| カタタン、カタタンと心地よいリズムを刻んで電車が揺れる。 …メイド喫茶の取材を終えた神々は、三巨頭に自由時間を与えて電車に乗っていた。 平日の午後の為か電車内もさほど混雑はしておらず、大都会では『ガイジンサン』など珍しくもないのだろう、冥界の神々も必要以上に注目されることもなく 座席に身体を預けていた。タナトスの姿に『えっ?』という顔をする人間もいたが、電車が数分置きに駅については扉が開いて人が出入りするので話しかけるタ イミングが掴めないらしいのも有難かった。ハーデスは新幹線よりローカル線が気に入ったらしく、窓に両手をつけて飽きもせず景色を眺めている。余りにも熱 心なので、双子神は彼の靴を脱がせて椅子に上がって外を見るように勧めたのだ。 最初は窓から外を見てはそれなりに地上の知識がある双子神にあれは何だこれは何だと尋ねてはしゃいでいたハーデスも、日が暮れるにつれて段々と口数が少 なくなっていった。いよいよ明日は…ハーデスだと名乗らないとは言え…ベルセフォネーに対面する事を考え始めたからだろう。双子神は事前の話もなくいきな り対面だったから何かを考える暇も悩む時間もなかったが、ハーデスは違う。どんな話をすればいいだろう。いや、その前にどんな顔で会えばいいだろう。神の 気配を隠してアポロンに似せた容姿であってもハーデスだと気付かれたらどうしよう。 愛する妃に会える喜びよりも不安が大きくなって、ハーデスは両側に座った双子神に声をかけた。 「タナトス、ヒュプノス。いよいよ明日、余はベルセフォネーと対面するのだな」 「ええ、そうですね」 「もしも、もしも、会った瞬間に余がハーデスだと見抜かれたら、余はどうしたらいい?」 「見抜かれる事はありませんのでご安心を」 「何を根拠に」 「冥妃様は、変装もしていない、小宇宙も抑えていない我々を見ても記憶は戻りませんでした。小宇宙を抑えて変装したハーデス様を見抜く事はありません」 「お前達が連れて来たと言うだけで気付くかもしれぬぞ」 「あなたはアテナの親類である『月桂樹』という人間だと紹介してあります。変な勘繰りはされぬでしょう」 「でも、万が一という事もある!」 「その時はその時です。我々もいますし三巨頭もいる。地上にはアテナもエリスもいます。何とでも対処可能です」 「でも、でも…」 「ハーデス様。もしもを考えても何も良い事はありません。肩の力を抜いて下さい」 穏やかに微笑んでヒュプノスがそっとハーデスの額に手を触れると、青空色の眼の少年はゆっくりと目を閉じて、タナトスの肩に頭を載せて穏やかな寝息を立て始めた。 その寝顔を穏やかな眼で見つめながらタナトスは片割れに尋ねた。 「ヒュプノスよ。真面目な話、秋乃様がこの子供がハーデス様だと見抜く可能性はあると思うか?」 「見抜く可能性は十分あるだろう。『月桂樹』などといかにもアポロン風の偽名を見た時点で、中身がハーデス様であることを隠すためのミスリードではない か…と気付いておられるやもしれぬ。しかし、見抜いていても気付かぬ振りをされるだろうとは思う。気付かぬ振りをするというより、気付いた事実を意図的に 封印すると言った方が適切かも知れぬがな」 金の神の言葉に銀の神も頷いた。 ベルセフォネーの転生体龍神秋乃に女神の記憶はない。『自分の意思で封印した』からだ。そして彼女は、実の兄以上に慕っていた双子神に会っても記憶を 『戻さなかった』。記憶が戻れば、人間として生きて行く今生に支障をきたすからだ。ならばハーデスに会っても、彼女は『少年がハーデスだと気付く事』を無 意識かつ意図的に拒否するだろう…とふたりは考えていたのだ。 万が一、彼女が月桂樹をハーデスだと気付いたらその時はその時だ。今からあれこれ考えても何の実りもない。 『本日はご乗車ありがとうございます。