるのか!」
「イレギュラーで地上に甦ったマニゴルド先輩までいるんだから、俺達がいてもおかしくないな」
「タナトス様がおっしゃるには、この世界の僕達とはかなり立ち位置が違うそうだけど…」

 異世界の『自分達』はマルスの配下である事、パライストラ学園で教師をしている事、そこに至るまでの経緯をざっと説明して、シラーはにこりと笑って付け足した。

「おふたりの世界の僕も、ハービンジャーと仲が良くてアモールにセクハラされてるんだってさ」
「少なくとも私がやっているのはセクハラではなくスキンシップですよ…」
「おおっ、そうなのか!ほーれ聞いたろ玄武?やっぱりシラーの相方は全世界共通で俺なんだよ!」
「…………。タナトス様、ヒュプノス様。そちらの世界のハービンジャーはシラーとそんなに仲が良いのですか?」

 ハービンジャーの言葉に不満そうな表情になった玄武が尋ねると、小さな双子神達は顔を見合わせて可愛らしい仕草で首を傾げて見せた。

「シラーとハービンジャーはいつも一緒にいるから仲が良い…と言うか、シラーが度を越したドジッ子だからハービンジャーが保護者になっている感じがするな」
「うむ、あれは最早『オカン』のレベルだと思うぞ。先日も、『3000円のお買い得な白衣』を着ているアモール相手にシラーが『10万円の白衣』とやらを 自慢した後にずっこけて薬品を零してな。『うわぁぁぁぁぁ!!!僕の白衣にシミがぁぁぁ!!!』って悲鳴をあげた途端にハービンジャーとミケーネが授業を 放り出してすっ飛んで来たのだ。『どぉしたシラー!またアモールに押し倒されたかぁぁぁ?!』『アモール!お前はまたシラーにセクハラして!いい加減にし ないかっ!!』」
「ぷっ。二人の真似が上手いな、タナトス。そっくりだぞ」
「学校に行くたびに似たような事をやっているからな、覚えてしまったのだ!」

 弟に褒められたタナトス少年が得意気に胸を張ると、玄武がますます複雑な顔で質問を続けた。

「あの…俺は?シラーとは仲良くしてないのですか?」
「体育教師の助手と保健の先生だからしばしば一緒にいるし、仲は悪くないと思うが…玄武はシラーよりもフドウに絡んでいる事が多いな」
「え?フドウ?」
「フドウは何と言うか…浮世離れ?したところがあってな。玄武がああでもないこうでもないと口を出して世話を焼いているのだ。傍から見ていると大きなお世話ではないかと思うのだが…」
「そもそも玄武も相当なボケだから世話焼きの方向性がずれているしな」
「マニゴルドは『あの二人が揃ってるところには近づかない事にしてる。ツッコミだけで小宇宙切れするし』と言っていたぞ」

 異世界の双子神が真面目な顔で言ったセリフで、『こちら側の世界』のメンバーは『あちら側の世界』の玄武とフドウのボケっぷりが如何に凄いのかを察する ことが出来た。相手がタナトスだろうが冥妃だろうが教皇だろうが後輩だろうが、文字通り神をも恐れず切れ味鋭いツッコミを入れまくるマニゴルドが『ツッコ ミだけで小宇宙切れするから近づかない』と言うからには相当なのだろう。と言うか、既に『こちら側の世界』のメンバーでは異世界のシラーへのツッコミだけ で小宇宙切れを起こしそうな気がする。
 …などと考えて遠い目になる皆の前で、小さな双子神は楽しげに自分達の世界の玄武とフドウの話を続けた。
 
「ズレた方向に口やかましくあれこれ言い過ぎて玄武がフドウに吹っ飛ばされるのも日常の光景だな」
「うむ。最初見た時は驚いたが、皆はもう慣れっこだな。『あ、玄武がまた飛ばされてる』『今日は校庭のど真ん中まで飛んだぞ』『新記録だねぇ』と茶を飲みながら見物しているぞ」
「貴鬼だけが根気よく玄武を窘めているが、あいつがどこまで貴鬼の突っ込みを理解しているのか…。面白いから良いと言えば良いのだがな!」
「そ、そうなんですか…」

