双 子神2012・戦隊
EPISODE 5

 吹き抜ける西風が色とりどりの花を揺らし、ポプラの梢をそよがせて吹き抜ける、冥界の極楽浄土エリシオン。
 手を繋いでハーデス神殿に向かっていた双子神達は、楽園の花を盛大に揺らしてドドドドドドと土煙をあげて走ってくるトナカイ(の、着ぐるみ)の姿に気付 いて足を止めた。S・双子神とT・ヒュプノスは微妙極まりない顔になり、T・タナトスはぱぁっと顔を輝かせて手を振った。

「あっ、ヘカーテ様!こんにちわっ!」
「タナトス、ヒュプノス〜!良く帰ったな、よく来たな!待ちかねたぞ…って、どひゃっ!!」

 ずべっ!!
 駆け寄ってきたトナカイ…もとい、ヘカーテが草の蔓に足を引っ掛けてスライディングのように前のめりにすっころんだ。メタボな腹がつっかえて起き上がれ ず、ついでに可動範囲の狭い腕では体を起こすことも出来ず、突っ伏したままペシペシと地面を叩いている。そんなヘカーテの傍らにS・タナトスがしゃがみこんで わざとらしいジト目で声を掛けた。

「只今帰還しましたヘカーテ様。わざわざのお出迎え、痛み入ります」
「うむ、苦しゅうない」
「…で、そのスライディングは芸でしょうか、素でしょうか」
「素に決まっているだろう。私はお笑い芸人ではないのだぞ、起き上がれないのが分かっていてわざと転倒などすると思うか!」
「「思います」」
「ふたり揃って即答か!」
「ヘカーテ様は変なところに全力投球される方ですので」
「変なとこは余計だ!」
「あの、ヘカーテ様。一体どうしてまたトナカイになってしまったのですか?」

 S・タナトスに倣ってしゃがみこんだT・タナトスが怪訝そうに尋ねた。
 ちなみに彼は『着ぐるみに中の人などいない』と思っていて、トナカイヘカーテについては『冗談で作った変身薬を間違って飲んでしまった後遺症で、激しい感情の起伏でトナカイに変身する』という嘘を信じている。

「む。お前達が久々に遊びに来ると聞いてな、嬉しくて嬉しくてワクワクしていたら、いつの間にかトナカイになっていたのだ」
「そんなに楽しみにしていてくれたのですか。俺もヘカーテ様にお会いするのを楽しみにしていましたので、お会いできて凄く嬉しいです!」
「そうか。…で、モノは相談なのだが」
「はい?」
「あの、そろそろ、起こしてくれないか。腹がつっかえて地味に苦しいのだ」
「「…………」」

 ふたりのタナトスが無言で顔を見合わせると。
 ベシベシベシ!!
 何かを察したらしいヘカーテがミトンの手で花畑を叩きつつ短い足をバタバタさせた。

「念のために言っておくが、放置と言うオチは無しだぞ!これっぽっちも面白くないからな!」
「俺は結構面白いと思ったのですが…」
「うむ、実は俺も『ここでスルーもアリなのでは』と思ったぞ」
「私も思った」
「私も…」
「ナシナシナシ!スルーは無しだろう!」
「…分かりました。仕方ないから起こして差し上げますが、その代わり一度神殿に戻って変身が解けてから我々に合流なさってください。転倒ネタも一度や二度ならまだしも、こうも何度もアピールされると食傷気味です。はっきり言いますとウザいです」
「くっ…言うようになったな、タナトス」
「今年は毒舌キャラで行ってみようかと考えていまして」

 楽しげに笑いながらS・タナトスはトナカイヘカーテの脇に手を入れてひょいと彼女を立たせた。

「ではお前達、すぐ後でな!」

 そう言ってヘカーテは異世界の双子神の頭をわしゃわしゃと撫でて、自身の神殿にダッシュで戻って行った。




 …神殿の入り口に置いた簡素な椅子に腰掛けてソワソワしていた冥王は、臣下の双子神が異世界の双子神の手を引いてやってくる姿を見つけて笑顔で立ち上 がった。気持ちに追いつかずゆっくりとしか動かない足でエリシオンの花園に歩み出すと、T・双子神が心配交じりの笑顔で駆け寄ってきた。

