| 「しばらくは退屈せずに済みそうだな、ヒュプノスよ」 エリシオンの花園が一望できるテラスの長椅子に腰を降ろしたタナトスは、楽しくてたまらないと言いたげな笑みを浮かべてヒュプノスに声をかけた。 兄神の言葉に曖昧な笑みを浮かべながら、弟神はニンフに用意させた紅茶のカップと茶菓子を卓に置いた。 楽しい悪戯を画策している顔でビスケットに手を伸ばすタナトスに複雑な眼をやり、ヒュプノスは兄の隣に腰を降ろしながら普段と変わらぬ平坦な声をかけた。 「それで、どうするつもりなのだタナトスよ」 「ん?」 「捕らえたアテナのことだ。このままお前の神殿で飼うつもりか?」 「フフ…あれは滅多に手に入らぬ面白い玩具だぞ。乙女の純潔を力づくで奪ったらどんな反応をするのかも興味深いが、それで呆気なく壊れてしまっては面白くないからな。ここはひとつ、お前のやり方に則ってじわじわと行こうかと思っている」 「…つまり手元に置いて飼うということだな」 ヒュプノスが僅かに眼差しを曇らせると、小動物を嬲り殺しにする無邪気な子供のような笑顔でタナトスはビスケットを噛み割った。 「飼うと言っても、次の聖戦が始まるまでの間…精々二百年だ。特に問題はあるまい」 「…では、永遠に飼う気はないのだな」 「当たり前だろう。次の聖戦が始まるまでの暇潰しだ」 「そうか。ならば良い」 最愛の兄神が敵である戦女神にのめり込むのではないか…という懸念は杞憂だったと分かり、金の神は安堵の息を漏らして紅茶のカップを口元に運んだ。 あくまでも時間潰しの戯れだと言うのなら兄の遊びに付き合う事に吝かではない。 ヒュプノスは口元に穏やかな笑みを浮かべてタナトスに尋ねた。 「では、具体的な作戦内容を伺おうか」 「そうだな、まずは肉の快楽と蜜の味を処女神の体に覚えさせるところから始めるか。一度覚えた蜜の味は忘れられぬ…繰り返し与え続ければ、やがて自ら蜜を 乞うようになろう。あの誇り高き処女神が快楽への欲求に負けて、屈辱に顔を歪めながら我々の足元に這いつくばり、自分から身体を開いて蜜を乞う姿…見たい と思わぬか?ヒュプノス」 眼を輝かせて楽しげに話すタナトスの姿に、ヒュプノスは微かに笑みを浮かべてビスケットを取り口に咥えた。菓子を口に咥えたまま眠りの神がついと身を乗り出すと、死神は当たり前のように弟が咥えたビスケットを齧った。 そのまま自然な仕草で唇を重ね、アテナに口付けた時よりずっと優しい所作で弟の唇についたビスケットの屑を舐め取ったタナトスは、自身の唇を指でぬぐいながら底知れぬ闇を孕んだ目をスッと眇めた。 「じっくり愛でてやろうではないか、ヒュプノスよ…アテナが我等の足元に傅いて快楽を求め、心も誇りも壊れるまでな」 恐ろしいほど冷ややかで甘い死の神の言葉に、眠りの神はどこまでも穏やかな笑みを浮かべて躊躇うことなく頷いた。 …ちゅく、ちゅっ、ちゅく…。 香の甘い香りが立ち込める薄暗い寝室は酷く静かで、アテナがタナトスの男性自身を咥え舌を這わせる水音が妙に大きく聞こえた。 必要最小限だけ服をはだけてアテナに奉仕をさせているタナトスは、自分自身を包み込むアテナのふくよかな胸を弄びながら、彼女を挟んで反対側にいる弟 神…寝台の壁に背を預けて、無防備に晒け出されたアテナの秘部を面白くもなさそうな顔で愛撫している…に楽しげに話しかけた。 「つまらなそうな顔だな、ヒュプノスよ」 「そうか?」 「ああ、そう見える」 「…そうか」 「つまらぬのは仕方がないが、もう少し真面目に手を動かしてやったらどうだ。アテナは物足りぬようだぞ?先程からしきりに腰を動かしているではないか」 「………」 「………!」 くちゅり。 濡れそぼる乙女の秘部をまさぐっていたヒュプノスの手が止まり、ククッ…と低く押し殺した笑みが漏れた。 眠りの神の緩慢な愛撫がもどかしくて無意識に自分から腰を動かしていたことに気付き、アテナは羞恥で頬を染めて唇を噛んだ。