双子神2012・霊界

EPISODE 2

 …和平協議のメンバーに龍神秋乃を加えた四人と三神は、辰巳の運転する車に乗って再び街中を移動していた。
 秋乃は自身の車で双子神を案内するつもりだったらしいが、せっかくだから見送りを兼ねて目的地まで送りましょうと沙織が申し出たのだ。
 目的地は、龍神秋乃の兄である龍神冬彦が院長を務めるK病院だ。
 病院からあの世の入口である霊界に行くのか、なるほど理に叶っていると星矢達は納得したが、龍神秋乃に笑顔で否定されてしまった。

「確かに病院と霊界は近しい関係に有るでしょうけど、物理的に繋がってる訳じゃないですよ」
「へ?じゃあ何のために病院に行くんです?」
「ヘリに乗せてもらうためです。K病院にはLの指示で動かせるヘリが有りますから、それに乗って『霊界に行くための場所』に行くんです」
「霊界に行くための場所に行く??」
「何だそれ?」

 龍神秋乃は何も言わずただ笑顔を浮かべるだけだ。
 重ねて質問したところで物騒な返事が可愛らしい微笑みと共に返ってくるのが分かっていたので、聖闘士達は『冥界に行くために地上のハーデス城に行くようなもんだろう』と理解することにした。




 秋乃から既に連絡が行っていたらしく、一行を乗せた車がK病院の敷地に入るとスタッフが出て来て緊急車両用の入口に誘導した。
 関係者以外立ち入り禁止の入口からロビーに入ると、明らかに一般のスタッフとは気配が違う白衣の男が人待ち顔で立っていた。
 長い黒髪を首の後ろで一つにまとめ、理知的な眼鏡をかけたなかなかの二枚目だ。顔立ちは柔和だがその穏やかな眼には鋭い光が宿っている。
 一行の姿を認めた男は大股に近づいてきて、まず双子神に丁寧に会釈した。

「お待ちしておりました、ギリシアの死神であられるタナトス様、ヒュプノス様。Lの連絡係の龍神冬彦と申します。Lの指示によりお二方を霊界の入口までご案内いたします」
「あ…ああ、よろしく」
 
 死と眠りの神は『冥妃』の兄にどう接したものか悩んでいるような顔で曖昧に頷いた。
 龍神は次に沙織に目を向けてそつのない笑みを見せた。

「城戸様、わざわざ妹を送ってくださってありがとうございます。久しぶりにお会いしたのにに碌なおもてなしもできずに申し訳ありません。何分、Lは待つのが嫌いなので」
「お気になさらず。双子神様とのお話が予想以上に弾んで、お店の前でお別れするのが名残惜しかっただけですから…すぐにお暇いたしますわ」
「では機会を改めて、その時にゆっくりと」
「楽しみにしています」

 沙織は笑顔で頷き、星矢はすっかり打ち解けた双子神に親しげに声をかけた。

「おふたりさん、暇なときでいいからマジで地上に遊びに来てくれよな。次は超がつく庶民的な居酒屋とか行こうぜ」
「ああ、楽しみにしている」
「地上に来られる時は教えてくださいね。不都合や不自由が無いように用意をさせて頂きますわ」
「今の地上はなかなか興味深い故、冥妃様のご機嫌伺いを兼ねて近いうちにまた訪問することになろう。その時は案内を頼むとするか」
「お安い御用だぜ。その時には死神サミットの話とか聞かせてくれよな」
「どこまで話せるか分からぬ故、あまり期待はせぬようにな」
「では…また会おう、アテナの聖闘士達よ」

 タナトスはとヒュプノスは笑顔で右手を差し出して、星矢達は躊躇い無くその手を握り返した。
 軽く片手を上げて踵を返した銀と金の神に手を振って別れを告げると、アテナと星矢達は満ち足りた気持ちでロビーを出て帰路に就いた。
 …車が駐車場を出る時に星矢がふと車窓から外を見ると、病院の屋上から大型のヘリがどこかへ飛び立つのが見えた。






「早速ですが、死神サミットの現状を報告させて頂きます。既に御存知の情報もあるかもしれませんが、確認と言う事でご了承ください」

 妹と双子神をエレベーターに乗せて『屋上直通』のボタンを押すと、龍神はきびきびした口調で話を始めた。
 狭い空間で死神と真正面から向かい合ってもビクとも動じない当たりさすが冥妃の兄と言う事か、それとも死神など飽きるほど見て来たという事か。
 双子神の沈黙を了解と認識した彼は一呼吸置いて説明を続けた。