「ハーデス様!」
「ご無沙汰しております。お体は大丈夫なのですか?」
「ああ、今日はとても調子が良いぞ」

 ハーデスはニコニコ笑いながら膝をついてT・タナトスとT・ヒュプノスに向かって両手を広げた。ふたりを抱きしめて頭を撫でながら美しい翠の目をスッと細めた。

「お前達が来ると聞いて、楽しみで楽しみでたまらなくてな。部屋でのんびり待っている気にはなれなくて出てきてしまったのだよ。…ふたりとも良く来てくれた。此度も存分に楽しんでいくが良いぞ」
「「はい!」」
「ところで、ヘカーテはどうした?待ちきれずにトナカイの着ぐるみを…コホン、トナカイに変身した姿でお前達を迎えに行ったのだが。ひょっとして入れ違いになってしまったか?」
「いえ。きちんとお会いできましたし、そろそろ見飽きてきたヘッドスライディングの芸も披露して頂きました。変身がとけてから合流するようにお願いしましたので、少し遅れて来られるかと」
「『そろそろ見飽きてきた』は余計であろう、タナトス」
「そうか、ヘカーテははしゃぎすぎてまた転んだのだな。いい加減、あの姿で動き回ることにも慣れて欲しいものだ」

 わざとらしい無表情の双子神の言葉にハーデスはクスリと笑って立ち上がった。

「さぁ、タナトスにヒュプノス。今日は何があったのか、そちらの世界では何があったのか、話を聞かせてくれ」
「「はい!」」
「「畏まりました」」

 T・双子神はハーデスと手を繋ぎ、S・双子神は主君を気遣いながら、神殿の奥に足を向けた。




 ニンフが茶器を載せたワゴンを置いて恭しく下がり、T・双子神が土産に買ってきたドーナツの箱を開けた。テーブルの真ん中に置いた皿にウキウキとドーナツを載せていくふたりを見て、S・タナトスがわざとらしくすっとぼけた顔で尋ねた。

「時にチビ助。お前達が間食に食べて良いドーナツの数は5個だったな」
「そ…そうだが」
「お前達は先程、地上で5個かそれ以上ドーナツを食べていなかったか?」
「そ、そうだったか?」
「…………」
「…………」

 T・双子神が冷や汗をかきながらスーッと視線を逸らした。S・双子神がわざとらしいジト目でふたりの顔を覗き込み、T・双子神がますます汗を流して視線を泳がせた時。
 バーン!と扉を開けてヘカーテが入ってきた。しかもドーナツを山盛りにしたバスケットも持っている。

「待たせたな!変身が解けたので戻ってきたぞ!」
「…ヘカーテ様、そのドーナツは?」
「ん。チビ共が来ると聞いていたからな、このヘカーテ様自らが腕によりをかけて作ったのだ。自分で言うのもなんだが、うーまいぞー♪」

 グッ!と親指を立ててヘカーテはバスケットをテーブルに置いた。
 お手製ドーナツの甘く優しい香りがふわりと流れて、T・双子神は目をキラキラさせてテーブルに身を乗り出した。
 この状況で『もう5個以上食べたのだからヘカーテ特製のドーナツを食べてはいけない』と言うのは厳しすぎる気がするが、しかし約束は約束だし…と、変なところで掟や規則に厳しいS・双子神が困った顔を見合わせると、ハーデスがにこりと笑った。

「タナトス、ヒュプノス。決め事は大事だが、いついかなる時も四角四面に厳守せねばならぬものでもなかろう。状況によっては例外を認めてやっても良いのではないか?」
「む…確かに、ヘカーテ様がチビ共の為に作ってくださったものを無碍にするのは失礼になりましょうし…」
「タナトス、俺もハーデス様に賛成だ!『臨機応変』は大事だぞ!」
「星華姉ちゃんも『たまにならたくさんドーナツを食べてもいいわよ』と言っているしな」
「…………。仕方がないな。では、今日は特別に見逃してやるとしよう。その代わり、夕食を残しては駄目だぞ」
「うむ!」
「分かった」