 異世界の双子神の言葉に何とも微妙な顔になった玄武を見て、何かの勝利を確信したらしいハービンジャーが両手を組んでバキバキ言わせ始めた。

「よっし決めた、俺もシラーの保護者ポジになる!まず手始めにこの世界のアモールをシメてやるぜ!」
「ええっ!?なんですかそのとばっちり!神様達を見送りに来ただけなのに何でそんな貧乏籤をひかなきゃいけないんですか私!?まだ何もやってないのに!」
「『まだ』って何、『まだ』って。これから何かするつもりだったのかい、アモール?」
「犯罪は未然に防がなくてはいけないからな。俺も協力するぞハービンジャー」
「またあなた達は!普段シラーを取り合う時は喧嘩ばかりなのにこんな時だけ協力して!…って言うかアテナも双子神様も助けてくれないんですか!?」

 涙目になったアモールが神々に助けを求めたが、アテナと双子神は涼しい顔で首を傾げて見せた。

「ん?助ける必要があるのか?」
「私はてっきり、いつものどつき漫才だと思っていたが」
「おおっ、これが噂のどつき漫才か!」
「でも、少々キレがありませんわね…アドリブだからかしら」
「まぁ、オチが面白ければそれでいいぞ」
 
 期待に目を輝かせる小さな双子神と、『オチがつまらなかったら赦さん』と笑顔で釘を刺す神々と、気の毒な後輩達をただ見守るしか出来ないマニゴルドに見つめられた黄金聖闘士達が見合わせた時。
 シラーが満面の笑みを浮かべて右手を掲げて小宇宙を集めた。

「要するに、君達3人が消えれば聖域は平和になるって事だね!積尸気…」
「「なんでやねーん!!」」
「おぅわぁ!待った待った待ったぁぁぁーーーーーー!ライトニングボルトぉぉぉぉぉ!!」

 阿吽の呼吸でアモールと玄武が笑顔でツッコミを入れたが、真に受けたハービンジャーがシラーに右ストレートを放った。
 バキッ!!!
 どごーん!!
 シラーが壁際まで吹っ飛ばされて埃がもうもうと舞い、積尸気冥界波を止めたハービンジャーはほっと安堵の息を吐いた。

「ふぅ…危なかったぜ」
「おい、ちょ…この馬鹿牛!」
「オチのツッコミで必殺技放ってどうするんですか!!」
「ライトニングボルトは必殺技じゃねーよ、ただの掛け声だよ!!」
「「違ーう!!」」
「何がだよぉぉ!!!」

 玄武とアモールの突っ込みにまだ状況を理解していないハービンジャーと言う図に皆が笑っていると、瓦礫を押しのけて不機嫌顔のシラーが戻ってきた。ハービンジャーに一言抗議してやろうと口を開いた時、タナトスがにっこりと笑ってパチパチと拍手した。

「コンビを組んでいるだけあってハービンジャーとのボケ突っ込みはハイレベルに冴え渡っているなっ。突っ込みポジのお前がボケポジのハービンジャーに突っ 込まれるというオチは予想外であったが、突っ込んだ後にボケ続行と言う展開まで来るとは。とても面白かったぞ!な、タナトス?」
「そうだな。異世界からお前達が来ていたゆえ、連中の漫才も力が入っていたのだろう。俺も楽しませてもらったぞ」
「そ、そうですか?タナトス様に褒めて頂けるなんて、壁際まで吹っ飛ばされた甲斐がありました!」

 ハービンジャーへの文句などどこかに飛んで言ったシラーが嬉しそうに照れ笑いしながら眼にかかった前髪を払った時、右手の小指に填まった何かが窓から差し込む夕日に照らされてきらりと光った。
 何だろう?
 興味を引かれたタナトス少年はちょこちょことシラーに歩み寄って、前髪を払いかけたポーズで固まっているシラーの右手小指にある『きらりと光った何か』をしげしげと見つめた。

「ん?シラーは指輪を填めているのか?」
「あ…はい」
「タナトスがモデルをしているブランドのロゴが入っているな。タナトスから貰ったのか?」
「いや、俺はシラーにそんな物やった覚えは無いぞ」
「では自分で買ったのか?」
「はい。僕はタナトス様の大ファンなので、タナトス様がモデルをされたアクセサリーは全部集めてるんです」
「シラーは本当にタナトスが大好きなのだな。…ところで何故、指輪を填めているのだ?婚約者がいると言う話は聞いたが、それが婚約指輪なのか?」
「何を言っているのだタナトスよ。婚約指輪なら左手の薬指に填めるであろう。素っ気無いほどシンプルなデザインだし、ファッションかまじないではないのか」

