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大量のポッキーと鯛焼きとうまい棒を持って足取りも軽く十二宮に帰還したシラーは、第一宮の白羊宮を訪ねた。彼を出迎えたのは貴鬼の弟子、羅喜だった。 「あっ、シラー!こんにちわ、久しぶりなのだ!」 「久しぶり、羅喜。貴鬼にお土産を持ってきたんだけど、姿が見えないね。君に預けていいかな」 「任せるのだ!」 「じゃあまず、これ。日本で有名なお菓子で、ポッキーとプリッツって言う極細クッキーだよ。今日は『ポッキーの日』だから、日本人は皆でこのお菓子を食べるんだって。…さ、好きなのを選んで」 「へぇ〜。日本には面白いイベントがあるのだな。じゃあこの、苺味とバター味を貰うのだ!」 「それからこれ、異世界のタナトス様と僕が作った鯛焼き」 「わ、まだホカホカなのだ!」 鯛焼き入りの紙袋を受け取った羅喜が嬉しそうに目を輝かせると、来客に気付いたらしい貴鬼が奥の部屋から出てきた。 「おや、誰かと思えばシラーですか。エルミタージュ洋菓子店からの差し入れ兼モニター調査ですか?」 「今日はタナトス様と僕からの差し入れだよ。ポッキーと鯛焼きは羅喜にあげたから、貴鬼にはこれ」 「…………。『うまい棒』?」 貴鬼は思わず微妙な顔になった。 差し入れられたものにアレコレ言うつもりは無いが、確かこれは子供の小遣いで買える安い駄菓子ではなかったか。神と黄金聖闘士からの差し入れにしてはあんまりにもあんまりなものを出された貴鬼が反応に困っていると、シラーは頬を染めてにっこりと笑った。 「実はねぇ、これは異世界のタナトス様が僕に下さったものなんだ。おやつ時に仕事をしていたら、『お腹が空いているようだからこれを食べて紛らわすといい ぞ』って、ご自身用に買ってあった分を下さったんだ。ひとつだけじゃ物足りないだろうっておっしゃって、10本セットのも下さったんだよ。で、11本ある から皆にもおすそ分けしようと思ってね」 「ああ、なるほど。『あの小さなタナトス様が、ご自身のお小遣いでご自分用に買ったお菓子を頂戴したんだぞ』と自慢したかったわけですね」 「フフ、羨ましい?」 「…ええ」 子供のように得意気に目を輝かせるシラーを見て、貴鬼はくすっと笑って頷いた。 その反応に満足そうに微笑んだシラーは貴鬼にうまい棒を1本渡して、『大事に食べてね』と念押しして白羊宮を出て行った。その後姿を見送った羅喜は目をぱちぱちして傍らの師を見上げた。 「ねぇ、貴鬼様。シラーは何だか凄く変わった気がするぞ。前は、私と会っても知らん顔してたし、あんなにニコニコ笑うところなんて見たこと無かったのに」 「そうだね、羅喜」 貴鬼は柔らかく目を細めて金牛宮に向かうシラーを見遣った。 「恋をして、愛を知って…シラーは変わったのだよ」 …金牛宮の入り口に『双児宮にいる』と張り紙がしてあったので双児宮に向かうと、ハービンジャーだけでなく玄武までパラドクスと一緒にいた。 シラーの姿を見たハービンジャーは、テーブルに置いてあった紙袋(ジャイアントポッキーとプリッツが詰め込まれている)を掴んで立ち上がった。 「お、来た来た!おいシラー、これから皆にポッキー配って回るんだろ?俺らも一緒に行くぜ!」 「え、どうしてそれを」 「日本オタクのあなたの事だもの、日本のイベントがあれば絶対押さえて来ると思ったのよ。今日はポッキーの日でしょ?今回は私達も参加しようと思って待っていたの」 「…ん?ポッキーとプリッツは分かるが何で鯛焼きとうまい棒まであるんだ?」 「ああ、ちょうど双子神様達がエルミタージュ洋菓子店にお出ましになってね。話すと少しばかり長いんだけど…」 「じゃあ話さなくていいぜ。大体想像つくし」 「ちょ!ちゃんと聞いてよ、重要な話なんだから!」 「どうせまたタナトス様の惚気だろう」 「双子神様『達』ってことは、異世界の小さな神様もいらしてたってこと?」 「そうだよ。