| コーホー、コーホー、ギュイィィィィィン。コーホー、コーホー、ギュイイイィィィン。 わざとらしい効果音で呼吸をしつつ、無意味にチェーンソーのスイッチを入れたり切ったりしつつ、ダースベイダーのコスプレをしたハーデスが双子神の間まで戻ってきた。 ギュイイイイン!! やおらチェーンソーを振り上げた彼をタナトスが穏やかに制した。 「切断は少々お待ちを。BGMの準備がまだですし、シーツもかけていません」 「コフー…」 「え?ちょ、あの、なんでダースベイダーでチェーンソーなんですか?ライトセイバーは!?」 「あの光る剣で斬ったところで、斬ってる実感が無くて面白くないでしょう?」 「じゃあなんでダースベイダーのコスプレなんですか!もっとそれっぽいのがあるでしょーが!」 「イベントの打ち合わせをしながら色々なDVDを見ていたら、彼がダースベイダーをBGMごと気にいって…」 「いやいやいや、だからってダースベイダーでチェーンソーはないでしょうよ!」 何だかピントがずれているようなぼたんの突っ込みに、タナトスはシーツを被せながらわざとらしく溜息をついた。 「お嬢様がそうおっしゃるなら仕方ありません。こんなこともあろうかと準備はしておきましたので、着替えて頂きましょう」 「へっ?」 タナトスとヒュプノスは月桂樹のチェーンソーを受け取って、仮面と兜、マントを脱がせた。 きょとんとしたぼたんはマントの下から出て来た姿に絶句し、観客達は思わず吹き出した。星矢は笑い過ぎてテーブルに突っ伏してビクビク震えている。 …ダースベイダーの衣装を脱いだ月桂樹は、ホッケーマスクを被って赤と黒のシマシマシャツを着て手には長い鉤爪を付けていた。有名な殺人鬼が二つほど混じっている。ついでに何故か猫耳もついたままだ。 チェーンソーを預かっていたタナトスがどこかから出して来た長身の鉈をハーデスに渡し、ヒュプノスがソフト帽を彼の頭にのせた。 「武器も含めてこれで問題ないですね。では早速マジックに入りましょう。お嬢様、痛かったら遠慮せず左手を…」 「上げられませんっつーの!!」 「さぁおぼっちゃま、切断をどうぞ」 ぼたんの絶叫を軽く流したタナトスの促しに無言で頷いたハーデスがスイカ割りの要領で鉈を振り上げると、三巨頭が楽器の演奏を始めた。 チャラララッチャッチャ、チャラララッチャッチャ…。 マヨネーズのCMでおなじみの、三分間クッキングのテーマだ。 シュールなBGMに観客が堪え切れず笑いだす中、ハーデスが渾身の力を込めて鉈を振りおろした。 …ぺす。 何とも情けない音と共に鉈がシーツに『着地』した。勿論と言うべきか、シーツもぼたんも無傷である。 星矢に続いてヘカーテとエリスがテーブルに突っ伏して痙攣し始め、動画のコメントも『wwww』が画面を埋め尽くすほど流れている。 ハーデスは慌ててもう一度鉈を振り上げてさっきよりも力を入れて振り下ろした。 ぼふ。 「………」 「えーとぉ…」 「鉈は本物ですよ、念のため申し上げておきますが」 「あ、そ、そうなんだ、ふーん。え、えっと、とりあえず今のところ痛くは無いねぇ。………」 凄まじく微妙な沈黙が流れ、月桂樹は鉈を持ったまま肩ではぁはぁと息をしている。ホッケーマスクのせいで顔は見えないが、何となく涙目になっている気がする。 …と。 「ジェイソン、頑張れ!」 観客席から龍神秋乃が声をかけた。 愛する妃の『応援』にハーデスはハッと顔をあげ、三度鉈を振り上げた。 べふ。 ………。 「フレディ、しっかりしろぉー!」 「めげるなジェイソーン!」 「諦めたらそこで試合終了だぞー!」 