| 西暦2012年5月、聖域。 所用で外出していた牡牛座のハービンジャーは、隣の双児宮から風に乗って漂ってくる甘い香りに鼻をひくつかせた。パラドクスかシラーあたりが菓子を作っているに違いない、と確信した彼は迷うことなく自宮を素通りして双児宮に向かった。 「うおーい、何かいい匂いするけど菓子でも作ってんのかー?」 ノックも無しで双児宮にズカズカと入って来たハービンジャーの姿を見て、テーブルに所狭しと並べたケーキの食べ比べをしていた黄金聖闘士達がギョッとした。ちなみに顔触れは双児宮の主パラドクス、シラー、玄武、ソニア、アモールである。 ケーキにのっていたチョコのプレートをシラーが急いで口に入れ、パラドクスはそんな彼を身体で隠すようにしながら妙に焦った様子でハービンジャーに歩み寄った。 「ちょっとハービンジャーさん!部屋に入るなとは言わないけどノックくらいして下さらない?お行儀が悪いわよ!」 「えー?立ったままケーキ食ってる連中に行儀とか言われたくないぜ?つかなんだよお前ら、自分達だけで美味いもん食ってよー!俺を仲間外れにするなんてひでーじゃねぇか!」 「…勘違いしないでくれるかなハービンジャー。玄武もアモールもソニアも、君と同じで『双児宮を通りがかったらいい香りがしたから』って入って来ただけだよ。まぁ丁度いいや、君もケーキの味見をしてよ」 「あいよ。…で、何でケーキの食べ比べなんてしてるんだ?」 ハービンジャーが素朴な疑問を口にするとシラー以外のメンツが返事に困ったような微妙な顔になったが、シラーは表情を動かさないままフォークを差し出した。 「明後日、双児宮でパーティーを開催しようと思ってね。アテナや教皇や童虎様も同席されるし、どんなケーキを出せば喜ばれるか皆で相談してたんだよ」 「へー。…お、この苺のケーキはうまいな!」 「ハービンジャーも苺が良い、か。やっぱり定番のケーキが人気みたいね」 「俺はチョコ味も好きだがな」 「結構な人数が集まるし、好みに合わせて選べるように二種類用意してもいいかもしれないわね」 「よし!そういう事なら私もケーキ作りに協力しよう!」 「ソニア…お願いですからあなたは食べ物作成に関わらないでください」 「そう言う訳でハービンジャー。パーティーは明後日の正午から始まるから遅刻厳禁でよろしくね。パーティーはバイキング式だから、遅刻したら美味しい料理が無くなってるかもしれないよ?」 「あ、それ困る!オッケーオッケー、ちゃーんと開始5分前に来るぜ!それにしてもパラドクスやシラーの作るケーキは美味いなぁ」 …味見と称してケーキの大半を平らげたハービンジャーは、ごっそさーん!と言いながら自宮に帰って行った。 その背中を見送った皆は、ホッと息を吐いてシラーを見遣った。 「ハービンジャーが入って来た時はヒヤリとしたが、流石お前は牛のあしらい方を分かっているな」 「『何のパーティーするんだ』って聞かれたらどうしようと思ったわ」 「素直に『誕生日パーティーだよ』って答えれば『へー』で終わるよ。下手に隠そうとしたらハービンジャーは気付くけど、事実を隠さず話せばすんなり納得するからね」 「そもそも彼は自分に誕生日があることすら忘れてそうですしね」 「じゃあ、『ハービンジャー誕生日おめでとう』ってでかでかと書いた看板を双児宮の入口に立てておく?」 「あらっ、ナイスアイデアじゃない?ソニア」 「ついでに花輪も飾るか。『笑っていいとも』のテレフォンショッキングみたいな奴」 「いいねぇ、それ」 「…で、肝心要の誕生日プレゼントはどうするんです?」 アモールの言葉に一同は顔から笑みを消して微妙な顔を見合わせた。 ハービンジャーが何を欲しがるのか分からないのではなく、薄々察しがつくから微妙な顔にならざるを得ないのだ。 