次の停車駅は…』 車内に流れたアナウンスに双子神は顔をあげた。 エルミタージュ洋菓子店はアナウンスで流れた駅から歩いて行ける範囲にある。 ふたりは無言で意思を確認し、タナトスはハーデスをそっとおんぶして、ヒュプノスは靴と肩掛けバッグを持って席を立った。 …頬を撫でる風の冷たさに顔を上げると、柔らかな銀色の髪が優しく鼻をくすぐった。 っくしゅん! 思わずクシャミをすると、銀糸の髪が再度鼻をくすぐって流れた。 「漸くお目覚めですか、ハーデス様」 「…タナトス?」 ハーデスは眼をぱちぱちして、タナトスにおんぶされていることに気付いて顔を赤くした。 電車の中で話をしている時に不安の悪循環に陥った自分を見てヒュプノスが己の力を行使したのだ。自分がどのくらい眠っていたのかは分からないが、眠ってしまった自分を臣下がおんぶして電車を降りたのだと言う事は分かった。 気付いた途端に恥ずかしくてたまらなくなり、ハーデスは足をバタバタさせた。 「お…降ろしてくれ!自分で歩ける!」 「畏まりましたハーデス様。その前に靴を履いて下さい」 「え?あ…」 ハーデスが足をばたつかせるのをやめると、ヒュプノスが穏やかに笑いながらタナトスにおんぶされたハーデスに靴を履かせた。滅茶苦茶恥ずかしいがおんぶ された態勢で自分で靴を履くのは無理なので、そこはぐっと堪える。せめてもの抗議で礼を言わずにタナトスの背から降りると、肩掛けバッグを渡された。バッ グを肩にかけた途端にまた手を繋がれたが、ふたりと手を繋ぐのは好きなのでそこは黙っておくことにした。 街を彩るツリーやクリスマスのイルミネーションに感心していると、双子神は大通りから路地に入った。表通りの賑やかさは急に無くなって店なのか会社なのか事務所なのか分からない建物の並ぶ道を歩くこと数分。 店にしては控え目な、個人にしては頑張ったクリスマスイルミネーションを飾った建物が見えて来た。よくよく見ると、控え目に看板らしきものが立っている。 その看板に書かれた文字は『洋菓子店エルミタージュ』…。 「………!」 「あれが、冥妃ベルセフォネー様の転生体、龍神秋乃様が店長をされている洋菓子店です」 「お会いする約束を取ってあるのは明日ですが、下見を兼ねて…ね」 途端に震え出すハーデスの手をそっと離した双子神は主君の背中を優しく押した。 …遠い昔、彼が愛する女神に想いを告げた、あの時のように。 「さぁハーデス様、『初めてのお使い』ですよ」 「おひとりでお店に行って、お好きなケーキを買ってきて下さい」 「…………」 ハーデスは目を見開き、ぎゅっと手を握り、精一杯の決意を幼い顔に浮かべてぎくしゃくと歩きだした。 カランカランカラン…。 ドアをそっと開けると来客を告げる鈴が涼やかに鳴った。 いらっしゃいませ、と店員に声をかけられて一瞬ギクリとしたが、声をかけて来たのはベルセフォネーでないことに気付いて少し安堵して、ショーケースに並んだケーキを眺め始めた。 まるで宝石のように綺麗なケーキを感心しつつ眺めていると。 「アップルパイ、焼き立てです。如何ですか?」 懐かしい、聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。 見上げると、そこには。 愛して愛して愛して、狂おしいほど想い続け探し続けた女神が、記憶の中にあるのと全く変わらない笑顔を浮かべて立っていた。あたたかく柔らかな、春の日差しを想わせる優しい微笑み…。 感極まって無言無表情で黙り込むハーデスの姿に、パイをショーケースに入れた彼女は怪訝そうに首を傾げた。 「僕、ひとり?お父さんかお母さんは後から来るのかしら?…あ、日本語が分からないのかな。英語かフランス語なら何とかなるけど、それ以外だったらお手上げだわ…」 「え、あ、いえ、日本語、分かります。えっと、あの、お兄さん…そう、親戚のお兄さんの、お使い、なんです」 「お使いですか。