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モールでのクリスマスライブと菓子入り長靴プレゼントのイベントが終わると、皆は城戸財閥の経営するホテルの宴会場へと移動した。 冥界の神々を招くだけあって豪華な会場に豪華な料理がずらりと並んでいたが、皆が気軽に交流できるようにとの配慮からパーティーは立食式だった。パー ティーには執事喫茶のイベントに参加したメンバーと冥闘士の他、聖闘士達も参加している。 聖域と冥界の和解は成立したのだから積極的かつ友好的に交流するのが互いの為…という考えは双方にあるらしく、会場のそこかしこで穏やかに談笑し酒を 酌み交わす冥闘士と聖闘士達の姿があった。エリスとパンタソスはミニスカサンタに着替えて飲み物やつまみを配って回っている。ついでに着ぐるみのトナカイ までサンタにくっついてぴょこぴょこと歩きまわっていた。 …そう言えば、先頭に立ってノリノリでコスプレしそうなヘカーテさんの姿が見えないけど一体どこにいるんだろう?あの女神様は『姿が見えない』と 『とんでもないことをやってる』がイコールだったりするからちょっと気になってるだけであって、別にヘカーテさんのお色気系ミニスカサンタコスを見たい わけじゃないんだけどさ。 などと言い訳がましく考えつつ顔見知りに挨拶しつつヘカーテを探しつつ、会場を一周した星矢達は神々や姉が集まっているテーブルに向かった。 ハーデスに双子神、沙織、秋乃、ぼたん、そして星華と、約一名を除いて只者ではない方々がひとかたまりになって談笑していて、聖闘士も冥闘士も挨拶に行 くことさえ躊躇っている。 その只者ではない皆様の輪にさらっと入った星矢は、先ほどのイベントの感想を話しながら気になっていた事を尋ねた。 「ところでさ、ヘカーテさんの姿が見えないようだけど何かあったのか?」 「ん?」 「あ、それ、僕もちょっと気になってた。メイドのコスプレとかして給仕して回るかと思ってたんだけど、そうでもないみたいだし…」 「何よ星矢。ヒトサマ…じゃない、神様の彼女のコスプレ姿を期待なんてしてたの?」 「ちょ…姉さんひどいな、そんなジト目で見ないでくれよ!いや、まぁ、ヘカーテさんは色々面白いコスプレネタを提供してくれるから、そういう意味では期待 してたと言えなくもないけど…」 口籠る星矢の姿に、タナトスは特に気を悪くした様子もなく目を瞬いた。 「ネタと言う意味ではヘカーテ様は十分期待に応えていると思うがな」 「へ?ヘカーテさん、コスプレしてこの会場にいるのか?さっきぐるっと一周して来た時には気が付かなかったけど…」 「あれがコスプレかと言われたら俺も迷うところではあるが…ああ、噂をすればだ。ご本人がお出ましだぞ」 「ん?」 タナトスが目を向けた先を見ると、ミニスカサンタコスのエリスと着ぐるみのトナカイがいたが、ヘカーテの姿は見えない。 …いや、ちょっと待て。ひょっとして、まさか。 星矢だけでなく瞬も一輝も思わず着ぐるみのトナカイを凝視すると、タナトスがにこやかにトナカイに声をかけた。 「満喫しておいでですか、ヘカーテ様」 「んー。まぁそれなりに、かな」 トナカイがぴょこんと首を傾げて、『中の人』の声に星矢達はあんぐりと口を開けた。 下腹がポコンとせりだした丸っこいフォルムで目はバッテン、鼻はお約束に真っ赤、頭には角だけでなくアンテナがついて、首にはクリスマスの鈴、背中には わざとらしいチャック、手はミトン型のこの着ぐるみトナカイの中身があのお色気女神様?? トナカイは短い脚でぴょこたんぴょこたんとステップを踏んでくるりと回り、ミトンの手を振りまわした。 「歩くには問題ないんだが、腕部分の可動範囲が狭くてな。肘も余り曲げられないし腕も肩より上に上げられないんだ。喉が渇いたから何か飲みたいのに自分 じゃ頭を外せなくて困ってたんだ。