観客席から声援が飛んで、ネット中継の動画にもハーデスを応援するコメントが流れている。 いるのだが、ハーデスが必死に鉈を振り降ろしても『べふ』とか『ぽふ』とか呑気な音がするばかりで一向に人体切断に至らない。 何とも微妙な顔をして主君の奮闘を眺めていたタナトスが腕を組んでうーんと唸った。 「元ネタに忠実すぎるのも善し悪しだな。予定外ではあるが我々も手を貸すか。…ヒュプノス、俺は道具を取ってくるからその間は任せた」 無言で頷く金の神にチェーンソーを渡して銀の神はカメラに映らない位置に移動した。自分の姿が映像に流れていないことを確認してタナトスは小宇宙を凝縮させて銀の大鎌を具現化し始めた。虚空から大鎌を出すのを手品だと言い張るには無理があるからだろう。 双子神の行動にハーデスが鉈を振りおろすのをやめてヒュプノスを見上げると、眠りの神は彼の手から鉈を取ってチェーンソーを差し出した。 「お坊ちゃま。私も手伝いますのでこれで行きましょう」 「ん」 ギュイイィィィン!! 執事姿のヒュプノスとホッケーマスクに猫耳をつけた月桂樹と言う奇妙なふたりは、チェーンソーのスイッチを入れるなり、前振りも勿体ぶりもせずいきなりぼたんを斬り始めた。 今度はちゃんと『切断』に成功していて、チェーンソーはきちんとシーツの中身を斬っているしシーツも赤く染まり始めている。ヒュプノスが淡々と無表情なのが逆に不気味でぼたんも突っ込めず、観客席も静かになり始めた頃、タナトスが銀の大鎌を担いで戻ってきた。 「順調そうだな」 「ああ。…我々が斬るのはこれくらいにして仕上げはお前がした方が良かろうな」 ギュイイィィ…ン。 ヒュプノスが真っ赤な液体に濡れたチェーンソーを引きぬくと、タナトスは得意気な笑みを浮かべて頷いて…大鎌を上段に構えた。 そのポーズにぼたんも観客も目を丸くした。 鉈やチェーンソーで斬るならともかく、大鎌を上段から振り下ろす気か? 皆の注目をたっぷり集めて、タナトスは形の整った唇の端をすっと持ち上げて躊躇うことなく大鎌を一閃した。 ぞん!! 腹の底に響くような音と共に銀の閃光が走った、次の瞬間。 ガゴン! ぼたんを乗せた簡易ベッドがまん中からV字型に折れて、折れた場所から真っ赤な液体が滴り落ちた。 …不気味な沈黙が流れる中で、振り下ろした大鎌を担ぎ直したタナトスはとぼけた顔で言った。 「おや、ベッドが壊れてしまいましたね」 「『壊れてしまいましたね』ではないだろう、タナトス。そのベッドは借り物だぞ。借り物を壊すなど…」 「ちょっとヒュプノス様ぁ!気にするところが違うでしょ、そこじゃないでしょ気にするところは!!真っ二つになった私を心配して下さいよっ!!」 「ああ、失礼。…しかし、それだけ大声が出せれば心配もないような気がするが…」 「いやいやいやいやいやいや!!思いっきり心配なんですけど!」 「お嬢様がこういうのなら仕方がないな。おぼっちゃま、お手数ですが救急車を呼んで頂けますか」 「ん、分かった」 「救急車…って何ですかその真っ当すぎる対応は!?タナトス様の手品でしょ、手品で元に戻して下さいよーー!!」 どんな仕掛けでぼたんの体ごとベッドが折れた(ように見える)のかは分からないが、どうやら台本通りらしいと分かった『観客』達が面白そうに見守る前で、ハーデスは携帯を取り出してボタンを押した。 トゥルルルー、トゥルルルー、カチッ。 『今夜は気温が低く、雪が降るかもしれません。外出時は暖かい格好をお勧めします。降水確率は…』 「………。あれ?」 「ちょいとおぼっちゃま?今のは天気予報だったようですけど?」 「雪が降るのか。そうしたらまさにホワイトクリスマスだな」 「ロマンチックと言う奴か」 「ロマンチックだな。