双子神2012・ 七夕
EPISODE 2


 一行はまず、T・双子神の浴衣を買うためにキッズのコーナーに向かった。浴衣も小物も充実している『女の子』コーナーは意図的にガン無視して『男の子』コーナーに直行すると、秋乃とヘカーテが早速ふたりの浴衣を見繕い始めた。

秋乃 「男の子用は浴衣より甚平が多いですね…」
ヘカーテ 「種類はさほど多くないが浴衣もそれなりにあるから、こいつらの気に入る物もあるだろ。お前達、どんな柄が良い?」
T・タナトス 「俺は五芒星か蝶の柄のが良い!」
T・ヒュプノス 「私は六芒星か芥子の花の柄」
ヘカーテ 「五芒星のはあるにはあるが…これではなぁ…(ド派手な柄の浴衣を見て困惑顔)」
秋乃 「蝶や花柄は男の子向けコーナーには無いみたいですね。ストライプとかチェックとか、柄があっても魚とか昆虫ばっかりだわ。女の子向けコーナーならあるでしょうけど」
T・双子神 「え…女の子?(困り顔)」

 T・双子神は男の子向けコーナーの浴衣を一通り見て回ったが気にいる物は見つからず、妥協するのも嫌だが女の子向けを着るのも嫌らしく困った顔を見合わせた。そんなふたりを見ていた秋乃が折衷案を提案した。

秋乃 「じゃあ、浴衣だけは女の子コーナーで探してみますか?女の子コーナーで買った浴衣でも作り自体は男の子用と同じだし、帯のデザインと巻き方でちゃんと男の子向けになりますから」
T・タナトス 「そうなのか。じゃあ女の子コーナーで探してみるか、ヒュプノス?」
T・ヒュプノス 「う、うーん…」

 兄神の提案にT・ヒュプノスは複雑な顔になった。
 気にいった浴衣を探したいが、女の子向けコーナーに行って女の子に間違われるのが嫌なのだろう。そんな彼の姿に秋乃がクスリと笑って言った。

秋乃 「じゃあ私とヘカーテさんでおふたりが好きそうな浴衣を探して持ってきますから、その間に大人のタナトスさんヒュプノスさんの浴衣を探してきて下さいな」
T・双子神 「そうだな、そうする!」
ヘカーテ 「そうだな。じゃあついでに私達も自分の浴衣を選ぶとするか」
S・双子神 「(女性の浴衣も選ぶとなると時間がかかりそうだな…)ではチビ達の帯は我々で探しておきます」
秋乃 「じゃあ、一時間後に…その試着室の前で待ち合わせしましょうか」
S・双子神 「承知しました」

 女性達と別れた男性一行は、まずT・双子神の帯を選ぶことにした。とは言え男児用の帯は種類が少なく、大して迷うことなくシンプルで合わせやすい色柄の物に決まり、次はS・双子神の浴衣を買うためメンズコーナーに移動した。

T・タナトス 「色も柄も種類が少ないな。女性用はバラエティ豊富なのに」
T・ヒュプノス 「大人の男がセンス良く派手な柄物を着こなすのは難しいからではないか?」
T・タナトス 「確かに…。こんなツヤツヤキラキラの赤いペイズリー柄をセンス良く着るのは難しそうだな」
S・タナトス 「迷った時はシンプルイズベスト、だ。俺はこの黒い浴衣にするか」
S・ヒュプノス 「(白地に生成りのストライプ柄を手に取り)では私はこちらにしよう」
S・マニゴルド 「おいおい、待ち合わせ時間まであと40分以上あるぜ?(ゲンナリ顔)」
S・タナトス 「ふむ…(T・双子神に目をやり)縁日にそんな大きな鞄を持って行っては邪魔になろう。必要最低限の物を入れるだけの巾着でも探すか」
S・ヒュプノス 「夜とは言えそれなりに蒸し暑いかもしれぬ。ヘカーテ様に冷気を作って頂けるかもしれぬが、扇子の一本も買っておけば何かと便利であろう」
T・マニゴルド 「つまり小物の調達か。小物売り場はあっちみてーだな」