エリスに頭を取ってくれって頼んでも『着ぐるみに中の人なんていないの。夢を壊しちゃダメだよ』と却下されるし」 「それはそれはお困りでしたね」 「そう言う訳でタナトス、ちょっと頭を取ってくれ」 「子供でなくても別の意味で夢を壊されそうですが…ヘカーテ様の頼みなら仕方ありませんね」 楽しげに笑いながらタナトスはトナカイの頭をスポッと外した。 トナカイの『中身』お披露目に聖闘士も冥闘士もぎょっとする気配があった。まぁ無理もない、お色気系美貌の女神がトナカイの着ぐるみに入ってるなんて普 通は考えないだろう。 さすがに着ぐるみの中は暑かったのか、ヘカーテの頬は上気して唇は普段にも増して紅く染まり妙に色っぽい。色っぽくても首から下はメタボ体系のトナカイ なので何とも奇妙な図なのだが…。 タナトスはヘカーテの頬に張り付いた藤色の髪を自然な仕草で払ってやりながら尋ねた。 「喉が渇いていたのでしたね。ジュースでも飲みますか?ウーロン茶やアルコールも用意してあるようですが」 「そうだな…あ、あれがいい」 「どれです」 「指差してるじゃないか」 「ミトンで指されても分かりませんよ。どれです?これですか?こっちですか?」 「ああ、それ。その赤いの」 トナカイの頭をヒュプノスに預けてジュースを取って来たタナトスがグラスを差し出すと、ヘカーテはミトンの両手でグラスを受け取った。妙に可愛い絵面で ある。 ヘカーテはグラスに口をつけようとした…が、トナカイの着ぐるみの腕が満足に曲がらず、グラスは彼女の口に届かなかった。 ぶはっ。 その姿にタナトスが盛大に吹き出した。他の皆もグラスに口が届かないトナカイヘカーテの姿に思わず笑い出したが、死神様は特にツボにハマったらしく、 テーブルに手をついて口を押さえ、肩をプルプル震わせている。 その姿に一瞬あっけにとられたヘカーテが眉を吊り上げた。 「ちょ…何だお前達!笑い過ぎだぞ!私が喉が渇いてもジュースも飲めずに困ってるのに!ああもうっ!タナトス、何をバカウケてるんだ!この薄情者!!」 「あ…ああ、失礼しました。ククッ…不覚にも不意打ちを食らいましたよ、予想外の可愛さです。流石はヘカーテ様…ぷっ、あはははははは」 「笑い過ぎだ!」 「申し訳ありま、せん、ゲホッ」 咽せるほど笑って浮かんだ涙をぬぐいながら、タナトスはグラスを受け取ってストローを挿すとヘカーテの口元に差し出した。 チュゴゴゴゴ、とジュースを飲みほしてヘカーテはホッと息を吐いた。 「一杯じゃ飲み足りないな。もう一杯くれ、次はオレンジジュースがいい」 「オレンジですね、畏まりましたトナカイ様。他に何か欲しい物は?」 「ローストビーフのサンドイッチを食べたいな。あ、プチトマトも欲しい」 ヘカーテがミトンの手で指したサンドイッチとプチトマトを取ってきたタナトスは当たり前のように彼女の口に入れてやっている。普段なら『人前でナチュラ ルにいちゃついてんじゃねーよ!』と突っ込んでやるところだが、執事コスのタナトスとトナカイ着ぐるみのヘカーテでは、何だか動物と世話係のように見えて しまって突っ込む気力もわいてこない。 美味そうな料理を見繕って取って来た星矢は、トナカイヘカーテに差し出しつつ気になっていた事を尋ねた。 「しかしヘカーテさん、何でまたトナカイの着ぐるみなんだ?俺はてっきりミニスカサンタだと思ってたんだけど」 「サンタよりもトナカイに惹かれるものがあったのでな」 「へぇ、通だな」 「それにしても着ぐるみとはねぇ。パーティーの美味しい食事を我慢してまでコスプレするなんて、ある意味すごい拘りだねー」 「いや、それなんだがな。本当は私は動きやすいトナカイの全身タイツを注文したつもりなんだ」 「へ?全身タイツ?」 「ああ。けど、ここに来て荷物の箱を開けたら着ぐるみが入ってたんだ。