偉いですね」 「え…いえ…あの…」 「欲しい物が決まったら教えて下さいね」 「は…はい…」 ぽうっと頬を染めるてもじもじするハーデスの姿に、ベルセフォネーも他の店員もにっこり笑って作業に戻った。 ハーデスはケーキを選ぶ振りをして震える指をショーケースに押し付け、そっと妃の姿を観察した。 店の喫茶スペースにいる客に出すらしいパフェやパンケーキを焼いたり、常連らしい客とお喋りをしたり、スタッフとケーキをデコレーションしたり、とても楽しそうに生き生きと動きまわっている。 ああ、そうか。ベルセフォネーは今生で幸せにしているのだな。 その事実に胸を熱くしつつ、ショーケースの隅から隅までケーキを眺めたハーデスは彼女に声をかけた。 「あの…お願いします」 「お決まりですか?」 「このアップルパイ、6個下さい」 「畏まりました」 …肩掛けバッグから財布を取り出し、印刷されている数字が一番大きい紙幣を差し出すと、かなりの枚数の紙幣と数枚の貨幣が返ってきた。 ぎこちない手つきで釣りを財布に戻してバッグにしまうと、パイが入っているらしい紙袋を提げたベルセフォネーが、クッキーの袋が入ったバスケットを差し出した。 「?」 「きちんとお使い出来た御褒美に、クッキー一袋サービスしちゃいます。好きなのをどうぞ」 「あ…ありがとう」 「こちらのアップルパイ、温めてバニラアイスを載せて食べるのもお勧めですよ。お兄さんにも教えてあげて下さいね」 ハーデスが頬を染めたまま頷くと、ベルセフォネーは優しく微笑んで店のドアを彼の為に開けた。 …半ば小走りに店を出た男の子の姿を見送った龍神秋乃は、彼が走って行った先に待っている『親戚のお兄さん』の姿に僅かに目を見開き、彼らに気付かれる前にそっと店のドアを閉めた。 内心かなりハラハラしながら待っていた双子神は、ハーデスが笑顔で紙袋を提げて戻って来たのを見てほっと安堵の息をついた。 「焼き立てでお勧めのアップルパイと言うのを買って来たぞ。サービスでクッキーもつけてもらった!」 「それは良かったですね。…ところで、ベルセフォネー様とはお会いできましたか?」 「会ったし話もしたぞ」 「え!」 「『お使いですか?』と聞かれたので、『親戚のお兄さんのお使いです』と答えておいた」 「………」 「写真やびでおれたーでベルセフォネーの姿は見ていたが、やはり本物に会った感激はひとしおだな。何だかまだ夢を見ているようで実感が無いぞ」 「…そうですか」 「後から実感が来て倒れたりしないでくださいね、ハーデス様?本番は明日…というかクリスマスなんですから」 「分かっておるわ!」 まだ興奮冷めやらず、赤く染まった頬をぷくっと膨らませたハーデスの頭をタナトスが優しく撫でた時、携帯が鳴りだした。 「俺だ」 『タナトス様、アイアコスです』 「何かあったか?」 『特に何、って訳じゃないんですけど。ガイドブックに美味いって紹介されてたラーメン屋がクリスマスキャンペーン中らしいんですよ。せっかくだから皆で行こうかなと思って』 「ラーメン屋がクリスマスキャンペーン?」 タナトスが呟いた言葉にヒュプノスとハーデスも怪訝そうな顔になった。 彼らも『日本の国民食ラーメン』は食べたことがあってどんなものか知っているだけに、ラーメンとクリスマスキャンペーンの組み合わせと言われてもピンとこないのだ。来ないのだが、逆にそこに興味を引かれた。 ふたりの反応を正しく把握したタナトスは口元に笑みを浮かべて言葉を返した。 「面白そうだな、では今夜の夕食はそこで取るとするか。場所は?」 『ちょっとややこしいんで、新橋駅の日比谷口まで来て下さい。そこで合流って事でお願いします。じゃっ!』 ツー、ツー、ツー…。 タナトスの返事も待たず通話は切れた。 …信仰を集めるために人間と友達付き合いすることに抵抗は無い。