「キラ二人の処遇ですが、『彼らを罰する意思のある神々の元で順番に罰を受けた後、最終処分は日本の閻魔の判断に任せる』と暫定的な結論が出ています。お二方がこの結論に異議がなければ正式に決定となります」
「………」

 双子神は少しバツが悪そうな顔で頷いた。
 死神サミットへの参加要請はキラ事件が解決して間もない頃にあったらしいのだが、冥王も双子神も聖戦の傷を癒すために眠っていたので最初の要請に応じる事が出来なかった。つまり彼らは死神サミットに『遅刻』したわけである。
 龍神は表情を変えないまま報告書を読み上げるようななめらかさで続けた。

「現時点でサミット会場に残っている死神は、北欧のオーディーン、アフリカのアヌビス、南米のミクトランテクートリ、日本のイザナミ、そして異世界から介 入した死神であるリュークの五神です。他の神々は『人間が人間の法を犯した程度の事で神が動く必要はない』と言って最初から不参加か、『暫定決定に異議は ない、変更が有れば改めて呼んでくれ』と言って自国に帰還しています。死神以外の参加者ですが、主宰兼司会の閻魔およびその助手、キラ二人とL、そして秋 乃を入れて六人です」
「…では、我々がその暫定決定に異議が無いと言えばその時点でサミットは終了と言う事だろうか?」
「キラを罰する順番を決める必要はあるでしょうが、逆を言えばそれだけかと」
「サミットって言うより交流会っていうかオフ会って言うか…死神の皆さん、お茶飲んでお菓子食べてお喋りで盛り上がってますよ。ギリシア代表が到着したら宴会しよう!とか言ってました」
「………」

 どう反応したものか迷っているうちにエレベーターは屋上に到着し、扉が開くとそこはヘリポートだった。
 既に準備を整えてあるらしいヘリのドアを執事よろしく龍神が開けた。

「座席にキラ事件の資料が置いてありますので、念のため目を通して下さるようお願いします」
「了解した」

 双子神を乗せてドアを閉めると操縦席に龍神が乗り、その隣に秋乃が座った。
 分厚いレポート用紙の束を神々が手に取ると、ヘリは轟音と共に浮き上がり目的地に向かって飛び立った。




 用意されていた資料にはなかなか面白い事実が記されていた。
 死神ばかりが暮らす『死神界』の存在、その世界に暮らす死神の社会や掟。
 異世界の死神が人間に与えた神の力『デスノート』の存在と、神と人の契約。
 そして、掟を破ったり、あるいは無限に延ばせる命を怠惰で延ばさずにいたために死んだ死神が存在した事実に、死の神であるタナトスは強く興味を引かれた。
 が、事件と捜査に関する資料は最初の数ページを読んだだけで興味が失せて放り出した。
 早々に資料の束を封筒に戻して外を眺め始めた兄の姿にヒュプノスは顔をしかめた。

「タナトスよ、興味が無くとも読むだけは読んでおけ。ただでさえ我々は遅れて来たのだ、資料を読んでいないから事件の詳細は知らぬでは済まされぬぞ」
「死神リュークの落としたデスノートをたまたま拾った人間が調子に乗って人間を殺していたが、調子に乗りすぎてボロを出して破滅した。それだけ把握していれば問題なかろう?」
「………。不完全な人間の身でありながら完全を求めて行動したが、完全を求めるあまり破滅するとはな…皮肉なものだ」

 パラパラと資料を見ただけで押さえるべきポイントはきちんと押さえて内容を把握している兄に内心で驚きつつ、ヒュプノスがポツリと素直な感想を漏らした。
 そう、人間は不完全だ。だからこそ完璧を目指し、完全であろうと足掻くのだ。
 人の身でありながら己を神と錯覚したキラは破滅し、人のままの己を高めた聖闘士は神すら凌駕した。

(神と人の境界は淡く曖昧になりつつある、か…)

 本当に皮肉なものだ。
 眠りの神は複雑な想いで資料を封筒に戻した。





 二神と二人を乗せたヘリは、広大な山の上空で着陸場所を探すように旋回を始めた。
 ここが目的地かと窓から下を見ると、山の頂上に寺らしき建物が見えた。あれが『霊界に続く門を開ける能力者』の住処か。