…ところでお嬢様、救急車を呼ぶのは何番でしたっけ?110番?」 「警察呼んでどーするんですかぁぁぁ!確かにある意味適切ですけどっ!!」 ぼたんの突っ込みにハーデスはぽんと手を打って傍らのタナトスとヒュプノスを交互に見上げた。 「確かに警察を呼ぶのは適切だな。ここに殺人鬼がいるし」 「ああ…確かに殺人鬼がいますね」 「いますね、13日の金曜日にエルム街の悪夢に出てきそうな殺人鬼が」 「………」 ぴるぴるぴる。 ホッケーマスクを被り、赤と黒のシマシマシャツを着て、長い鉤爪を付け、ソフト帽をかぶって猫耳を装着したハーデスは、血糊のついた大鎌を持ったタナトスと血糊のついたチェーンソーを持ったヒュプノスを交互に見て、無言のまま携帯を懐にそっと戻した。 …観客の腹筋が何度目かの崩壊を始める中、ハーデスはタナトスを見上げた。 「そ…そもそもこれはタナトスの手品ではないか!言われた通りお嬢様を切断したのだし、手品を続ければ問題ないだろう!?」 「ああ、そうでしたそうでした。話が脱線して忘れていましたがこれは俺の手品でしたね。では続きをしましょうか」 タナトスはハーデスの言葉に頷いて、大鎌をオネイロスに預けると、さて…と肩に乗ったジャックを見た。 「ジャック。これは生放送だからシーツを取ってお嬢様の断面図を見せるのは大人の事情的にまずいのだ。きちんと切断できているかどうか、お前が確認してきてくれ」 「キャッ!」 一声返事をしてタナトスの肩から降りたジャックは、V字に折れた場所のシーツをめくって中を覗いた…途端、ぐらりと傾いて床にばたっと落ちた。 「ジャック!」 「おいジャック!」 「大丈夫かジャック!」 タナトスや星矢達が声をかけ(動画のコメントにも『ジャックぅぅ!!』『ああっ、ジャック!』と流れた)、タナトスが床に倒れたジャックを拾い上げて顔をペシペシと叩くと、猿はパカッと目を開けてタナトスにひしと抱きついた。 大丈夫か、とタナトスが尋ねると、ジャックは彼の耳に何か囁く仕草をした。 「ジャックは何と?」 「『向こう一週間はホルモン焼き肉もモツ鍋も食べられない』だそうだ」 「そうか。なら大丈夫だ、問題ない」 「ぜーんぜん大丈夫じゃないし問題も大有りでしょーがぁぁぁ!!救急車はどうなったんです救急車は!119番はっ!!」 ぼたんの盛大な突っ込みに、タナトスは心底不思議そうな顔で尋ねた。 「何故そんなものを呼ぶ必要があるのです、お嬢様?今の話を聞いていなかったのですか?これは手品ですよ?手品の人体切断で救急車を呼んだら病院も良い迷惑ではないですか」 「え…あ…まぁ…確かにそうなんだけど…。何だろうね、この理に叶ってるけど腑に落ちない感覚は」 V字に折れたベッドに縛られたまま、ぼたんは眉間に皺を寄せて真面目に考え込んでいた。 一方、画像のチェックをする必要が無くなった星矢は、笑い過ぎて痙攣している腹を押さえつつ素直にマジックショーを楽しんでいた。 笑顔で大ボケをかました直後に真顔で正論をかまし、無駄にハイレベルな執事コスと生演奏と本当にタネも仕掛けもないがトンデモレベルまではぶっ飛んでい ない手品、そしておそらくアドリブだろうが見事に噛み合って笑いを取っているぼたんとのやりとり、表情豊かなタナトスととことん無表情のヒュプノスの シュールな会話…引き受けたからには手抜きしないとタナトスは言っていたが、正直予想以上だった。 さて次はどうするのかと期待の眼差しが集まる中、タナトスはハーデスに目を向けた。 「そういう訳でおぼっちゃま、壊れてしまったベッドを元に戻すので協力して頂きたいのですが」 「分かった」 「え?