俯いたままそっと死の神を見上げれば、寝台のクッションに頬杖を付いたまま意地の悪い笑みを浮かべている。 「どうしたアテナよ?ヒュプノスに真面目に手を動かすよう貴女の代わりに頼んでやったのだぞ、貴女も真面目にやるべきではないか?」 「…………」 ものの弾みの振りをして噛みついてやろうか。 タナトス自身への愛撫を再開しながらアテナがちらりとそんな事を考えた時、彼女の胸の先端を些か強く摘まみながらタナトスが口を開いた。 「そう言えばアテナよ。貴女の剣の加護のおかげで死なずに済んだあの双子の聖闘士…今頃どうしているだろうな?」 「!…………」 「あのふたりの身に万一の事があれば、聖域の復興は絶望的になろうな…」 「……………」 アテナは噛みつきかけた口を一度閉じて、せめてもの抵抗でのろのろと開き、胸と舌と唇での愛撫を再開した。 …アテナを捕らえた双子神は、彼女の身体を弄び蜜と快楽の味を覚えさせる傍ら、自分達への奉仕を強要し始めた。アテナがふたりを拒もうとすると、死の神は『神である貴女が自身の言葉を違えるのなら我々にも考えがある』と言って聖域の聖闘士を神の力で殺して見せた。 生き残った聖闘士を殺されては聖域の復興は覚束無くなり、聖域が復興しなければ次の時代の聖闘士は育たず、そのような状態で次の聖戦を迎えたら地上はなすすべなくハーデスに支配されてしまうだろう。 散々脅しめいた事を言ってはいたが最後の一線を越える気は双子神には無いようだし、ふたりが飽きるまで自分が屈辱に耐えればいい…自分がこうしているのは地上の平和の為…決して、決して、ふたりから与えられる快楽を欲しているからではない…。 決して…。 「は…ぁ、ん、ああ…っ…」 真似事の夜伽を重ねることで彼女を悦ばせる術を把握した双子神の愛撫に思わず声が漏れた。タナトスの限界が近いことに気付きつつ、彼を包む胸と口の動きを速めると、銀の神が僅かに眉根を寄せた。 ドクン…。 タナトスの身体がビクリと震え、アテナの口腔に液体が吐き出された。 「ん…うぅ…」 アテナは目をきつく閉じて口の中の精を無理矢理飲み下した。 飲み込めずに吐き出せば舌で舐め取ることを強要され、それを拒否すれば聖域にいる聖闘士が殺されて、火照った身体は中途半端なままで 放り出される…そんな事を学習してしまった自分自身に嫌悪の感情を抱きながら、アテナは欲望を吐き出したタナトス自身に舌を這わせ丁寧に清めてから彼の服を整えた。 ちらりと見上げれば、死神は美しい唇に凶悪な笑みを浮かべて実に満足そうな笑みを浮かべている。 銀の神は片手でアテナの胸を弄びつつ、片手で彼女の頬や髪にわざとらしいほど優しく触れながら、濡れそぼるアテナの秘部への愛撫を続けている片割れを見遣った。 「俺は終わったが、お前はどうする?ヒュプノス」 「私は、どちらでも」 「…だ、そうだぞアテナよ」 「…………」 どういう意味です。 きつい視線だけで尋ねると、タナトスの唇はますます意地悪く弧を描いた。 「この後ヒュプノスにまで奉仕するのが大変ならば、今日はここで切り上げても構わぬぞ?…ああ、切り上げたからと言って聖闘士の命を奪うような真似はせぬ故、その点は気にしなくて良い」 「…………」 アテナは俯き唇を噛んだ。 タナトスだけでも屈辱なのに、この上ヒュプノスへの奉仕など真っ平だった。だが、彼女の身体を知り尽くした双子神の愛撫に攻め立てられた身体は快楽を求めて疼いている。ここで切り上げると言えば双子神はアテナの熱や疼きなど知った事かと放置していくに違いない。 この状況で逡巡するようになってしまった自分自身に嫌悪を感じてアテナは手枷の填まった手をきつく握り締めた。 (…拒否しなければ) ここで快楽の誘惑に負けて自ら奉仕を申し出てしまったら、もう後戻りできなくなってしまう気がした。 覚えさせられた蜜の味など忘れてしまおう。身体の熱や疼きを持て余す感覚にも慣れてしまおう。心を閉ざして殺してしまおう。そうすれば遠からず双子神はアテナに飽きて手放すはず…。 