「眼下に見えるあの寺が目的地です」

 尋ねるまでもなく知りたい事は告げられた。
 ヘリはゆっくり高度を落とし、人間の秋乃でも怪我をせずに飛び降りられる高さで滞空飛行を始めた。
 まずタナトスが先に降りて、ヒュプノスが秋乃を支えつつタナトスに渡すようにして丁寧に降ろした。

「タナトス様、ヒュプノス様。お会いできて光栄でした。機会があればプライベートでお会いしましょう。…では、仕事があるのでこれで失礼します」

 プライベートで、という部分をさりげなく強調すると、天才と言われる外科医は笑顔で片手を振ってヘリを離陸させた。
 飛び立っていく兄に手を振る冥妃に倣って自分達も手を振るべきか悩んでいた双子神は、未知の小宇宙を感じて振り返った。

「おや、思っていたより早い到着だね。こんなことなら下準備だけでもしておけばよかったよ」
「幻海さん」

 声をかけて来た未知の小宇宙の持ち主は小柄な老婆だった。
 老いてはいるがその眼光は鋭く、纏う小宇宙は聖闘士に勝るとも劣らない。行動は隙だらけに見えるが、秋乃が背後から全力で蹴りかかっても難なく対処する に違いない。人間の中でも名のある格闘家かそれに類する存在だろうと察しがつく。なるほどこいつなら霊界への門も開けよう。
 双子神が内心で納得していると、秋乃が老婆と神々の間に立った。

「ご紹介します、こちらは幻海さん。話すと長いんですけど、生身の人間でありながら霊界と深い関係のある方で、この方に霊界への道を開いてもらいます。幻海さん、こちらはギリシアの死の神タナトスさんと、眠りの神のヒュプノスさんです」
「犬やら猿やらに続いて次は雉かと思ったらイケメンの金さん銀さんかい。長生きはするもんだね、世界中の死神を間近で見るなんて珍しい経験が出来るんだから」

 幻海は双子神ををじろじろと無遠慮に眺めた。不敬を通り越して命知らずの行動に呆れるやら感心するやら、そもそも俺を死神と知って怯えぬのかと訝しがるタナトスに老婆はニヤリと不敵な笑みを見せた。

「棺桶に片足突っ込んだこの年になると怖いものは何もなくなるのさ。死神なんて肩書きにビビるのは生に執着する臆病者だけだよ」
「…何を根拠に俺が死の神だと?」
「あたしも見くびられたもんだねぇ…。いくら抑えてたってビリビリ感じるよ、あんたが放つ暗くて冷たい人並み外れた聖光気をね。そんな矛盾する気を纏ってるのが死の神でなくて何なんだい」
「セイコウキ?」
「神様の領域に手が届いた人間が纏う生命エネルギーみたいなもんさね。…まぁ立ち話も何だし、霊界への道を開くまで中で休んでおいで」

 つまりはエイトセンシズに達した小宇宙のようなものだろうか…と思いながら双子神は幻海と秋乃の後をついて寺に入った。
 奥の部屋に続く廊下に向かいかけた幻海がふと振り返った。

「ところであんた達、気も服装も人間の基準に合わせてるけど、そのまま霊界に行くつもりかい?他の神様達は超個性的な外見で神様オーラをバーゲンセールの ごとく出しながら自国の衣装で堂々と霊界に向かったよ。こう言っちゃナンだがそんなチャラい格好とショボイ気の若造があの中に入っていってナメられないと いいけどねぇ」
「………」

 これこそまさに『老婆心ながら申し上げますが』ってやつだね。
 どこか可愛らしく見える笑顔でそう言って、幻海はくるりと背を向けた。




 呼吸を整え、互いの額にそっと指先を触れる。
 流れ込む互いの小宇宙を感じながら力を開放するイメージを同時に作り出す。
 …次の瞬間、冥王の力で封印されていた小宇宙が弾けて解放された。双子神の額にそれぞれの徴がくっきりと浮かび上がる。
 タナトスはほっと息をついて満足げに微笑んだ。

「やはり小宇宙を抑えていると窮屈でかなわぬな。小宇宙の解放ついでに服も変えるか。…さすがに冥衣はまずいだろうがな」

 タナトスの冗談にヒュプノスも無言で頷いて素通しの眼鏡をはずした。
 しっくりと馴染む漆黒のローブに着替えると、障子の反対側から秋乃の声がした。

「タナトス様、ヒュプノス様。霊界への道が開きました。いつでも行けます」
「あ…ああ、すぐに参ります」

 冥妃に『様』付けて呼ばれるのも妙な感覚だなと思いながら障子を開けると、廊下で待っていた秋乃はしげしげと双子神を見つめて複雑な顔で視線を落とし、怪訝そうな二柱の視線に気付いて微かに笑みを見せた。