しばしの沈黙が流れて…正確にはシラーが口を開くのを他のメンツが黙って待って十数秒たって、シラーが渋々といった様子で口を開いた。 「ハービンジャーが何を欲しがるか、僕達の予想が当たったと仮定して、なんだけど…」 …………… …そして翌々日。 うまい料理をたらふく食えるとウキウキして双児宮に向かったハービンジャーは、双児宮の入口脇にこれ見よがしにデンと建てられた看板に気付いて足を止め た。無駄な達筆で何やら書かれているが生憎とハービンジャーは漢字が読めない。辛うじて理解できるのは、恐らく自分を指していると思われる『牡牛座』とい う文字列だけだ。 俺が解読できない文字で看板立てんじゃねーよと悪態をつきながらじろじろと看板を見ると、隅っこに翻訳文が書かれていた。 『牡牛座のハービンジャー誕生日パーティー会場』 ハービンジャーはその文を二度見して、顎に手を当て、目をくるりと回し、意味を考え、もう一度しげしげと看板の文字を見て。 …満面の笑みを浮かべると、ヒャッホーと歓声を上げながら双児宮に飛び込んだ。 廊下を駆け抜けてその勢いのままパーティー会場のドアをバァンと開けた途端、彼の顔面めがけて投擲したとしか思えない勢いでくす玉が飛んできた。余りにも予想外すぎる出来事で流石の黄金聖闘士も対処が出来ず。 バゴッ!!! 顔面でくす玉を受け止める羽目になった。 「あうちっ!!!」 「誕生日おめでとう、ハービンジャー!」 「ちょ、シラー、おま…何だよその滅茶苦茶嬉しそうな顔は!!誕生日にくす玉はお約束だけど投げつけるこたねーだろ!?もっとこう普通に…」 「誕生日おめでとう、ハービンジャーさぁん!」 ビュッ!!ドゴッ!! シラーへの抗議は、パラドクスが投げつけた二発目のくす玉で遮られた。 「あだっ!!」 「おめでとう、牛!」 ビュッ!!ゴン!! 「おぶっ!」 「おめでとうございまぁす!」 ゴッ!バゴッ!! 「誕生日おめでとう!」 「あーはいはいありがとよっ!!感謝してるんだからくす玉投げつけるんじゃねぇよお前ら…って言ってるそばから投げつけんじゃねぇぇえぇえぇえ!!!!」 バゴン!ボゴッ!ドガッ!! 次から次から投げつけられるくす玉(黄金聖闘士が全力投擲しているので最早大砲だ)を拳で叩き落として紙吹雪舞う中ハービンジャーが半ギレで怒鳴ると、最後に教皇シオンが笑顔でくす玉をアテナめがけてトスした。 「牡牛座のハービンジャー、誕生日…」 「おめでとう!!」 バシィィィッ!!!!! 「えええええええええぇぇぇえぇぇ!?!?!?」 アテナがアタックしたくす玉を叩き落とすのはマズイ気がしたが流石に顔面キャッチはもう遠慮したいハービンジャーは、咄嗟にくす玉をレシーブの要領で受け止めた。 バゴン!パカッ… ハービンジャーのレシーブで宙に舞ったくす玉は綺麗に二つに割れて紙吹雪を舞わせた。 わー。パチパチパチパチ。ハッピーバースデー!ハービンジャー誕生日おめでとう! 皆の歓声と拍手と祝福の言葉を聞きながら、ハービンジャーは肩で息をしながら素朴な疑問を感じていた。 俺の誕生日パーティーのはずなのに、何で俺、しょっぱなからこんなに疲れてんの? …スタートこそ予想の斜め上と言うか遥か上空を行っていた誕生日パーティーだったがその後は至って通常運転で進行し、料理を食べ終わり蝋燭を立てたケーキを囲んでハッピーバースデーの歌を歌い、ハービンジャーが蝋燭の火を吹き消すところまでつつがなく終了した。 ひときわ大きなケーキの一切れを口に運びながら、ハービンジャーは期待の眼差しで皆を見回した。 「で?本日のメインイベントはまだか?」 「メインイベント?」 「とぼけんなよー!誕生日パーティーと言えばプレゼントだろ?皆、何か用意してくれてんだろ?」 「してないよ」 「…………………」 あっさり。 