大人のタナトス様とヒュプノス様達が出かけてしまって、僕と異世界のタナトス様のふたりで留守番してたんだけど…」 かくかくしかじか、と経緯を話したシラーは頬を紅潮させて『うまい棒』を掲げて見せた。 「それで、タナトス様が僕に下さったお菓子がこれさ」 「はぁ…うまい棒…」 「こんな駄菓子で懐柔されるなんてやっすい男だなぁ、シラー」 「ハービンジャーさんたら、そんなこと言わないの!小学生が自分のお小遣いで買ったお菓子を全部下さったってことが重要なのよ」 「さすが、愛と運命を司るパラドクス。分かってくれてるね」 「うふふ。ガサツなハービンジャーさんや朴念仁の玄武とは違うのよぉ」 「…………」 「あーはいはい、じゃあサクサクとポッキー配達に行きましょうかね」 ハービンジャーと玄武はムスッとした顔を見合わせて、シラーを促して双児宮を出た。 獅子宮でトレーニング中だったミケーネは、仲良し四人組の訪問に笑顔を見せて一行を出迎えた。 訪問の理由を聞いた後に『ご当地ジャイアントポッキー』を受け取った彼は感心とも呆れともつかない溜息をついた。 「シラーが目覚めてからと言うもの、私は日本の文化に驚かされてばかりだ。日本人は勤勉な民俗かと思っていたが、案外と茶目っ気のあるイベントが好きなのだな」 「タナトス様がイベント好きでいらっしゃるから僕はその影響を受けてるだけさ。あとこれ、鯛焼きって言うお菓子。中にジャムやクリームが入った魚型のホットケーキだと思えばいいよ。僕と異世界のタナトス様で作ったんだ」 「ほう…」 「それから今日のお土産のメインはこれ、『うまい棒』!おやつ時に僕が仕事をしていたら、『お腹が空いているようだからこれを食べて紛らわすといい ぞ』って、タナトス様がご自身用に買ってあった分を下さったんだ。ひとつだけじゃ物足りないだろうっておっしゃって、10本セットのも下さったんだよ。で、11本ある から皆にもおすそ分けしようと思ってね」 「お、おう…」 どう見ても安っぽい駄菓子をドヤ顔で差し出されたミケーネが何とも言えない顔でうまい棒を受け取ると、拍子抜けしたような顔をするシラーの後ろでハービンジャーが『大袈裟に喜んで見せろ!』とジェスチャーをしていた。 律儀なミケーネは一生懸命『満面の笑み』を浮かべて精一杯の明るい声で言った。 「タナトス様がわざわざ下さったものか!実にありがたい、神棚に祀ってから感謝して頂くとしよう!」 「ん。ミケーネも喜んでたってタナトス様にお伝えしておくから、大事に味わって食べてね」 まるで自分が褒められたように嬉しそうに笑って、シラーは皆と一緒に処女宮に向かった。 ジャイアントポッキーと鯛焼きとうまい棒を抱えたまま一行を見送ったミケーネは遠い目をして思った。 …シラーよ。お前は一体、どこに向かおうとしているんだ。 四人がぞろぞろと処女宮に入ると、瞑想をしていたフドウが座禅をといていそいそとやって来た。黄金一・二を争う甘党の彼は、シラーの手土産を毎回楽しみにしているらしい。 無表情で皆を出迎えたフドウは無遠慮に紙袋の中身に目をやった。 「今日の菓子は何です?」 「ポッキーとプリッツっていう、日本では有名なお菓子だよ。今日は『ポッキーの日』だから皆でポッキーを食べるんだってさ。…さ、好きなのを取って」 「ふむ…要するにチョコでコーティングされた細いクッキーですか。チョコ、ナッツ付き、苺味に…これは抹茶?色々な味があるのですね。しかも大きなものもある」 「おいフドウ、他の奴にも配るんだからちったぁ遠慮しろよ」 「言われずとも分かっています。私も同じものを二つ取るなんて欲深い真似はしません」 遠慮なく紙袋に手を突っ込んだフドウは、甘いポッキーを一箱ずつとジャイアントポッキーを二箱取った。 玄武とハービンジャーは呆れた顔をしていたが、シラーにとっては見慣れた光景である。大して気にすることなく彼は鯛焼きを差し出した。 「それからこれ。異世界のタナトス様と僕で作った鯛焼き。中身は餡子とクリームとチョコだよ」 「頂きましょう。