まぁ同じトナカイだから良いと言えばいいんだが…」 「クリスマスシーズンですものね、業者も忙しくて他の人と取り違えて中身を入れてしまったのかもしれませんわ」 胡散臭い笑顔の沙織と妙にしれっとした顔の双子神を見て、流石にヘカーテの全身タイツは別の意味で洒落にならないと思った彼らが中身を入れ替え たんだな…とヘカーテ以外の皆は察することが出来た。ヘカーテ自身も全身タイツに強い拘りがあったわけではないらしく、『私はネット通販に不慣れだから な、間違えて注文したのかもしれん』とすんなり納得していた。 …トナカイ女神に頼まれるまま、リクエストされた料理や飲み物を取っては彼女の口に運んでいるタナトスが可愛い動物を見るような目で口を開いた。 「ヘカーテ様、その着ぐるみは持って帰りましょう。そして着て下さい。何なら毎日でも結構ですよ」 「着ろと言われてもな…さっきも言ったが腕の可動範囲は狭いんだ。しかもこのミトンの手では仕事もゲームも出来んぞ。パソコンのマウスすら握れないからネ トゲもできないし。いつ着ればいいんだ?」 「ふむ…腕の可動範囲はともかくミトンの手はネックですね。可愛さは多少減りますが手首から先は着脱式に改造しましょうか」 「あのなタナトス…」 「勿論、タダでとは言いません。プレゼント交換と言う事で如何でしょう」 中身の『彼女』よりもトナカイの着ぐるみに魅力を感じているように見えるタナトスの反応にヘカーテがむくれ顔になると、タナトスは懐から靴下を取り出し て差し出した。クリスマスっぽいデザインの靴下のつま先は四角く膨らんで、いかにも『ここにプレゼントが入っていますよ』的な見た目だ。 ヘカーテは目を丸くして靴下を受け取った。 途端に皆の注目が集まって、ヘカーテは四苦八苦しながらミトンの両手で靴下の中身を取り出した。手のひらにすっぽりと収まるほどの小さな箱はクリスマス カラーの紙で綺麗にラッピングされている。着ぐるみのままで包みを開けるのは流石に諦めたらしいヘカーテは、ぴょこたんぴょこたんと後ろを向いた。 「タナトス、チャックを開けてくれ。一旦着ぐるみは脱ぐ!」 「え…?」 「大丈夫、中身もちゃんと別のコスプレだから」 「…そういう事でしたら」 何だか妙に動きにくそうにしてると思ったらトナカイの下もコスプレだったのか…と呆れ半分感心半分の皆の前でヘカーテがトナカイを脱ぐと、中身はピンク のナースだった。クリスマスなのにナースなのかよ…と言いたげな皆の視線など綺麗に無視して、ヘカーテはポケットからナース帽を取り出して被ると満足げに 微笑んだ。 トナカイの着ぐるみを抱えたタナトスが微妙な顔で口を開いた。 「………。中身が普通に動ける衣装だったのなら、最初に脱げば良かったのでは…」 「お前に頭を取ってもらった時に脱ごうかと思ったんだが、チャックを開けてくれと頼む前に『お飲み物は?』と聞かれてタイミングを逃したんだ。結果的にウ ケが取れたんだからいいだろう?」 「まぁ…確かにそうですが…」 「さて、お前からのクリスマスプレゼント…中身は何かな〜」 ヘカーテはウキウキと包みをはがしてそっと箱を開けた。興味津々に皆がその手元を覗きこむ。 …アメジストが填まったシンプルなデザインの指輪が入っていた。 途端にぱぁっと頬を染めて顔を輝かせ、ヘカーテはタナトスを見上げた。 「あ…ありがとう、タナトス。凄く嬉しいぞ」 「お気に召していただけたようで良かった。ではヘカーテ様から俺へのプレゼントとしてトナカイを着て頂けますか?」 「そのくらいお安い御用だ!何なら仕事中も着てもいいぞ!」 「そこまで喜んで頂けるなら贈った甲斐があったと言うものです」 ニコニコしているタナトスと複雑な顔をしているヒュプノスをちらりと見てエリスがお約束の突っ込みを入れた。 「クリスマスに指輪を贈るなんて…兄貴、とうとう年貢を納める覚悟を決めたわけ?」 「何故そうなる?どうしてお前はいつもいつも、そうやって話を飛躍させるのだ」 「じゃあ何で指輪なのよ。