 ヒュプノスの服の袖を引いて近づいて来たヒュプノス少年が興味深げにシラーの指輪を見遣った。
 皆が指輪に注目したので、何となく理由を言わなくてはいけないような気になったシラーが照れ臭そうに笑いながら口を開いた。

「これは、言うなれば『約束指輪』です」
「約束?」
「何かの約束を象徴してると言う事か?」
「あー…その、僕、ちょっと精神的に荒れてたと言うか被害妄想が入ってた時期があって…『この世界には自分を愛してくれる人はいない、そんな何の価値も無い世界は消えてしまっても構わない』とか思ってた事があるんです」
「ふむ。いわゆる厨二病だな」
「人間なら誰でも一度はかかるというあの病気か」
「そんな話をハービンジャーにしたら、『お前が誰も自分を愛してくれないから世界なんて消えちまえ、って思った時は迷わず俺のところに来いよ。その時俺 は、お前の骨が折れるほど抱きしめながら愛してるって言ってやる、約束してやる』って言われて…『指切り』っていう日本式の約束の儀式をしたんです。これ はその、約束の証です」
「ふむ…」

 指輪の経緯を真剣に聞いたタナトス少年は、シラーの話をもう一度頭の中で反芻し、彼なりに結論を導き出してにっこりと笑った。

「シラーがハービンジャーと愛の約束をした証だったら、やはりそれは婚約指輪だな!」
「えっ……」
「だってよー、シラーちゃん!タナトス様に婚約指輪認定されちゃったらもう、俺ら結婚するしかねーよなー、あはははははー!!」

 最近は玄武やパラドクスに『シラーの相方ポジ』を脅かされて不満を溜め込んでいたハービンジャーは小さな死神の言葉がよほど嬉しかったらしい。絶句して いるシラーの肩を抱いて上機嫌でバシバシと叩いた。神々はそんな二人の姿にクスクス笑い、タナトスが相手では抗議するに出来ない玄武とアモールは調子に 乗っているハービンジャーに一発入れて鬱憤を晴らそうと拳を固めた時。
 ハービンジャーに肩を抱かれたシラーが無表情のまま右手の小指から指輪を外した。

「あれ?何で外すんだ?」
「…………」

 ハービンジャーの問いを無視して肩に回された腕を無造作に押しのけたシラーは、窓際に歩み寄って窓を開けると元の位置まで戻ってきた。一体何をするつもりだと皆の注目を一身に浴びた彼は外した指輪を右手の中に握りこんで、大きく振りかぶって、そして。
 ぶんっ!!!!!
 夕闇迫る空に向かって全力で指輪を投げた。
 黄金聖闘士の全力でブン投げられた銀色の指輪は漫画のように『キラーン☆』と光って十二宮の麓に広がる森の中に落ちていった。

「あ゛ーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?」

 『あ』に濁点がつくような声で絶叫したハービンジャーは、綾波レイのように感情の無い顔をしているシラーの肩を掴んで揺さぶった。

「ちょ、何すんだよシラー!結婚するしかないって言うのは冗談に決まってるじゃねーか、約束の証までブン投げなくてもいいだろーーーー!?!?」
「うるさいよハービンジャー」
「どーなるんだよ俺とお前の約束はぁぁぁぁぁ!?!?」
「うるさいよハービンジャー」
「ああ…俺とシラーちゃんの愛の証が…」
「うるさいよハービンジャー」
「いやーん、シラーちゃんてば壊れたラジオみたいにつめたーい。えぐえぐ…」
「真面目にへこんでるのかと思ったらまだ余裕があるようだな」
「でも、今日はこの辺にしておきましょう、玄武。限界まで追い詰めるのは得策とは言えませんから」

 床に手を付いて泣いているハービンジャーを見ながら玄武とアモールがどこまで冗談でどこから本気か分からない会話をしている。
 ひょっとして自分の発言のせいでとんでもないことになってしまったのだろうか?とタナトス少年が心配していると、大人のタナトスが笑顔で彼の頭にぽんと手を置いた。