…………。…ふむ、あなたの菓子作りの腕前はめきめきと上達していますね。良いことです。ところでシラー、あなたがこれ見よがしに持っているその『うまい棒』とは何です。スナック菓子のようですが」 「良くぞ聞いてくれたねフドウ」 シラーが得意気にうまい棒の説明をする間、フドウは無表情で鯛焼きを齧っていた。 フドウの反応が淡々としているのはいつものことなので、彼が『うまい棒』に熱い視線を注いでいるだけでシラーは満足だったらしい。『…と言うわけで、幸せのお裾分け』と言ってシラーがうまい棒の袋を差し出すと、フドウは迷わず『明太子味』を取った。 「異世界の神がお気に入りと言う駄菓子、どのようなものか見極めさせていただきましょう」 「うん。気に入ったら教えてよ、日本に行った時にはお土産に買ってくるから」 「お願いします」 真顔で頷くフドウに軽く手を振って皆は処女宮を出た。 …皆が出て行くのを待ちかねたようにフドウはうまい棒の袋を開けて一口齧った。一応彼も、シラーの目の前でいきなり食べてしまうのはまずいだろうと遠慮していたのである。ゆっくりとうまい棒を咀嚼して嚥下したフドウは一度目を瞬いた。 (これは良いものだ。次の土産はこれが良いと、シラーに頼んでおきましょう) …蠍座のソニアは額に汗を浮かべ、目の前に差し出された菓子の山を親の敵のように睨みつけた。 「何だこれは。私のダイエット計画を邪魔しようと言うのか」 「あれ?ソニア、ダイエット中だったんだ?美容体操やらダイエットやら、女の子は大変だねぇ」 「そもそも聖闘士が何故太るんだ。任務や鍛錬で太る余裕など無いと思うが」 「聞きかじりの知識だけどよ、女がダイエットすると乳からしぼむらしいぞ。ただでさえちっせぇ乳を更に小さくしてどーすんだよ」 「それ、セクハラ発言よハービンジャーさん。…脂肪がついた時に胸に行けばいいけど、お尻と太ももに行く体質なのよねぇ、ソニアは」 「う…うるさいうるさーーーい!」 「まぁまぁ落ち着きなよ、ソニア。それはそれ、これはこれ。と言うわけで、はい」 シラーはそつの無い笑みを浮かべながらポッキーと鯛焼きとうまい棒をソニアに押し付けた。 だから!と抗議しかけた彼女の唇に指を当てて反論を封じるとスティールブルーの目をスッと細めた。 「『それはそれ、これはこれ』って言ったろ?ダイエット中だから、なんて君の個人的な事情で神様のご好意を拒否するなんて感心しないな。鯛焼きは朝食にな るし、プリッツはクラッカーみたいなものだから小腹がすいた時にちょっと摘まむのにお勧めだよ。ただ闇雲に食事制限するだけがダイエットじゃないだろ?適 度に間食もした方が効果的だよ」 「う…ん…」 「まぁ確かに一人で食べるには多いから、エデンにあげたら?『神様からお菓子をたくさん頂いたから友達を誘って貰いにおいで』って声をかければ、あの子も連れて来るんじゃない?何て言ったっけ、仔獅子座の…」 「どどどどどどど、どうしてあなたが蒼摩を知ってるんだ!?」 真っ赤になったソニアが素っ頓狂な声を出して、その反応にシラーとパラドクスはきょとんとして、玄武とハービンジャーは驚いた顔になった。どうしてソニアが焦っているのか理解できない振りをして、シラーはとぼけてぽんと手を打った。 「あ、そうそう。蒼摩君だったね。エデンの友達とは思えないほど騒がしい…あ、いや、元気で明るい子だったから印象に残ってたんだよ」 「ソニアってば、あの子のこと気にしてる風だったものね」 「へー。ソニアは色恋方面はサッパリだと思ってたんだが、年下好きだったのか。なかなかやるじゃねーか」 「じゃあそいつが来る時はちゃんと仮面を外しておけよ」 「違う違う違う!そんなんじゃ、そんなんじゃぁぁぁぁ!!!」 「うまく行くといいねぇ。じゃあこれ、お守り」 頬を真っ赤にして渦巻きになった目で叫ぶソニアの手にうまい棒を一本握らせて、シラーは『がんばってねー』と手を振って天蝎宮を後にした。 