| 寝台の傍らで焚かれた香が妖しげな匂いを漂わせている。 アテナはタナトスの身体を跨ぎ、乙女の秘部を彼の目の前に晒す姿勢で奉仕をしていた。鼻腔をくすぐる香りと窓から差し込む月の明かりはとても幻想的で、アテナからゆるゆると現実感を奪っていた。 (きっと世の恋人達は、こうしてふたりきりで閨に入って睦むのでしょうね…) そう思うだけでアテナの身体は熱く火照り、タナトスが与える愛撫に普段より敏感に反応しているのが自分でも分かる。タナトス自身を包む胸に触れていた指 が赤く染まった先端を掠めて、彼女はビクリと身体を震わせた。快楽への欲求を押さえきれず、アテナは胸をタナトスのローブに擦りつけるようにして刺激しな がら、両手でタナトスを愛撫して、喘ぎ声を誤魔化すように彼を咥えこんで舌を這わせた。 花弁を押し広げて指を這わせ、花芯を軽く摘まみ、蜜を滴らせる口をまさぐってアテナの秘部を愛撫するタナトスは、濡れそぼるアテナの中に指を挿れて中をかき混ぜながら楽しそうに口を開いた。 「今宵は随分と敏感に反応するな、アテナよ。大したこともしていないのにもうこんなに潤っているではないか」 「…そうですか」 「つれない返事だな。貴女がここに来てから初めてふたりきりになったと言うのに」 「…………」 ふたりきり。 銀の神の言葉にアテナの胸は甘く疼き、知らず唇が綻んだ。 …両手の指を使って乙女の敏感な部分を攻めていたタナトスが、アテナの蜜でべったりと濡れた自分の手を見て微かに息を吐いた。 「これではキリが無いな。アテナ、少し腰を落とせ」 「?……は、はい」 躊躇いながらアテナがおずおずと腰を落とすと、タナトスがクスリと笑う気配があった。 無防備に晒された乙女の秘部に吐息をかけて、彼女がビクッと震える姿を面白そうに眺めながらタナトスは銀色の眼を眇めた。 「本当に、一体どうしたのだアテナよ?今宵の貴女は随分と素直ではないか」 「………。そうでしょうか」 「フフ…乙女は素直が一番だ。その方が愛おしい故な」 「え…ひゃぁっ!!」 ちゅく… 意外な言葉に驚いた直後に濡れそぼる花弁に口付けられ、思わず甘い声が出た。 その反応が面白かったのか、タナトスは殊更に舌と唇でアテナの秘部を攻め立て、花芯をくすぐり、とめどなく溢れる蜜を舌で掬って舐め取った。 「――あ、あ……、ん…うぅ…はぁっ…あぁ…」 喘ぎ声か吐息か分からない甘い音が唇から零れ、アテナは自分の口を封じるために目の前のタナトスを咥えて自らのふくよかな胸で包みこんだ。彼を愛撫しながら自身の胸を掴んだ指先で赤く染まった先端をくすぐると、そこから甘い痺れが体中に広がった。 もう、駄目… 快楽への欲求に負けてアテナが思わず腰を動かすと、彼女の限界が近いことに気付いたタナトスは花弁に口付けて蜜を吸いながらアテナの中に指を滑り込ませた。 「は、あ…、っ……!!」 絶頂を迎えたアテナはビクビクと身体を震わせ、タナトスに倒れ込みながら自身の胸を揉みしだき、タナトスの指の動きに呼応するように腰を動かして甘い快楽を求めた。 …タナトスに倒れ込むようにして甘い余韻に浸っていたアテナは、ゆるゆると身体を起こして彼への奉仕を再開しようとした。自分だけ先に達してしまったのが少なからず恥ずかしくて、『貸し借り』を無くしてしまおうと思ったからなのだが…。 タナトスは自身を跨いでいたアテナの脚をそっとどかすと寝台に身体を起こして、自身が横たわっていた場所を軽く叩いた。 「アテナ、俺への奉仕はもう良い。ここに横になれ」 「………?」 タナトスの指示の意図は分からなかったが、アテナが大人しく言われた通りに寝台に身体を横たえると、死神は銀の眼を眇めて嬉しそうに笑った。 乙女は素直にしている方が愛おしい、か…。 先程の言葉を思い出してアテナが胸を疼かせていると、彼女に覆いかぶさるようにしてタナトスが口付けを落とした。 唇に、頬に、瞼に、鎖骨に、胸に。 優しい口付けと肌に触れる髪の感覚と敏感な部分への愛撫が心地よくてアテナがされるままになっていると、タナトスの不満そうな声がした。 「…アテナよ。