| 幻想郷に棲む大妖怪・八雲紫による異世界の双子神誘拐事件が解決して数カ月が経った西暦2012年7月7日。 死の神タナトスと眠りの神ヒュプノス、そして氷の女神ヘカーテは地上のエルミタージュ洋菓子店を訪ねていた。7月7日の七夕は浴衣を買って皆で縁日に行こう…と、異世界の小さな双子神と約束をしていたのだ。 異世界の双子神誘拐事件が解決した際、双子神達は八雲紫と和解し、彼女に頼んでふたつの世界を繋いで貰った。以来、頻繁にとはいかないものの、ふたつの世界の冥界の神々や聖闘士達は折に触れ互いの世界を訪ねては交流を深めていたのだ。 …S・タナトスは時計を確認して首を傾げた。 S・タナトス 「待ち合わせの時間を過ぎたが…まだ来ないな」 S・ヒュプノス 「こちらとあちらの世界は時差がある故、あちらの時間で行動しているのでは…」 ヘカーテ 「時差がある事はあいつらも承知だろう。寄り道でもしてるんじゃないか?」 秋乃 「今回は沙織さんに送迎を頼んでないんですか?」 ヘカーテの言葉に秋乃が怪訝そうに首を傾げてS・双子神に尋ねた。 ふたつの世界を繋ぐ『扉』は聖域が管理する地上の施設にあるので、冥界の神々が世界を行き来する時も(形式上ではあるが)聖域の了解がいる。そのついで と言う訳ではないが、異世界の小さな双子神がこの世界を訪ねた時は沙織が彼らを待ち合わせ場所まで送っていてくれたのだ。 冥妃の問いにS・タナトスが首を振った。 S・タナトス 「いえ、頼んでありますよ。チビ共はだいぶこの世界に慣れてはいますが、子供だけで行動させるのは不安ですから」 秋乃 「じゃあ道でも混んでるのかしら…」 S・タナトス 「携帯に電話を入れてみるか」 S・タナトスが携帯を取り出して小さな双子神に持たせた携帯に電話をかけようとした時。 カランカランカラン…。 店のドアが開いて来客を知らせる鈴が鳴ると同時に。 T・タナトス 「こんにちわーーー!!」 男の子の元気な声が響き、集まった神々は思わず顔を綻ばせて椅子から立ち上がった。喫茶スペースと売り場を仕切るカーテンを開けた神々は、皆一様に意外そうな顔になった。 輝くような笑顔で両手を振るT・タナトスと、どこか複雑な顔をしているT・ヒュプノス、そのふたりは良いのだが、彼らの後ろには彼らと同じ世界のマニゴルドがついてきていた。 T・マニゴルドは満面の笑みを浮かべて軽く片手を上げた。 T・マニゴルド 「お久しぶりっす!(にこにこ)」 S・タナトス 「何故お前が一緒にいる?(心底怪訝そうな顔)」 ヘカーテ 「相変わらずチビタナトスを絶賛ストーカー中か(ニヤニヤ)」 T・マニゴルド 「ちょ、人聞きの悪いこと言わねーでくださいよヘカーテ様!これはアテナの命令ですよ、アテナの命令!」 S・ヒュプノス 「アテナの?(疑い深そうな眼)」 T・マニゴルド 「そそ。今日は縁日に行くから双子神様は夜まで外出するし、こっちの世界で一泊する予定でしょ?念のため『保護者』を付けたほ うが良いだろうって。だけど星矢も星華ちゃんも仕事の都合がつかなくてさ、やむを得ず(強調)俺に任務が下ったって訳ですよ!(嬉しそう)」 T・マニゴルドの同行理由とT・ヒュプノスのどことなく不機嫌そうな様子に神々が納得すると、秋乃がにこにこしながらT・双子神を見遣った。 秋乃 「ところで、タナトスさんとヒュプノスさんのその服、涼しそうで素敵ですね」 T・タナトス 「沙織に貰ったのだ!以前の服では暑すぎて俺もヒュプノスも参っていたのでな!」 T・ヒュプノス 「どうして私はピンクなのだ…(ぼそ)」 T・双子神が着ているのは肩も背中も大きく開いた、フレアスカートを肩紐で吊っているような服だ。