真顔でシラーに断言されてハービンジャーはフォークを持ったまま固まったが、シラーはクスリと笑って足元から『ハービンジャー誕生日プレゼント購入用カンパ箱』とラベルの貼られた貯金箱を取り出した。 「君の希望を聞いてから用意しようと思ってね」 「えー?ネタで始まりネタで終わるのかよ、俺の誕生日パーティー??」 「あらっ。まだネタで終わると決まったわけじゃないわよ?」 「お前が欲しいものを言えば、それを用意できるように皆が協力してくれるんだぞ?一体どこがネタなんだ」 「高級車でも世界一周旅行でも何でもお望みのものを言って下さい。私達が出来る範囲で協力しますから」 「うっせぇ!札入れならともかく小銭入れ出しながらンなこと言ってる時点でやっぱネタじゃねーか!」 「アテナは小切手帳を出しているがな」 「で?君は何が欲しいの?」 「何だよ何だよー、俺自身が忘れてた誕生日を皆が祝ってくれたから、ネタで始まったのも含めて楽しんでたのに、肝心のプレゼントがネタかよ!だったら俺もネタでリクエストしてやるからな!」 ハービンジャーは口を尖らせてブーブー言うと、隣に座っていたシラーをズビシィっと指差した。 「誕生日プレゼントにはシラーちゃんを希望するぜ!!」 ハービンジャーの言葉にパラドクスとシラーと玄武とアモールは『やっぱりね』という顔になり、時貞とイオニアとミケーネと貴鬼は少々驚いた顔をして、その他のメンツは面白そうに微笑んでいた。 パラドクスはわざとらしく肩をすくめて溜息をついて見せた。 「…言うと思ったわ」 「予想通りだな」 「ひょっとしたら別の何かをリクエストするかと思ったんだけどねぇ」 「予想通り過ぎて多少ガッカリですよ」 「うっせ!ったくよー、俺はシラーとここまで仲良くなるのにスッゲー時間かかったし苦労も努力もしたのにさー、最近はどいつもこいつも簡単にシラーと仲良 くなってくれやがって何なんだよもう!『シラーと仲良しオンリーワン黄金』が俺の自慢だったのによぉぉぉ。仲間が多いのはいいことだけどよ、俺はもっとシ ラーちゃんをひとり占めしたいの!!」 バンバン!! テーブルを叩きながら子供のようにハービンジャーがゴネると、玄武が呆れた顔で言った。 「分かった分かった、そんなに喚くな。誰も駄目だとは言ってないだろう」 「へ?」 ハービンジャーがきょとんとすると、ピンクのリボンを持った沙織がにこやかに微笑みながら近づいて来た。 「ハービンジャーは誕生日プレゼントにあなたを希望するそうですわ、シラー。よろしいかしら?」 「ええ、まぁ。想定の範囲内ですから」 「へ?」 「ではシラー、腕を」 「はい」 「へっ??」 二人のやり取りにますますきょとんとするハービンジャーの前で、シラーは女性をエスコートするように腕を差し出して、その腕に沙織はピンクのリボンを巻 き始めた。リボンを巻き終えてきちんと蝶結びにすると、満面の笑みを浮かべた沙織はリボンを巻いたシラーの腕をハービンジャーに差し出した。 「はい、どうぞ。ハービンジャー」 「……………………は?」 ハービンジャーは限界まで目をまん丸にして、無表情のシラーをまじまじと見て、ギギギギギ…と音がしそうな仕草でパラドクスと玄武とアモールを見て、彼 らが抗議する姿勢を見せるどころか傍観モードに入っている(アモールに至っては含み笑いを浮かべている)のを見て、腕を組んでしばし考え、自分の頬をつ ねって『いてっ!』と呟き、やおらテーブルクロスをめくったり花瓶の花をひっこ抜いて中を覗いたりし始めた。 そんな彼を見てシラーはひときわ大きな溜息を吐いた。 「ドッキリなんて仕掛けてないよ、ハービンジャー。って言うか素直に喜んだらどうなのさ?プレゼント役の僕が虚しくなってくるじゃないか」 「喜べるわけねーだろ。アテナが悪ふざけに乗るのは分かるけど、悪ふざけとは言え玄武とパラドクスとアモールが抗議もしねぇ文句も言わねぇなんて、裏にナニかありますーって言ってるようなもんじゃねーか。