「今のお二人の気配とか服装とか、なんとなく覚えがあるような気がして…『前世の記憶』かしら」
「ええ、恐らく」
「思い出せそうで思い出せないってもどかしいですね…って、こんな話をしてる場合じゃなかった!どうぞこちらへ、霊界への門が開いてます」



 …秋乃に続いて寺の奥に足を踏み入れると、部屋は既に異世界に繋がっていた。本来あるべき場所に壁はなく、広大な世界が広がり雲が猛スピードで流れていく。
 これが霊界か。
 肌に馴染んだ冥界の空気に似通った冷たく清廉な空気が流れ込み、双子神の頬を心地よく撫でていった。
 幻海は異世界の彼方をすっと指差した。

「あたしの力で繋げるのはここが限界さね。閻魔の居場所は三途の川を超えたずっと先。ま、場所は秋乃が知ってるからそいつに聞くんだね」
「…感謝する」

 双子神は軽く一礼すると秋乃を抱き上げ異空間へと飛び立った。

 

 
 眼下には長い長い川が見える。
 風に銀糸の髪を舞わせたタナトスは好奇心を抑えきれずに抱きかかえた秋乃に尋ねた。

「秋乃様、あの川は何です?幻海は『三途の川』と言っていたようですが」
「この世とあの世を隔てる川。言うなれば日本版アケローン川ですね」
「ほう…そうなるとやはり渡し守がいるのですか」
「ええ。ほら、あそこに…」

  秋乃が示す先を見ると、オールに乗った着物姿の娘が半ば体が透き通った人間を連れて飛んでいくのが見えた。一人だけでなく、何人も。
 タナトスは興味津々という顔で少女達の姿を目で追って説明を求めるように秋乃を見ると柔らかな笑顔が返ってきた。

「彼女達は三途の川の水先案内人。死者の魂を霊界に連れて行くのが主な仕事だから、川の渡し守というよりタナトスさんのような死神に近いですね。ただ、冥王ではなく閻魔の部下ですけど」
「ほう…日本の死神は閻魔の部下なのですか。興味深いな、ぜひ話をしてみたい」
「サミットが終われば宴会ですから、その時に交流を深めるのもいいんじゃないでしょうか。…あ、あそこに見える建物がサミット会場の閻魔の館です」

 秋乃が指差す先に城のような巨大な建物が見えてきた。
 …見上げるほど巨大な門の前にふわりと降り立った双子神がそっと秋乃を降ろした。

「ありがとうございました」

 にこりと笑って彼女は門に歩み寄り、インターフォンを押した。
 即座に返答が来た。

『はーい』
「秋乃です。ギリシアの死神タナトス様と眠りの神ヒュプノス様をお連れしました」
『はいはーい、すぐ開けますよー』

 あっけらかんと明るい女の声と同時に重厚な門がゆっくりと開いた。
 …門の中に足を踏み入れるなり、目の前を赤鬼が走り抜けた。双子神の髪がふわりと舞うほどの猛スピードだった。
 ふたり揃って思わずその赤鬼の背中を見送っていると、別方向でけたたましく電話が鳴りだした。電話番らしい青鬼が書類処理の手を止めて電話を受けると、やおら傍らのマイクを引き寄せた。

『業務連絡を申し上げまーす。二丁目のウメさん予定より早く危篤状態!手の空いた水先案内人は向かってください!繰り返し業務連絡を…』
「あたし、二丁目の玄さんを迎えに行くから、ついでにつれてきまーす」

 櫂に乗った娘が言うだけ言って飛び出して行った途端、また別方向で電話が鳴りだした。その間にも青鬼やら赤鬼やら黄鬼やらがせわしなくあたりを走り回り、櫂に乗った水先案内人達が館を飛び立ったり半透明の人間を連れて戻ってきたりしている。
 …秋乃に案内されて館の奥に進みながら、タナトスは好奇心一杯の目できょろきょろとあたりを見回しては秋乃に説明を求めている。客人としては少々無礼な行動かもしれないが、ヒュプノスは兄を咎めることはしなかった。
 明るく奔放な性格とは言え、タナトスの心の奥底に常に存在する『己に近しい属性の者は姉のケールしかいない』という孤独感をヒュプノスは誰よりもよく知っていた。身内以外の『同族』の存在を嬉しく思う気持ちを抑えつけてまで守らねばならぬ礼儀でもあるまい。
 うきうきと弾むような足取りの兄の後を、知らず口元を綻ばせながらヒュプノスはそっとついていった。