帯かベルトの代わりのように腰で結んだ大きなリボンに は花柄の刺繍が施されなかなか可愛らしいデザインで、肩から提げた鞄も以前の白いものではなく涼しげな籐バッグだ。服と揃いのリボンや刺繍がついていてな かなかセンスが良いのだが、T・ヒュプノスはご不満らしい。 秋乃 「ヒュプノスさんはその服があまり好きじゃないんですか?(不思議そう)」 T・タナトス 「ヒュプノスは、ここに来る途中で『可愛いお嬢ちゃん』と言われたから拗ねているのだ!」 T・ヒュプノス 「私のどこが女の子に見えるのだ…(ムスッ)」 一同 「(その服だと女の子に見えて当たり前だと思うが…)」 秋乃 「………(思案顔)ヒュプノスさん、『可愛いお譲ちゃん』って言ったのは、割と年配の人でした?」 T・ヒュプノス 「ああ。杖をついたおばあさんと、犬を連れたおじさんだった。…それが?」 秋乃 「あのね、ヒュプノスさん。この世界の日本では、上品で優しい顔立ちの男の子を褒める時に『可愛い女の子』って言うんですよ」 T・ヒュプノス 「え、そうなのか?」 秋乃 「ええ、そうです。でもちょっと古い慣習だから、最近の若い人は知らない人も多いんですけど。決してヒュプノスさんを女の子だと思って言った言葉じゃないから、気にしなくて良いですよ」 T・ヒュプノス 「そ…そうなのか。まぁ、女の子に間違われてないのなら、それでいいが」 秋乃の絶妙な嘘に皆が感心しつつT・ヒュプノスが機嫌を直すと、今度はT・タナトスが不満そうな顔になった。 T・タナトス 「俺は一度も『可愛い女の子』なんて褒められなかったぞ!」 S・タナトス 「お前はどこからどう見ても悪戯っ子のヤンチャ坊主だからだろう。『上品で優しい』とは真逆なのにそんな褒め言葉が出てくるわけなかろうが(わざとらしい真顔)」 秋乃 「そうですね、タナトスさんの言う通りかも。タナトスさんは『上品で優しい』よりも『元気で活発』って印象が先に来ちゃうんじゃないかしら。ヒュプノスさんと一緒だったら、余計に」 T・タナトス 「そうなのか…」 S・タナトス 「それはそうと、そちらの世界の蟹座まで来るとは予想外だったな。せっかくだからこちらの世界の蟹座も呼ぶとするか」 T・ヒュプノスが女の子に間違われた一件の話を長引かせないために、S・タナトスは携帯を取りだしてこの世界のマニゴルドに電話をかけた。 …なかなか電話は繋がらず、仕事中か?と疑い始めた時ようやく相手が出た。 S・マニゴルド 『はいはい、何ですかぁ?人がせっかくイイ女のナンパに成功してデートと洒落込んでる時によー』 S・タナトス 「要するにプライベートなのだな。なら問題ない、今すぐエルミタージュ洋菓子店に来い。仮にも黄金聖闘士なら三分もあれば充分であろう」 S・マニゴルド 『っはぁ!?!?何を寝言抜かしてくれてんだよ、デート中だって言っただろうが!つまんねー呼び出しでデート切り上げたせいで振られたらどう責任取ってくれやがんだよこのクソ神!!』 S・タナトス 「どうせ近いうちに振られるのだろう?それが少しばかり前倒しされる程度、何も問題なかろう」 S・マニゴルド 『大問題だよ!つか振られる大前提で話しすんなよ!大体な、俺の女運がゼロになったのは誰のせいだと思ってやがんだ!お前の妹が…』 S・タナトス 「俺に無礼を働いたお前のせいだ。女運をマイナスにされたくなかったら三分以内に来い。分かったな」 プチッ。 S・タナトスは言うだけ言って電話を切った。