一行は次に磨羯宮を訪ねたが生憎とイオニアは不在だった。ならば仕方が無い、と皆は執務机の上に大量のポッキーとプリッツを山積みにして前衛的なオブ ジェを作り、鯛焼きは勝手に冷蔵庫に入れ、タナトスに貰ったうまい棒は磨羯宮備え付けのアテナ像の前に置き、経緯を書いた手紙を置いて宝瓶宮に向かった。 水瓶座の時貞は、やや苦い虫をうっかり噛んでしまったような顔で皆を出迎えた。 「…今日は何のイベントだ」 「お菓子の差し入れに来たのにどうしてそんな嫌そうな顔をするのさ、時貞」 「お前達が日本のイベントに便乗して何かするたびに、俺の日本人としてのアイデンティティが揺らぐ気がしてな。どうして俺よりお前達が日本のイベントに詳しいんだ」 「「日本オタクとその相棒を舐めるなよ!」」 「で、今日は何のイベントだ」 「じゃあ質問。11月11日は何の日か知ってる?」 知るか。いいからさっさと要件を言え。 …と、思っても言えないのがお人好しの時貞である。一応真面目に考えて口を開いた。 「…ダンプ松本の誕生日」 「誰、それ?」 「日本で一世を風靡した悪役女子プロレスラーなんだが…まぁ、彼女が有名だったのは一昔前の話だからな、お前達が知らなくても無理はない。もういいだろう、正解は何だ?今日は一体何の日だ?ポッキーか?鯛焼きか?うまい棒か?」 「あ、ポッキーとうまい棒は知ってるんだ」 「流石にその二つを知らない日本人は少数だと思うぞ」 「正解はね、ポッキー。今日はポッキーの日なんだって」 「ほう…この菓子のデザインは俺が子供の頃と変わらんな」 シラーが差し出したポッキーを受け取った時貞はフッと口元を和ませた。 一本摘まんでいいか?と断りを入れて封を開けた彼は一口齧って目を細めた。 「味も変わっていない。子供の頃は競って食べていたのに大人になってからは長らく手に取ることも無かったが…たまには良いものだな」 「やっぱり日本では定番のオヤツだったりすんのか?」 「そうだな。俺が子供の頃暮らしていたのは忍者の里だったから、菓子といえば煎餅や饅頭で、こういう『洋菓子系』の菓子はレアだったな。田舎だからコンビ ニもスーパーも無かったし、たまに茶請けでポッキーを出された時は嬉しかったものだ。修行仲間と取り合ったり、一本ずつ食べるのが流儀だ、いやまとめて食 べるのがいいのだ!などとつまらぬ喧嘩もして…当時はこんな個包装になっていなかったから、『封を開けたら全部食べないと』と屁理屈をこねながらな」 「…お菓子の争奪戦やってる時貞って、想像できないね」 「だなー。争奪戦してる子供を眺めながら煎餅齧って茶を啜ってそうだ」 「時貞にも平和で当たり前の子供時代があったってことね。想像できないけど」 「…………」 失礼な、とは思ったが。 目の前にいる四人のうち三人は『平和で当たり前の子供時代』を過ごせなかったことを知っていたから、時貞は黙って二本目のポッキーを口に入れた。 「あ、それからね、お土産は他にもあるんだ。ちょうど異世界の双子神様がおでましになっててね、一緒に作った鯛焼き。あと、これ」 「…うまい棒?」 「おやつ時に僕が仕事をしていたら、『お腹が空いているようだからこれを食べて紛らわすといい ぞ』って、タナトス様がご自身用に買ってあった分を下さったんだ。ひとつだけじゃ物足りないだろうっておっしゃって、10本セットのも下さったんだよ。で、11本ある から皆にもおすそ分けしようと思って」 「これはまた懐かしいものが来たな。世界は違っても子供の定番の駄菓子はこれか。今でも、向こうの世界でも一本10円で売っているのか?」 「さぁ…値段までは聞いてないなぁ」 「時貞よぉ。お前、日本で任務があってもすぐ帰還するけど、たまには観光でもしてきたらどーなんだ?忍者の里出身の日本人がいつまでも日本オタクに遅れをとってるわけにはいかねーだろ」 「…余計なお世話だ」 「あら、なーにその反応。ひょっとして苦い別れをした元カノでも日本にいるの?」 