 T・双子神はぱぁっと顔を輝かせて頷いて、いそいそとそれぞれの定位置に座った。




「…………、それで、エデンはシラーに一発入れただけで試験を降りてしまったのです。だから、皆の印象には余り残らなくて、オーディションは落ちてしまって」
「エデン本人の印象と言うより、アモールがやかましいせいでとばっちりを受けたという感じだがな」
「叔父と姉が黄金聖闘士のサラブレッドが落選したのか。では一体誰がゴレンジャー役に選ばれたのだ?」
「まず、この時代の天馬星座の…。…………。シラーの水にいきなり突っ込んだ赤毛の粗忽者の名は何だったか覚えているか、ヒュプノス?」
「コウガ、であろう」
「コウガか。忍者の里みたいな名前の奴だな」
「そうそう、自称忍者の狼座の栄斗も合格していました!あとは紫龍の息子の龍峰」
「それから学級委員長の鷲座のユナと、皆のまとめ役が得意な仔獅子座の蒼摩も」
「そうか。生憎と余はその聖闘士達を知らぬが、放送が始まったらきちんと覚えるとしよう。うむうむ…戦隊モノが始まるのが今から楽しみでならぬぞ」

 T・双子神が身振り手振りを交えて説明すると、ハーデスはにこにこと笑いながら頷いた。
 エリシオンから出ることもままならない冥王にとっては、臣下達の土産話や地上のあれこれが何よりの楽しみなのだ。

「して、お前達。こちらの世界のタナトスとヒュプノスは黄金聖闘士達と親交を深めているが、そちらはどうなのだ?聞いた話では異世界の神と親しくなったそうだが」
「はい。マルスと言う火星の神と、その部下の黄金聖闘士とも仲良くなりました!それから太陽神を自称しているアベルも!」
「…太陽神アベル?」
「太陽を司る神はヘリオスではなかったか?」
「こちらの世界の太陽神はヘリオスだがあちらではアベルなのかも知れぬぞ、タナトス。冥妃様のお名前も多少異なっていたしな」
「ああ、なるほど」

 S・ヒュプノスの言葉にS・タナトスとハーデスが納得しかけた時、ヘカーテがドーナツをぱくりと齧ってズケッと言った。

「何を言っているのだお前達。チビが言っただろう、『自称』太陽神だ、と。要するにそのアベルとやらは太陽神に憧れているタダのコスプレ野郎だろう」
「え、あ、いや、でも、アベルはアテナの兄で、大神ゼウスにも匹敵する力があって。神話の時代、太陽神の座に就いて地上を支配しようとしたから、大神ゼウスやアポロンに封印されていた、と言っていました」
「タナトスもヒュプノスもアベルのことを知らぬのか?サガの反乱が終結した直後に地上に復活して、覚醒したばかりのアテナに戦を挑んできたらしいのだが」
「サガのゴタゴタが起きた時期には俺とヒュプノスは封印から解放されていたが、そんな話は聞いたことはないぞ」
「…………。時の神クロノスに封印されたもうひとりの時の神カイロスの存在も我々は知らなかった。我々が知ろうとしなかっただけで、天界の神々は諍いや反 乱や封印を繰り返していたのやも知れぬ。それにだ、タナトス。サガの反乱が終わった頃は、冥界に来た黄金聖闘士を冥闘士にすると言う話が出て我々もそちら にかかりきりだった故な…アベルとやらの戦を見逃していたのかも知れぬぞ」
「ふむ…。自称とは言え、強力な力を持つ『太陽神』の封印か。確かにゼウスならやりそうなことだ。…ところでタナトス、ヒュプノス。そちらの世界でも冥界 と聖域は和解しているのであろう?お前達の話ではアベルとやらはアテナの敵だったようだが、そのアベルとはどういう経緯で友人になったのだ?」
「一番最初のきっかけはアベルとアテナが戦ったことらしいです。アベルが起こした戦いでアベルの配下のコロナの聖闘士は全員が殺されてしまって、アベルも封印された状態でしばらく眠り続けていたそうです。目を覚ましたのがたまたま最後の聖戦の後だったと言っていました」
「それで、力を取り戻したアベルは、配下の皆を生き返らせて欲しいとハーデス様に頼みにきたのです」
「全く、どいつもこいつもお手軽にハーデス様に死者蘇生を陳情しおって…。死者の蘇生は大神と冥王の名において禁じられていると言うのに」

 T・双子神が身振り手振りを交えて説明すると、S・タナトスが眉間に皺を寄せた。
 死の神は己の職務に対して人一倍の責任と矜持を持っている。ハーデスが死者の蘇生を認めることなど滅多にないが、その僅かな可能性に縋る人間が陳情に訪れることすらS・タナトスには『冥王と自分に対する侮辱』に思えてならないのだ。
 そんなS・タナトスを見たT・タナトスが体の向きを変えてこの世界の死神と向き合った。幼い顔いっぱいに真剣な色を浮かべて自身と同じ銀色の目を見つめる。