無いが、冥王配下の冥闘士までもが友達感覚と言うのはどうなのか。 神々は複雑な顔を見合わせて、無言のまま駅に向かった。 指定された新橋駅の日比谷口を出ると、三巨頭は既に到着していた。 ハーデスが紙袋を提げていることに気付いたラダマンティスが代わりに持つことを申し出たが、これは大事なものだから自分で持ちたいのだ…と、ハーデスはにこりと笑って断った。 クリスマスムード一色の道をアイアコスに連れられるまま歩いた一行は、いかにもラーメン屋な赤い看板の前にデンとツリーを立てた店の前にやってきた。 ガラガラと引き戸を開けてアイアコスを先頭に店に入った途端、店員の声が飛んで来た。 「へいらっしゃーい!!」 「らっしゃぁせぇーーー!!」 メイド喫茶の黄色い声とはかけ離れた野太い野郎の声にハーデスがビクッとした時、頭にサンタの帽子をかぶった店員がやってきた。ちなみに首から下は店名の入ったTシャツとGパンで、とんでもなくチグハグな格好だ。 「らっしゃーせぇ!六名様ですか!?」 「あ、そうです」 「おタバコは!?」 「吸いません」 「畏まりましたぁ!こちらお座敷席にどーぞぉ!お客様六名様、お子様一名様ごあんなーい!!」 「へいらっしゃーい!」 冥界の神々と三巨頭が店員の迫力に押されつつ座敷席にぞろぞろ上がると、早速店員がやってきた。 パックされたおしぼりを纏めてテーブルに置き、水のコップとポットを並べると、無造作にずいっとメニューを差し出した。 「おしぼりとお水でございまーす。只今当店、クリスマスキャンペーン中につき特製唐揚げと特製ギョーザが半額でございまーす!よろしければどーぞぉ。御注文お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びくださーい」 怒涛のごとくセールストークを繰り広げた店員は言うだけ言って行ってしまった。 予想外の迫力に気圧された神々と三巨頭は気を取り直して水を飲みつつメニューを開いた。 「…こんなことを突っ込むのも野暮かもしれませんが、無理にサンタの帽子をかぶらなくてもいいのではないかと思うのですけどね」 「それを言ったら何故クリスマスキャンペーンで唐揚げとギョーザを安くするのだ。唐揚げはまぁ鶏繋がりで分からなくもないが、ギョーザは何も関係ないぞ」 「細かい事気にすんなって。美味けりゃいいんだよ、美味けりゃ!ねぇハー…樹様?」 「う…うむ、そうだな」 「ま、せっかく勧められたのだから唐揚げと餃子は頼むとするか」 …メニューの写真を見る限り、ラーメンも炒飯もサイドメニューも美味そうだった。 皆の食べたいものが決まったところで呼び出しボタンを押すと、胸に『研修中』の名札を付けた女性店員がやってきた。何故か彼女はミニスカサンタの格好だ(しかし足元はスニーカーだった)。 「御注文、お決まりでしょうか」 「五目ラーメン」 「坦々麺」 「叉焼麺」 「ネギ味噌ラーメン、味玉トッピングで」 「ゆず塩ラーメン」 「海苔コーンラーメン」 「それから大盛り炒飯二つ。唐揚げとギョーザ、三人前ずつ。あと生ビール五つとジンジャーエール一つ。以上で」 「御注文、確認したします。ごもく、たんたん、ちゃーしゅー、ねぎみそ、ゆず、のりこーん。ネギミソにアジタマ。大盛り炒飯二つ、唐揚げ三つ、ギョーザ三つ、生ビール五つ、ジンジャーエールひとつ。以上でよろしいですか?」 必死の表情で注文を受けた店員は緊張でこわばった顔で注文を復唱すると、少々お待ち下さいと言って厨房に向かった。 何だか危なっかしい注文の受け方だったが大丈夫だろうかとサンタ姿の店員を見遣って、彼らは皆が感じているだろう疑問を誰が最初に口にするか待っていた。 …代表して口を開いたのはハーデスだった。 