確かに俺は素直が方が好ましいとは言ったが、されるがままでは白けるぞ。貴女も何か行動したらどうなのだ?」 「え?え…えっ、と…」 何か行動しろと言われても、神話の時代に処女神の誓いを立てて乙女の純潔を守って来たアテナには『閨で女性がするべきこと』が何なのか見当もつかない。 戸惑いながらタナトスの首に手を回して抱き寄せ、彼がそうしたように頬や耳朶や唇に口付け、おずおずと手を伸ばして熱を孕む彼自身を丁寧に愛撫すると、満足げに微笑む銀色の眼差しと眼が合った。 自分の行為は間違っていなかったらしい、と微かに安堵の息を吐くアテナにキスをして、タナトスは片手で彼女の胸を柔らかく揉みしだきながら片手で乙女の 秘部にするりと指を這わせた。十分に潤っていることを確認した彼は熱くなった自分自身を花弁に押しつけ、蜜を塗るように一度滑らせてからゆっくりとアテナ の中に入り始めた。 「………?」 自分の中に挿入ってくる『異物』の感覚が指とは違う事に気付いて怪訝そうな顔をしたアテナは下半身に目を向け、『異物』の正体に気付いて眼を見開いた。 夢見心地の甘い感覚が一瞬で消えて現実に直面したアテナは、思わずタナトスの肩を掴んで彼を押し戻そうとした。 「待って、待って下さい!それはダメです!」 「ん?」 恍惚の表情を浮かべていたアテナが急に切羽詰まった様子で抵抗してきたので、タナトスは彼女の中に挿入るのを止めて怪訝そうに目を瞬いた。 浅く繋がったまま女神を組み敷いて、銀の神は無邪気にすら見える仕草で首を傾げた。 「駄目?何が駄目なのだ?『私の身体を汚したいなら好きにしろ』と我等の前で宣言したのは、度重なる念押しにもその言葉を撤回しなかったのは、他ならぬ貴女ではないか。土壇場になって気が変わったなど、そのような理屈は通じぬぞ」 「あ…いえ、それは、そう…ですけど…」 「ならば問題はなかろう」 ズズッ… タナトスが更にアテナの中に入ろうとして、指の時とは違う圧迫感と鈍い痛みが乙女の恐怖を煽った。 「やっぱり駄目、無理…無理です!痛い…痛い…そんなの、物理的に無理です!」 「フ…何を言い出すかと思えば『物理的に無理』?今まで俺やヒュプノスの指を何本もはしたなく咥えこんできたくせに何が無理なものか、片腹痛いわ。身体に変に力が入っているから痛みを感じるのだ、力を抜け。無駄な力を抜けばどうと言う事はない」 「無茶を言わないで!!」 アテナは目に涙をにじませ、聞き分けのない子供のように首を振りながら必死にタナトスを押し戻した。彼の言う事は理屈では正しいのだろうが、そんな正論で処女神の身体が異性を受け入れてくれるはずがない。 神の小宇宙を封じられたアテナの抵抗などタナトスにとってはそよ風のようなものだったが、身体を強張らせる彼女に無理強いして騒がれ続けるのも面倒だった。何より後の事もある。弟と一緒に遊ぶための玩具をつまらないことで壊す訳にはいかない。 「…仕方がないな」 タナトスは浅く息を吐いてアテナに挿入りかけた身体を離した…振りをした。 死神が身を引いてくれたと思ってアテナが体の緊張を解いた途端、タナトスは一気に彼女の最奥まで貫いた。 ズッ!! 「!!!!」 「フッ…ほら見ろ、要らぬ緊張をしなければ呆気なく最奥まで入るではないか」 「あ…あ…」 「そのまま身体の力は抜いていろ。すぐに心地よくなる故な」 「無茶を…言わないで…、んんっ!!」 抗う言葉しか出て来ない唇を口付けで塞ぎ、逃げようとする身体を片手で押さえ、片方の手で敏感な部分に愛撫と刺激を与えてアテナの身体が強張らないように仕向けながら、タナトスはゆっくりと身体を動かし始めた。 初めて異性を受け入れたアテナの中は十分に狭かったが、散々指で慣らしてきたためかキツ過ぎて身動きに困るほどではない。 ちゅっ、くちゅ、ちゅっ… ふたりが繋がった場所から水音が漏れ、アテナの蜜はとめどなく溢れ出て敷き布を汚している。 アテナの口から出るのが拒絶の言葉ではなく艶が混じった喘ぎ声に変わり、無駄な抵抗をしていた両手が大人しくなったのを見て、タナトスは唇の端に笑みを浮かべた。 「ほら、俺が言った通りであろう?