| 西暦2012年11月11日。 日本某所にあるエルミタージュ洋菓子店に蟹座の黄金聖闘士シラーと異世界のタナトスの姿があった。無論、タナトス少年がひとりで店を訪れたわけではない。ヒュプノス達は『どうしても見たい美術展がある』 と言って別行動中で、タナトス少年と一緒に店に来た大人のタナトスも急な仕事で呼び出され、ついでに店長パティシエの龍神秋乃も仕事絡みの用事で出かけて いるため、結果的にこのふたりが『留守番』になったのだ。今までにも同じようなことがあったので、ふたりとも慣れた様子で自分のやるべき事に取り掛かっていた。 …すっかり洋菓子店のギャルソンが板についてきたシラーは焼きたてふかふかのホットケーキを三枚重ね、バターとシロップを添え、タナトスお気に入りの苺ミルクをピッチャーに入れてイートインスペースに向かった。 「お待たせしました、タナトス様。ホットケーキが焼けましたのでどうぞお召し上がりください」 「おおっ、いい匂いだな!」 テーブルにノートを広げて宿題をしていたタナトスは、ぱぁっと顔を輝かせて勉強道具を鞄に片付けた。 シラーはそんなタナトスの姿をうっとりと見つめながらホットケーキの皿をテーブルに置いた。更にタナトスの首にナプキンを巻き、グラスに苺ミルクを注ぎ、恭しくナイフとフォークを差し出した。最早、おもてなしを通り越して過保護である。 …仕事中だから堂々とサボると怒られてしまうんです、というシラーに『ならばこっそりサボればいいだろう!』と椅子に座らせて苺ミルクを勧め、タナトスはホットケーキを頬張りながら楽しそうに学園生活を話していた。 「…それでな、この間は調理実習でドーナツを作ったのだ。以前、シラーと一緒にドーナツを作ったことがあっただろう?あの時にコツを掴んでいたからうまく出来てな。先生のパラドクスに褒められたのだぞ!」 「それは良かったですね。タナトス様のお役に立てたのなら僕も嬉しいです!」 「それからシラー、このホットケーキはとても美味しいぞ。皆が帰ってきたら振舞ってやると良い」 「ほ…本当ですか?お褒めに預かり光栄ですぅぅぅ」 シラーは高鳴る胸をぎゅっと抑えて顔を輝かせた。 ああ…敬愛してやまないタナトス様に褒めて頂いた!それに、ホットケーキを召し上がるタナトス様は何て可愛らしいんだろう、何て美味しそうに召し上がるんだろう。仕事中で無ければ写真を撮らせていただくのに。せめてこの目に可愛らしいお姿を焼き付けておかなくては…! 感激と嬉しさで目をウルウルさせたシラーは思わず口の端から涎を垂らした。 何故シラーが涎を垂らしているのか不思議に思いながらホットケーキの最後の一切れを口に入れたタナトスは、『ひょっとしてシラーは空腹だったのか?』と思い至った。綺麗に空になった皿を睨みながら小さな死神は思案顔で苺ミルクに口をつけた。 (むむ…しまったな。もっと早く気付いていればホットケーキを一枚分けてやったのに、もう全部食べてしまったぞ) (でも、真面目なシラーのことだから、ホットケーキを分けても『仕事中だからつまみ食いは出来ません』と断りそうだな。俺がホットケーキを分けたことが秋乃にバレて怒られてしまっては可哀想だし…) (あ。それなら、俺がオヤツをあげれば良いのではないか?確か、この間買った駄菓子を鞄に入れてあったはず…) シラーの涎の理由を勘違いしたまま考えを巡らせて名案を思いついたタナトスは、傍らに置いてあった鞄を開けた。中をごそごそ探して、目的の駄菓子を見つけるとにっこり笑ってシラーに差し出した。 いきなり目の前に駄菓子の『うまい棒』を差し出されたシラーはきょとんとした顔でタナトスを見遣った。 「タナトス様、これは?」 「俺が大好きな駄菓子で、『うまい棒』と言うのだ」 「ああ、僕もマニゴルド先輩の家に行った時に食べたことがあります」 「シラーは空腹なのだろう?秋乃には『俺が食べた』と言っておくから、これを食べて空腹を紛らわすとといいぞ!」 「…………。あ、ああ…ありがとうございます」 タナトス様が僕を気遣ってお菓子を下さった。タナトス様が、僕を気遣ってくださった…! 感謝と感激でますます目をウルウルさせたシラーは、神器を賜るような手付きでうまい棒を受け取って嬉し涙をハンカチで拭った。それを見て『シラーは涙ぐ むほどうまい棒が好きだったのか』と勘違いしたタナトスは、こんなに喜ぶなら一本だけでなく全部あげよう!と10本セットになったうまい棒を鞄から取り出 して気前良く差し出した。 「一本だけでは物足りないだろう?これもやるから食べるといいぞ!」 「え、でもそれは、タナトス様がご自分で召し上がる為の物では」 「気にするな。俺だってうまい棒を好きなだけ買うくらいの小遣いは持っている」 「…では、有難く頂戴いたします」 背景に花が舞うような幸せ笑顔でうまい棒(10本パック)を押し戴いたシラーは、最初に貰った一本も大切に袋に入れた。食べないのか?と不思議そうな顔をするタナトスに彼はにこりと笑って言った。 「タナトス様にお菓子を頂いた嬉しさで胸もお腹も一杯になってしまって。これは、聖域に持って帰って『タナトス様に頂いたお菓子だよ』って皆に自慢してから頂こうと思います」 「そうか。…ん?でも、うまい棒は11本しかないぞ。黄金の皆に配るなら一本足りないがどうするのだ?」 「ご心配には及びません。アモールにあげなければいいだけですから」 「ぷっ。そんなことをしてはまたアモールが泣くぞ」 「ううーん…じゃあ、アモールには鯛焼きでも持って行きましょうか。餡子の変わりにハバネロでも入れて」 「それは可哀想だろう。せめて激辛カレーにしておいてやれ」 「仰せの通りに、タナトス様」 「では早速、アモールの土産用の鯛焼きを作ろうではないか!」 …シラーとタナトス少年が変り種の鯛焼きを作っているところに、山のようなポッキーとプリッツを持ったマニゴルドを強制連行してタナトスとヒュプノス達と秋乃が帰ってきて、鯛焼きを試食して楽し く盛り上がりこの日の茶会はお開きとなった。鯛焼きロシアンルーレットで『ハズレ』を引いたのがマニゴルドだったのは言うまでも無い。 |
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| 今年のポッキーの日テーマは『シラーさんとうまい棒でポッキーゲームするハビパラ玄武』にしよう!と11月10日(…………)に思い立ちまして。コラボ
でご一緒している蝶様と『シラーさんにうまい棒をあげる蝶様タナ様』というお話をしていたので、そのネタを頂いてこの前振り部分の話が出来ました。 ちなみにアモさんへのお土産が鯛焼きの理由は勿論、アモさんが魚座だからです。 それはそうと、タイトルのネタ切れ間がそろそろ本気でやばい気がします。 |