「タナトス。アベルはお手軽な気持ちでハーデス様に陳情に来たのではないぞ」
「そうなのか?」
「アベルは、力づくで門前払いされる覚悟で、供も連れずに、たった一人で堂々と冥界を訪れてハーデス様への謁見を願ったのだ。その立派な姿勢に三巨頭やパ ンドラも感心してハーデス様に会わせてやったのだ!…パンドラが『念のために』と小宇宙を封じる指輪を渡したら、アベルが『出会ったその日にいきなり求婚 か!一目惚れして即プロポーズが冥界の流儀なのか?!』と勘違いしてちょっと騒ぎになったらしいが」
「ちょっと待て。余は妃に一目惚れはしたが求婚するまではそれなりに時間がかかったぞ。ヒュプノスに至っては交際までに結構な山や谷があったではないか」
「それもそうですし、人差し指に填める指輪で求婚の指輪だと思うあたり、アベルは相当な世間知らずでした」
「…今、私の中でアベルへの好感度がウナギ上ったぞ」
「その程度で好感度をウナギ上げないでくださいヘカーテ様。ドジョウ程度でお願いします」
「なるほど、ヘカーテ様は天然ドジッ子萌えだったのですね。通りでタナトスとうまくやっていけるわけです」
「どういう意味だヒュプノス」

 いつもの冥界神々のやりとりに、T・ヒュプノスがクスリと笑って少し恥ずかしそうに口を開いた。

「実は、アベルが来た時は私とタナトスも冥界に戻っていたのですけど…お恥ずかしい話、アタフタしていたのです」
「何故だ?そのアベルとやらが殴り込みに来たとでも思ったのか?」
「殴り込みに来たのならパンドラや三巨頭が通すはずがなかろう。その点での心配は無用だと思うが」
「ハーデス様は太陽がお嫌いでしょう?アベルが『太陽神』を名乗っていると聞いて『冥界に太陽神が来て大丈夫かっ?!』と」
「ああ、なるほど」
「それでな、ハーデス様も最初はアベルの頼みを聞き入れるおつもりはなかったそうだ。『パンドラや三巨頭がこやつを認めて余の前に通したのなら話だけでも聞いてやる か』程度だったらしい。でも、配下のコロナの聖闘士のことを話すうちに泣き出したアベルに感銘を受けて、『余もタナトスやヒュプノスや冥闘士たちを失った 時は悲しかった』と貰い泣きしてしまって、それで」
「自 称太陽神の配下を帰しておやりになった、と。相変わらずハーデス様はお涙頂戴に弱くていらっしゃるな。お前達の友人が増えたのは喜ばしいことだが、頻繁に 死者が甦っては世界の理とバランスが崩壊してしまう。そうならないためにも、今まで以上に臣下であるお前達がしっかりとハーデス様をサポートせねばならぬ ぞ」
「無論だ!」

 小さな死神が鼻息も荒く大きく頷くと、S・タナトスはにこりと笑って彼の頭を優しく撫でた。


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星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


 コラボ第2弾も5話目にて冥界にやってきました。挿絵が初っ端から蝶様のトナカイ様で私ウハウハです。そして相変わらず療養中のハーデス様ですが、初期 に比べるとかなり元気になってきました。蝶様双子神が来ると聞いて嬉しくて嬉しくて体調がよくなるあたり、孫の帰省を喜ぶおじいちゃんって感じです。
 アベルについては名前だけは知っていたのですが、気がついた時にはレンタルビデオ店から星矢関連のDVDがごっそり(LC、Ωも)消えていまして。 「ネットで借りて自宅に届く♪」ネットレンタルを探しても見つからず、先日漸くニコニコの放送で見ることが出来ました。蝶様から話を聞いていた『アベルは 神ぞーーー!!』がいつ出るかを楽しみに観賞して、デスマスク氏の相変わらずっぷりににやりとし、アベルがいつ戦うかドキドキしながら見ていたら…戦わず に決め台詞を言って退場してしまいました。流石アベル…と一周回って感心してしまいました(笑)。
 そして蝶様双子神とドーナツは切っても切れない関係になってきた感があります。そして私も、ミスドの新商品をチェックし、ドーナツ好きの方のブログを拝見し、ドーナツの玩具があるとついチェックしてしまうドーナツ贔屓になってしまいました(笑)。
 というわけで、ドーナツねたは次回も続行です。次回は皆がドーナツ型の玩具で遊んだり、お風呂に入ったり、アイスを食べたりする話です。