身体に無駄な力を入れなければ、指で攻められるより心地良いだろう」 「…………」 無言のまま視線を逸らしたのはせめてもの抵抗だったが、指では届かない最奥までかき混ぜられる快感にアテナの意地も理性も砂糖菓子のように溶けて行っ た。巧みに攻め立てて来るタナトスの頬に手を伸ばして抱き寄せ、口付けることではしたない声を漏らす自分の口を封じながら、アテナは彼に抱き付いた。 しがみ付いてくるアテナを優しく受け止めたタナトスの唇が意地悪く弧を描いた。 (ついに陥落したか、アテナよ) 誇り高き戦女神を肉の悦びで籠絡しその全てを手中に収めた満足感と、自身に熱く絡みつく女の身体にタナトスの限界も近づいていた。 そろそろか…と頃合いを見計らってアテナから離れようとした瞬間、ひときわ甘い声をあげたアテナがタナトスに力一杯しがみ付き身体を押さえるように脚を絡めてきた。 「!?………」 「あ…あ、あっ…はぁっ…」 「……っ…」 思わぬタイミングで思わぬ行動を取られたせいで対処が出来ずにアテナの中に精を吐き出したタナトスは、限界に達した余韻が去るのを待って身体を離した。 果てた身体を羽根枕にくたりと預けたアテナに目を遣ると、ふたりが繋がっていたその場所から僅かに紅が混じった液体が流れ落ちて敷き布を汚していた。 銀の神は浅く息を吐いて欲望を吐き出した己を布で清めて服を整えると、アテナに形ばかり薄絹をかけてニンフを呼んだ。 「アテナの身体を清めて寝所を整え直せ。今すぐだ」 「畏まりました」 「ヒュプノスは?」 「いつものお部屋においでです」 「そうか。では、終わったら報告を」 「はい」 …タナトスが部屋に入ると、優雅な所作で紅茶を飲んでいたヒュプノスが顔をあげて穏やかに微笑んだ。 「終わったか。どうであった?」 「少々予定外が起きてな。アテナの中を汚してしまった故、今ニンフに後始末をさせている。しばし待ってくれ」 「気にするな、些細なことだ。…それで、楽しめたか?」 「それなりにな。クク…あの女、今までは我々の指を何本も咥えこんでは快楽を貪っていたくせに、いざ俺を受け入れる時は『物理的に無理』などとふざけた言い訳で拒否しようとしたのだぞ」 「フ…知恵の女神らしくもない拒絶の理由だな。そんな事を言いながら結局お前を受け入れたのだろう?」 「ああ。痛いとか無理だとか騒いでいたが…」 …タナトスが楽しげに先程までの出来事を話していると、扉がノックされてアテナを預けたニンフが顔を覗かせ丁寧に一礼した。 「失礼いたします。女神の湯浴みと寝所の準備が完了いたしました」 「む、そうか」 「では私も楽しんでくるとしよう」 「フフ…お前の話も楽しみにしているぞ、ヒュプノス」 極上の笑みを浮かべる兄神に穏やかな笑みを返して、眠りの神は部屋を出てアテナの部屋に向かった。 風呂で身体を清め、新しいローブを纏ったアテナは再び寝室に通されていた。 身体の芯に鈍い痛みは残っているものの、神話の時代に立てた処女神の誓いが破られた事に対する実感は薄かった。大神ゼウスに地上を託された戦女神として人間を守らねばならない、そんな使命や掟に縛られる重圧から離れたことで現実感が欠落してしまったのだろうか…。 そんな事をぼんやりと考えていると、部屋の扉が開いてヒュプノスが姿を見せた。たちまち警戒心に顔を強張らせ身体を緊張させるアテナを見て、眠りの神は底知れぬ不気味な笑みを浮かべた。 「何か言いたげな顔だな、アテナよ」 「何故あなたがここに来るのです」 「これはこれは…知恵の女神とは思えぬほど愚かな問いだ。タナトスの相手だけをして終わりだとでも思っていたのか? 「!…………」 「その首輪」 ヒュプノスは穏やかな笑みを浮かべたままアテナの首を絞めるチョーカーを指差した。 「タナトスは『疑わずに自分で付ける』方に賭け、私は『疑って拒否する』方に賭けていた」 「賭け…?」 「そうだ。そして賭けに勝ったタナトスが先になった、ただそれだけのこと」 「…………」 「さぁ、次は私の相手をしてもらおうか?『女神』アテナよ。