 一方その頃、サミット会場の会議室では。

「秋乃さんがギリシアの神様を連れて到着したそうですよ」

 電話を受けた娘が皆に伝えると、トランプに興じていた死神達はババ抜きの勝負を切り上げてそれぞれの席に戻り、何やら話し合っていた人間達も眺めていた書類を封筒に戻して背筋を伸ばした。
 死神サミットの主宰兼司会の閻魔と助手の娘は到着した神様を出迎えるべく会議室の外に出た。
 青白い髪をポニーテールにしてピンクの着物を纏った娘…三途の川の水先案内人・ぼたんは隣にいる上司のコエンマにそっと囁いた。

「ねぇねぇコエンマ様。ギリシアの神様って本当にイケメンだと思います?」
「ワシが知るか」
「えー。そんなつれないこと言わないで下さいよぉ」
「あのなぁぼたん。これは合コンではない、死神サミットじゃぞ。神様の外見なんぞ些細な問題だろうが」
「重大問題ですよっ!彼氏いない歴ウン年の私に春が来るかもしれないと思って期待してたっていうのに…」

 ぼたんはあからさまに不満そうな顔で唇を尖らせた。

「死神様達はオッサンに猿に犬に分かりやすい化け物でしょー?」

 オーディーン、ミクトランテクートリ、アヌビス、リュークのことだ。

「人間は人間で、パッと見イケメンだけど顔芸電波君と一体どっちが死神だよ的な珍獣だし」

 第一のキラこと夜神月と名探偵Lである。

「そして我らが霊界代表はおしゃぶり咥えた幼児…はぁ〜。第二のキラの不思議ちゃん以外の女性は私含めてハイレベルなのになぁ…秋乃さんの美的センスが一般的であることを願うしかないわぁ〜」
「自分で言うか。自分でハイレベル言うか」
「ちょ、コエンマ様…二回も言わなくたって!」
「大事なことだから二回言ったんじゃ!…お」

 人並み外れた聖光気を感じたコエンマが姿勢を正して、一瞬遅れてぼたんも背筋を伸ばし、ビシビシと気を感じる方に目を向けた。
 秋乃の後ろをついてくる長身の二人組を見た途端、ぼたんはぱぁっと頬を染めてみるみる笑み崩れた。
 イケメンもイケメン、一般的な基準では十分イケメンのはずの夜神月が正に太陽の前の月になるほどの、超ウルトラが付くイケメンだ。ぼたんは火照る頬を思わず両手でおさえてコエンマに囁いた。

「コエンマ様、一発逆転ですよ!オッサンも猿も犬も化け物も電波も珍獣も、あの神様ふたりで全部チャラの、大逆転ホームランですよっ!!」
「………。もう一度念のために言うがなぼたん、これは死神サミットじゃからな。合コンじゃないからな」
「分かってますって。お話するのはサミット後の宴会のお楽しみってことですね!」
「………」

 分かっとらんじゃないか、と突っ込む前に客人は目の前まで来ていた。
 …神を案内してきた秋乃は無言で微笑み、一歩下がった。
 コエンマはぐっと胸を張り、圧倒的なオーラを放つ神に向き直った。

「遠いところをようこそおいで下さった。ワシが死神サミット主宰兼司会のコエンマじゃ。本来なら父である閻魔大王が出迎えるのが礼儀であろうが、霊界も色々あってな…お察しいただければ有難いのだが」
「お招きに預かり感謝する。そして参加が遅れてご迷惑をおかけしたこと、冥王ハーデスに代わってお詫び申し上げる。俺は死の神タナトス、こちらは双子の弟 の眠りの神ヒュプノス。本来なら主ハーデスが参加すべきなのだが、こちらも色々あって…代理での参加、ご容赦いただきたい」
「いやいや、ご参加頂けただけで十分じゃ。ではサミット再開といこうかの、ぼたん。…ぼたん?」

 返事がない。つか、隣にいない。
 見れば、三途の川の渡し守兼コエンマのアシスタントは龍神秋乃をヘッドロックしてあっちの方でマイワールドに突入していた。
 ぼたんは頬を紅潮させ目をらんらんと輝かせて興奮気味に秋乃に囁いた。