「心配は要らぬぞ、チビ助。これもいつもの漫才だ」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ。先程のはどつき漫才、今度のはシュール漫才だ」
「ハービンジャーは本気でへこんでいるように見えるが」
「渾身のボケが盛大に滑ったせいだろう。明日にはいつもの牡牛座に戻っているさ。…そうだな、シラー?」
「…はい、勿論です」

 シラーが笑顔を浮かべて言葉を返すまで一瞬間が開いたが、それには気付かなかったタナトス少年は安心したように微笑んだ。
 ではまた明日、『カフェ・巨蟹宮』で!と笑顔で手を振って、双子神達は冥界へと帰って行った。




 双子神達が冥界に帰還したしばらく後。
 シラーは十二宮の麓にある森の中にいた。足元を注意深く見ながらゆっくり歩き、頭上の木の枝や葉を透かすように見つめ、また足元に注意を向けてゆっくり 歩き、時折地面に膝をついて背の低い植物の下を覗き込み、溜息をついた。ハービンジャーとの約束の証を見た異世界のタナトスに『その指輪は婚約指輪か』と 予想外のことを言われて驚いて、ハービンジャーも悪乗りして、どう反応すべきか分からなくて、その場の勢いで思わず窓の外に指輪を投げ捨ててしまったが、 冷静になった途端に後悔の念が押し寄せてきた。約束の証と言っても自分で買った指輪だし、見つからなかった時は同じものを買えばいい…と頭では思ってもい ても立ってもいられず、こっそりと指輪を探しに来ていたのだ。

「ああ…どこ行っちゃったのかなぁ」

 思わず口から弱音が零れた。
 …半べそ顔で指輪捜索をしているシラーの姿を、飛雄馬の特訓を影から見守る明子のようなポーズで木陰から見つめている人物がいた。マルスとの戦いで死の淵から帰って来たシラーへのアプローチが遅かったせいで『シラー争奪戦』で見事に出遅れた魚座のアモールである。

(フフフ…やはり指輪を捜しに来ましたね、シラー。あなたの行動は想定の範囲内、正に私の計画通り。ハービンジャーや玄武に遅れを取った分をここで一気に取り返しますよ)

 アモールは手の中に握りこんだ銀の輪に視線を落としてニヤリと笑った。
 実は彼は、シラーが指輪を投げ捨てた時に『アレは何かに使えるぞ』と直感して指輪が飛んでいった先をしっかりと見ていたのだ。シラーが常に身につけてい た指輪は微かだが彼の小宇宙を纏っているので、探し出すのに大した時間はかからなかった。指輪を見つけた後は、さて何と言ってシラーを口説こうかとワクワ クして考えながら彼が来るのを待っていたのだ。
 口説き文句も決まったし、さぁ行きますか!とアモールが勢い良く一歩を踏み出した瞬間、不意に藪から足が飛び出してきてアモールの足を引っ掛けた。
 流石の黄金聖闘士も予想外すぎる出来事でとっさに対応が出来ず、アモールは足に躓いて盛大にすっ転んだ。
 ずべっ!!

「ひでぶっ!!」

 思わず悲鳴を上げてしまい、ハッと顔を上げ、シラーに気付かれていないか様子を伺い、指輪をちゃんと握っているか確認し、安堵の笑みを浮かべて立ち上 がったアモールは顔から笑みを消した。…仏頂面の玄武が傍らに立っている。アモールに足を引っ掛けて転ばせたのもきっと彼だろう。
 流石のアモールもムッとした顔で立ち上がった。

「何の真似です、玄武」
「その指輪を渡してもらおう」
「ご冗談を。この指輪はハービンジャーとシラーが交わした約束の証でしょう?あなたには何の関係もないじゃありませんか」
「それに絡んでシラーに聞きたいことがある。そのために必要なんだ。…渡せ」
「…………」

 玄武は真剣な目で手を差し出した。
 アモールは唇を尖らせてジト目で玄武を見た。
 ここで嫌だと言ったら喧嘩になりそうな気配を感じる。喧嘩で負ける気はしないが、その後が色々と面倒になるのは間違いない。アモールは不満げにチェッチェッと拗ねてせめてもの抵抗をしてから、渋々指輪を差し出した。

「仕方ありませんねぇ…ただし、これは貸しですからね?」
「先刻承知だ」

 真顔で指輪を受け取った玄武は余裕の『よ』の字も無い顔でシラーを追いかけようと一歩を踏み出して。
 ガツッ。
 ずべっ!ごちっ!!