「男の店員は帽子だけサンタなのに、女の店員はミニスカサンタなのだな」 「ミニスカって言うほどスカートの丈、短くないっすけどね」 「何でまた女性だけ…」 「サービスじゃないのか」 「単純に衣装代かも知れぬぞ。男全員にサンタの服を着せると金がかかるが、女の店員が一人か二人なら安上がりだ」 「うわぁ…ケチくさっ」 「…ミニスカサンタと言えば…」 水のお代りを注いでいたミーノスがふと呟いた。 「ヘカーテ様やエリス様はクリスマスにここぞとばかりにミニスカサンタのコスプレをなさるかと思っていましたが、全くそんな事はありませんね。…あ、いえ、私が期待してる訳ではなく、部下からそのような話が聞こえて来たと言うだけで…」 「そう言えば、メイドやらハロウィンはご機嫌でコスプレされていたのにな。サンタには惹かれる物が無かったのだろうか」 「そう思わせておいて当日に袋背負ってプレゼント配りに来そうだけどなぁ、あのお方は。ミニスカじゃないサンタで、髭とかしっかりつけて」 「………」 三巨頭の言葉に双子神は微妙な顔を見合わせた。 …ヘカーテかエリスが何かとんでもないことをやらかしたか、やらかすことを計画していると知った時の顔である。 途端に不安そうになる三巨頭に、タナトスはフンと鼻を鳴らした。 「お前達もヘカーテ様やエリスのキャラをだいぶ把握して来たようだな」 「え?じゃあやっぱり…」 「ああ、その通りだ。エリス以上にヘカーテ様はクリスマスのコスプレに乗り気でおいでだった。…トナカイのな」 「とっ………」 「そっちかよ!!」 「『トナカイの全身タイツをネットで注文した!』と爽やかな笑顔で宣言された時は流石の我々も焦ったぞ」 「ちょ、それは…全身タイツでトナカイって、ミニスカサンタより、エロ…その、煽情的なのでは…」 「我 々も全身タイツは洒落にならぬと思ったが、下手にヘカーテ様を阻止しようとすると逆効果だからな。トナカイコスはクリスマスイベント後にアテナが主催する クリスマスパーティーで初披露するようにヘカーテ様に頼んで、速攻でアテナに根回しをしたぞ。『城戸財閥宛てにトナカイの全身タイツが届くが、それをトナ カイの着ぐるみに入れ替えておいてくれ』とな。ついでにミニスカサンタかメイドかナースか、ヘカーテ様がコスプレしても大丈夫そうな衣装を用意しておいて くれ、と」 「…何か、イイ女の彼氏も大変っすねぇ」 会話内容はともかく雰囲気だけはサラリーマンな冥界御一行のところに生ビールとジンジャーエールが運ばれてきて、皆はクリスマスイベントの成功を祈って乾杯をした。 クリスマスキャンペーンと言う餃子と唐揚げ(なかなか美味い)をつまみにビールを飲んでいると、店員がワゴンにラーメンと炒飯と取り皿を乗せて運んで来た。 「お待たせしました〜。五目ラーメン御注文のお客様〜?」 「あー、こっちで適当に渡すんでテーブルに乗せちゃって下さい。あとビールの追加を…タナトス様、飲みますよね。ヒュプノス様は?」 「では私も頂くか」 「ビール五つ、追加。あと春巻と海老シューマイを二つずつ」 「ビール五つと春巻二つ、海老シューマイ二つですね。畏まりましたぁ」 店員がテーブルに置いて行ったラーメン丼を端っこに座ったアイアコスがテキパキと渡し始めた。 「五目はヒュプノス様でしたね。ゆず塩がミーノスで海苔コーンがハーデス様、叉焼がラダマンティスでネギ味噌が俺…。ってん?タナトス様が頼んだのって『タンタンメン』だったと思うんですが」 「ああ、そうだが」 「…何か、『ワンタンメン』が来てますけど…変えてもらいます?」 「さっきのサンタが聞き間違えたか…別に構わん、一文字違うだけだから大差なかろう」 いや、全然違うと思うけど。 そう思いながらアイアコスは坦々麺と間違えられた雲呑麺をタナトスに渡した。 丼を受け取ったタナトスは携帯を取り出して写真を撮ると何やら操作してから雲呑麺に口を付けた。 「ん。