すっごい意味深じゃん」 「クリスマス向けの新作で一番よさげだったのが指輪だったからだ。ブレスレットもネックレスもイヤリングも、いまいちピンとこなかったのでな」 「俺が言うのもなんだけど、そんな色気もロマンもない理由なら正直に言わずに曖昧に誤魔化した方がいいんじゃねーの」 星矢がボソッと言った言葉に女性陣がうんうんと頷いたが、タナトスはムッとしたように片眉をそびやかした。 「馬鹿を言え。曖昧に答えたら一体どこまで現実と乖離したトンデモな理由をでっちあげられるか分かったものではないぞ。俺が正直に理由を話すのは、過去に そうやって曖昧に答えて何度も痛い目を見た教訓からだ!」 タナトスの言葉に今度はヒュプノスとハーデスがうんうんと頷いた。うぐっと一言唸ったままエリスとヘカーテが反論しないところを見ると、どうやらタナト スの言葉は大袈裟ではなく事実らしい。 一体どんなトンデモ理論でタナトスに痛い目を見せたのかと好奇心交じりの視線を向けられたエリスが、慌てて話を逸らした。 「ところでタナ兄。ヘカーテさんの指輪のサイズなんてどうやって聞きだしたの?サプライズでプレゼントするなら正面から本人に聞いたりは出来ないで しょ?」 「俺の写真撮影の仕事で女性用の指輪を小道具として使いたいから…と話をしてヘカーテ様の指輪をいくつか借りたのだ。後はデザインだけ俺が選んで、サイズ 合わせは店員に頼んだ」 「へー。じゃあその指輪がどの指用かは填めてみないと分からない、と…」 「………」 今度は皆の視線が指輪とヘカーテに集まった。 ヘカーテは皆を見まわし、指輪を見て、タナトスを見て、にっこり笑って指輪の箱を差し出した。 タナトスは淡く苦笑して指輪を取ると恭しくお辞儀した。 「…ではお手をどうぞ、お嬢様」 「ん」 その指に合うか分からないのでヘカーテが両手を出すと、タナトスは右手の薬指から順番に指輪を填めて行った。 …クリスマスプレゼントの指輪は、美貌の女神の左手薬指にスッと填まった。 「…………」 「何だタナトス、その微妙な顔は。私だってそれなりにお前との付き合いは長いんだ、左手の薬指にサイズが合ったのはただの偶然で深い意味は無いことくら い、ちゃーんと分かってるぞ。…まぁ、お前が嫌なら他の指に合うようにサイズを直すけど」 「いえ、決して嫌という訳では…。何も知らない者が見たら勘違いするかなと少し心配していただけです」 「兄貴の同伴なしでヘカーテさんが地上に来るとナンパしてくる男もいるからねー。そーゆー身の程知らずを撃退するにはちょうどいいっしょ」 「ヘカーテ様をナンパとは…勇気のある人間もいたものだな」 「どういう意味だヒュプノス」 「ヘカーテ様を口説くなどタナトスに喧嘩を売る行為に等しいのに…という意味ですよ、勿論」 左手の薬指に填まった指輪に意味は無いと分かって安心したらしいヒュプノスが優等生な笑顔で優等生な答えを言った。 ヘカーテは多少ヒュプノスを疑っているような目をしていたが、それでもタナトスからクリスマスプレゼントを貰った事は嬉しかったらしく、頬を染め目を細 めて左手の指輪を眺め愛おしそうに撫でて、さて!とずらり料理が並んだテーブルに目をやった。 「身軽になったところで食べることに専念するかな!」 「一流シェフが腕をふるって作った料理ですわ、きっとヘカーテの舌も満足させてくれてよ」 「念のため申し上げますがヘカーテ様、食べ過ぎて動けなくなると言うオチは無しの方向でお願いしますよ?今のあなたはナースなのだからむしろ酔い潰れた者 がいたら介抱する役に回って頂かないと」 「ふふ、酔い潰れた奴がいたら私の前に連れてくるが良い。神の力で脳髄まで冷やしてやるぞ」 「ヘカーテさん、それを一般的に『氷漬けにする』って言うんだよ」 酔い潰れたらお色気美貌女神ナースに介抱してもらえるのか!?という聖闘士や冥闘士の期待は、エリスの一言で薄氷のように粉々になった。 