 男性一行はぞろぞろと小物売り場に向かい、ここでもさほど迷うことなく巾着と扇子、そして下駄を選び終えた。
 それでもまだ時間は余っている。が、喫茶店で時間をつぶすほどでもないし…と思っていると、ふとS・タナトスがマニゴルド達を見遣った。

S・タナトス 「そう言えば、お前達はどうするのだ?浴衣を着るのか?…あまり似合いそうにないが」
S・マニゴルド 「後半の台詞は余計だよ!星矢も言ってたけどアンタ本当一言多いな!」
T・マニゴルド 「俺達はこのままでいいだろ。タナトス様の言う通り俺らはあんまり浴衣が似合いそうな気ィしねーしよ」
S・ヒュプノス 「浴衣はともかく甚平は似合いそうだが(真顔)」
S・マニゴルド 「甚平?」
S・タナトス 「ああ、確かにそうだな。せっかくの七夕だ、服装もそれらしくした方がより楽しかろう」

 S・タナトスの言葉にT・双子神は目をキラキラさせてうんうんと頷き、その反応にT・マニゴルドは悩み始めたがS・マニゴルドはあまり気乗りしない様子で言った。

S・マニゴルド 「俺は甚平も気がのらねーんだけど…」
T・マニゴルド 「何だよ俺、ノリが悪ィな。祭りの時くらい相応しい格好しようぜ?」
T・双子神 「(うんうん)」
S・マニゴルド 「………。そーだなぁ、ま、蟹の絵がプリントされた甚平があれば着てもいいけどよ(ある訳ねーだろうが)」
S・タナトス 「ほう…蟹の絵柄なら着るのだな?(ニヤリ)」
T・タナトス 「ならば探してみるか。甚平は結構たくさん種類があるからひょっとしたらあるかもしれないぞ!」
T・ヒュプノス 「男に二言はないからな(真顔)」
S・ヒュプノス 「聖闘士にも二度目はないな(真顔)」
S・マニゴルド 「お、おう…(あれ?やべェかな?)」
T・マニゴルド 「あ!俺は蟹プリントでなくても甚平着るから…」
S・タナトス 「さぁ蟹柄の甚平を探してくるか!(わざとらしい満面の笑み)」

 やけに楽しそうにT・双子神の手を引いて男性用甚平売り場に向かうS・双子神を見送って、マニゴルド達は嫌な予感を感じながら顔を見合わせた。
 そして待つこと数分。

T・タナトス 「待たせたなっ!!(満面の笑み)」
T・ヒュプノス 「探せばあるものだ(ニヤニヤ)」
T・S・マニゴルド 「(本当に探して来た!!)」

 T・タナトスは小さな沢蟹が水玉のようにプリントされた白っぽい甚平を、T・ヒュプノスは背中にでかでかと蟹がプリントされた黒っぽい甚平を二人に差し出した。

S・タナトス 「さぁ、望み通りの品を探してきてやったぞ。無茶な呼び出しをした詫びに代金は俺が持ってやろう。まさか、チビ達の手を煩わせておいて『着れません』などとは言わぬよな?(凶悪な笑み)」
S・ヒュプノス 「タナトスよ、彼らはアテナの聖闘士だぞ。一度口にした約束を反故にするなど恥知らずな真似をするはずなかろう(性悪な笑み)」
T・S・マニゴルド 「………(汗タラリ)」
T・タナトス 「で、どっちがどっちを着る?(目をキラキラ)」
T・ヒュプノス 「これ以外の蟹柄、という選択肢は無いぞ。蟹柄の甚平はこの二着しかなかったからな(含笑)」
T・マニゴルド 「…じゃあ俺は白い方で」
S・マニゴルド 「ちょ、おま…ちゃっかり(比較的)無難な方を選んでんじゃねーよ!」
T・マニゴルド 「うっせ!そもそも『俺』が素直に甚平を受け入れてればこんなことにはならなかっただろーが!」
S・マニゴルド 「それを言ったらそもそもお前が双子神様の保護者ヅラしてついて来なければ俺もデート中に呼び出されたりなんか…」