ドッキリでなければ何なんだよ」 「おや、脳筋のあなたでもその程度は考えられましたか」 「残念ねぇ。手放しで喜んでくれると思ったのに」 「抗議する振りだけでもすれば良かったな」 「なーんだ、やっぱり『シラーがプレゼントになる』なんて嘘じゃねーか」 「嘘じゃないよ。有効期限と幾つかの条件があるけど、本当は本当だよ」 「え?マジ?じゃあ貰う、そーゆーことなら有難く皆からのプレゼントを貰うぜ!」 有効期限と条件がある、と聞いた途端に話を信じる気になったのか、ハービンジャーはパッと顔を輝かせてピンクのリボンを巻いたシラーの腕をガシッと握ってついでに肩を抱いた。 その行動に満足げに頷いた沙織はシオンを振り返った。 「有効期限と条件についてはシオンから説明がありますわ」 「へいへい、伺いますよ」 「こほん、では…」 ハービンジャーの前にやって来たシオンは、持っていた書類を表彰状のように広げて読み上げ始めた。 「西暦2012年5月某日。 アテナ、及び教皇の名において、牡牛座の黄金聖闘士ハービンジャーに『蟹座の黄金聖闘士シラーの交友関係・行動範囲に干渉する権利、および制限をかける権利』を与える。また、聖域関係者は権利の行使を最大限に尊重する。 但し、権利を行使する時は以下の二点を遵守しなければならない。 公私問わず、交友関係に悪影響・禍根を残さない事。 任務に悪影響を出さない事。 尚、この権利の有効期限は同権利を希望する者の誕生日当日までとし、有効期限をもってこの権利は同権利を希望する者に移譲される。 同権利を希望する者が複数いる場合は一番誕生日が近い者に移譲される。 但し、同権利を希望する者は以下の二つの条件を満たさねばならない。 黄金聖闘士以上の肩書きを持っている事。 権利移譲に関してシラー本人の同意を得る事。 以上」 「………………」 堅苦しい文言の書かれた書類を渡されたハービンジャーは、最初から最後まで文章を読んで、顎に手を当ててうーんと唸り、眉間に皺を寄せたままシラーに書類を渡した。 「なるほど、分からん。シラー、俺にも分かるように通訳してくれ」 「じゃあ君にも分かりやすいように平易な言葉で説明するね」 「あいよ」 「ハービンジャーには、『僕の行動に口出しする権利』をあげるよ。玄武のところに遊びに行くなとか、パラドクスをお茶に誘うなとか、アモールと会うなと か、暇な時は俺と一緒にいろとか、どこかに出掛ける時には俺を誘えとか、そう言う我儘言っていいよ。僕は出来る限り君の我儘につきあうし、皆も君の我儘を 赦してあげるよ。ただし、皆が本気で迷惑したり困ったり怒ったりするような度を越して非常識な我儘は言っちゃダメだよ。あと、任務に支障が出るような我儘 も言っちゃダメだよ。…ここまではいい?」 「おう。つまり俺は、『束縛系彼氏になれる権利』を貰ったっつーことだな。で、有効期限っていつなんだ?誕生日がどーのこーの言ってたが」 「具体的に言うと、パラドクスの誕生日まで」 「…へ?」 ニコニコして話を聞いていたハービンジャーは、その言葉を聞いた途端に顔から笑みを消した。 パラドクスの誕生日は二週間後だ。つまり、ハービンジャーが堂々とシラー絡みの我儘を言えるのは二週間だけということになる。 シラーから書類を返してもらってその文面を眺めながらハービンジャーはガリガリと頭を掻いた。 「『この権利の有効期限は同権利を希望する者の誕生日当日までとし』…ってことは、パラドクスが『私もシラーの束縛系彼氏になれる権利が欲しい!』って言った から、パラドクスの誕生日に『シラーの束縛系彼氏になれる権利』は俺からパラドクスに移動すると、そういう事か?で、同じように玄武やアモールも自分 の誕生日が来たらその権利を貰えると、そういう事なのか??」 