野郎どもの淡い期待を粉砕したなど露ほども気付いていないヘカーテは、ふと沙織を振り返った。 「そう言えば酒もあるんだったな」 「ええ、クリスマスをモチーフにしたオリジナルカクテルもあちらのバーカウンターで飲めますわ」 「よし、じゃあ…」 「ヘカーテ様!『お酒はおいしく適量を』ですよ!よろしいですか?『適量』ですよ、『適量』!」 「ちょっと酔ったかな、程度で止めて下さいね。くれぐれもお願いしますよ?」 「そんなに叫ぶな、分かってるって」 酒を飲みに行くと聞いた途端に表情を変えてくどいほど忠告した双子神に呆れ交じりの笑みを見せて、ヘカーテは足取り軽くバーに向かって行った。 その後ろ姿をまだ心配そうに見ているタナトスとヒュプノスを見て、星矢は首を傾げた。 「なぁ…ヘカーテさんって酒癖悪いのか?」 「悪い。神がかり的に悪い」 きっぱりと断言された。 カクテル風のノンアルコール飲料も有りますから…と言われてもまだ心配そうな双子神に、龍神秋乃がにこりと笑って声をかけた。 「そんなに心配しなくても、おふたりには強力な武器があるじゃないですか」 「武器?」 「お言葉ですが秋乃様、小宇宙を押さえている今の私ではヘカーテ様を眠らせるなど…」 「そうじゃなくって。そのトナカイを着せちゃえば、ヘカーテさんは食べたり飲んだりできなくなるんでしょう?せっかくだしトナカイ抱えて一緒に飲んできた らどうですか?今日はロマンチックなホワイトクリスマスなんだから」 「……………」 秋乃の言葉に会場の大きな窓から外を見ると、ふわふわと雪が舞い降りて街を白く染め始めているのが見えた。 翌日、クリスマス。 沙織の用意したホテルで一泊した聖域・冥界御一行はそれぞれの世界に帰る前の最後の挨拶を交わしていた。 「なーなー神様達。一週間後は大晦日だし、これも日本の一大イベントだから都合が合えば来てくれよな!」 「大晦日…鐘の音を聞きながら新しい年を迎えると言う、なかなか風流な儀式がある日だったな」 「皆様がおいでになるならそのようにおせちも準備しますから、予定が決まったらお知らせくださいね」 「なら今すぐ予定を決めようではないか。当然、大晦日にも遊びに来るよな?」 ヘカーテの言葉に双子神は苦笑しつつ頷いた。 その反応に星矢達も沙織も嬉しそうに微笑んで、ではそろそろ…と皆が車に向かい始めた時。 「月桂樹君」 龍神秋乃が月桂樹…ハーデスに声をかけた。 きょとんとするハーデスの前に膝をついて屈み、視線の高さを合わせて冥妃ベルセフォネーの転生体である彼女は柔らかく微笑んだ。 「また、会いましょうね」 「………!」 「いつになるかは分からないけど、百年後かも、二百年後かもしれないけど…でも、いつか。いつかきっと、また会いましょう。次は、本当のあなたと、本当の 私で」 「…………」 「約束、しましょう」 込み上げる想いに目を潤ませ唇を噛み締めるハーデスに、龍神秋乃は小指を差し出した。 ハーデスは愛する妃の小指に自身の小指を絡め、しっかりと頷いた。 「約束、する。必ず、いつかきっと、必ず…」 「…約束よ、………」 あの日あの時あの楽園で、冥王が全てをかけて愛した女神はそう言って微笑んだ。 私が地上のどこにいても必ず見つけ出して迎えに来てね。約束よ、ハーデス。 約束よ。 硬く絡み合った小指が名残を惜しみながら離れ、立ちあがった龍神秋乃は優しく微笑んだまま手を振り、何かを振り切るように踵を返して足早に迎えの車に向 かって行った。 …その後ろ姿を見送って双子神は細く息を吐いた。 「全てお見通しだったか…」 「そりゃ記憶を封じていてもあいつはハーデスの妃だったんだ。分からない方が不自然だろう」 「冥妃様が気付かれないままだったら、今後は月桂樹の姿でハーデス様を地上にお連れできるかと思っていたのですが…甘かったですね」 「いや、これで良い」 「ハーデス様?」 「ベルセフォネーは『今生はハーデスに会いたくない』と言っていたのに余は約束を破ってしまった。でも、一回だけだから妃は赦してくれたのだ。必ずまた会 おうと約束も出来た。だから…だから、これで良い。これで良い…」 ハーデスの頬を熱い涙が伝い、ポツリと落ちた。 双子神は口を噤み目を伏せて主君の言葉を噛み締めて反芻した。 これで、良い。 そう、これで良いのだ…。 |