 互いに責任をなすりつけ合うマニゴルドの姿に、S・タナトスが腕を組んでふんぞり返った。

S・タナトス 「うろたえるな塵芥共!!(ドヤ顔)」
S・マニゴルド 「いや、うろたえてねぇし…」
T・マニゴルド 「アンタ、そのセリフ言いたかっただけだろ…」
S・タナトス 「揉めるなら公平にジャンケンで決めろ!勝った方が好きな方を選べ!!」
S・マニゴルド 「う…まぁ、しゃーねーか…(渋々)」
T・マニゴルド 「タナトス様のチョイスじゃ断れねーしなぁ…。せーの、最初はグー!じゃんけんぽん!!」

 …自分達の浴衣と、T・双子神の浴衣を見繕って何枚か持って来た秋乃とヘカーテは、試合を終えたジョーのごとく真っ白になって通路の椅子に座っているマニゴルド達を見て怪訝そうな顔になった。

ヘカーテ 「私達が浴衣を探している間に何があったんだ?焼きすぎた蟹みたいになってるが」
秋乃 「あっち側のマニゴルドさんはともかく、この世界のマニゴルドさんは灰になってますね」
T・ヒュプノス 「『蟹柄の甚平なら着てもいい』と言ったから探してきてやったのに、気にいらないらしいのだ。自分で言い出したのに」
ヘカーテ 「自分で言い出したのか?じゃあ撤回しちゃダメだな」
秋乃 「多分冗談で言ったんでしょうけど…タナトスさんは冗談にこそ全力なキャラだってこと、知らなかったのかしら」
T・タナトス 「…で、俺達の欲しかった柄はあったか?」
秋乃 「蝶々のデザインのはたくさんあったんですけど、芥子の花は見つからなくて…朝顔でそれっぽく見えるのを探して来たんですけど、どうかしら?」

 秋乃が余り女の子女の子していないデザインの浴衣を広げると、T・双子神は真剣な眼差しでそれを見つめ始めた。
 ヘカーテも秋乃もファッションセンスは良いらしく、ふたりが持って来た浴衣のデザインに文句はないT・双子神はしばらく悩んで自分の浴衣を決めた。

T・タナトス 「俺はこの、水色の浴衣に決めた!黒ではタナトスと被ってしまうからな!」
T・ヒュプノス 「私はこの黄色いのにする。そちらの浴衣もデザインは好きだが、色がピンクなのはちょっと…」
S・タナトス 「ん、それなら先に選んだ帯とも馴染むな。では会計を済ませるか」

 人数分の浴衣と甚平と小物一式を燃えつきかけているマニゴルド達に持たせ、神々は上機嫌でエルミタージュ洋菓子店に帰還したのだった。



 そして夕方。
 双子神達とヘカーテは秋乃に手伝ってもらって浴衣の着付けを終えた。
 女の子向けコーナーで買って来たT・双子神の浴衣も、男の子向けの帯を腰でビシッと締めると確かに男の子用に見えて、ふたりは満足そうに頷いた。バリバ リ『ガイジサン』な外見のS・双子神とヘカーテも、素材の良さのおかげか着つけのセンスのおかげか違和感なく浴衣が似合っている。S・双子神は後ろ髪を無 造作に括り、ヘカーテと秋乃は和風のリボンを編みこんで後ろ髪を結い上げた。
 エルミタージュ洋菓子店の休憩室を出ると、嫌々ながら甚平を来たマニゴルド達がけだるそうに喫茶スペースの椅子に座っていた。ちなみにT・マニゴルドが白い甚平、S・マニゴルドが黒い甚平だ。