元に戻すのはベッド?私じゃなくて?」 「申し訳ありませんがお嬢様、時間が押していますので一々突っ込まないで頂けますか」 「………。はぁ…」 ますます釈然としない顔をするぼたんは無視したまま、タナトスは月桂樹のホッケーマスクを外した。 ひょっとしたらマスクの下にまた何か付けているのではないか…そう思って警戒していた観客達は、メイクも仮面もない素顔が出て来たことに落胆と同時に油 断して、シマシマシャツの下から出て来たドラえもんの胴体がプリントされたエプロンに不意打ちを食らって笑い死ぬ羽目になった。 してやったりと言いたげなドヤ顔でタナトスはドラえもんエプロン姿のハーデスに声をかけた。 「…と言う訳でおぼっちゃま。色々と無かったことにする魔法の布を出して頂きたいのです」 「またぁ?仕方ないなぁタナトス君は」 お約束の台詞をお約束の口調でハーデスが言うと、タナトスの肩に乗っていたジャックが彼の耳に口を寄せてごにょごにょやった。 「『お嬢様の切断も出来なかったくせに何でこんなに偉そうなんだ』と言われてもな…。元ネタの猫型ロボットも居候の分際で妙に態度がでかいし、おぼっちゃまは元ネタに忠実にやっているだけだ。突っ込むのは気の毒だろう」 「…………」 何だか凄まじく微妙な顔でハーデスがエプロンのポケットをごそごそすると。 テレレテッレレー♪ これまたお約束の効果音が流れ、彼は時計柄の布を取り出した。 「色々無かったことにする魔法の布〜☆」 「いやいやそれ、どう見てもタイム風呂敷だし!」 「失礼な。これは、俺が時の神カイロスから貰った時間を戻す布ですよ」 さも心外だと言いたげな顔をしながら、タナトスはハーデスから時計柄の布を受け取ってぼたんに被せた。布はかなり長く、赤い液体で汚れた床まで覆っている。 突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込むか悩んだぼたんは、とりあえず当たり障りのないところから突っ込むことにした。 「カイロス?時の神って言ったらクロノスじゃないんですか?」 「ああ…確かに時の神として高名なのはクロノスですが、時の神は二柱いるのです。クロノスは過去から未来へと一定速度・一定方向で機械的に流れる時間を司 り、カイロスは速度が変わったり繰り返したり逆流したり止まったりする、人間の内的な時刻を司ります。ちなみに時の神クロノスと、大神ゼウスらオリンポス 神族の父である農耕神クロノスは別の神ですよ。よく同一視されますがね」 「へぇぇ〜さすが神様の中でも年上のタナトス様は知識が豊富ですねぇ。…で、私はあとどのくらいこうしていれば元に戻れるんです?」 「そうですね…三時間くらいでしょうか」 「ちょ…三時間って!何のためのタイム風呂敷ですか!つーかこの後のお菓子配布イベントどうするんですか、人体切断マジックは投げっぱなしで行くんですかー!!??」 「ご安心を。きちんと奥の手を用意しております」 「奥の手?何か、イヤーな予感がするんですけど…どんな手です?」 あからさまに訝しげな顔をするぼたんに、タナトスは胡散臭い爽やか笑顔を見せた。 「まぁありきたりなのですが…『三時間寝かせたお嬢様がこちらにいらっしゃいます』というやつですね」 「ああ、横から鍋を出してくるあれか」 「確かにありきたりだな」 納得したように頷くヒュプノスとハーデスに、ぼたんは盛大に突っ込んだ。 「ちょい待った、納得するなそこぉぉーーー!!私は煮込み料理ですかぁぁー!?そもそもこれは料理番組じゃないでしょぉぉぉぉーーーーー!!!」 「え?