| 星矢部屋 | 総合目次 | SS・2012時代 | SS・神話時代 | SS・蟹座達 |
| 今回のSSで、
タナトスの人体切断マジックと並んで一番書きたかったクリスマスパーティーのエピソードです。ヘカーテ様にトナカイコスをして頂こうとは
かなり早くから決まっていて、SSの序盤でも『トナカイの着ぐるみを用意した』と前振りをしてて、ようやくここまでこれました。ヘカーテが来ているトナカ
イの着ぐるみは、FF10-2でユウナが着てたモーグリをイメージしてます。腕が上手く動かなくて、
ジュースを飲みたいのに飲めなくて、ミトンの手を振り
まわしてお怒りになる女神様と、その姿に盛大にウケる死神様…というネタはかなり早くにイメージが固まっていました。 ニコニコ動画でも見れます。8:30くらいから。 あと、秋乃の言う「強力な武器がトナカイ」とは、ヘカーテが酒を飲み過ぎそうになったらトナカイを着せちゃえば?って意味です。 そしてチラとどこかで触れた気もしますが、この「聖夜」SSは当サイトの2012シリーズで時間軸的に一番最後に来る話、と考えています。つまり舞台が 2013年以降の話を書くつもりはないと言う事です。なので、ちょっと思いきったことをやりました。いまいちタナトスへの恋心が報われないヘカーテと、イ ベントがあっても留守番のハーデスに、SS作者の私から作中のキャラを通してプレゼントを渡そうかなと。それが、『タナトスからヘカーテへの、左手薬指に 填める指輪のプレゼント』と『龍神秋乃からハーデスへの、二回目の再会の約束』です。 ハーデスへのプレゼントはサクッと決まったのですが、ヘカーテへのプレゼントは悩みに悩みました。タナトスがアクセサリーをプレゼントする、というのは 早めに決まったものの、ブレスレットかイヤリングかネックレスか思いきって指輪か、どれにしようかと。で、『手がミトンだから指輪をはめられないよ!』ネ タをやりたくて指輪にしよう、と言うところまでは決めたのですが、どっちの手のどっちの指に填めるかでまた悩み…。ピクシブあたりでアンケでも取ろうか、 いや、こんなネタでアンケ取るのも…と悩んでいた時、新年最初にWEB拍手からメッセージをくれたのが、タナトスとヘカーテのカップル(?)が一番好き! と言って下さってる方でした。これはきっと運命か神のお告げに違いない!(笑)と思い、最終的に指輪は左手薬指に填められることになりました。タナトス自 身は指輪に深い意味は込めてないし(精々、今後も彼女の振りお願いします程度)、ヘカーテもそれは分かってるんですけど。でも、左手の薬指に指輪を填める のを拒否しない程度にはふたりの仲は変化したんだな、と思って頂ければ嬉しいです。 ちなみに指輪のサイズが左手薬指にぴったりだったのは、沙織がかなり意図的に仕掛けた偶然です。聞きかじりの知識なのですが、小指に填める指輪は抜けや すい・指輪は少しきついくらいが適正サイズ・色々作業する時に指輪が一番邪魔になりにくいのが左手薬指…なのだそうです。なので沙織は、タナトスが預かっ てきたヘカーテの指輪の一番小さいサイズに合わせてプレゼント用の指輪を作ったのです。一番サイズが小さい=小指以外の一番細い指に填める=一番細い指は 左手薬指、という理屈です。 そしてハーデスへのプレゼントはちょっとささやか過ぎたかなぁ…と思ったのですが、↑のメッセージをくれた方から素晴らしいインスピレーションを頂いた ので、エピローグで改めてハーデスにプレゼントを贈りたいと思います。 |