S・タナトス 「ほう…痛々しい柄の甚平だったが、中身が痛々しいと一周回って異和感が無いな」
S・マニゴルド 「うっせーよ。外側はともかく中身がアレすぎるアンタには言われたくねーや」
S・タナトス 「女運ゼロ人生に妙な男に愛されるオプションをプラスして欲しいか、塵芥?(爽やかスマイル)」
S・マニゴルド 「すいません嘘です神様達ステキです(棒読み)」
T・マニゴルド 「いやマジで神様達イカしてると思うぜ。縁日行ったらナンパと逆ナン断るのが大変そうだな」
S・ヒュプノス 「だから皆揃って行動するのだ」
T・マニゴルド 「あー…ギリ、親子連れに見えなくもねーか…」
S・マニゴルド 「面倒な時は『ニホンゴ、ワカリマセーン』で押し通せるもんな。…タナトス様以外は」
S・タナトス 「ではそろそろ行くとするか。徒歩と電車で祭りの会場まで行くのも風情があって良いだろうからな、車はおいて行くぞ」

 S・タナトスの提案に異議の無い一行は、ぞろぞろとエルミタージュ洋菓子店を出て、道行く人々の視線を集めながら最寄りの駅へと向かった。




 …土曜日だからなのか、夕方にしてはまだ日も高い時間だったが縁日会場はなかなかの賑わいだった。S・双子神はT・双子神としっかり手を繋ぎ、秋乃やヘ カーテからも目を離さずきちんと傍に付きながら出店を冷やかしていた。秋乃もヘカーテもしつこくナンパされても対応する力はあるが、その対応方法が蹴り飛 ばすか氷漬けにするかのどちらかで、どちらにしてもいらぬ騒ぎを起こすことは想像に難くないからである。
 T・双子神はまずかき氷、次はお面、次は綿飴、次はスーパーボール掬い、次は焼きそば…と屋台を満喫しつつ歩いていた。S・双子神も普段なら程々で止めるのだが、今日は大目に見ても良かろうと何も言わず付き合っていた。
 焼きそばを頬張っていたT・タナトス(もちろん口の周りにソースと青海苔を付けている)が、ヨーヨー釣りと射的の屋台が並んでいるところで足を止めた。

T・タナトス 「ヒュプノス、ヨーヨーと射的だ!縁日に来たからにはこれは押さえねばなるまい!」
T・ヒュプノス 「うむ、同感だ(おっとり顔にやる気をみなぎらせる)」

 T・タナトスが射的に、T・ヒュプノスがヨーヨーに向かうのを見てS・双子神が怪訝そうな顔になった。

S・ヒュプノス 「ふたり一緒にやらぬのか?」
T・タナトス 「俺は射的が得意だがヨーヨー釣りは下手なのだ。そしてヒュプノスはその逆だ(口の周りにソースと青海苔を付けたままの真顔)」
T・ヒュプノス 「そうだ。だからそれぞれの得意分野を生かして相手の分も取るのだ!」
S・タナトス 「分かった。分かったから口の周りを拭け、チビ助」

 S・タナトスは浴衣の袂からウェットティッシュを(神様パワーで)取りだすとT・タナトスの口の周りを綺麗に拭いた。
 T・双子神はそれぞれの屋台の店主に代金を払って、真剣この上ない顔でヨーヨー釣りのこよりと射的用の銃を手に取った。T・ヒュプノスは狙いを定めて 狙った色のヨーヨーを釣り、T・タナトスは踏み台の上で更につま先立ちになって棚に並んだ『たけのこの里』を倒して行った。
 たけのこばかりを狙い撃つT・タナトスに、S・タナトスが怪訝そうに声をかけた。

S・タナトス 「さっきからたけのこばかり狙っているようだが、きのこは狙わぬのか?」
T・タナトス 「俺もヒュプノスもきのこは好かぬ。たけのこ派だ!」
S・タナトス 「ほう…そちらでもきのこたけのこ戦争は起きているのか(楽しげ)」