「元カノってひょっとしてアレか、テレビの画面から出てくる、ワカメみたいな黒髪の女か。だったら帰りたくない気持ちになるのも分かるが」 「どうしてお前達はそんなに日本の文化に詳しいんだ…」 日本人のアイデンティティや矜持が根本から揺らいだ気がして時貞は思わず盛大に溜息をついた。 双魚宮に向かう一行の背中を眺めながら、時貞はうまい棒の袋を開けて齧った。安っぽくて懐かしい味が口の中に広がって、妙にノスタルジックな気分になった彼はぼんやりと思った。 …たまには栄斗を誘って里に顔でも出すか。 双魚宮に足を踏み入れた途端、魚座のアモールが頬を紅潮させ背景に薔薇を飛ばしながら駆け寄ってきた。 「ようこそいらっしゃいマイスイートハニー☆とうとう私と魚介類コンビを結成する気に…」 「「帰れ」」 ゲシッ!! アモールがシラーに抱きつこうとしたのと同時にハービンジャーと玄武が彼を蹴り飛ばした。シラーとのスキンシップを阻止されたアモールは床に尻餅を付いたまま涙目で怒鳴った。 「ちょ、『帰れ』って何ですか『帰れ』って!ここは私の宮ですよ!?」 「そういやそうだったな。悪ィ、いつもの癖だ」 「では言い直そう。それ以上近づくな。そこで座ったまま話を聞け」 「ひどっ!…で、訪問の理由は何です、シラー?漸く私と魚介類コンビを結成する気に」 「全然なってないよ」 「即答ですか!そして冷たいっ!まるでテレビショッピングの冷凍蟹のように冷たい!…フフフフフ、冷たくても構いませんよ。嫌よ嫌よも好きのうちと言いますからねぇ」 「めげないわねぇ、アモールさん」 「それが、私の、いいと、こ、ろ♪諦めたらそこで試合終了ですからね!」 「いやもう試合終了しろよ」 「あのさアモール。僕は君とコンビ結成する気なんて本気で全くないんだけど」 「分かってます分かってますよシラー。いわば今のアナタはツンデレのツン状態。その冷たい目線もアナタの魅力です。どうぞ、その冷たい眼でもっと私を見てください。何なら足蹴にしてもいいですよ。ツンが長いほどデレの有難みが増すというものですから」 「さすが、『超ウルトラスーパースペシャルなドMで変態』の名を欲しいままにする男だな」 ハービンジャーが呆れ半分感心半分の顔で言うと、アモールはあからさまにムッとなった。 「失礼な!私はドMではありませんよ!」 「違うのか」 「ええ、違います。私はややMです!」 「…………。おいシラー、アモールの漫才に付き合ってたら時間がいくらあっても足りないぞ。さっさと切り上げたらどうだ」 「そうだね。…あのさアモール、『ポッキー』ってお菓子を知ってる?」 「ええ。極細のクッキーにチョコがかかったアレですよね」 「話が早くて助かるよ。今日はポッキーの日なんだって。で、双子神様が地上にいらしてて以下省略。と言うわけで、はいこれお土産」 詳しい経緯をばっさり端折って、シラーはポッキーとプリッツの入った紙袋を差し出した。 端折りすぎですよ…とブツブツ言いながらそれでも嬉しそうにアモールが紙袋を受け取ると、シラーは満面の笑みで『うまい棒』が4本入った袋を見せた。 「で、今日のメインがこれ」 「何です、それは。スナック菓子のようですが」 「異世界のタナトス様が僕に下さったお菓子だよ。おやつ時に僕が仕事をしていたら、『お腹が空いているようだからこれを食べて紛らわすといい ぞ』って、タナトス様がご自身用に買ってあった分を下さったんだ」 「へぇ、良かったじゃないですか。ご自身用のお菓子を気前良く下さるとは、お子様といえども流石は神様。太っ腹ですねぇ」 「それでね、言いにくいんだけどアモール…頂いたお菓子は11個だったんだ」 「…………。つまり私の分は無いと」 「ごめんね。でも、君なら分かってくれるよね」 「ちょ、何ですかその言い方!ずるいじゃないですか!いやまぁ私だってね、お菓子ひとつ貰えなかったくらいで臍を曲げたりしませんよ!けど、仲間外れにさ れた感じがして悲しいと同時にちょっと快感を覚えちゃうじゃないですか、そんなこと言われたら!