髪を梳いているタナトスの手を掴んで、アテナは精一杯気丈な声を出した。 「今日は、終わりにしましょう」 「………。苦しそうな顔をしているな」 「え…?」 意外な言葉に驚いてタナトスを見上げると、彼はアテナを心配しているような表情で彼女の頬にそっと触れた。頬に触れる死の神の手はあたたかい。 「辛いのか?辛いなら遠慮なく言うが良い、貴女を苦しませるのは我々の本意ではない故な」 「え…あ…」 掛けられた声と触れる手の意外な優しさにアテナは戸惑った。 貴女を苦しませるのは本意ではない、なんて…何てあからさまな、見え透いた嘘。聖闘士を人質に取って私を脅迫してまで奉仕を強要しているのに良くもぬけぬけとそんな事を… …………… …頭ではそう思っても、感情がついて来ない。 頬に優しく触れる手を振り払う事が出来ない。 底の見えない銀色の眼から視線を離せない。 タナトスの真意を測りかねて言葉を失うアテナを見つめていた死神は、微かに笑みを浮かべて彼女を抱き寄せるとそっと口付けた。 あの日と同じ、唇が触れ合うだけの、羽のような優しい口付け。 戸惑いから…そう、戸惑って抵抗するタイミングが掴めないから…アテナがされるがままになっていると、ヒュプノスが背後から彼女を優しく抱きしめてうなじに口付けを落とした。 双子神はアテナの頬や首筋や耳朶に口付けながら、美しい肌に手を這わせ、柔らかな胸を弄び、乙女の敏感な部分に触れて来た。 「………っ」 ふたりの愛撫に一度は引きかけた火照りと疼きが戻ってきて、アテナは思わずビクリと身体を震わせた。 肌に触れる双子神の手も口付ける唇も丁寧で、まるで愛する乙女にするように優しく心地良い。 知らず吐息を漏らして、アテナはぼんやりと思った。 (ずるい…) 普段の双子神は強引で乱暴で、時には人質を取ってアテナを従わせるのに、彼女が心を閉ざして押し殺そうとするとこうして優しく接してくる。彼らの優しさ は偽りだろうと思いながら、それでも、もしかしたら、どこかに事実もあるのかもしれないと考えて、彼らを完全に拒否するのは早計なのでは ないかと迷って、気付いた時には死と眠りの神はアテナの心に入りこみ彼女を思惑通りに動かしている。 双子神の罠に嵌まっている…頭は警鐘を鳴らしても、身体に直接与えられる快楽は処女神の冷静な思考と判断を溶かしてしまう。 アテナは切なく眉を寄せ、思わず声を漏らした。 「――あ、はぁ、あ…っ」 既に十分に潤っていたアテナの身体は大した時間もかからずに絶頂を迎え、ビクビクと震えた。 さざ波のように押し寄せてくる得も言われぬ快感。 脱力しながら強張る体をヒュプノスに預けて、震える手でタナトスに抱きつくと、アテナが達したことに気付いたふたりは敏感な部分を殊更に攻め立てた。 ふたりのしなやかな指が乙女の秘部を這い、花芯を弾き、とめどなく蜜が溢れ出す口をくすぐり、花弁に沿ってするすると滑るが、濡れそぼり震えて刺激を求めるアテナの中には入って来ない。 腰を動かして角度を変えて指を導こうとしてもするりするりと逃げられて、アテナは快楽への欲求を押さえきれずタナトスの耳に囁いた。 「なか…」 「ん?」 「なか、に…。………」 「…入れて欲しいのか?」 顔を見るのも見られるのも憚られてタナトスの肩に顔を埋めるようにして頷くと、鼻で笑われるかと言う予想に反して楽しげな声が聞こえた。 「貴女が我々に何かを要求するなど初めてではないか?なぁヒュプノスよ」 「ああ、そうだな」 「フフ…嬉しく思うぞアテナよ。遠慮はいらぬ、今後も要望があるなら遠慮なく言うが良い」 「え?…ひゃ、ああっ!」 意外な言葉に驚いた直後、ふたりの指がするりとアテナの中に入ってきた。 ちゅっ、ちゅく、くちゅ、くちゅ… 蜜で滑る内部で双子神の指が動き、絡み合い、かき混ぜるたびに水音が響いて、身体が震えるほどの快感が断続的にアテナを襲った。 甘い、甘い、蜜の味。 (一度覚えた蜜の味は…忘れられぬぞ?) 