 …ぱしゃん、ぱしゃん。
 T・ヒュプノスが釣ったヨーヨーで遊びながら、皆はT・タナトスが撃ち落としたたけのこの里を食べていた。

ヘカーテ 「しかし、きのこもたけのこも飽きもせず次から次へと新作を出してくるよな」
S・ヒュプノス 「ポッキーもそうですね。これは!と思う味は滅多にないですが」
T・マニゴルド 「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってやつですかね?」
秋乃 「プロが『下手な鉄砲』を撃つのもどうかと思いますけど、話題性とか新しい物を送り出し続ける姿勢が味より重要視される事はあるかもしれませんね」
S・タナトス 「そこそこの味のものをどんどん売りだして、一割でも定番になれば儲けもの…と言うところでしょうか」
S・マニゴルド 「タナトス様、妙に日本の経済事情に詳しいのな…」
T・タナトス 「(苺味のたけのこを食べながら鼻をくんくん…)イカ焼きだ!これは食べねば!」
T・ヒュプノス 「…私はタコ焼きがいい…」

 T・タナトスはS・タナトスの手を、T・ヒュプノスはS・ヒュプノスの手を引いてそれぞれ食べたい物の屋台でイカ焼きとたこ焼きを買ってくると合流するなり食べ始め、半分食べたところで交換して残り半分を平らげた。

S・タナトス 「チビ助はともかく、チビのヒュプノスもかなり食べているようだが大丈夫か?」
T・ヒュプノス 「まださほど食べていないし、食べ過ぎて動けなくなったらヒュプノスにおんぶしてもらうから別にいい」
S・ヒュプノス 「私がお前をおぶるのは決定事項か?」
S・タナトス 「そうなったところで拒否する気も無いのであろう?(ニヤリ)」
S・ヒュプノス 「……………」

 S・ヒュプノスが口を噤んでいると、ヘカーテが焼きトウモロコシを買ってきた。

ヘカーテ 「余りに良い匂いだったから買ってしまったぞ。ほら、お前達にもやろう!」
T・双子神 「わぁ!ありがとうございますヘカーテ様!」

 T・双子神はひとつのトウモロコシを両側から一緒に食べ始め、ヘカーテはS・タナトスを相手に同じことをしようとしたが無造作にトウモロコシを半分に 割って差し出され、不満そうにしながらトウモロコシを食べ始めた。そんな様子をS・ヒュプノスと秋乃は微笑ましく見ながら、マニゴルド達は複雑な顔をしな がらトウモロコシを半分に割った。
 …串ドーナツの屋台で買った団子のようなドーナツを齧りながら、T・双子神は次は何をして遊ぶか何を食べるかわくわくしながら屋台を見ている。
 そんなふたりを見ながら秋乃は金魚すくいの屋台の前で足を止めた。

秋乃 「そう言えばおふたりは、金魚すくいはしないんですか?」
T・タナトス 「俺もヒュプノスも金魚すくいは好かぬ」
S・マニゴルド 「へ?何で?」
T・ヒュプノス 「人は他の命を軽く見すぎる。己が生きる為、食べる為にしている事ならまだ理解する。だが娯楽の為に金魚を小さな箱に入れ、自由を奪った挙げ句に見世物にする…。私達は、人間のああ言う一面は好きにはなれぬ」
大人達 「……………」
T・タナトス 「うむ、ヒュプノスの言う通りだ。生き物でない何かで遊ぶなら構わぬがな!」

 そう言って『生き物ではない何かで遊ぶ』屋台を探し始めたT・双子神の後姿を見ながら秋乃は独りごとのように言った。

秋乃 「私、子供の頃は『金魚すくい』って『金魚救い』だと思ってたんです」
S・マニゴルド 「助けるって字を書く『救い』ッスか?」
秋乃 「ええ、そう。狭い水槽の中に閉じ込められた金魚を『救ってあげる』んだって思って、私が助けてあげられなかった金魚はどうなるんだろう、なんて考えていました。でもそれも、人間の傲慢さだったのかもしれませんね」
S・マニゴルド 「そんな深刻な話ですかねぇ…?」
T・マニゴルド 「けど、俺はちょっと感動したぜ。死神のタナトス様が小動物の命を想いやってるって事にさ」
S・マニゴルド 「ったく…お前は相も変わらずタナトス様ひいきなのな(呆れ顔)」
T・マニゴルド 「おうよ!(得意気)」