あれは料理番組限定ネタなのですか?」 「ちょ…素で不思議そうな顔しないで下さいよ!」 「そうなのか、それは知らなかった…次から気をつけるとします。まぁ、そういう訳で、改めて」 笑い過ぎて死屍累々の観客席と動画コメントを満足げに眺めて、タナトスはにっこりと笑ってぼたんを手で指した。 「三時間寝かせたお嬢様がこちらです」 「………。はいはい、もう料理番組で良いですよ」 「時を戻す布を被せたので、ベッド…と、お嬢様は元に戻っているはずです。では…」 タナトスが風呂敷を掴むと、三巨頭がダララララララ…と楽器の演奏を始めた。 皆の注目をたっぷり集めると、ジャーン!!という音に合わせてタナトスはシーツごと風呂敷をパッと取った。 …チェーンソーと大鎌で切断されたはずのぼたんは勿論無傷で、何故かベルトの拘束も外されている。そして床の汚れもシーツの破れも赤い染みも全部が綺麗に消えていた。 割れんばかりの拍手が起きて、双子神とハーデスは嬉しそうに微笑んで両手を広げた。 「死の神タナトスのクリスマスマジックショーはこれにて終了、でございます」 「では、この後は会場を移動しましてハロウィンで頂いたお菓子のお礼を配るイベントを致します。場所と時間は…」 頬を紅潮させたハーデスが次のイベントの告知を終えると、エルミタージュ洋菓子店でのイベント撮影が終了した。 ネット中継の画像がCMに切り替わったのを見てタナトスはほっと息を吐いた。 「ふむ。なかなか受けは良かったようだな」 「なかなかどころか、すっごく面白かったですよ!」 「引き受けたからには手抜きしないとは聞いてたけど、半端ないプロ意識だな。改めて見直したぜ、タナトスサマ!秋乃さんに猫耳付けられてもブチ切れずに『異国の文化は否定しない』って言った時からアンタは大物だって思ったけどさー」 「………。それは褒めてるのかけなしてるのかどっちだ?」 「本当に素晴らしかったわ。城戸財閥のエンターテイメント部門からもオファーが来そうなハイレベルなショーでしたわね」 「久々にお腹が痛くなるほど笑わせてもらいましたよ」 「しっかしタナ兄はともかくヒュプ兄までこんな馬鹿騒ぎに付き合うとは思ってなかったわ」 「ふふ、どうせヒュプノスには事後報告だったんだろう?アイデア段階で話を持ちかければ拒否されるのが目に見えている故な」 「さすがヘカーテ様、よくおわかりで。私に話が来た時は『お前の役割だが』から説明が始まりましたからね。意見を言う隙間すらなく事実上の強制参加です。…まぁ、ここまで皆が楽しんでくれれば馬鹿騒ぎに付き合った甲斐もあったと言えますが」 皆の絶賛の言葉にタナトスとハーデスは満面の笑みを浮かべ、無理矢理付き合わされたはずのヒュプノスも淡く微笑んでいる。 その光景を嬉しそうに見回した城戸沙織が、ふと壁にかかった時計を見て慌てた顔になった。 「大変、もうこんな時間!」 「あっ…告知した次のイベント時間まで一時間切ってますね」 「次の会場ってここから遠いんですか?」 「道が空いていれば車で三十分くらいですけど…そろそろ混み始める時間だし、会場での準備もあるからイベント開始が少し遅れてしまうかもしれませんわ。会場スタッフに連絡して何か時間稼ぎをしてもらわないと」 「別に車で行かなくても、ここの猫型おぼっちゃまに『一瞬でどこにでも行けるドア』とか出してもらったら?」 「星矢…今はそんな冗談言ってる時じゃないでしょ?神様や聖闘士は無茶な高速移動も出来るけど、一般人もいるんだから」 冗談がウケるどころか真顔で窘められて星矢が真面目にベッコリへこんでいると、何かを考えていた龍神秋乃が悪戯っぽい笑みを浮かべて携帯を取り出した。 