これはこれで美味いぞ」 「タナトス、今何をしたのだ?今までもちょこちょこと携帯を何やら操作していたが」 「ああ、ツイッターで呟いたのですよ」 タナトスは箸を置くと先ほどの画面を開いてハーデスに見せた。 そこには『ラーメン屋なう。坦々麺を頼んだら雲呑麺が到着。せっかくなので食べてみる』という文字と雲呑麺の写真が載っている。 ずずず、と麺を啜りつつアイアコスが言った。 「タナトス様の写真と『タナトス』って名前でツイッターやってる人がいるって聞いてましたけど、あれってマジでタナトス様だったんですか」 「城戸ブランドのイメージキャラとしての活動の一環…と言う奴だ。最初は面倒だったが、最近はなかなか面白いぞ。『ツイート見て探しに来ました!』と言う人間もいるしな」 「へぇ…」 銀色の眼を細めて嬉しそうに話すタナトスの姿に、何故自分達はこの方をあんなにも恐れていたのだろう…と三巨頭は不思議な気分になった。 確かに神である彼は近寄りがたいほどの威圧感と貫録を備えてはいるが、こうしてお近づきになってみればなかなか味わい深く好感の持てるキャラなのに…。 人間達がそんな事を考えてながら食事をしていると、ハーデスが炒飯を取り分けながら楽しそうに言った。 「ひょっとしたら、この店にもそなたを探して人間がやってくるやもしれぬぞ」 「フッ…来たとしても俺達が帰った後でしょう。ツイートして十分も経ってないのに、そんな簡単に見つけられるはずが…」 笑いながらタナトスが雲呑を蓮華で掬った時、店の扉ががらっと開いて数人の男女が入ってきた、その途端。 冥界御一行様にはっきりと聞こえる声で彼らが言った。 「あーっ!本当にいた!」 「ね、言った通りでしょ?新橋の駅の近くのラーメン屋であの丼だったらこの店だって!」 「スゲー…マジでクリスマスイベントのメンバーで下見に来てたんだ…」 「うわっ、何か眩しっ!イケメンばっかりで眩しいっ!」 「そりゃ神様だもん、後光も射すだろー」 …これからは、リアルタイムで行動をツイートするのはやめよう…。 弟と部下から凄まじく微妙な視線を向けられて、タナトスは雲呑をつるりと呑みこみながら思った。 |
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苦しんだ4話目と違ってノリノリで書けた5話目です。ツイッターのお題で『タナトスとハーデスが電車に乗っている時、片方が寝てしまった時の状況について
語りましょう』と言うのがあって、『ハーデスが寝ちゃってタナトスがおんぶして電車を降りたらいいなぁ→でも大人ハーデスをタナトスがおんぶするのは変だ
しね。そもそもハーデスはエリシオンから動けないし→何とかこの条件をクリアできないかな』と思ったことがきっかけで、この「聖夜」SSが出来たと言って
も過言ではありません。最早兄弟と言うより親子なノリの双子神とハーデス、書いてて楽しかったです。 前半部分、神々のエルミタージュ洋菓子店訪問は予定外だったのですが、入れて良かったと思いました。双子神がハーデスの背中を押すシーンは、「冥妃」17話の最後とかぶるのを意識しました。 そして同じくツイッターから、OVAタナトスの声を演じておられる川田さんのツイートに『坦々麺を頼んだら雲呑麺が来ました。おいしかったです』と言う のがあって、これに盛大にウケタのでラーメン屋のシーンを追加。話のどこかで、クリスマスイベントに関する告知をするタナトスが、『残念な知らせが一つあ る。ヘカーテ様はミニスカサンタよりトナカイコスに乗り気でおいでだ』と言うネタがあったのですが、ここで昇華しました。ラーメン屋の描写や接客は私が昔 バイトしていたレストランの記憶を思い出したり近所のラーメン屋さんを思い出したりしながら書きました。店員さんは噛んでます、タイプミスではありません (笑)。 |