「あべしっ!!」

 アモールが不意に突き出した足に盛大に躓いて前のめりにずっこけた。
 その姿に多少溜飲を下げたアモールは、ニヤニヤしながらちっちっち…と指を振った。

「いけませんねぇ玄武。自分の足元も見えていないとはいくらなんでも余裕が無さ過ぎです。シラーに何を聞くつもりかは存じませんが、そんな切羽詰った表情で問い質したところで曖昧にはぐらかされて終わりですよ?」
「…………。忠告、痛み入る」
「いえいえ」

 プププププ、と笑いながら十二宮に帰っていくアモールの背中をひと睨みして、深呼吸して気持ちを切り替えた玄武は出来るだけ自然な仕草でシラーに歩み寄って声をかけた。

「…シラー」
「玄武?どうして君がここに?」
「指輪を投げ捨てたことを後悔して探しに来てるんじゃないかと思ってな。それにお前、タナトス神に『明日にはいつものハービンジャーに戻っている』と言っ ただろう?ハービンジャーは真面目にへこんでいたし、明日までにあいつを立ち直らせようと思ったら指輪を回収するしか手段は無いだろう」
「参ったなぁ、そこまでお見通しだったなんて。…じゃあ、悪いんだけど君も一緒に指輪を探してくれる?多分この辺に落ちたと思うんだけど見つからなくて」
「もう見つけた。これがそうだろう?」

 アモールがな、と内心で呟いて玄武は指輪を差し出した。
 シラーは驚きで目を見開いて指輪を受け取り、安心したように吐息を漏らして右手の小指に填め直した。

「ありがとう、玄武。見つからなかったらどうしようと思って内心かなり焦ってたんだ」
「フ。自分で探すと探し物は見つからないものだからな。…ところでシラー」

 心臓がドクドクと跳ね回っている。
 緊張で小刻みに震える手をズボンのポケットに突っ込んで、玄武は努めて何でもないことのようにそっと切り出した。

「お前、ハービンジャーとあんな約束をしていたんだな。『愛してるって言ってやる』なんて」
「…君との約束も忘れてないよ。二人だけの秘密だから証になる物は持てないけど、でも、あの日の君との約束は確かに僕の心の中に存在してる」
「…………」

 本題に踏み込む前に答えを先回りされた。
 どう反応すべきか決めかねて戸惑う玄武に、シラーは穏やかに笑んで指輪を填めた右手を自身の胸に置いた。

「君、言ってくれたよね。僕が世界なんて消えてしまえと思ったその時は、世界を消す手伝いをしてやるって。絶対に僕の味方になってやるって。約束してくれたよね。覚えてる?」
「ああ、勿論だ」
「あの約束がどれだけ強く僕を支えてくれてるか、君に分かる?」
「…………」
「僕が『世界なんて消えてしまえ』と思った時は、僕を愛してくれないものを全て消す為に君が手を貸してくれる。君は最後まで僕の味方でいてくれる。その安心感が僕の精神の均衡を保つ大きな柱になってくれてること、君は知ってる?」

 物騒な言葉を紡ぐシラーの表情は柔らかで、眇められた蒼い目は正常な理性の光を宿している。異常な約束を交わしたあの日あの時、シラーの目を彩っていた深い痛みと悲しみと狂気の色は見えなかった。
 …ああ、そうか。こいつは『正常な処』に帰ってくることが出来たんだな。
 胸を満たすあたたかな想いに玄武は知らず微笑んだ。シラーの心の均衡を保つ柱が自分だけではないことが不満ではないと言ったら嘘になるが、それでも彼の言葉は嬉しかった。
 玄武は最高の笑顔で口を開いた。

「すまないが、今の今まで知らなかった。だが、お前にそう思ってもらえるのは光栄だし素直に嬉しいと思し、友人として誇らしく思う。約束の証が無いのは少しばかり残念だけどな」
「じゃあ何か証になるものを持とうか。この指輪の内側に天秤座の誕生石を埋め込むとかどうかな。多分いけると思うんだけど」