「仕方ありませんね。こうなったら奥の手を使いましょうか」 「…奥の手?」 「あんまり褒められた方法じゃないんですけど、緊急事態って事で目を瞑ってもらいましょ」 神々と三巨頭は怪訝そうな顔を見合わせ、星矢達は複雑な顔を見合わせた。 龍神秋乃の表向きの肩書きは洋菓子店の雇われ店長パティシエだが、一歩裏に入れば、冥妃ベルセフォネーの転生体・世界警察裏のトップLの片腕・裏社会に絶大な影響力を持つK病院院長龍神冬彦の妹と、聖闘士も真っ青な肩書きがついているのだ。 その彼女が出してくる『奥の手』…きっと一般庶民の想像を超えたものに違いない、と見つめる星矢の前で誰かとの電話を終えた彼女は、屈託の無い笑みを皆に見せた。 「奥の手、OKです。五分後くらいに迎えの車が到着するそうです」 「迎えの車?」 何だ、意外に普通の手だったな。 ひょっとしたらヘリでも飛ばすかもしれないと思っていた星矢達は『意外に普通の手』にほっと安堵した…のだ、が。 …撮影器具や小道具を片づけて待つ事五分ほど。店のドアを開けて長い黒髪の男が姿を見せた。龍神秋乃の実の兄、K病院院長の龍神冬彦だ。 彼と面識がある双子神と聖闘士、そして城戸沙織が軽く会釈をすると、彼はそつの無い笑みを返して来た。 「お久しぶりです、皆様。そして初めまして、皆様。秋乃の兄の龍神冬彦と申します。…さて、妹の話では時間が押しているとのこと。ご挨拶は改めて後程と言う事で、まずは移動しましょうか」 「ごめんね、兄さん。でもありがと、助かるわ」 「ははは…城戸様とお前の頼みだからな、多少の無理や無茶は目を瞑らないと。その代わりと言っては何だが乗り心地は良くないぞ」 彼の言葉の意味を理解できないまま店の外に出た星矢達は、『迎えの車』をみてあんぐりと口を開けた。 …パトカーと救急車が数台、店の前に停まっていた。 |
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切りのいいところまでと思ったらまた長くなってしまった10話目です。タナトス&ハーデス+ぼたんが快調にぶっ飛ばしてくれて、時間はかかったけど楽しく
かけた話でした。ハーデスが『ダースベイダー脱いだらジェイソン、ジェイソン脱いだらドラえもんコス』と言うネタはかなり早くからありまして、ツイッター
をご覧になった方はひょっとしたらご存じだったかもしれません。 ジェイソンの外見は『ホッケーマスク+シマシマシャツ+チェーンソー』だと思っていたのですが…ホッケーマスク以外全部違いました(汗)。シマシマシャ ツはフレディだし、チェーンソーはJソン先生(スケットダンス)だったようで…。記憶違いに気付いたのが9話目を上げた後だったので、急遽、ジェイソンと フレディの特徴を両方取ると言う形に変えました。 ちなみにベッドごとぼたんが真っ二つになったように見えるマジックですが、夢の四神が幻覚を作ってるんだと思います。 ぼたんを真っ二つにしたタナトスが救急車を呼ぶとか、タイム風呂敷をカイロス(杳馬)から貰ったと言い張ったり料理番組やったりするタナトスとかは10話目を書きながら出来たネタです。そのせいで話が長く…。 そして最後、『会場に移動する時間が無いからパトカー(救急車)で移動しよう』ネタを考えていて、このSSの世界は『ネウロ』の世界とも繋がってる設定 だから笹塚・石垣刑事を出そうかと思ったのですが、これ以上他作品のキャラを出すのもな…と思って秋乃の兄、冬彦の出番となりました。 さて、予定外に伸びまくったSSも漸く終わらせる道筋が見えて来たかな! |