彼の無茶振りはいつものことなので誰も突っ込むことなく喫茶スペースの席につき、龍神秋乃は冷たい飲み物を用意してきた。 皆に飲み物を渡しながら彼女はT・双子神をじっと見つめた。 秋乃 「おふたりが来た時から思ってたんですけど、タナトスさんもヒュプノスさんも背が伸びたんじゃないですか?」 T・タナトス 「分かるかっ?!(嬉しそうな顔)」 T・ヒュプノス 「うむ。2cmほど背が伸びたぞ(得意気な顔)」 ヘカーテ 「2cm…(ぽそ)」 秋乃 「そうなんですか。2cmでも結構分かるものですね。私がおふたりに身長を抜かれるのももうすぐかしら(にこにこ)」 T・タナトス 「フフフ…秋乃などあっという間に抜かしてやるぞ!ところでタナトス達も、俺達の背が伸びていたことには気付いていたのか?(期待の眼差し)」 S・ヒュプノス 「ああ、勿論だ(しれっ)」 S・タナトス 「会った時にすぐ分かったぞ。ですよね、ヘカーテ様(しれっ)」 ヘカーテ 「え?あ、ああ。予想外に湧いて出た蟹座に気を取られてはいたが、ちゃんと気付いたぞ!」 T・双子神 「そうか!(満足そう)」 T・マニゴルド 「湧いて出たって…(こっちの世界の神様ってば、子供にはやさしーのな…)」 ガンガラガンガン!! T・マニゴルドが複雑な面持ちでアイスコーヒーを啜っていると、ドアを壊さんばかりの勢いで入口のドアを開け盛大に鈴を鳴らしつつS・マニゴルドが店に現れた。 物凄い怒り顔で何故か色紙を持った彼は優雅にコーヒーを飲んでいるS・タナトスに詰め寄った。 S・マニゴルド 「この、このクソ神!鬼畜!ドS!職権乱用!!」 S・タナトス 「三分で来いと言ったのに五分かかっているぞ。遅刻しておいてその物言いは何だ、女運ゼロ」 S・マニゴルド 「変なあだ名つけんじゃねーよ!(涙目)」 秋乃 「マニゴルドさん、デートの中断は了承してもらえたんですか?(アイスコーヒーを差し出し)」 S・マニゴルド 「はぁはぁ…(チュゴゴゴゴ、とアイスコーヒーを一気飲み)ええ、そりゃーもう快く!!(涙目)」 T・双子神 「快く?」 S・マニゴルド 「上司から緊急招集がかかったって言ったら、あの女、『あなたの上司があの死の神タナトスって本当なの?じゃあサイン貰ってきて!私 ファンなの!それでデート中断は赦してあげる!あ、連絡先教えておくね』って…ナンパしてからお茶してる間、散々頼んでもメアドも教えなかったくせに、タ ナトス様が上司だって分かった途端にケータイの電話番号すんなり教えやがって、畜生ぉぉぉ!そう言う訳でサイン書けやクソ神ぃぃぃ!!!(色紙を押しつけ て車田泣き)」 T・マニゴルド 「こっちの世界の俺も色々と苦労してんな…」 S・ヒュプノス 「ナンパの武器にタナトスの名前を出したのなら招集に文句は言えぬな(ズケッ)」 T・双子神+女性達 「(うんうん)」 S・マニゴルド 「だからこーして無茶振りの呼び出しに応じたんじゃねーか!!」 S・タナトス 「(色紙にさらさらとサインをしつつ)では、全員集合となったところで今日の予定の再確認と行くが…まず最初に、だ」 タナトスは懐から『涼宮ハルヒの退屈』というタイトルの文庫本を差し出してマニゴルド達に差し出した。 S・タナトス 「チビ達とヘカーテ様と秋乃様には事前に話してあるが、お前達の参加は予定外だったのでな。これに収録されている『笹の葉ラプソディ』という短編だけを読め」 T・マニゴルド 「これってシリーズ三作目みてーだけど…その短編だけ読めばいいのか?」 S・マニゴルド 「俺はその本読んだことあるけど。