先に言っておくが、私はタナトスほど敵である貴女に優しくはないぞ」 蒼白になるアテナの反応を楽しげに見ながら、ヒュプノスは仮面のような笑みを貼り付けたままゆっくりと彼女に歩み寄った…。 …ちゅく、ちゅっ、ちゅく…。 香の甘い匂いが立ち込める薄暗い寝室で濃密な水音がする。タナトスは寝台においた羽根枕に身体を預け、僅かに服をはだけてアテナに奉仕をさせていた。タ ナトスをふくよかな胸で包みこみ熱心に舌を這わせ口付ける女神を挟んだ反対側では、ヒュプノスがアテナを背後から貫く形でゆっくりと動いていた。緩慢な動 きが焦れったいのか、腰を動かしているアテナをより深く抉りながら金の神は兄神に声をかけた。 「つまらなそうな顔だな、タナトスよ」 「そうか?」 「ああ、そう見える」 「そうか…」 あやふやな兄神の返答に淡く笑みを浮かべて、ヒュプノスは熱心に奉仕を続けるアテナを冷ややかな眼で見降ろした。 …双子神の会話はアテナの耳にも入ってはいた。だが、今の彼女はタナトスの反応が芳しくないことばかりが気にかかっていて、発言内容と声の主が普段と逆だと言う重要な事実さえ意識に残らないまま通り過ぎていたのだ。 もっと焦らしてやっても良かったが、余り長引かせてはタナトスがつまらぬだろうとヒュプノスは動きを速めた。それに呼応するようにアテナも自身の動きを速めるとタナトスが微かに眉根を寄せ、双子神はほとんど同時にアテナの中に精を吐き出した。 「はぁ、ん…んん…ああ…ぁ…」 ふたりと同時に達したアテナは、絶頂の余韻にビクビクと身体を震わせながら銀の神をそっと見上げた。彼は明らかにつまらなそうな顔をしていて、私の奉仕に何か不満があったのだろうかと心配しながら、アテナは欲望を吐き出したタナトスを舌と唇で普段よりも丁寧に清めた。 白濁した液を滴らせるアテナの秘部を布で拭いながらヒュプノスが穏やかに言った。 「タナトスは感情にムラがあってな。今日は私が兄を誘ったのだが、余り気が乗らなかったようだ。こう言う日もある、貴女が気に病む事ではない」 「…そうですか」 眠りの神の言葉に安堵したアテナは身体の向きを入れ変えて、ヒュプノスを清めながらそのまま奉仕を始めた。 が、普段なら余り焦らさずにアテナに挿入ってくるタナトスが何も行動を起こさない。 (………。今日は気乗りがしないそうだけれど…) 普段なら当たり前に与えられる刺激や快楽が与えられないことでアテナの身体は熱を持って疼いていた。自分でもはしたないと思いながら愛撫をねだるようにそっと腰を動かすと、少し間があってタナトスの指がアテナの秘部を愛撫し始めた。 それで満足したようにヒュプノスへの奉仕を再開したアテナをタナトスはやはり面白くもなさそうな顔で眺め、そんな兄神を弟神は面白そうに眺めていた。 「せっかく手に入れた貴重な玩具だと言うのに、もう遊び飽きたのか?タナトス」 エリシオンの花園が一望できるテラスで、ヒュプノスはてづから紅茶を淹れながら兄神に尋ねた。 「ああ、つまらん。…つまらん」 「…………」 「意地っ張りで跳ねっ返りなあの小娘を屈服させる過程は楽しかったが、ああも従順になってしまっては面白くも何ともない。従順しか能の無い女なら他にいくらでもいる、他にはない面白いものがあの女にはあると思ったのに…とにかくつまらん」 差し出されたビスケットをあからさまな不機嫌顔で噛み砕き、淹れられた紅茶で乱暴に飲み下してタナトスは卓の反対側に腰を降ろした弟神に目を遣った。 「俺はもうあれで遊ぶ気にはなれぬ。後はお前が好きにするが良い」 「そうか。ならばタナトス、ひとつ頼まれてくれぬか」 「?」 「私は最後にアテナの心を壊して遊びたいのだが、中途半端なやり方は好まぬ。今生は修復が叶わぬほどに完全に壊したいのだ」 「…ふむ」 タナトスの銀色の眼が好奇の色を孕み、興味深そうな笑みを浮かべて彼は卓に身を乗り出した。 「一体どうするのだ?」 「何を言ってもアテナは大神から地上を任せられた知恵と戦の女神。その心も誇りも強靭で生半可な高さから落としても大して壊れはせぬ」 ヒュプノスは紅茶を飲みほしたティーカップから無造作に手を離した。