「ちょいとちょいと秋乃さん、何なんだいあのふたり!んもう神がかり的なイケメンじゃないのさ!」
「ええ、神様ですから」
「正直言ってあんまり期待してなかっただけに嬉しい大誤算だよ〜ここはサミットなんてちゃっちゃと終らせてフリータイム突入といきたいところだね!」
「ぼーたーんー!!お客様は神様じゃぞ!なぁーにを油売っとるんじゃ!!」
「うひゃっ!ははははははいぃぃ、只今ぁぁ!!」

 本気でキレそうなコエンマの怒鳴り声におもわず飛び上がったぼたんが慌てて上司のもとに戻り、クスクス笑いながら秋乃も後をついてきた。
 睨みつけるコエンマに片手で謝罪のポーズをとって、ぼたんは秋乃と一緒に観音開きの扉を開いた。
 …先客達の視線が一斉に双子神に集まる。

「ギリシア代表の死神殿が到着された。死神サミット再開じゃ!」

 皆の前に進み出たコエンマが高らかに宣言した。





NEXT
      



星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



 漠然とイメージがあったのに書いてみると意外に難産だった「霊界」第二話です。当初の予定では、秋乃が車を運転して、途中でLから指示が来て覆面パトカーの赤色灯を回しながら交通規則ガン無視で爆走する…みたいなシーンを入れたかったのですが、色々悩んで没に。
  幽遊白書随一の可愛いお婆ちゃんこと幻海師範の 登場です。原作では彼女は亡くなってしまったのですが、アニメでは遺言を残しただけで御存命だったので、今回はアニメの設定でご登場頂きました。幽遊白書 の世界と繋がった世界にすると設定してから、久しぶりにコミックスを借りて来て「霊界にはどうやって行ってたっけ?」と確認したのですが…ぼたんに掴まっ てひとっ飛び、という描写しかありませんでした(笑)。今回、ぼたんには会場で待っててもらう役を任せたかったので、幻海師範にお出まし頂きました。彼女 なら霊界への門も開けそうな気がします。
 んで、幽遊白書の面々には神々の小宇宙はどう感じるんだろう?と思って、色々悩んで「聖光気」としました。「一般的な聖光気=神々しく温もりと慈愛に満ちた究極の気」、なのでヒュプの気は一般的な聖光気、タナトスは一般的でない聖光気を纏っていると。
 サミット会場にいる死神を誰にするかかなり悩んだのですが(当初は日本代表=閻魔で、イザナミの登場予定はありませんでした)、Wikiで色々調べて、 外見が紹介されていて、かつ「死神」にカテゴライズされる神様(not天使)の中から独断と偏見でご参加頂きました。紹介文とか間違ってるかもしれません がその辺は大目に見て下さい。
 前回から存在を匂わせていましたが、霊界代表コエンマぼたんの 登場です。二人の口調とか思い出せずに幽遊白書のコミックスを読み返したら思わず時間を忘れて読みふけってしまいました(笑)。霊界の状況は1巻で幽助が 初めて霊界に来た時のドタバタなイメージで。閻魔大王が罷免され、コエンマとぼたんは死神サミットに専念してるためいつにもまして忙しい…的なイメージで す。
 ちなみに死神の皆様の外見などはWikiを参考にしました。イザナミアヌビスオーディーンミクトランテクートリ
 イザナミの外見は、こちらのイラストこちらのサイト様の天照大御神(ギャラリーコーナー、ギリシア神話の小ネタ絵で公開されています)がイメージに近いです。
 ええと、次に行く前にお約束の注意書きと言うか。月・ミサが好きな方は展開に不快感を覚えるかもしれません。『セカL・If』17話あたりでの月やミサの扱いを不快だと感じた方は十分ご注意ください。次の話を飛ばして次々の話に行ってもさほど支障はないと思います。
 以前、私のことを月ファンだと勘違いした人から盛大に(見当違いの)バッシングをされたことがあるので…以下、念のための主張。
 私は、デスノに関しては『完全L派のアンチキラ派』です。主義主張でもキャラ萌えでも。キラ達については『漫画のキャラとしてはアリ。好きか嫌いかと聞 かれたら明確に嫌い』です。次をお読みになるキラ派の方、月萌え・ミサ萌えの方は、この点をご了解の上でお進みくださいまし。