 T・双子神は輪投げをしたり籤引きをしたり、一通りの屋台の出し物は制覇したのか食べ物の制覇にシフトしたらしい。
 T・タナトスはチョコバナナの屋台でチョコ、苺チョコ、ホワイトチョコ、バナナチョコ、チョコスプレー付き…と全種類を一度に買い求め、小さな両手いっ ぱいにチョコバナナを持って嬉しそうに頬張っている。一方のT・ヒュプノスは自分の握りこぶしよりも大きな林檎飴に専念していた。
 口の周りに三色のチョコとチョコスプレーを付けたままぱくぱくとチョコバナナを齧るT・タナトスを、微妙に如何わしい目線で見ているT・マニゴルドに気付いたS・マニゴルドがさりげなく彼を肘で小突いた。

S・マニゴルド 「ちょ、おま…何ガキを如何わしい目で見てんだよ!」
T・マニゴルド 「え?あ、それは…(焦)」
S・マニゴルド 「健康な成人男子が如何わしい目で見るならあっちだろ!(アイスキャンディーを食べている秋乃とヘカーテを目で指す)」
T・マニゴルド 「俺はタナトス様一筋なの!それ以外はアウトオブ眼中なの!OK?」
S・マニゴルド 「お前、それは…」

 口論を始め書けたふたりのマニゴルドは、背筋が凍るような小宇宙を同時に感じて、冷や汗をかきながら恐る恐るその小宇宙の主を見た。
 …完璧すぎる微笑みを浮かべたS・タナトスが扇子でパタパタと煽ぎながら彼らを見ていた。

S・タナトス 「タナトスの闇に散りたいか、塵芥共?」
S・T・マニゴルド 「スイマセン(45度お辞儀)」
S・タナトス 「(扇子をパチッと閉じて真顔になり)聖闘士に二度目はないぞ。次にふざけた事を口にしたら、お前達まとめて藤吉会に引き渡す故、肝に銘じておくのだな」

 氷点下に凍りついた銀色の眼で二人に一瞥を投げ、銀の死神はマニゴルド達に背を向けた。
 S・マニゴルドはT・マニゴルドを肘で小突いて文句を言った。

S・マニゴルド 「ほれ見やがれ、お前が変な事言うからタナトス様に目ェ付けられちまったじゃねーか!どーすんだよ藤吉会に売られたりしたら!」
T・マニゴルド 「ハァ?なんでそーなるんだよ、先に変な事言ったのは『俺』じゃねーか!」
T・タナトス 「何をコソコソ話しているのだ?(チョコバナナもぐもぐ)」
S・マニゴルド 「え?あ、そのぉ…(汗タラリ)」
T・マニゴルド 「特に食べたい物じゃなくても、他人が美味そうに食べてると食べたくなってくるなぁって話を…な?」
S・マニゴルド 「そ、そうそう!チョコバナナもアイスキャンディーも林檎飴も皆が美味そうに食べてると食べたくなってくるよなぁ、ははは」
T・タナトス 「おお、そうだな!その気持ちはよく分かるぞ!」

 T・タナトスはにこりと笑って頷くと、両手いっぱいのチョコバナナ(一本は一口齧ってある)をマニゴルド達に差し出した。

T・タナトス 「そう言う事なら少し分けてやろう。一口齧っていいぞ!」
T・マニゴルド 「マジッすか?!なら…」

 T・マニゴルドが齧りかけのチョコバナナを貰おうとした時、S・マニゴルドが眉間に皺を寄せて言った。

S・マニゴルド 「ンだよタナトス様、男の癖にケチくせェな。チョコバナナの屋台なんて山ほどあるんだからよ、ドーンと皆に一本ずつ配れよ。両手が塞がってちゃ落書きせんべいに落書きも出来ねーじゃねーか」
T・タナトス 「おおっ!蟹の癖になかなか鋭い指摘ではないか!(感心)」
S・マニゴルド 「蟹の癖に、って…(ぼそ)」
T・マニゴルド 「ちょ、俺!何で余計な事言うんだよ、タナトス様と間接キスできるチャンスがフイになったじゃねーか!(こそ)」
S・マニゴルド 「何をアホな事言ってやがんだオメーは!その発言タナトス様に聞かれたらどうする、マジでタナトスの闇に散ることになるぞ!(こそこそ)」
S・タナトス 「(面白いから聞こえなかったことにしてやるか…)」
T・タナトス 「そう言う事なら皆にあげるぞ!ほらヒュプノス、お前は苺チョコバナナだ!」
T・ヒュプノス 「………」