カップは卓に鈍い音を立ててぶつかったが、縁が僅かに欠けただけだった。 だが…と言葉を続けながら、ヒュプノスは卓に落としたカップを拾ってスッと手を伸ばし、今度は床にカップを落とした。 ガチャーン!! 高いところから落とされたカップは派手な音を立てて粉々に割れた。 粉々になったそれを見遣り、ヒュプノスは淡く笑んだままタナトスに話を続けた。 「一度高いところに持って行ってから手を離せば、より衝撃は大きく激しく壊れる…二度と元には戻らぬほどにな」 「つまり俺は、アテナを高い所へ持って行って手を離せばいいのか?」 「その通り。お前はアテナを高いところに持って行って手を離す…お前が手を離した事は、その時のアテナは気付かぬ。お前が手を離し、足場は既に消えた事をアテナに教え、高いところから落として壊すのはこの私…」 「ククッ…面白そうではないか、ヒュプノスよ。では俺は具体的に何をすればいい?」 最高に面白い悪戯を提案された子供のように眼を輝かせる兄神の姿に、ヒュプノスは楽しげな笑みを浮かべて計画を話し始めた…。 心地よい西風が色とりどりの花を揺らして吹きぬけた。 双子神に拘束されてはいるが神殿に監禁されているわけではないアテナは、すっかり顔見知りになったニンフ達と一緒にエリシオンの花園で花を摘んでいた。 どうせ受け取っては貰えないだろうけど…と思いながら花冠を編んでいると、不意に頭の上から色とりどりの花が降ってきた。 「?」 驚いて顔をあげると、仕掛けた悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべたタナトスがアテナの傍らに立っていた。その後ろでは地獄の番犬ケルベロスが大人しく控えている。どうやらアテナに花のシャワーを浴びせたのは彼らしい。 微笑ましい行動にアテナは思わず唇を綻ばせた。一緒に花を摘んでいたニンフ達も楽しげに笑っている。 「一体どうなさったのです、死の神よ?今日は弟君はご一緒ではないのですか」 「ヒュプノスなら所用で出かけている。口煩いのがいないから存分に羽を伸ばそう、どうせなら貴女も一緒にと思って探していたのだが…何やら楽しげにしていたから少しばかり脅かしてやろうと思ったのだ」 「…ではその作戦は成功ですわね。とても驚きましたわ」 「そうか」 タナトスは満面の笑みを浮かべて、『貴女を探していた』と言われたことが嬉しくてたまらないアテナもにこりと微笑んだ。 死神はアテナの髪に付いた花を優しく払い、大仰な仕草で一礼して手を差し出した。 「ではお手をどうぞ、姫君。ケルベロスに乗っての地獄一周にお連れしましょう。その後はふたりで語らいながら食事など如何だろうか?」 「あ…ありがとう、とても嬉しいわ」 思いもよらぬ申し出にアテナが目を輝かせ頬を染めて差し出された手を取り立ち上がると、一緒に花を摘んでいたニンフ達が楽しげに集まってきた。手にして いた花冠をケルベロスの三つある頭に被せ、ふたりに蜂蜜の瓶を献上し、アテナがケルベロスに乗るのを手伝い、魔犬に乗って飛び立つ神々に笑顔で手を振り見 送った。 花を摘んで蜜を集める作業に戻ったニンフ達が、近づいてくる神の気配に気付いて顔を上げて怪訝そうな顔になった。 「あら、ヒュプノス様?所用でお出かけだとタナトス様がおっしゃっていましたが…」 「お帰りになったばかりなのですね。でも生憎とタナトス様とは入れ違いになってしまいましたわ」 「たった今、タナトス様はアテナ様を連れてお出かけになりました」 「ああ、構わぬ。タナトスを驚かすためにわざと入れ違いになるようにして帰って来たのだ。故に、私がエリシオンに戻っている事はタナトスに教えてはならぬぞ」 ヒュプノスは唇の前に指を立ててニンフ達に緘口令を敷き、魔犬が飛び立った楽園の空に冷ややかな金色の一瞥を投げると自身の神殿へと帰って行った。 アテナを壊す布石は既に打たれた。 後は、甘い思い出としばしの時が戦女神の最後をこれ以上ないほど効果的に彩るだろう…。 |
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