「僕が『この人になら束縛されてもいいよ』って了解すれば、ね」 「はぁ〜お前達が妙にすんなりシラーを『プレゼント』した理由はそれかよ…って、ん?んん?ちょっと待て、ちょっと待てよ?」 ハービンジャーはふと何かに気付いた様子で、『権利移譲』に関する文章を何度も読んで、胡散臭い物を見る眼でパラドクスをじろりと見た。 「…あのさ。誕生日に『シラーの束縛系彼氏になれる権利』を貰ったパラドクスは、いつまでその権利を持ってられるんだ?まさかとは思うが玄武の誕生日までか?」 「あらやだハービンジャーさんたら。そこに気付いちゃったのぉ?」 「ミケーネとフドウが権利を要求しなければそうなるね」 「えー?何だよそれ!パラドクスと玄武の誕生日なんて五か月近く離れてるじゃねーか!しかも玄武に権利が移ったら、次にこの権利を欲しがるのはアモールだろ?玄武も五か月権利所有かよ!俺だけ二週間でお前らが五か月って何だよそれ!不公平にも程があるじゃねーか!!」 「フッ…お前は間違っているぞハービンジャー。俺がシラーを束縛できる期間は五か月じゃない」 「ん?」 玄武は不敵に笑いながら、書類に書かれた『権利移譲に関してシラー本人の同意を得る事』という一文を指した。 「アモールに束縛されるなんて嫌だ!とシラーが言えば、アモールには『シラーの束縛系彼氏になれる権利』は移動しない。つまり!来年のお前の誕生日までの七ヶ月間、俺はシラーを独占できると言う事だ!!」 「な…何だとぉぉぉぉ!?!?」 「精々短い春を謳歌するが良いさ、ハービンジャー!お前が持っている『シラーの相方ポジ』は、俺が権利を所持する七ヶ月間でこの天秤座の玄武が頂く!ウワーハハハハハハ!!!!」 「玄武、お前…やっぱり俺の『シラーの相方ポジ』を狙ってやがったのかぁぁぁぁ!!!」 「何か玄武、キャラ変わってるねぇ」 「酔っぱらったのかしら?」 当事者以外の皆が楽しげに笑いながら二人のやり取りを眺めていると、アモールが曖昧な笑みを浮かべて少しばかり不安そうにシラーに尋ねた。 「あの、シラー。念のためにお尋ねしますが…玄武はああ言っていますけど、私の誕生日になったら、あなたは私に『シラーの束縛系彼氏になれる権利』を移譲することに同意してくれるんですよね?」 「しないよ」 「え」 「僕は君に束縛されるのは嫌だから、同意はしないよ」 「え…ええっ!?ちょ、ちょっと待って下さい!私はあなたと絡む権利を貰えると思ったからこの茶番につきあったんですよ!?それを今になって嫌だなんて…じゃあどうして最初にそう言ってくれなかったんですか!」 「だって君、聞かなかったじゃないか。聞かれてない事を『何で言わなかった』って責められても困るなぁ」 「ええー…」 「つかアモール、一体何を根拠にシラーがお前への権利移譲に同意すると思ってたんだ?」 ハービンジャーが真顔でアモールに投げた言葉に、その場にいた全員が深く頷いた。 …二つ目のケーキを豪快に齧るハービンジャーの横で、パラドクスがシラーの長い赤毛をポニーテールに結い上げていた。髪を結われるのは我慢していたシラーも、結った髪にパラドクスが白いレースのリボンを結ぼうとしているのを見てあからさまに嫌な顔になった。 「ちょっとパラドクス。リボンは勘弁してよ、リボンは」 「いいじゃないの、今日のあなたはプレゼントなんだからリボンくらい付けましょうよ。それにこの白いレースはあなたの髪の色にとても似合うわよ?」 「似合わないって!君がつけなよ、君の方が似合うよ」 「だーめ。…でも、そうねぇ。あなたに関して我儘を言う権利を持ってるハービンジャーさんがダメって言ったらやめるけど」 「だってさ、ハービンジャー」 「ん?」 