初めて双子神に身体を弄ばれた日、甘い毒のように囁かれた言葉が脳裏に蘇った。 アテナは思う。 私は、蟻地獄に落ちた蟻なのかもしれない。 もがいても暴れても足掻いても、偽りの優しさで造られたこの檻から抜け出す事は出来ないのかもしれない。 …それでもいい、と頭のどこかで声がする。 このまま来たるべき時が来るまで籠の鳥のままでもいい。死と眠りに絡め取られたままでもいい。 地上を守る使命にも処女神の誓いにも縛られないこの冥界で、僅かな時間でも甘い夢を見られるのなら。自分でも気付かないほど心の奥底に押し込めていた死の神への想いを僅かでも報われるのなら。処女神である自分がひと時の恋をする事が許されるのなら…。 銀の神に抱きついてその肩に顔を埋めたアテナは気付いていなかった。 死と眠りの神が冷ややかな笑みを浮かべたまま視線を交わし、何かの意思を疎通するように互いの指を絡めていた事を。 …アテナは窓際の椅子に腰を降ろして、エリシオンの花園を眺めるともなく眺めていた。 この場所に拘束されてどれほどの時間が流れたのだろう。ほんのひと月足らずのような気もするし、数年経っているような気もする。季節も死も存在しない神の御所エリシオンでは時は意味を為さず、地上を離れたアテナが時の流れを知る術は無かった。 双子神がアテナを解放する素振りを見せないところを見ると、次の時代の聖戦まではまだ時間があると言う事だろうが…。 ぼんやりとそんな事を考えていると、部屋の扉がノックされて双子神が姿を見せた。 私を弄んでからかうために来たのか。 頭ではそう思いながら、蜜を与えられる予感に身体の芯が疼き始めたことに気付き、アテナは殊更に厳しい顔で背筋を伸ばしてふたりを見遣った。死の神はいつにも増して楽しそうな顔で、眠りの神は普段と変わらぬ無表情だ。 「今宵は、どのような御用でしょうか」 「フ…わざわざ言わずとも分かるであろう?…と、普段なら尋ねるところだが」 「?」 「貴女に贈りたい物があって来た」 「…………」 タナトスの言葉にアテナは眉をひそめた。 冥王ハーデスの臣下である死の神からの『贈り物』…地上を守る戦女神を警戒させるには十分すぎる言葉だったが、タナトスはますます楽しげに唇を綻ばせだ。 「そう警戒するな。最近の貴女は無駄な抵抗もすることなく大人しく我らに従っている故、その手枷から解放してやろうと思ったのだ」 「え?」 思いもよらぬ言葉にアテナが目を丸くすると、タナトスは芝居がかった仕草で恭しく手を差し出した。 半信半疑のままアテナが手枷の填まった手を差し出すと、タナトスはその手を軽く握り、空いた方の手をヒュプノスに差し出した。手を出された眠りの神はどこか複雑な無表情のまま懐から鍵を取り出して兄神に渡した。 カチリ… 拍子抜けするほどあっさりと、タナトスはアテナの手に填まっていた手枷を外した。封じられていた神の小宇宙が呆気なく解放されて、これは何かの罠なのかとアテナは銀色の神に猜疑心の籠もった目を向けた。 「…一体どういうつもりなのです?」 「さっき言ったであろう。『最近の貴女は無駄な抵抗もすることなく大人しく我らに従っている故、その手枷から解放してやろうと思った』と。何をするにも手枷や鎖は邪魔になる故な」 「…神の力と小宇宙を取り戻した私が暴れて抵抗するかもしれない、とは考えないのですか」 「おかしなことを言う」 タナトスは目を細めてますます楽しそうに唇を綻ばせた。 「暴れるつもりがあればわざわざそんな事は問わぬ。力を取り戻した途端に行動に移すであろう」 「それは、………」 私が妙な動きをすれば即座に眠りの神が私を眠らせて動きを封じるから、無駄と分かっているから何もしないのです…と釈明しかけ、相手のペースに呑まれてはならないとアテナは口を噤んだ。 双子神の意図が測りきれずに警戒心を緩めずにいるアテナを楽しげに眺めながら、タナトスは懐から箱を取り出して彼女に差し出した。綺麗な紙で包んでリボンが掛けられたそれは、まるでプレゼントのようだ。 