しょうがないなぁ、赦しちゃおうかなぁ、愛し のシラーの言うことだしなぁ、とか思っちゃうじゃないですか!」 「うん、それが狙いだから」 「ちょぉぉぉ!!!」 怒ったり困ったり悲しんだりウットリしたり忙しく表情を変えてシラーに食って掛かったアモールは、目の前に鯛焼きの紙袋を差し出されてきょとんと目を瞬いた。紙袋には鯛と平目と五芒星が舞い踊りしているような絵が描かれている。 「何です、これは」 「鯛焼きだよ」 「それは分かりますが」 「僕とタナトス様で相談してね、『アモールの分のお菓子が無いのは可哀想だから、アモールにあげる鯛焼きを特別に作ろう』ってことになったんだ。その絵も、タナトス様が君の為に描いてくださったんだよ」 「え?特別に?」 「そう。他の皆にも鯛焼きを配ったけど、そっちは普通の鯛焼き。それは、中身も君だけのために特別に用意したオンリーワンだよ。中に何が入っているかは食べてからのお楽しみって奴さ」 「私だけに…」 「そう、君だけに」 「君だけに…ああ、ステキな言葉ですねぇ。君だけに、ああ君だけに…♪」 アモールはたちまち機嫌を直して嬉しそうに目を輝かせた。 …タナトス様によろしくお伝えくださいねぇ、と満面の笑みで手を振るアモールに見送られて巨蟹宮に戻るその途中。 鯛焼きを一匹つまみ食いしながらハービンジャーがぼそっと呟いた。 「あんな嘘で呆気なく丸め込まれるとはな。チョロいな、アモールの奴」 「人聞きの悪い事言わないでくれるかな。アモールの鯛焼きが特別製なのは本当だよ」 「ところで、あいつ専用鯛焼きの中身は何なんだ?」 「チーズ入り辛口カレー、鯛の切り身、ポテトサラダ、アロエヨーグルト、ポッキー、それから、キャベツ・揚げ玉・紅生姜・ベーコンにソースを入れた『お好み焼き風』。一応、口直し用に定番の餡子とクリームも入ってるよ」 「あら、半分くらいは普通に美味しそうね」 「うん、カレーとお好み焼き風とポテトサラダは美味しかった。ヨーグルトは不味いってマニゴルド先輩が言ってたな。鯛の切り身は美味しくも不味くもなくて、『これは出オチ』で皆の意見が一致したよ」 「うお、話を聞いてたらイロモノ鯛焼き食いたくなってきたな」 「じゃあ開催しちゃう?鯛焼きパーティー」 「いいな、それ。材料は各自持ち寄りでどうだ?」 「面白そうだねぇ。じゃあまず、時貞とフドウとイオニアに声を掛けて知恵を拝借してみようか」 普段はあまり付き合いのない仲間を他愛もないイベントに誘うことをごく自然に提案しながら、シラーは皆と『イロモノ鯛焼きパーティー開催』のアイデアを相談し始めた。 |
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| お土産のお菓子を持ったシラーさんが十二宮の黄金を訪問して回るネタはSS『如月』でもやったのですが、今回は前回よりも黄金の皆の出番を増やすことを
意識しました。イオニアはどうしてもネタが浮かびませんでしたが(汗)。後は、ソニアさんを『普通の女の子』に書く・時貞再登場オメと言うことで彼の出
番を多目・アモさんいじりは愛を持って、を考えて書きました。当アモさんは、蝶様に『素敵な超ウルトラスーパースペシャルなドMで変態』というありがたい
称号を頂いたのでその名に違わぬよう頑張りました(笑)。ツイッターで蝶様とお話してる時の雰囲気をなかなか出せずに苦労しました…。アモさんには冷たい
けど、シラーさんはアモさんと仲良くやりたい気持ちはあるのです。ただ、双方の『仲良くやりたい』気持ちが盛大にすれ違ってるだけなのです。 それから最後の一文は、今まで仲間の黄金にも固く心を閉ざして交流なんて考えもしなかったシラーさんが、仲良しメンバー以外にも『イベントやろうよ』と 声をかけようと自然に思うまでに変わったんだ、と言うことを伝えたくて入れました。ちなみに貴鬼が言っている『シラーさんが恋をして、愛を知った』相手は タナトスです(笑)。 |