 林檎飴攻略中の弟にチョコバナナを半ば強引に押し付けると、T・タナトスはS・タナトス、S・ヒュプノス、ヘカーテ、秋乃の順にチョコバナナを配り、 T・マニゴルドにチョコバナナを渡そうとして困った顔になった。彼の手には、無傷のチョコバナナが一本と一口齧ったチョコバナナが一本残っている。

T・タナトス 「しまった、一本足りない…(口の周りにチョコとチョコスプレーを付けたまま真剣に困惑)」
S・マニゴルド 「じゃあ俺は辞退しますんでこいつにやって下さいよ」
T・マニゴルド 「ああいや、俺はその齧りかけを頂きますんで、タナトス様は新しく買えば…」
T・ヒュプノス 「タナトス、私は林檎飴があるからチョコバナナは要らぬ。ほらカニゴルド、受け取れ(T・マニゴルドにチョコバナナを押しつける)」
T・タナトス 「そうか?ならこの無傷のチョコバナナはこっちの世界のマニゴルドの分でいいな!(S・マニゴルドにチョコバナナを差し出す)」
T・マニゴルド 「………ありがとうございますヒュプノス様…(間接キスのチャンスが…さめざめ)」
S・マニゴルド 「悪ィな、ごっそさん」
S・ヒュプノス 「………(色々と面白いので高みの見物)」

 皆にチョコバナナを配り終えたT・タナトスは、最後に残った齧りかけの一本をぱくぱくと平らげて口の周りのチョコをぺろりと舐めて落書きせんべいの屋台を指差した。



NEXT


星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



 夏祭りに行くなら浴衣だよね!双子神も女神達もきっと浴衣は似合うよ!という妄想(欲望)に忠実に従って双子神達は浴衣姿になりました。マニさんはあま り浴衣が似合うイメージが無かったので、蝶様に「マニさんは浴衣か甚平か普段の服か、どれが良いと思いますか?」とアドバイスを求めたら「蟹柄の甚平で w」とナイスなお言葉を貰ったのでこう言う事になりました(笑)
 せっかくだからとネットでメンズ&キッズの浴衣を探してみたのですが、どちらも男性用は種類が少ないですね(・ω・;)男性が服に大きな柄を入れるとア イタタな印象になりがちだからでしょうか。特に男児用浴衣は私の探し方がまずかったのか、圧倒的に甚平が多くどんな柄の浴衣があるか探す以前の問題でし た。蝶様に蝶様双子神の浴衣の柄に関するリクを頂いたのですが、これでは資料の探しようもなく(笑)、話の都合もあってふたりの浴衣は女の子用の売り場か ら調達、ということで落ち着きました。
 それから、蝶様マニさんは当サイトマニさんを『俺』と呼びます。
 そして縁日と言ったらかき氷、焼きそば、落書きせんべい、チョコバナナ、林檎飴…と趣味全開でいかせて頂きました。口の周りにソースやチョコをつけるち みっこは正義です(笑)。蝶様双子神を何を食べるかは蝶様と相談して、トウモロコシは二人で一緒に齧る、イカ焼きとたこ焼きは半分食べてから交換…とアド バイスを頂きまして有難くネタにさせていただきました。金魚すくいは蝶様双子神は好きじゃないとのことで、あんな感じの話の流れに。
 蝶様タナ様=チョコバナナを一杯買って片っ端から攻略、蝶様ヒュプ=林檎飴をゆっくり攻略、というイメージがあって蝶様に打診したところ「その通りです (笑)」と言うお返事と共にマニさん達の漫才ネタを頂いたので、コラボ25話では出来なかったコメディ展開を思う存分書きました。Wマニさん+当サイトタ ナトスの漫才がある意味一番楽しかったです(笑)。