「…これは?」 「我々から貴女への贈り物だ」 「……………」 アテナはタナトスとヒュプノスと差し出された箱を順番に見つめ、何か罠が仕掛けられていても今の自分なら対処できるはず…と箱を受け取って包みを開いた。 …箱の中には、上品で控えめな装飾が施されたチョーカーが入っていた。 本当に、冗談でも厭味でも比喩でもなく、贈り物だったのか。 驚いて言葉を失ったままチョーカーを見つめるアテナに、タナトスが声をかけた。 「鍛冶の神ヘパイストスの弟子である我らが従兄弟キュクロプスに頼んで、貴女の為に造らせた特別製だ。気にいって頂けたら嬉しいのだが」 「え…私の為に?」 「そうだ。貴女の為に、だ」 「…………」 貴女の為に。 迷いなく言い切られたその言葉にアテナの心はぐらりと揺れて胸が高鳴り始めた。 私の為に、死の神が?わざわざ奈落タルタロスに住むキュクロプス達に依頼して、こんな素敵なアクセサリーを? …嬉しい。 心を満たす思いに唇を綻ばせ、アテナは頬を染めてポツリと呟いた。 「あ…ありがとう、と言うべきかしら」 「気にいって頂けたら…そのチョーカー、付けてもらえぬか?」 不気味なほど優しいタナトスの声。 普段のアテナなら違和感に気付いて警戒しただろうが、手枷を外されてプレゼントを贈られるなどという予想外の出来事に彼女の警戒心はすっかり麻痺していた。 アテナは何も疑わずチョーカーを首に巻き、パチリと金具を留めた。 …その途端。 ついさっき解放されたばかりの神の小宇宙が封じられた。 「!?」 「…クッ、ククククク…フハハハハハハ!!」 何が起きたか把握できずに混乱するアテナの姿に、タナトスは堪え切れなくなった様子で笑いだした。 その隣ではヒュプノスが呆れ半分感心半分の色を浮かべた無表情で口を開いた。 「まさか本当に自分で付けるとはな…」 「だから言ったであろう、ヒュプノスよ。手枷を外して油断させた後に『これはプレゼントだ』と言って渡せば疑うことなく自分自身で己の首を絞めると!」 「枷を外された後に首を絞めるものを渡されたら警戒すると思ったのだがな」 「フ…今更言い訳は無しだぞ、ヒュプノス。賭けは俺の勝ちだ!」 「ああ、異論はない」 「あなた達…!」 私を騙したのですね。 喉まで出かかったその言葉を押し戻し、アテナはギリリと歯軋りしながら双子神を睨みつけた。 「………。兄弟揃って、とても良いご趣味をお持ちのようですわね」 「お褒めにあずかりまして」 怒りのあまり低く静かになったアテナの声音に、その反応すら面白くてたまらないと言うようにタナトスは片眉をそびやかして見せた。底意地の悪い笑みを浮かべながら、彼は憎たらしいほど無邪気に首を傾げて見せた。 「その首輪…ああいや、チョーカーを付けたと言う事は、気にいって頂けたと解釈して良いのだな?」 「ええ、そう解釈して頂いて結構ですわ。とても素敵で気に入りました、キュクロプス殿にもよろしくお伝えくださいな」 「クク…そう来なくてはな、アテナよ。この程度で折れられては面白くないと思っていたが、期待以上だ」 アテナの反応にますます機嫌を麗しくする兄神に微かな苦笑を浮かべ、ヒュプノスは部屋から出ながら静かに声をかけた。 「…ではタナトス、私は席を外させてもらおう。終わったら呼んでくれ」 「ああ」 「『終わる』?」 ヒュプノスの言葉に微かな引っかかりを感じたアテナが眉を潜めて彼の背を目で追うと、タナトスが恭しく彼女の手を取って口付けた。 「感心せぬな、アテナ。貴女の前に俺がいるのに他の男に注意を向けるのは」 「え?あ…、………」 「さあ、今宵も始めようか」 タナトスの言葉に戸惑い、その発言が含む意味を考え、導き出された有り得ない答えに動揺してますます戸惑い頬を染めるアテナを椅子から立ち上がらせると、銀色の死神は彼女の腰を抱いて寝室に連れて行った。 |
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