ケーキに夢中で話を半ば聞き流していたハービンジャーは、髪を結われて凄まじく嫌な顔をしているシラーと(元々彼は髪に触られるのを極端に嫌がるのだ)、白いレースのリボンを持って満面の笑みを浮かべているパラドクスを見て大体の事情を察する事が出来た。 「おいパラドクス。今日は記念すべき俺とシラーちゃんの『初夜』なんだぜ?しょっぱなからシラーちゃんのご機嫌斜めにするのは勘弁してくれよー」 「…………。ん、もう。仕方ないわねぇ」 普段なら絶対に首を縦に振らないパラドクスが残念そうにしながら渋々引き下がるのを見て、ハービンジャーは嬉しそうに目を輝かせた。 「おおっ、『シラーちゃんの束縛系彼氏になれる権利』の威力はスゲーな!あのパラドクスがワンパン退場だぜ!」 「…あのさぁハービンジャー。その『束縛系彼氏』って言い方はやめてくれないかな」 「しっかしこのスゲー力を俺が持ってられるのは二週間か…それは仕方ねーけど、この権力をパラドクスや玄武が何カ月も持ち続ける事態は何としても阻止しねーとな」 シラーの抗議など素で聞き流してハービンジャーは真剣な顔になった。 誕生日のイベント用にお遊 びで企画されたルールとは言え、こうして書面にされてアテナと教皇の署名がある以上はそれなりの拘束力を発揮する。『シラーの束縛系彼氏 になれる権利』がハービンジャーとパラドクスと玄武の誰にあっても四人の交友関係に大きな変化はないと思うが、多少なりともシラーとの付き合いが制限されて窮屈にな るのは目に見えている。何よりも親友シラーを束縛する権利を 別の誰かに握られっぱなしと言うのはすこぶる面白くない。何としてでも、二週間以内にパラドクスや玄武の『権利所有期間』を短くする方法を見つけなければ。 三つ目のケーキを皿に取りながらハービンジャーは固く心に誓った。 よーし!明日から本気出して作戦を考えるぜ!! 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せっかく(?)Ωで牡牛座のハビさんに惚れたのだから誕生日SSを書きたいところだけどネタがねぇ…と思っていたところに「ハビさんが冗談で『誕生日プ
レゼントに欲しいもの?シラーちゃん☆』と言ったら、皆がシラーさんの腕にピンクのリボンを巻いて『はい』と差し出して、余りの展開にウラを疑うハビさ
ん」というネタが浮かんだので、浮かんだなら書いとけ書いとけ!ということでSSになりました。本編+おまけの予定が前後編になりそうなのもいつもの事で
すハイ…。 今回の主役はハビさんなので特に解説する事もないかなと思いますが、細かいところなど…。 ・ハビさんが双児宮に入って来た時にチョコのプレートを食べてるシラーさん→『ハービンジャー誕生日おめでとう』とかの文字を試し書きしていたので、ばれないように急いで食べた。 ・『牡牛座』=自分と分かるハビさん→日本マニアのシラーさんの影響で自分の守護星座を漢字でどう書くのか聞いていた。ひょっとしたら『牡牛座』と書かれたTシャツとか着てるかもしれない。 ・ハビさんが誕生日プレゼントにシラーさんを希望した時、驚いている時貞とイオニアとミケーネと貴鬼→『本当に誕生日プレゼントにシラーを希望したよ、ハービンジャーの奴』と思って驚いている。 ・シラーさん束縛権利を貰えないと分かってへこむアモさん→一応、後編への伏線的なものです。 誕生日パーティー=くす玉、と言うネタで今まで結構やって来たので今回もくす玉ネタを…と思ったのですが。今までと違うパターンにしたいなと思ったら何 故か『皆でくす玉をハビさんに全力投擲する』という事になりました。このSSで書いてて一番楽しかったのはくす玉投擲かもしれない(笑)。しかし当サイト ハビさんはやたら顔面に何かをぶつけられていますね(苦笑)。シラーさんがいじりにくい分、ハビさんとアモさんに皺寄せが行って申し訳ない。大好きです。 |