『笹の葉ラプソディ』って確か、三年前の世界に行ったキョンがハルヒと一緒に学校の校庭に宇宙人へのメッセージを描く話だよな」 S・タナトス 「ああ、それが分かっていれば改めて読み返す必要はないぞ」 S・マニゴルド 「で?それが何なんだよ」 S・タナトス 「キョンとハルヒがメッセージを描いたのはいつだった?」 S・マニゴルド 「7月7日、七夕の夜だろ。…って、あ」 T・マニゴルド 「……………」 S・タナトスが何を考えているか否応なく気付いた二人のマニゴルドが感心半分呆れ半分の顔で彼を見た。 この死神様の遊びに関する発想の豊富さと言うかトンデモぶりはある意味見事と言えるのだが…。 天然で世間知らず揃いの冥界神々のストッパー役を自任するS・マニゴルドは、胡散臭い物を見る目でS・タナトスを見遣った。 S・マニゴルド 「…つまりアンタは、今夜どこかの学校に忍び込んでそこの校庭に宇宙人へのメッセージを描くつもりな訳だ?」 S・タナトス 「宇宙人宛てではないがな」 S・マニゴルド 「問題はそこじゃねーよ。一体どこの学校に忍び込むつもりだよ、このご時世に。忍び込んだ途端に警報システムが作動して警備員がすっ飛ん でくるぜ。警報システムを何とかするにしても校庭にメッセージなんて書いたら事件になるだろ。分かってんのかそこんところ?」 S・タナトス 「分かっているさ。だから、メッセージを描いても事件にならない学校に忍び込むのだ」 S・T・マニゴルド 「ハァ?」 不思議そうな顔をするマニゴルド達に、タナトスはポケットからA4サイズのパンフレットを取り出して差し出した。そのパンフレットには学園らしい建物の写真と『私立パライストラ学園・日本キャンバス』という文字が記載されている。 そのパンフレットを見た途端、S・マニゴルドは全てを納得した顔になり、T・マニゴルドはますます不思議そうな顔になった。 T・マニゴルド 「パライストラ学園?何だこりゃ?」 S・マニゴルド 「端的に説明すると、沙織お譲さんが設立した聖闘士養成学校だ」 T・マニゴルド 「ハァ?聖闘士養成学校??」 S・マニゴルド 「星矢達にやったような無茶苦茶なスパルタ育成はこの時代は何かと問題だし、現代っ子のゆとり世代はキツ過ぎてついて来れないって事で な、そーゆー軽めのノリで新世代の聖闘士を育成してんだよ。俺もたまーに非常勤講師で顔出してるけど、冥界と和解した平和な時代だから出来る呑気な場所 だったな」 T・マニゴルド 「………(頭ガリガリ)要するに、落書きするのは聖域の管理下にある場所だから、アテナの了解さえもらっておけば忍び込もうがイミフな絵を描こうが問題にはならねーと、そう言う事だな?」 S・タナトス 「そう言う事だ(オオイバリ)」 S・マニゴルド 「問題にならねーならもう細かいとこ突っ込む気にもなれねーわ。んじゃ、本日の予定とやらを伺いましょうかね」 S・タナトス 「これからショッピングセンターに行って浴衣を購入。夕方になったら祭り。祭り会場で夜の花火大会を鑑賞したらパライストラ学園に忍び込ん で笹の葉に短冊を付け、校庭にメッセージを描く。それが終わったら解散だ。チビ共はエリシオンに連れて行くが、そこの蟹は連れて行けぬのでな。こっちの蟹 の部屋に泊まるなりアテナに融通してもらうなり自力で何とかしろ」 T・マニゴルド 「へいへい」 S・タナトス 「今日の予定の説明は以上だが、何か質問は?」 …手を上げる者がいないのを見て、S・タナトスは満足げに頷いた。 そして神様達と人間約三名の奇妙な一行は車に分乗して、浴衣を買うためにショッピングセンターに向かって出発した。 |