 シラーが指輪を外して確認しようとした時。
 デデデン、デデデン、デデデデーンデンデン、デデデン、デデデン、デデデデーンデンデン♪
 彼の懐から死の神タナトスのデビュー曲『DeadendGame』のイントロが流れ出した。それはつまり、シラーが敬愛してやまない死の神タナトスから電話がかかってきたということである。シラーは即座に携帯を取り出して通話ボタンを押した。

「はい、シラーです!」
『シラーか?俺だ、タナトスだ』
「タナトス様?どうなさったのです?」
『どうしても気になる事があってな、タナトスの電話を借りたのだ!』
「気になる事とおっしゃいますと?」
『ハービンジャー達と漫才をした時のオチに、二人の約束の証である指輪を窓の外に投げただろう?あれがどうなったのかどうしても気になって仕方がないの だ。タナトスは『明日になれば、シラーは何も無かったような顔であの指輪を填めているさ。約束の証を無碍にするほどシラーは愚か者ではないし、どつき漫才 に必要な小道具を真面目に捨てるような馬鹿ではないだろう』と言うのだがな』
「…………」

 シラーは目を見開き、淡く微笑んで冗談めかして答えた。

「それは明日のお楽しみです、タナトス様。ただ、もし僕が指輪をしていなくてもご心配には及びません。綿密に練った計画の伏線ですから」
『おおっ、伏線か!それなら安心だな、明日を楽しみにしているぞ!』
「はい、お待ちしております」

 通話を終えたシラーが携帯を懐に戻すのを待って玄武が首を傾げた。

「いいのか?計画だの伏線だの大層なこと言って」
「『綿密に練った計画の伏線』と書いて『行き当たりばったりの出たとこ勝負』と読む。この程度のジョークはタナトス様も分かってくださるさ」
「…要するに何も考えてないと」
「伏線って言うのは時間を空けて回収されるものです!と言って時間を稼いでその間に面白いネタを考えるよ」
「おい」

 二人が軽口を言いながら十二宮に戻ると、白羊宮の前でハービンジャーとばったり出くわした。
 ダウジング用の棒を腰に挿したハービンジャーは、玄武とシラーと彼の指に填まっている指輪を見て微妙な顔になった。

「あれー?何だよオイ、お前達もうその指輪見つけてきたのかよ?俺が見つけ出して、明日の朝カッコよくジャジャーン!と出そうと思ったのによー」
「行動が遅いよハービンジャー。もう新しい漫才のアイデアも決まっちゃったよ」
「ん?もう新しいネタを思いついたのか」
「まぁね。まず、この指輪に天秤座の守護石を埋める。貴鬼に頼めば簡単にやってくれると思うんだ。流石に一晩じゃ無理かもしれないけど」
「貴鬼はジェバンニじゃないからな。それで?」
「何で天秤座の守護石なんだ」
「そう聞かれたら、『ハービンジャーと交わしたのと同じような約束を玄武ともしたから』と答える。で、いつもの漫才をやったシメにこの指輪を全力投擲する。そうするとハービンジャーと玄武が同時に『あ゛ーーーーーーーーー!!』と叫ぶというお約束のオチが…」

 シラーが得意気に解説した漫才のオチにハービンジャーと玄武は真顔で同時に突っ込んだ。

「「なんでやねーーん!!」」

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星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


 今回はΩ黄金メインの話です。特に玄武君とか、当サイトの設定入りまくりで、ちょっとコラボには相応しくないんじゃ…と悩んだのですが。蝶様に「一回く らいなら黄金メインの話もあっていいのでは?」とありがたいお言葉を頂いたので、お言葉に甘えてΩ黄金メインの話となりました。ハビさんや玄武君との「約 束」のその後をちょっとフォローしたいなぁと思っていたので、ここで公開させていただきました。そして蝶様世界の楽しいΩ黄金の先生っぷりもお披露目 (笑)。蝶様世界の時貞が非常にいい味を出してるので、彼が作品に登場する日が楽しみです。
 そして今回は、Ω黄金が揃ってミニキャラ化+ギャグ顔で、初めて拝見した時は「ブハッ!!ちょ、玄武、おまwww」と笑ってしまいました(笑)。蝶様双子神は相変わらず可愛くて可愛くて…。ほっぺたもおなかも手も足も、柔らかふわふわそうで本当、撫でま(自主規制)。
 次回は、冥界に戻った双子神コンビがハーデスやヘカーテに会ったりお茶したりお喋りしたりの話です。